魔導士は爆煙と狂う   作:宝剣サーモンソード

8 / 10
今回で今までふわふわしてた主人公の武器のイメージがカッチリ固まりました(多分)
序でにサラッと名前も言います


8話:黒歴史のヤベー奴

 呪歌(ララバイ)を持ち去り、定例会を行なっている会場のあるクローバーへと向かったであろうカゲヤマを追って、魔導四輪に乗った妖精の尻尾(フェアリーテイル)一行は森中の道のりを突っ切っていた。

 (ひしめ)く木々の枝葉を挟んだ向こう側にちらりと覗かせる高い家屋の屋根が見えた所で、後方から追いついてきたハッピー達と共に一行がクローバーに到着した頃には、空はすっかり濃い茜色に染まっていた。

 定例会の会場である煉瓦造りの大きめな建物に向かった一行は、すぐに総長(ギルドマスター)とカゲヤマを見つけた。

 

総長(マスター)‼︎」

 

 呪歌(ララバイ)を阻止すべく草木を掻き分け、カゲヤマを抑えようと飛び出して行こうとする一同。

 そんな彼らの行手を、何者かが横から腕を伸ばして遮った。

 

「しっ、今いいトコなんだから、見てなさい♡」

 

 その人物はキャミソールにミニスカート、踵の高いハイヒールと露出度の高い装いをした、朗らかな笑みを浮かべる温厚そうな中年の()()だった。名をボブという。その風貌から見てわかる通り、オカマである。口元に塗られた深紅の輝きと、卵体型の見た目から繰り出されるインパクトの凄まじさに、ルーシィは思わず後退りした。

 

「ていうか、かわいいわね貴方達♡」

 

 ナツとグレイを見て、ねっとり口調でハートを振り撒くボブに、彼らは言い知れぬ悪寒を全身に走らせる。

 

「な、何この人……」

青い天馬(ブルー・ペガサス)総長(マスター)⁉︎」

「エルザちゃん久しぶりね〜。また大きくなった? キャロちゃんも相変わらずキュートねぇ♪」

「お久しぶりです」

 

 ニッコリと微笑むボブに、当たり障りのない返答をするキャロレイン。

 

 彼はその見た目とは裏腹に、青い天馬(ブルー・ペガサス)の総長を務める実力の持ち主である。

 後、彼の側にいたサングラスを掛けたロックな格好をした男、四つ首の番犬(クワトロ・ケルベロス)の総長、ゴールドマインに「まあ見てろ」と言われた一同は、茂みから飛び出していきたい衝動をグッと抑え、その場を見守る事にした。

 

 

 

 

 

 

「どうした、早くせんか」

 

 カゲヤマと向かい合う老人。

 横縞模様の二股帽子を被ったその姿は身長が児童とほぼ大差なく、ともすれば小人と見間違ってしまってもおかしくない。

 

 マカロフ・ドレアー

 

 高齢ながらもフィオーレ王国の一、二を争う魔導士ギルド、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士《荒くれ者》達をまとめ上げるそのカリスマは凄まじいものである。

 

 彼と対峙するカゲヤマの唇が震える。

 

(ここまで来たんだ……吹けばいい、ただ笛を吹けば……それで全てを変えられる‼︎)

 

 意を決した彼が笛を吹かんと息を吸い込んだその瞬間

 

「───何も変わらんよ」

 

 マカロフから言葉と共に放たれた気迫。

 カゲヤマの全身の毛が逆立つ。

 

「弱い人間はいつまで経っても弱いまま。だが、弱さの全てが悪ではない。元々人間は弱い生き物じゃ。一人じゃ不安だから仲間がいる、ギルドがある」

 

「強く生きる為に寄り添いあって生きていく。不器用な人間は他人より多く壁にぶつかるし、遠回りをするかもしれん。しかし、明日を信じて踏み出せば自ずと力は湧いてくる。強く生きていこうと笑っていける。そんな笛に頼らんでも、な」

 

 マカロフはそう言って自信満々にニヤリと笑って見せた。

 

 自分が本当に得たかったモノ、憧れていたモノ……そして何をするつもりだったのか、全て見透かされていたとカゲヤマは悟った。彼はその場から一歩も動く事なく地面に膝を落とし、ただ一言「参りました」と呟いて降伏した。その姿に攻撃の意思は感じられない。

 マカロフは力を振るう事なく事態を終息させたのである。

 

 

 

 

 

 

総長(マスター)‼︎」

 

 二人の経緯を見守っていた妖精の尻尾(フェアリーテイル)一同は茂みから飛び出して一斉に彼に向かって駆け出す。

 

「ぬおぉおっ⁉︎ なぜ三人がここに⁉︎」

「流石です‼︎ 今のお言葉、目頭が熱くなりました‼︎」

「痛ァ⁉︎」

 

 エルザがマカロフを抱き寄せると、彼の頭は堅牢な鎧に叩き付けられた。

 じんじんとした頭の鈍痛にマカロフは目尻に涙を溜める。ふと、彼はエルザの隣にいたキャロレインに気が付く。

 

「キャロレインもおるんかい‼︎ わし、ミラちゃんから聞いてないんですけど⁉︎ え、マジで街一個消えてんじゃねーのコレ」

 

 大量の冷や汗を流すマカロフ。

 とうとうやらかしたのではないかという思いと、もしそうなっていた場合に評議員から下されるお叱りでは済まなさそうな事態を憂いた彼の心労は、臨界点をぶち抜いた。

 

「大丈夫だ、問題ねぇ。駅一つ半壊しただけだから」

「全然大丈夫じゃなぁぁいわぁぁい‼︎」

 

 凶報も凶報、さも平然と報告したキャロレインに、それを聞いたマカロフは一時的に幼児退行し、人目も憚らずにわんわん泣き出した。

 

「オレの所為じゃありません、鉄の森(テロリスト)の所為です。怒るならソイツらに言ってください」

「ちっとは反省せんかい!」

 

 拳骨を落とされたキャロレインの頭がローリングシャッター現象*1を起こす。しかし、逆に拳骨を張ったマカロフが痛みを訴えた。

 

「あ痛たたた……そうじゃ、コイツ石頭じゃった」

「でも流石だぜじっちゃん、闇ギルド相手に戦わずして勝つなんて!」

「そう言うならペシペシ叩かんでくれ……」

「まあ、何はともあれこの件は一見落着……だな」

 

 マカロフ達の様子を、ルーシィ達は彼らから少し離れた場所で見守る。

 カゲヤマは彼らの和気藹々とした空間を真っ直ぐな瞳で見つめていた。

 

「さ、アンタも行くわよ」

「あらぁ、よく見たら貴方も中々可愛らしい顔してるじゃなぁい♡」

「……」

 

 ルーシィはカゲヤマを病院に連れて行こうとする。そして、その反対位置からじっと彼を見つめるボブ。舐め回すように覗き込んでくるオカマに少なからず忌避感を覚えたカゲヤマは、嫌な顔をしたのを誤魔化すように俯いたのであった。

 

「まあ取り敢えず、お前さんらが無事ならそれに越した事はない。そろそろ定例会も終わる時間じゃ、はよう片付けて帰るか」

 

 そう言って肩を回すマカロフ。彼も齢八十八、この年になってくると、所々体が言うことを聞かなくなってくるのである。

 彼が白い息を吐いて空を見上げると、既に月が山の向こうから顔を出していた。

 

「お手伝いしましょうか、総長(マスター)

「俺も、人数多い方が早いだろ」

「おお、助かるわい。老骨ばかりでは少々時間がかかるでな」

「飯とか残ってるかな? 俺、小腹空いちまった!」

「さかなー」

「全くアンタ達ってば……遠慮って言葉知らないのかしら」

「じゃ、オレと新人はカゲヤマを病院に連れて行くんで、後よろしく」

 

 すっかり打ち上げムードのナツに呆れるルーシィ。

 ついでにカゲヤマの手から離れた呪歌(ララバイ)を総長に預かってもらおうと芝生に転がる笛を拾い上げようとした。

 その寸前、どこからともなく不気味な声が辺りに響く。

 

カカカ どいつもこいつも 根性の無ェ奴ばかりだ

 

 その声の出所は、ルーシィが拾い上げようとした笛から。暗雲のような煙は髑髏の口から止めどなく溢れ出し、徐々に一帯を包んでいく。

 

「え……ルーシィ、もしかしておならした?」

「してません‼︎ こんな気味悪いおならあってたまるか‼︎」

 

ざっけんな誰がメタンガスだ!! あーキレたわ 覚悟しろ貴様らァ

 

 生理現象と勘違いされた事に憤りを示したそれは、ズシンと地響きを鳴らして煙の奥からゆっくりと姿を現した。

 胸部と四肢にある空洞は笛の指穴を連想させ、不規則に捻れた全身と、その所々から枝を伸ばす歪な風貌は、さながら樹木の怪物であった。

 

「「でかぁぁぁぁッ⁉︎」」

「何だよアレ……あ、あんなの僕は知らないぞ」

「まずいな、ありゃあゼレフ書の悪魔だ」

「ゼレフって……あの大昔の⁉︎」

 

 黒魔導士ゼレフ、歴史上最も凶悪だった魔導士。

 呪歌(ララバイ)の正体とは笛ではなく、目の前に聳え立つ怪物そのもの。ゼレフによって生み出された生ける魔法のひとつであった。

 

「まさか大昔の負の遺産が、今の時代に姿を現すとはねぇ……」

 

吾輩をコケにしやがって……その罪、貴様らの魂で償「蛇足‼︎」わばァァァァァァ⁉︎

 

 突如、容赦の無い爆発が怪物を襲った。反射的に目を瞑ってしまいそうな閃光を瞬かせた爆発は、その巨体を大きく退け反らせ、動かなくなった怪物の頭部から白濁の硝煙を立ち昇らせた。

 その場に居た誰もがポカンとした表情を浮かべ、沈黙した怪物と、その原因らしき両手剣を担ぐ少女(キャロレイン)に目線を往復させた。

 

 

 ───やったか

 

 

 誰かがそう言うまでもなく、しかし怪物は緩慢な動きで元の姿勢に戻る。

 そして、爆発の原因らしき巨大な剣の切先を向ける少女(キャロレイン)に対し、片目を吊り上げながら覗き込むように睨み付けた。

 

今の不意打ちは貴様かァ……吾輩まだ喋ってる途中だろうが、空気を読───」

「知るかそんなもん! こちとら仕事先で評議員に拘束された上に話の通じない尋問官に数日連続で長時間訳わからん説教された挙句、鉄の森(テロリスト)共のしょ〜もない報復劇に巻き込まれて、やっとそれが解決して帰れるって時にポコッと出てきやがって……しばき回すぞ‼︎」

 

 鉄の森騒動に於いては半ば自身から突っ込んで行っただけである。

 

 怪物から発せられる臓腑を揺らすような低い声。普通の人間なら一瞬で怖気付いてしまう程の威圧感が放たれる。

 しかし、どこ吹く風といった表情で動揺するどころか、まだ怪物が喋り終える前に棘ついた口調で物申してくるキャロレインに、それは不快感を覚えた。

 

貴様の都合なぞ知ったことでないわ。いいからさっさと魂を差し出せ、そうすれば苦しまずに終わらせてやる

 

「はァ⁉︎ ()だね。オレ達の魂はテメェにくれてやるほど安くないんで!」

 

ほう……ならば、たっぷりと貴様らを痛め付けてからその魂を貪り喰うてくれるわァ!! 

 

 怪物の身体に空いた穴から、空気中に漂っていた魔力が大量に吸引されていく。

 

「い、いかん‼︎ 呪歌(ララバイ)が来るぞォ」

 

 怪物の予備動作を見たギルドマスター達。ある者は呆気に取られていた様子から我に帰りあたふたし始め、またある者は一気に酔いを醒ましてその場から逃げ出す。

 

チッ、腑抜け共が。煩わしい……先ずはアレらからにするとしよう

 

 建物の中から慌てふためく声を聴いた怪物は、窓ガラスに向かって枝のように長い人差し指を向けた。すると、指の先端で膨らんだ球状の魔法の塊が収縮していく。

 

壊音波(ノイズ・カノン)

 

 爪先から射出された、凝縮された魔力塊が一直線に建物に迫る。

 

 しかし、魔力塊は大惨事寸前の所で白色光を帯びた三日月の剣閃に飲み込まれ、そのまま何が起こる事もなく蒸発。建物の窓ガラスが溶解し、内部の風通しが多少良くなっただけで済んだ。橙色に蕩けた窓ガラスを目の当たりにしたギルドマスター達は、瞳を点にさせた。

 

「ほう、随分とイカした見た目してるじゃねぇの」

「ああいうのって何て言うのかしらねぇ……機械仕掛け?」

 

 キャロレインの持つ両手剣の剣身には、排熱マフラーとエンジン機構が施されていた。それを後方からまじまじと見つめるゴールドマインは少年心をくすぐられ、サングラスの奥で目を輝かせた。

 彼女の体格に対して、あまりにも不釣り合いに見える両手剣を見たボブは「まるで騙し絵みたいだわ」と呟く。

 

邪魔をするな、小娘。それとも、貴様が最初に死ぬか? 

「お断りだぜ。殺すだけしか取り柄のねぇ奴なんかに負けるかってんだ」

 

 淡く、赤く輝く剣身から放たれる熱によって揺らぐ空気。

 キャロレインは片手で両手剣を横薙ぎに振るうと、剣身がブォンと唸って空を切った。

 

身の程知らずが……いいだろう、貴様には鉄乙女の如き苦痛を与えてから、呪歌(ララバイ)で殺してやる。行け、蠢く木の根(プラント・クリープス)

 

 怪物が両腕を地面に突き刺した。

 次の瞬間、鋭い棘の根が地面を突き破って這うようにキャロレインに襲いかかる。

 

「鈍い!」

 

 キャロレインは、地面を抉りながら迫り来る棘を跳んで躱す。

 そのまま両手剣を逆手に構え、排熱マフラーから砲撃を放つような火炎をを吹かして超加速。その推進力で怪物との距離を一気に詰め、大きな隙を晒すそれの頬を両手剣の腹で思いっきりぶっ叩き、怪物の背後に回る。

 

ぐほぁッ……小癪な! 

 

 怪物はすぐさま振り向くと、口から種子の弾丸を乱射して反撃に出る。

 キャロレインは素早くステップ。身の丈以上の両手剣を持った人間の機動力とは思えない動きで軽やかに回避。

 彼女が四、五回躱した所で弾切れを起こしたのか、怪物の咳き込む声が響く。

 

ええぃ、ちょこまかと

 

 怪物は地面に突き刺した腕を引っこ抜くと、ただでさえ巨大な腕を更に肥大化させ、アームハンマーの如くキャロレインを叩きつけた。まさしく質量の暴力と言えるそれは、彼女の足下の地面を陥没させ、同時に蜘蛛の巣状の亀裂を与えた。

 

 身動きの取れないキャロレインに対し、怪物は好機と、すかさず蔓で彼女を横殴りにする。

 建物に向かってぶっ飛ばされた華奢な体は、そのまま煉瓦の壁を突き破って暗闇に消えた。

 壁の一部が壊れた事によって崩壊していく音が、痛々しく轟く。

 その場にいた誰もが息を飲んだ。ただ一人、エルザを除いて。

 

「キャロ! クソッ、俺達も加勢するぞ」

 

 奥歯を噛み怪物に立ち向かおうとするナツを、彼の上着の襟を摘んで引き止めるエルザ。

 

「何で止めるんだよ!」

「お前も知っているだろう。キャロは見た目から想像できない程タフだ、あの程度で倒れはしない。それに、有象無象相手ならいざ知らず、ゼレフ書の怪物相手となると、かえって彼女の攻撃の邪魔になる可能性が高い」

 

 エルザの表情に一切の不安を抱く様子はない。

 ただいつも通り、凛とした目を向けていた。

 怪物は尚も堂々するエルザが気に食わなかった。

 

ふん、現実逃避も甚だしい。次は貴様らの番だ、その場に這いつくばって惨めに命乞いするなら楽に───」

「あー死にそ」

 

 それは暗闇から聞こえてきたそ。怪物はピシリと動きを止め、恐る恐る崩れた壁に向かって振り向く。

 ナツ達の心配を他所に穴の中から出てきたキャロレインは、モロに攻撃を受けていたのにも関わらずケロッとしていた。流石に無傷ではないが、彼女の傷はほんの軽傷であった。

 

 キャロレインは土汚れに塗れた顔に怒筋を浮かべ、両手剣を天に掲げる。

 切先が光の筋を散らし始める。

 

「あ、やべぇ! 無差別爆破来るぞ⁉︎」

「総員、怪物から離れろ‼︎」

 

 エルザが叫ぶ。

 光が辺りを包んだ瞬間、キャロレインが両手剣の剣身を地面に叩きつけた。

 刹那、轟音と共に連爆。数多の硝煙が昇った。

 

ぐおぉぉおぉぉ!? 

 

 怪物はたちまち爆発に飲み込まれる。

 体の一部らしき木片が飛び散った。

 

「アレどういった原理で爆発してんのよ……」

「本人曰く、当てたい対象の位置を強く念じるそうだ。ただ、全部が全部同じ場所に密集するわけじゃなくて、時々───」

 

 パァァァァァ───ン

 

「……今みたいになる」

「は、はへぇ……」

 

 爆発の挙動に疑問を抱くルーシィ。彼女にグレイが簡潔に解説している最中、百聞は一見に如かずと彼らの真後ろで地面が吹っ飛んだ。

 二人の寿命が三年縮まった。

 

 それから一人と一体の攻防が続いた

 

 優勢が続くキャロレインだったが、突如、彼女を囲うように周囲から細い木が生え始めた。それはあっという間に小さな半球となって、キャロレインを覆い隠した。

 仕掛け(タネ)は先程怪物が乱射した種子、あれはただ闇雲に乱射していたわけではなかった。時間経過で発芽し、一気に成長して対象を閉じ込める(トラップ)だったのだ。

 怪物は、それに気付かなかったキャロレインを誘導し、籠に閉じ込める事に成功した。

 

ようやく静かになった。とんだ強者よ。その魂、劣化させるには惜しい。吾輩が他の魂を吸収し、長き封印によって弱体化したチカラを取り戻すまでの間、そこで事の成り行きを眺めておれ。最も、その中からでは見えないだろうがな。貴様の魂は再びチカラを取り戻した暁に頂くとしよう……

 

 怪物は勝ち誇ったようにほくそ笑むと、後方でキャロレインを見守っていた妖精の尻尾(フェアリーテイル)とギルドマスター達に目を向けた。

 

さて……あの籠に用いた樹木は成長が早い分、枯れるまでが短くてな。ゆっくりと絶望を味あわせたいところだが、計画変更だ。吾輩はたった今から、ここに居る全ての生命を喰らい尽くす

 

「ンだとぉ⁉︎ そんな事させっかよ! 薪にしてやるッ‼︎」

「やるしかねぇか……」

「私、帰りたい」

 

 ダメです。

 

「うえぇぇぇん‼︎ てか今の声誰」

「こりゃあ……ワシらも参戦した方が良いかの」

 

 怪物が息を吸い込む。

 流石にこれ以上黙って見てるわけにもいかないと、腰を上げるギルドマスター達。

 いよいよその場にいた魔導士達による総戦力が始まるかと思われた、その時

 

 

 バチンッ‼︎

 

 

 キャロレインを捕らえていたはずの、一片の隙間すら無かった籠が破けたボールのようにはち切れる。焼き切られたその断面は、直に溶岩でも浴びたかの如く焼け爛れていた。

 

なッ!? バカな! 魔力で強化した鋼にも劣らぬ強度の分厚い籠をッ!? 

「辞世の句はそれだけか? いい加減終わらせるぞ」

 

 両手剣を振り被ったキャロレイン。

 静寂を、エンジン機構の振動音が揺らす。

 

「充填満タン! 吼えろジャガーノート‼︎ 最大火力(フルスロットル)いくぜェェェェッ‼︎」

 

 剣身が赤く鮮やかに染まり、黄昏を照らし陽炎を漂わせ始める。

 

纏めて潰してやるッ! 

 

 なりふり構わなくなった怪物は先手を打たんと地面から巨大な壁を召喚すると、両手でそれを押し倒す。石を基調とした外観に幾重ものサークル模様が彫られ、所々に絡み付く植物の蔓や枝葉はまるで朽ちた遺跡のようであった。

 

「うらァァァァッ‼︎ 十字爆閃撃(クロス・バースト)ォォォォ‼︎」

 

 時間差で放たれた二つの剣閃が交わり、壁を怪物ごと爆散させた。

 激しい連爆に晒された怪物は、胴体に巨大な十文字の斬痕を残し力尽きた。

 

バケ……モノ……め

「バケモンはてめーだ、もっかい封印されとけ。んで未来永劫出てくんな」

 

 煙を吐きながらグラりと揺れ、最早原型を留めていない体を傾かせてゆく怪物。

 それを見据えたキャロレインは親指を立て、首を切るジェスチャーを取った。

 彼女が両手剣を地面に突き刺すと、それは仕事は終えたと言わんばかりにフッと消えた。

 

「ゼレフ書の悪魔を一人で倒すとは……」

「わはははは! どうじゃ、ウチの魔導士は凄いじゃろー!」

 

 感嘆の声を零すギルドマスターに、マカロフは得意気にピースサインを作る。

 

「キャローッ」

「うわ、何すんだやめろナツ」

 

 立ち昇る土煙を背景に戻ってきたキャロレインをナツが真っ先に迎え、彼女の小柄な体を抱え上げる。

 伸びる猫みたいになった彼女は、さっさと降ろせとナツに言った。

 

「経緯は分からんが、助けられたわい。礼を言う」

「ふひゃひゃ、なんのなんのー」

 

 次々に感謝を述べられ、良い気分になり調子に乗り始めたマカロフ。しかしそれも束の間、彼は何かに気付いたらしく目を見開くとカチカチと壊れた秒針のように首を回し、今まで向いていた方向からゆっくりと目を逸らした。

 一転して顔が色褪せていくマカロフ。そんな彼を見た他のギルドマスター達はその様子に疑問を抱き、彼の向いていた方向に振り向く。

 するとそこには、無惨にも倒壊し更地と化した定例会の会場があるではないか。戦闘に巻き込まれてボロボロになっていた所に、キャロレインがぶっ飛ばした怪物が建物に向かって倒れたのがトドメとなった。

 

「……キャロレイン?」

「不可抗力。理不尽が及ぼす人力ではどうにもならんチカラ」

 

 気まずい様子のエルザに、無機質な口調で解説風に答えるキャロレイン。

 一斉にマカロフ達に向き直るギルドマスター達。般若の如き剣幕から読み取れる感情は怒り。頭髪の毛先から髭先までたっぷりといったところ。

 

「「ひっ捕らえろーッ」」

「よし、逃げるぞ」

「何だ? 鬼ごっこか?」

「おーんおんおんおん……」

「な、泣かないで下さい総長(マスター)。こ、今回は不慮の事故です……落ち着いたら、いずれまた呼んでもらえますよ……多分……」

「文句なら怪物と鉄の森(テロリスト)に言えっつーの‼︎」

「結局こうなるのね」

「あい……」

 

 

 

 

 

 

 ───近未来。余りにも世界観に似つかわしくないその空間の雰囲気を一言で表すとするなら、そう呼ぶだろう。高層のオフィス、だだっ広い空間にポツンと置かれたデスクにただ一人、黙々と万年筆を動かす音が浸透する。

 

 ふと、ピピッと軽快な電子音が静寂を突いた。

 万年筆をペン入れに挿し、指で宙をスライドすると淡い水色の光が尾を引く。

 空中に現れた映像に、スーツを着た男性が映し出される。

 

「要件は」

 

 透き通ったその声は、氷柱(つらら)のような冷たさを帯びていた。

 

 

 畏怖

 

 

 それは映像越しの男性に心臓を氷の手で掴まれた錯覚を与え、彼の肩をビクリと跳ねさせる。

 

「く、黒魔導士の遺物について、報告を伝えに参りました」

 

「……入れ」

 

 ガラス細工のように細い人差し指が解錠マークを押すと、その指示を受け取ったサイバーチックな扉が自動的に開いた。

 

「お、お忙しいところ……失礼致します。呪歌(ララバイ)回収の件ですが、申し訳ありませんが失敗に終わりました。担当の者によると、呪歌は正規ギルドの者によって闇ギルドから押収。その後ギルドマスターに渡り、最終的に評議員によって再び封印が施されたとの事です」

 

「そうか……呪歌の持つチカラを抽出できれば、また一歩近づけると思ったんだが……残念だ」

 

 アーモンド形の爪がデスクを叩く。

 

「して、その正規ギルドはどこの者だ?」

 

「はい。録画された映像を確認しましたところ、マグノリアに拠点を持つ魔導士ギルド……妖精の尻尾(フェアリーテイル)であるという事が発覚しました。その……担当の者達は……いかが致しましょう」

 

「……流石はフィオーレ王国トップクラスと言ったところか、行動が早い。現場に出向いた者は直ぐに引き上げさせろ、見つかったら面倒だ。正規は兎も角、無駄に評議員と接触を図る必要は無い。……報告は以上か」

 

「はっ」

 

「宜しい。では、持ち場に戻れ」

 

 スーツの男性は深く一礼して退室した。

 オフィスは再び静寂に包まれる。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)……)

 

 ガラス張りの一面に手が添えられると、薄っすらとその容姿が反射する。

 

 椅子を翻して立ち上がったその姿は、まるで一流の彫刻家によって彫られた芸術作品。

 腰まで伸びた艶やかな白銀の髪と、一度触れれば容易く傷付いてしまうような白肌。

 きめ細やかな霜を思わせるまつ毛に囲われた、深紅の瞳。

 それらとは正反対な、黒で統一された服装がその容姿を更に際立たせる。

 

 その女性は、精巧に造られた人形と見違える程の美麗であった。

 

(計画の邪魔にならなければいいが……もし、そうでないのなら)

 

 摩天楼から都市の夜景を見下ろす彼女の視線は、見る者全てを凍て殺してしまう程に、酷く冷たかった。

*1
定規の端を指で弾いて揺らすアレ




日本人だけど日本語死ぬほど難しい
あと厨二臭い技名考えてる時が一番楽しい
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