恋するカレンチャン   作:高崎ヒビキ

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第1話 恋するカレン

 ――子供の頃、夢を語り合った。

 

「お兄ちゃん〜!」

 

「お、どうしたカレンチャン?」

 

 ――馬鹿らしい夢、大袈裟な夢。

 

「カレンね、トウィンクルシリーズで活躍したい!」

 

「急にどうしたんだ? それが将来の夢……とか?」

 

 ――叶わないかもしれなくても、口に出すだけで強くなれる気がした。

 

「ほら、これ! 走ってるウマ娘さん達……みんなキラキラしているでしょ?」

 

「確かにな。って事は、もしかして……」

 

 ――時が過ぎれば、笑い話かもしれないけど。

 

「そう! カレンもキラキラしたい! だから、頑張ってトレセン学園に入りたい!」

 

「そうか……。それじゃあ、俺は……」

 

 ――もし手が届いたら、とても嬉しいから。

 

「どうしたいの、お兄ちゃんは?」

 

「俺はトレーナーになって、カレンチャンと一緒に頂点を目指す!」

 

 ――別の惑星の軌道のように離れても、同じものを目指そうとしていた。

 

「お別れだけど……、頑張ってね。お兄ちゃん」

 

「もちろん! カレンチャンも、新天地……は大袈裟かもしれないけど、頑張れよ」

 

 ――いつの日か、その場所で再び出逢えるように。

 

「トレセン学園でお兄ちゃんと頑張るんだ……。諦めない……!」

 

「……勉強めんどいなぁ。でも、カレンチャンと頂点目指したいし、もうひと踏ん張り!」

 

 ――時が過ぎれば、確かにどこかで道は交わるのだろう。

 

「……やったぁ! トレセン学園受かった!」

 

「……よっしゃぁ! 中央のトレーナー資格取ったぞ!」

 

 ――けれど、もっと早く気が付くべきだったのかもしれない。

 

「うーん、誰がカレンの事スカウトしてくれるかな〜?」

 

「さて……、誰をスカウトしようか……」

 

 ――道が交わるという事は、必ずしも、道が重なるという事ではないという事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グラウンドに向かおうとのんびり歩いていた。心地よい春風に、どこか心は浮き足立ち、つられる様に足取りも軽くなる。桜の季節は、もう少しで訪れそうだ。

 

 トレセン学園でトレーナーとして勤め始めて、はや三年目が近付いている。担当のウマ娘と二人三脚で、着実に実績を積み重ねているつもりだ。

 

 タッタッタッ……、と足音が聞こえたので、ゆっくりと振り返る。知ってるリズムだから、誰が近付いてきているのかは分かっていた。

 

「お兄ちゃん〜!」

 

「よぅ、カレンチャン。今日も元気だな」

 

 自分より頭一つか二つくらいカレンチャンが、いつもの様に明るい様子で俺に近づく。

 

「うん、昨日もたくさんの人が、ウマスタに投稿したカレンの自撮り見てくれたからね。……そうだ、お兄ちゃんに上手な自撮りの方法教えてあげよっか?」

 

「それはいいかな……。俺もウマスタのアカはあるけど、自撮りは投稿する気無いからなぁ。それに、」

 

「?」

 

「アヤべさんの話し相手になってくれてるのに、それ以上求める事は出来ないな」

 

 俺が担当しているアヤべさんことアドマイヤベガは、(無理やり)話しかけてくるテイエムオペラオーやオペラオーと仲が良い(?)メイショウドトウ以外に、話し相手と言える人がいなかった。

 

 そんなアヤべさんに声をかけて話し相手になっているのが、ウマスタの超人気者のカレンチャンだ。最初のうちはアヤべさんの地雷を踏み抜いた事もあって、会話と言えるかよく分からないものだったが、最近はよく話している気がする。

 

「前よりも表情が豊かになったし、俺とも話してくれるようになった。全部カレンチャンのおかげさ」

 

 俺がそう言うと、彼女は笑いながら。

 

「そんな事ないよ。カレンだって、無理やり喋ってたし。アヤべさんが話すようになったのは、お兄ちゃんが頑張ったからだと思うよ?」

 

「そう言ってくれると、自分の努力が無駄じゃないと分かって安心できるな」

 

 そんな他愛もない会話を交わしながら、グラウンドに向かう。靴が地面を踏み付けるザリ、ザリ……という音と、蹄鉄が地面を踏み付けるカツ、カツ……という音が聞こえる。

 

「あ、お姉ちゃんだ」

 

「……里宮さんか」

 

 近況報告――という程のことでもないが、最近あったことを話していたら、カレンチャンが彼女のトレーナーを見つけたようだ。見てみると、里宮さん――本名は里宮未来だったっけ――が右手を大きく振りながら、「カレンチャンー!」と呼んでいた。

 

 どうやら、いつの間にかグラウンドのすぐ近くまで来ていたようだ。少し離れたところでは、アヤべさんが準備体操をしている。カレンチャンが『どうしよう?』という感じで、こちらを見ている。

 

「里宮さんが呼んでるんだし、行っていいぞ。……むしろ、それが正しいんだし」

 

「……うん。じゃあね、お兄ちゃん」

 

「ああ。また今度な」

 

 カレンチャンが里宮さんの方へ走っていくのを確認し、そちらに背を向けて歩き始める。まるで、その光景を受け入れたくないのかの様な行動に、思わず自嘲の笑みが零れる。

 

 荷物で塞がっていない右手で頬を叩いて、しょうもない笑みを隠す。そんな笑みをアヤべさんに見られたら、何言われるか分からんしな。

 

「遅かったわね、トレーナー」

 

「悪い悪い。カレンチャンと雑談しながら来たもんでな」

 

「……そう。それで、今日のトレーニングのメニューは何かしら?」

 

「今日のトレーニングは――」

 

 俺、水無月結城がアヤべさんの担当になって、そろそろ三年目になる。アヤべさんの担当になったこと自体には、何の後悔もない。

 

 だが、幼い頃の約束は果たせなかった。アヤべさんをスカウトした時、あの約束を思い出した。思い出した時には、カレンチャンは同期のトレーナーにスカウトされていた。……まあ、新人トレーナーは一人しか担当できないのだが。

 

 もう一度言うが、アヤべさんの担当になった事には、何の後悔もない。それでも、カレンチャンの担当として頑張りたかったなんて未練がましく思ってしまう自分が、どうしても情けない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カレンは小さい頃に、お兄ちゃんと約束をした。トウィンクルシリーズで一緒に活躍する、なんて事を。

 

 投げ出すことだって出来たけど、その約束――夢を諦められなかった。だから、トレセン学園に入学出来るように、必死で頑張った。合格が分かった時は、本当に嬉しかった。けどその嬉しさに、一瞬の間だけ約束を忘れちゃったのだろう。

 

 里宮さん――お姉ちゃんにスカウトされてから、お兄ちゃんとの約束を思い出した。ふと辺りを見回したら、その時はお兄ちゃんを見つける事は出来なかった。お兄ちゃんがアヤべさんのトレーナーだって知ったのは、カレンがアヤべさんに声をかけるようになってからだ。

 

 お姉ちゃんとの日々も楽しいけど、やっぱりどこかで考えちゃうんだ。お兄ちゃんがトレーナーだったらな、って。

 

 もうその夢は、叶う事はない。だからせめてお兄ちゃんと話す理由――普通に喋りたいのもあるけど――が欲しくて、今日もアヤべさんに声をかける。

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