恋するカレンチャン   作:高崎ヒビキ

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昔あるところで、女の子が何でも知っているという鏡を拾いました。

彼女は、ある男の子について鏡に聞きました。

次の日、彼女はその男の子に会いに行きました。

帰ってくると、女の子は鏡を割って捨てました。

という訳で、大人気シリーズ(大嘘)第6話。新ヒロイン(?)の登場です。今回は本当にファン感謝再編だったりします。


第6話 モノクロシティ Part3

『さぁ、皆さんお待ちかね……借り物競争が始まります!』

 

 グラウンドに響くアナウンスに、観客のボルテージが上がる。

 

『トレセン学園で行う借り物競走だろうが、ルールは簡単! スタートしたら、少し先にある机までまずは走ります。そして、置いたある紙を1枚選び、そこに書かれたお題を満たすものを借りてくるなり連れてくるなり――あとはゴールするだけです!』

 

 観客席の最後方、少し高いところに水無月は陣取った。水無月が辺りを見回すと、反対側の方の前列に彩結がいるのを見つけた。

 

(……どうやってあそこに座ってんの?)

 

 自分と同じで数分前に移動したはずなのに、どうしてそんな所に座れるというのか。

 

『ただしっ! どうしても見つけられない場合は、ギブアップ出来ます! もちろん最下位になってしまいますよ』

 

「……引き直しはないんだな」

 

 とはいえ、そう思うの水無月くらいのようだ。実際問題、観客のボルテージはどんど上がっていく。

 

『さあそれでは、第一組の出走です!』

 

 アナウンスとともに、スタートラインに六人のウマ娘が並ぶ。

 

 そのうちの一人は、アドマイヤベガである。

 

(これって、当たり外れが大きいものよね……)

 

 書く内容には当たり外れがあるのが、この種目の醍醐味でもある。まあ、その当たり外れが楽しいのは観客であって、選手は楽しいどころか苦痛になりかねないが。

 

 六人が一斉にスタートを切る。

 

 借り物競走なのだから、別にお題を選ぶ順番では順位はつかない。だが、ウマ娘の本能がそうさせるのか、我先にお題の紙が置かれた机に駆け出す。

 

 アドマイヤベガはただ一人だけ遅れて――勿論わざと――スタートラインから飛び出す。

 

(……残り物には福がある、っていうものだし)

 

 どこぞのウマ娘が飛びつきそうなことを考えながら、残っていた最後の一枚の紙を手に取る。

 

 畳まれていたのを開いて、何が書かれているのかを確認――

 

「……冗談よね、これ?」

 

 思わず、口から漏れる。

 

 だが、何度見てもそう書いてあるのだから、間違いではなさそうだ。

 

「いい性格してるわ、これ書いた人は……」

 

 呆れながら、アドマイヤベガは、目的のものを探す。その目的のものは、思いの外早く見つかった。

 

「……すいません、彩結さん」

 

「あら、アドマイヤベガさんじゃない。どうしたの?」

 

「一緒にゴールまで走ってもらえませんか?」

 

 なぜか最前列にいた、彩結が目的のその人であった。

 

「構わないけど……お題は何だったの?」

 

 お題を伝えようかとも思ったが、絶対に伝えなくてはいけない、というルールがあるわけではない。

 

「……それはゴールしてから教えます」

 

 あっさりと同意した彩結の手を取り、アドマイヤベガはゴールに向かって走り出す。

 

 握った手の感じは、あまり水無月のものとは似ていなかった。それもそうだろう、彩結は水無月の母親なのだから。

 

 だけど、その温かさだけは、どこか似ているような気がして。

 

 そんなことを考えているうちに、二人はゴールを駆け抜けた。

 

『さあ、なんと一位でゴールしたのはアドマイヤベガ選手だ! スタートは出遅れたのですが、華麗なる逆転劇を見せてくれました!』

 

「……偶然よ、偶然」

 

 アナウンスは会場を盛り上げるが、アドマイヤベガは落ち着いていた。

 

「それで……アドマイヤベガさん、お題は何だったのかしら?」

 

「あ、すいません。お題は……、これです……」

 

 ゴールから少し離れたところで、お題が書かれた紙を彩結に渡す。少し言い淀んだ事に気が付かない訳ではない彩結だが、あえてスルーする。

 

 その紙を見た彩結は、思わず笑みが零れてしまった。

 

「ふふふ……、ずいぶん大変な事を書く娘がいるのね」

 

「そうですね……」

 

 お題に書かれていたのは、『自分の担当トレーナーの血縁者』だったのである。

 

 今回の場合、アドマイヤベガが彩結の事を知っていて、かつ彩結が最前列にいた事で成立した。だがそうでなかった場合、一体どうなっていたのやら。アドマイヤベガが言う「偶然」は、まったくもってその通りだったのだ。

 

「ところで、これで私の役目は終わったかしら? もしいいなら、観客席に戻りたいんだけど……」

 

「……ありがとうございました」

 

 アドマイヤベガは手を振る彩結に頭を下げ、彩結とは反対側に向かう。

 

「そうだ、」

 

「?」

 

 戻ろうとしたアドマイヤベガに、彩結が声をかける。

 

「さっき言った事、忘れないでね?」

 

「……はい」

 

「よろしい」

 

 アドマイヤベガが返事をしたのを確認すると、彩結はようやく観客席の方に戻り始めた。

 

「……どういう事なの?」

 

 ハッキリ言わなきゃダメよ――もちろん、覚えている。だとして、その言葉に大層な意

味があるようには感じられない。

 

 よく分からない、と結論を出すしかなかった。

 

 応援してくれたファンにお礼をするのも忘れない。

 

 向かった先にいたのは、最後方で見ていた水無月だ。

 

「いや〜、1位おめでとう、アヤべさん。それはいいんだけど……」

 

「……何かあったかしら?」

 

 聞かれることは何となく分かってはいたが、とぼけてみせるアドマイヤベガ。

 

「何で母さんを連れてったのかな……と思ったんだが?」

 

「お題のせいよ。これが私の引いたお題だわ」

 

 右手に持っていた紙を、水無月に差し出す。手の動きが遠慮がち、いや躊躇いがちだったことに、水無月は気が付かない。

 

「ほう、これがそうか。なになに……、ん? 何これ?」

 

 お題の書かれた紙を見て、水無月は彩結と違って普通に驚く。

 

「『自分の担当トレーナーの血縁者』って、どんだけ狭い範囲を指定してるんだ……。いなかったら困るだろうに、何でやめなかったんだこれ」

 

「どうしてかしらね」

 

 それに関しては、アドマイヤベガもさっぱり分からない。水無月の言う通り、お題に混ぜるべきではないはずだが。

 

 なんて話していた時だった。

 

「結城君、アドマイヤベガさん、こんにちは」

 

 少し疲れた様子の桐生院が、2人に声をかける。

 

「……こんにちは」

 

「葵ちゃんか。……少し疲れてるみたいだけど?」

 

「えっと結城君、もしかしてそれは冗談で言ってるの?」

 

 桐生院は怪訝そうな顔で、水無月に問い返す。

 

「あれだろ、トレーナー対抗のリレーに参加したから……」

 

「……トレーナーは出てないの?」

 

 アドマイヤベガは半眼で――この場合はゴミを見るような目で、水無月に視線を向ける。それに合わせて桐生院も。

 

「そうよ、何で結城君参加してくれなかったの? アドマイヤベガさんも、結城君に言ってくれませんか?」

 

 どうやら、水無月がトレーナー対抗のリレーに参加しなかったことに、文句があるようだ。

 

「いや、運動得意で引く手数多の葵ちゃんと違って、可でも不可でもないレベルの俺なんて、行くだけ無駄だろ……」

 

「まあ……それはそうね」

 

 首を横に振りながら、参加しなかった理由を言う水無月。アドマイヤベガも、それは否定できなかった。

 

「……そうでもなかったんだよ?」

 

 水無月から視線を外し、地面に落とす桐生院。

 

「『そうでもなかった』って、どういう事だ?」

 

「何でもないよ。ただ……、そう思う人がいるって事を、結城君は知っていてほしいの」

 

「はあ……」

 

 桐生院の言う意味が分からず、首をかしげる水無月。

 

(それって……)

 

 それに対して、アドマイヤベガは、何となくこうではないか、と想像を巡らせる。

 

「分からない様なままじゃダメなんだからね、結城君」

 

「……何の事だか」

 

「やっぱりそう言う……。まあ……、仕方ないんだけど」

 

 本当に分かっていなさそうな様子の水無月に、ため息をつきながら目を伏せる桐生院。

 

「『やっぱりそう言う』って……、どういう事ですか? それに、『仕方ない』も……」

 

 その言葉が引っ掛かったアドマイヤベガは、思わず桐生院に問いかける。

 

「気にしなくていいんです、アドマイヤベガさん。これは、……これは、私達の問題だから」

 

 子供を諭すような、窘めるような、その大人の――誤魔化しを浮かべた様な笑顔。

 

 だが桐生院の瞳には、これと断ずることが出来ない、何か感情が揺らいでいるようだった。

 

「……そうですか」

 

 貴女にはまだ関係ない――そう突き放されたように感じ、ついぶっきらぼうに答えたアドマイヤベガ。気が付いて、怒らせていないかと顔を見る。

 

 桐生院は気付いていないのか、それとも気付いているのか。アドマイヤベガが表情から感じ取れないでいると、桐生院が口を開く。

 

「いつか、アドマイヤベガさんに、話せる時が来ると思います。全て教えます、その時がきたら……」

 

「……」

 

 その時なんて、ずっと来ないのでしょう――そう口にしそうになる。それを抑えようと、沈黙を選んだ。

 

「あ、ハッピーミークじゃないか。葵ちゃん、応援しなくていいのか?」

 

 水無月のその声に、桐生院が慌ててグラウンドの方に近付く。そうは言っても、グラウンドまでは10メートル程あるので、そこまで近付いたようには感じない。

 

 見ると、ハッピーミークはリュックを背負った小さな男の子の手を引き、先頭で走っている。後続との距離は、十分に離れていた。

 

「頑張って、ミーク!」

 

 桐生院がハッピーミークに声援を送る。

 

 その声援をかけられたハッピーミークからすれば、頑張るのは子供の方なんだけど、と思うしかない。

 

 抱きかかえて走ってしまえばいいように思われるが、ルール上それは認められていない。人を連れていく場合は、連れていく人の速さに合わせなくてはいけないのだ。

 

 幸い、十分にあった距離は詰まることなく、ハッピーミークと小さな男の子は1番でゴールした。ハッピーミークが声をかけると、1番が嬉しかったのか、男の子が喜んでいた。

 

「良かった〜」

 

「ハッピーミークも男の子も、よく頑張ったな」

 

 ほっとした様子の2人。残念ながら、アドマイヤベガからすればどうでもいい結果なのだが。

 

 しばらくして、ハッピーミークが3人のいる所に来た。あまり表情の変化がない彼女だが、見るからに得意気な雰囲気だ。

 

「……勝ちました、ブイッ」

 

 右手で作ったピースサインを、桐生院に得意気に向ける。

 

「おめでとうございます、ミーク!」

 

「……むふ〜」

 

 よっぽど嬉しいのか、桐生院がハッピーミークに抱き着く。満更でもない顔をするミークに、なんかほっこりする2人である。

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