魔導士は爆煙と狂う   作:宝剣サーモンソード

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久しぶり、今更だけどタグに独自解釈を追加したよ


余談:ちょっと魔導士! ちゃんと掃除しなよ!

 鉄の森によるギルドマスター殺害未遂事件の後日、オシバナの街は先日の出来事が嘘であったかのように、いつもの日常を取り戻していた。

 晴れ渡る青空、人々の喧騒や音楽で賑わうメインストリート。

 

 そして工事現場からボカンドカンと轟く爆発音。

 

「おい! 何があった⁉︎」

「大変でやす! バイトがまたバカやりました‼︎」

 

 慌しく走ってくる細身な作業員の叫びを聞き、立派に生え揃った顎髭の大柄な男性は「またか」とこめかみを押さえた。

 

 ここはオシバナの駅……の補修工事現場。

 埃が充満する中に、少女が一人。腕組みをしながら堂々と仁王立ちしていた。

 

 少女の名はキャロレイン。魔導士ギルド、妖精の尻尾(フェアリーテイル)所属の魔導士であり、面倒事は大体物理で解決するパワー系である。

 

 何故、魔導士である彼女がこんな所で働いているのか……

 時は若干遡る。

 

 

 

 ───キャロレインの朝は早い

 

 午前七時に起床した彼女は、パジャマから黒いレギンスと丈の短いスポーツ用パンツと黒いに履き替え、Tシャツに着替える。コーディネートは見境無くハンガーから手に取ったもの、つまり適当。今日の上着は白の無地。

 

 着替えた後は真っ先に洗面所へと向かう。

 洗面台から取ったマグカップを片手に、これでもかと歯磨き粉を塗ったくられたブラシを口に突っ込んで、無心で歯を磨く。

 

 キャロレインにとって、何も考えずに過ごすこの時間は嫌いではなかった。

 しゃこしゃこと鳴る爽やかな音が、静かな部屋を染める。

 

 ありふれたモーニングルーティン。しかし、この日ばかりは違った。

 突如、ダンダンと玄関口の扉をノックする音が部屋に響く。

 こんな朝早くから一体何処の常識知らずだと辟易しながら、キャロレインは人工皮革の黒いジャケットを羽織って玄関の扉を開ける。そこには、なんとも言えない表情をした、ローブを纏ったカエルの亜人がいた。

 

「……誰ェ?」

 

 全く見覚えの無い人物。思わず語尾の音程が上がり、眉を顰めたキャロレイン。

 一方でカエルの亜人は、顔面泡塗れな彼女を見るや否やギョッとしたものの、すぐに平常を取り戻した。

 

「早朝からの訪問、失礼します。ワタシは評議院の使者であります。貴方様は……その、キャロレインで間違いありませんな?」

 

 評議院とはフィオーレ王国の政府と繋がりを持ち、魔法界全体の秩序を保つ……まあ、要はとても偉い魔導士達の集まりなのである。

 それらの使者と名乗ったカエルの亜人は、ゆったりした口調ながらも、規律に厳しそうな皺がれた声でキャロレインに本人確認を取った。

 

「まあ、そうですけど……魔術協会のお偉いさん方が、たかが一介の魔導士に一体何の用だって言うんです」

 

 口濯ぎたいから早く済ませて欲しい、と口には出さない顔面泡塗れ状態のキャロレインだったが、その声色は低血圧気味なドスの効いた声だった。

 

「貴女には議員から逮捕状が発行されているのですよ、此度の鉄の森テロ事件に置いて、お駅の建造物損壊罪の容疑で貴方に逮捕状が発行されております故。拘束した後、支部へ連行させて頂きます」

 

「……は?」

 

 キャロレインの咥えた歯ブラシが床にポトリと落ちた。

 

 その後、カエルの亜人に魔法評議会フィオーレ支部向へ連行されたキャロレインは証言台に立たされ、評議員のお偉いさんから授かった有難いお言葉を右から左へ受け流した。

 

 最終的には闇ギルドの制圧、及び呪歌(ララバイ)によるギルドマスター殺害テロを未遂で済ませた実績を考慮され釈放となったが、それは少なくない罰金と壊した建築物の補修の助力という条件付きであった。

 

 

 

 ───経緯は概ねそんな感じである。

 

 場面は戻って工事現場

 

 キャロレインは作業着の懐から赤い円筒を取り出すと、十数メートル先にある瓦礫の小山に狙いを定め、ピッチャーフォームを構えて腕を振りかぶった。

 次の瞬間、大きく振り抜かれた腕から射出された円筒が瓦礫の山に衝突すると、鼓膜を貫く程の炸裂音が鳴り響く。

 瓦礫の山は轟音と共に爆発霧散、跡形もなく塵と化し、風に吹かれて消え失せた。

 

 オシバナの駅は、先日キャロレインが暴れ散らかして穴ボコだらけにしたり、魔風壁によって削られたり、鉄の森の魔導士達が八つ当たりで破壊したりで結構な被害を被っていた。

 

(邪魔なモンは大方片付いたか。あーあ、……ったく、こんな事になるならあの時もうちょっと加減しときゃよかった。それにしても、使者の奴……『肉体労働現場なんだから、魔導士としての行動は慎め』って……魔導士だって肉体労働するってーの)

 

 寧ろ魔導士によってはそっちがメインであったりする。

 現場の事情とは中々理解を得難いものである。

 

 キャロレインが額に掛かった汚れを軽く拭っていると、彼女の背後から力強い足踏みの音が聞こえてきた。

 

「バイトォォォ!」

 

 けたたましい怒声を上げながらやって来た大柄な男性と、それに同伴する細身の作業員。

 

「あっ、主任。お疲れっす」

「おう、お疲れ……じゃなくて! お前またやったな⁉︎」

「言われた通り、瓦礫の山は大方退けましたよ」

 

 キャロレインは親指で平になった地面に後ろ指を差した。それから作業服のポケットに手を突っ込んで、赤い円筒を取り出して主任に差し出す。

 

これダイナマイト、主任も使います? パパッと終わりますよ?」

「おわぁあ⁉︎ そんな危なっかしいモン要らんわ‼︎ ここは探鉱じゃなくて工事現場! 爆破掘削でもさせるつもりか‼︎」

 

 キャロレインから手渡される前に反射的に叩き落とす主任。

 彼の心情は推して図るべし……。

 

「バイトちゃん、ま〜た爆弾使ったでやすか……?」

「だぁって、チマチマ除けても時間かかるだろ?」

「バッカヤロウ! それで爆弾扱う馬鹿が何処にいるんだ⁉︎ 建物倒壊させる気かお前はーッ‼︎」

「爆弾の一発二発程度に耐えられないなら建築物として失格‼︎ 建材からやり直せ‼︎」

「無機物に逆ギレすんな‼︎ もうやだ、コイツ雇ったの誰だよ……」

「アンタでしょ……」

 

 嘆く主任に細身の作業員は冷静に突っ込んだ。

 主任の年相応に男らしい声は、怒りと心労がミックスされたカオスな情緒により、弱々しく震えていた。

 

「でも、これだけ爆破しておきながら綺麗な箇所には傷一つ付いてないでやすね。何か仕掛けでもあるでやす?」

「市販で売ってる花火の火薬の分量弄って火力と範囲調節してるだけ」

「はぇ〜……」

「んな子供の工作みたいに……」

 

 訝しむ主任を他所に、痩せ気味の作業員は顎を摩りつつ、先程まで小山のように積まれていた瓦礫があった更地を眺めた。

 

「とにかくよぉバイト、もう現場に危険物は持ち込むな。次変な事したらマジでクビだからな……」

「チッ……分かりました」

「ねぇ今舌打ちした⁉︎ ねぇ⁉︎」

 

 二人の騒々しいやり取りはたった数日間にも関わらず、作業員達の間でそれなりに知れ渡っていた。

 

 

 

 

 同時刻───ここはオシバナのメインストリートから外れた脇道。

 仄暗く細い道を埋め尽くすように、男達が闊歩していた。彼らの体格に各々差はあれど、例外なく白い帽子(ボルサリーノ)とスーツを纏っていた。

 統率の取れた服装。しかし、それをぶち壊すように、各自異なる独特(ブサイク)な魚類の覆面を身に付けていた。

 

 彼らは最近この辺りに越して来たマフィアの一団、その名もギョフリーノ一家(ファミリー)である。

 

「ボス、ホントに大丈夫なんですかね。こんな白昼堂々と国盗りならぬ街盗りなんて……」

 

「下調べは済ませてあるんだ、問題ねぇ。先日起きた魔導士の襲撃事件で軍隊は消耗してる……俺達ギョフリーノ一家(ファミリー)がこの街を頂くには、抵抗力の削れた今が絶好のチャンスってワケさ」

 

 弱った所を狙う、まさしく漁夫の利である。

 先頭を歩く、ボスと呼ばれたやや背が低く横幅の広い男は低く篭った声でそう言い、ほくそ笑んだ。

 

「まずは拠点が必要だ。とはいえ、俺達は裏の人間……人目に触れ易い場所に構える訳にもいかねぇ。だが幸運な事に、今は駅で土方共が工事をやってる。そこそこ規模のデカい工事だから一般人は近づけねぇし、作業員用の休憩場所もあるはずだ。ちと汚ねぇだろうが、そこを乗っ取って一時的な活動拠点にするぞ」

 

 部下と思しき十数名の構成員達はその案を聞いて何を言うこともなく頷くと、ただ彼の背後から続いていった。

 

 

 

 

「建機担当が体調を崩して仕事に出れないって?」

「なんでも、間違って消費期限の過ぎた刺身を食って腹下したらしいでやす」

「何やってんだ……」

 

 細身の作業員から言伝を聞いて、呆れた様子を見せる班長と思しき恵体の男性。

 

「……何かあったんです?」

 

 付近をたまたま通りかかったキャロレインは、困った様子の二人を見てなんとなく何があったのか気になって彼に尋ねた。

 

「ん? ああ、バイトか。いやな、あそこに建機あるだろ? アレの担当が腹壊して出てこれなくなったんだよ」

「ふぅん」

 

 班長が指さす先に鎮座するのは、巨大なショベルが取り付けられた大型のダンプカー。並の魔獣なら軽々吹っ飛ばしてしまいそうな厳つい車体を見たキャロレインは、特に何も思うことなく適当に相槌を打った。

 

「『ふぅん』って……まあいいか。お前、確か魔導士って言ってたよな? 魔導士は免許無くてもビークル操縦できるって聞いたが……」

「そりゃできますけど、許可されてるのは魔力で動くモノだけです。油で動くモノは免許証がないと……」

「なら大丈夫だ、ありゃ魔力で動かすモンだから心配いらねぇ。ってな訳で、あそこにある瓦礫退けるの頼んでいい?」

 

 班長はキャロレインに何処からか取り出した程よい厚さの冊子を渡す。

 上司から直々の指示である。つまり拒否権はなんて無いのだ。

 

「それ操作マニュアルだから、動かす前にちゃんと読んでくれよな」

 

 班長はフレンドリーな口調でそう言うと、憂いが晴れたような足取りで持ち場へ戻って行った。

 

「あ、ちょっと……えぇ……」

 

 もうちょっと何か説明あるでしょ、なんてキャロレインが言う間も無く去った班長。

 彼女が横に振り向くと、側にいた細身の作業員と目が合った。

 

「あー……ファイトでやすよバイトちゃん」

 

 彼は同情混じりにキャロレインを励ますと、そそくさとその場を去った。

 成り行きとはいえこうなってはもう仕方がないと、キャロレインは建機に乗り込んでヨレヨレの説明書を開くのであった。

 

 

 

 夥しい断末魔が轟いたのは、それから数分後の出来事である。

 

 

 

 一体全体何事かと主任達が駆けつけると、そこではセンスを疑う魚の覆面を被った白ずくめの男達が建機でボコボコにされていた。

 

「な、なんだぁ⁉︎ あのナンセンスな仮面の連中は……?」

「あっ、アイツら、最近巷でウワサになってたマフィアの一団でやすよ! 一体こんな所に何しに来たでやすかねぇ……」

 

 呆然と見守る作業員達を他所に、マフィア達は弧を描いて吹っ飛んだり、瓦礫と一緒に集積されたり、根菜の如く地面に埋没させられたりと好き放題されていた。

 

「えーっと、ここのレバーを……こう!」

「「ぬわーッ⁉︎」」

 

 しかし当のキャロレインは、どうやら彼らの存在に気が付いていないらしい。マニュアルを片手にレバーやハンドルを操作している。完全に余所見運転、労働安全法に喧嘩売っている。

 

「あ、これ発進レバーじゃない」

「「ギョエーッ⁉︎」」

 

 壁に弾かれたコマの如く高速スピンしたり、バイクアクションさながらのウィリーは建機にあるまじき疾走感をもたらし、マフィア達を端から薙ぎ払っていく。

 一体どう操縦したらそんなダイナミックな動きになるんだと、作業員一同は心中で総ツッコミをかますのであった。

 

 縦横無尽に荒ぶる鉄塊。

 しかし突如として、時が凍り付いたようにそれはピタリと動きを止める。

 

「あ、止まった」

「何だ⁉︎ 今度は一体何してくるってんだ⁉︎」

「ああ、何だか嫌な予感がする……」

 

 嵐の前の静けさに怯えるマフィア達。

 建機は所々からシュウシュウと白い煙を噴き出し始める。

 

「な、何か煙吹いてるでやすけど……」

「まずいッ、爆発するぞーッ⁉︎」

 

 主任の避難号令を聞いた作業員達は、一斉に重機から背を向けて走り出す。

 

 それから束の間、彼らの背で爆轟が鳴り響いた。

 

 地面に飛び込む作業員達、四方八方に飛び散る金属片。静寂の中、地に伏せた一同が煙に視線を集中させる。

 爆心地に取り残されたキャロレイン、あわや絶体絶命か。

 

「あービビった……ったく、急に爆発しやがって。アクション映画の撮影現場かっつーの」

 

 別にそんな事はなかった。

 

 立ち込める爆煙の中から、煤を被ったキャロレインが何事も無かったかのように現れる。煌々と燃え盛る大破した建機。それをバックに歩く彼女のピンピンしたその様子を見て、彼らは唖然としたまま言葉を発する事ができなかった。

 滑らかだったショートヘアーは爆発によりモジャついたアフロと化しており、グラデーション掛かった髪色の所為で小粋なパリピにも見える。

 

「う……あ、あの顔……間違いねぇ……笑う怪物(スマイル・モンスター)……裏社会にとっての要注意人物(ウォンテッド)がどうしてこんな所に……ぐふっ」

 

 ボロ雑巾状態地面に付したマフィアの一人は、彼女を霞む視界で捉えると、そう呟いてくたばった。

 

「バイト」

「はい」

 

 主任はキャロレインに歩み寄り、地蔵の如き微笑みを投げ、彼女の肩に両手を添えて大きく吸った息を吐く。

 

「君、クビね」

 

 

 

 

 

 

 書斎椅子に腰掛ける聡明な顔立ちをした青髪の男性は、机に両肘をつきながら思考に耽っていた。

 彼の一歩後ろで佇むどことなく妖艶な雰囲気を漂わせる黒髪の女性は、水晶を宙に浮かせ遊ばせている。

 

「───先の魔導士……キャロレインと言ったか。ウルティアよ、お前はあの女を見て何か感じたか」

「あら、ジークレイン様……もしかして一目惚れでもしまして?」

 

 ウルティアは小さく笑った。

 

「まさか」

「ちょっと揶揄っただけ」

「……俺は真剣に聞いているんだが」

 

 眉一つ動かさず、ただ一点を見つめるジークレイン。

 

「フフ、冗談の通じない男は嫌われるわよ? まあ、そうね……一見ただの少女。だけど、その内側から何かとてつもないチカラを感じたわ。ソレが何かは分からないけど」

 

 ふわふわと浮く水晶がウルティアの顔前で静止し、真剣な面持ちの彼女を映した。

 

「でも、あの子はそのチカラを厳重に抑え込んでいた……まるで重厚な金属の箱で密閉した上から、鎖で何重にも巻き付けて宙に縛り付けてるみたいにね。無意識的か意識的かは判らないけれど……ねぇ、ジークレイン様」

 

 

 

「あの子、本当に人間かしら?」

 

 

 

「……さあ、どうだろうな」

 

 ウルティアの問いに、ジークレインはただ口角だけを浅く上げた。




一ヶ月投稿サボった上に話の本筋からぶれてんじゃねーか! 物読ませるってレベルじゃねーぞ!
次回でちゃんと戻ります、許せ

Q.魔法の世界なのに建機ってあるんですか?
A.単行本の扉絵(?)に戦車っぽいのとか普通にあるし、建機とかももしかしたらあるんじゃないかなって。ていうかFTの世界って機械技術も割と発展してない?
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