恋するカレンチャン   作:高崎ヒビキ

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昨日の自分と今日の自分は、違う自分だと歌は言う。

そうであるならば、流れる時間もまた、昨日とは違うはずだ。

でも、昨日と同じように、時間は流れていく。

昨日の自分と何も変わっていなかったことに、気が付いた。


第7話 STEP Part2

 午後のトレーニングも終わり、トレーナー室への道をぶらぶら歩く。

 

 あれ以来――ファン感謝祭以来、特に三人の関係に変化はない。一番身近なアヤべさんも、いつも通りだ。それが俺にとっては不気味なのだが。

 

 あれが何だったのか、未だに分からない。かといって本人に聞いても、それはそれでまずい気がしてならん。

 

「三つ巴……、いや違うなぁ……」

 

 三つ巴、というには何かが足りない。

 

 それこそ、共通して求めるものが存在しない。だったら争いが起きようもないのだ。

 

「み、水無月さん!」

 

「……うん? 里宮さんか」

 

 今日もいつも通り、カレンチャンのトレーニングをしていた里宮さんが、後ろから声をかけてきた。心なしか頬が赤い気がするが……、気のせいだろうか。

 

「どうしたんですか?」

 

「えっと、……そのっ、日曜日って予定ありますか?!」

 

 言われて、スマホの予定帳を確認する。

 

「予定…………、無いですよ」

 

 というか、レース関連以外で日曜日がつぶれたことが、今までにあっただろうか。……ないな、うん。いやいや、それが健全な男性社会人では?

 

「よ、良かったぁ……」

 

「……」

 

 全力でほっとされた。あの~……それは、えっと、どうリアクションしろと? 何、予定が無いのが嬉しいの? ひどくないそれ?

 

「別に予定が無いのを馬鹿にしてるとか、そうじゃなくて……!」

 

 俺が露骨に死んだ顔をしたせいだろうか、里宮さんが慌てている。

 

「いいんですよ、気にしなくて。俺は休日も予定が無い、空っぽの人生を送ってんですから」

 

 まあきっと、一生そんな感じなのだろう。土日の予定が、誰かの為に埋まる事など滅多にない、そんな感じが続くのだろう。

 

 もう、だいぶ前から分かっていた事だ。

 

 忘れたフリをしていたが、里宮さんの一言で気付かされる。覚えていなければ、忘れてしまえば楽なのに。

 

「そんな話がしたいんじゃなくて……。水無月さん、」

 

「……どうしたんです?」

 

 急に改まった顔をされ、俺が何かマズイ事をしたかと不安になる。

 

「一緒に遊園地に行きませんか、日曜日に」

 

「はあ……。人違いではなくて?」

 

 俺を休日に誘うとか、一生の損でしかない気がするんだが。

 

「……私はまじめに言ってるんですよ。あんまりそういう事言うと、私でも怒りますからね」

 

「……さいですかい」

 

 言われている事がどうにも信じ切れず、変な返事をする。

 

 だが、ちらりと後ろを見ても、俺以外には誰もいない。俺相手に話しているのは、どうやら間違いないようだ。

 

「分かりました。行きましょうか、遊園地」

 

「本当に……大丈夫なんですよね?」

 

 いや、里宮さん、あんた自分から聞いておいてそれはないだろ。

 

「さっきも言ったじゃないですか、『予定は無い』って。だから大丈夫です」

 

「ホントのホントに、大丈夫なんですよね?」

 

「もしかして疑ってます?」

 

 いやほんと、いつの間に噓をつくような人間だと思われているのだろうか。以前、鏑矢にも似たような事を言われたような気がする。

 

「いえ、その……アド――ううん、大丈夫なら行きましょう!」

 

 何かを言いかけた里宮さんだったが、結局行く事を決めたようだ。

 

「それはいいんですけど、車とかどうします?」

 

「どうしようかな……。あ、じゃあ水無月さんにお願いしてもいいですか?」

 

「……里宮さんは、車とか無いんですか?」

 

 あんまり乗っているところは見た事がないが、一台も無いという事もないはずだ。

 

「ミニバンはあるんですけど、二人で乗るにはちょっと……」

 

「……ミニバン?」

 

 なんで一人暮らし(多分)なのに、家族向けのミニバンを里宮さんが持っているのだろうか。持ち腐れてしまう事くらい、買った時点で分かりそうなものなんだが。

 

「実は……、親が『どうせ買うなら』って言って、ミニバンを買っちゃって」

 

「……おいおい」

 

「いらないって言ったんですけど、押し切られちゃったんです……。最高級モデルなせいで、余計に乗りづらさが増しちゃって……」

 

「……最高級モデルぅ?」

 

 最高級って、あの無駄にごてごてしてギラギラしているあれの事だろうか。確かに、高いだけでなく里宮さんにとってあまり好きではないデザインなら、乗りづらくもなるだろう。

 

 ……里宮さんのご両親って、どこか親心がずれている気がする。

 

 というか、そんなお高いものをポンと娘の為に買えるって、どんな家なんだろう。すんげー金持ちなのかもしれない。

 

「そうなると、俺の車になるのか……。いいんですか、アレで?」

 

 アレ、とは言っているが、別に悪い車ではない。

 

 某メーカーのライトウェイスポーツカーの4代目だ。電動ルーフでも良かったが、昔ながらの感じがする普通のルーフのモデルを選んだ。……よく助手席に里宮さん乗っけたな。

 

「いいですよ。むしろ……その……」

 

「?」

 

「あ、何でもないです! 運転お願いします!」

 

 かくして俺の休日が、社会人になってから初めて人からの誘いによって埋まる事になったのである。




お久しぶりです。生活に慣れなかったり課題があってなかなか書く暇が作れませんでしたが、文芸部の夏部誌用の作品未提出を生贄に書ききりました。これからも投稿はスローペースですが、更新を続けていくつもりですので、よろしくお願いします。
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