恋するカレンチャン   作:高崎ヒビキ

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第8話 デートTIME Part1

「わぁ〜、美味しそうだね、お兄ちゃん!」

 

「あ、あぁ……そうだな」

 

 ショッピングモールにあるアイスクリーム屋で、カレンチャンが水無月の手を引きながら、並ぶアイスクリームを見ている。その勢いに、水無月は少し押され気味だ。

 

「カレンチャンさんですよね?! いつも応援しています!」

 

「そう言ってくれると、カレン嬉しいなっ」

 

 どうやらカレンチャンのファンらしい女性店員が、興奮しながらカレンチャンと話している。

 

「それで、カレンチャンさんはそこの方とご来店してくれたんですね?」

 

「そうなんですっ」

 

「……まあ、そうですね」

 

 どうやら、店員は水無月が誰なのかを全く分かっていないらしい。もしくは、分かってはいるが、特に気にしているわけではない、という感じだろうか。

 

(あれ、それとも俺ってそんなに影薄かったのか……?)

 

 大した問題ではないとはいえ、思わぬところからカウンターを食らう。

 

 そんな水無月の心の中の葛藤に気が付くことなく、店員がカレンチャンに声をかける。

 

「もしそうでしたら、カップル割でアイスをご提供します!」

 

 その言葉に、思わず水無月が声をかける。

 

「……えっと、その『カップル割』ってのは何ですか?」

 

「名前の通りですよ! 男女ペアでご来店してくれたお客様には、カップル割という事で半額でご提供しています」

 

「いや、でも俺達は別にカップルじゃないんで……。流石に普通に払いますよ」

 

 事実、二人はカップルという訳ではない。むしろそうだと、色々まずい事がある。それにこのアイスクリーム屋には一般の人も多くいる以上、余計なことをする訳にはいかない。

 

 プライドとは違うが、嘘をついているような気がした水無月は、割引を断ろうとする。

 

 すると。

 

「カップルじゃなくても、男女ペアでご来店でしたら、全然大丈夫ですよ!」

 

 そんな店員の言葉に。

 

「だってよ、お兄ちゃん。ねぇ〜……?」

 

 迷う水無月の顔を、ねだるような顔で下から覗き込むカレンチャン。そして、店員は店員で、なんかものすご〜くいい笑顔で水無月のことを見ている。

 

「いや、でもほら、ダメじゃない?」

 

 だが、カレンチャンの期待するような眼は変わらない。それどころか、他の客の中には、カップル割りで買え、と言わんばかりの顔をしている。……半分くらいは、『なんだお前、カレンチャンとどんな関係なんだよ?』という顔をしているのだが。

 

「……はぁ。はいはい、分かりましたよカレンチャン。すいませんねぇ、カップル割でお願いします」

 

 結局断りきれず、というより笑顔の圧に折れた水無月は、カップル割でアイスクリームを買う事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 車や自転車で通り抜けてしまう道を歩いていれば、普段目に止まらないようなものでも、やたらと気になってしまうものである。

 

「……」

 

「お〜い、アヤべさーん?」

 

「…………」

 

 それはどうやら、アドマイヤベガも例外ではなかったようだ。

 

「……かれこれ5分は経つんだがなぁ」

 

 ある土曜日、トレーニングに必要な道具などを買いに行くために、トレーナーとアドマイヤベガは歩いてスポーツ用品店に向かっていた。その道中にある公園で、移動販売車を見かけたのだ。

 

 普通の移動販売車であれば、2人とも目には止めても、きっと通り過ぎていたであろう。だがある看板の一言があった結果、アドマイヤベガの足が止まったのだ。

 

 というのは。

 

 

 ――甘いふわふわパンケーキ!

 

 

 ……まあ、そういう事である。5分ほど経った、というのは、アドマイヤベガが看板とにらめっこして5分、という事だったりする。

 

(……毛布とかじゃないんだけど、「ふわふわ」って見ると気になるもんなのか)

 

 日が照っているとはいえ、今は秋も深くなってきた頃であり、そこまで熱くはない。とはいえ、あまり関係のないところで足を止めてるわけにもいかない。水無月はそこまで神経質ではないが、あまりにも予定していたことが崩れてしまうのは、誰にとっても微妙だろう。

 

 だが水無月の性格的に、このモードになったアドマイヤベガを動かす勇気も知恵もない。

 

(……しょうがない、見守るとしますか)

 

 と決意したその時。

 

「決めたわトレーナー」

 

「はい?」

 

 アドマイヤベアはくるりと振り向いて。

 

「買うわよ、パンケーキ」

 

 真面目な顔をしているつもりなのか、声は真剣そのものだ。だが水無月は気付いている、目が思い切りキラキラしている事に。

 

(堅物、ねぇ……)

 

 水無月の耳に入るのは、普段の様子から想像される、アドマイヤベガの噂だ。果たして彼女らはこれを見てもまだ言えるのだろうか、と考えながら、足取りの軽い彼女の背中を追う。

 

 辺りを見るとテーブルがあるので、どうやらここで食べていけるようだ。

 

「すいません。……『ふわふわパンケーキ』一つお願いします」

 

 すると、女性の店員が声をかける。

 

「さっきから気になっていたんですが……アドマイヤベガさんですよね?」

 

「あ、……はい」

 

「嬉しいなぁ。私、アドマイヤベガさんのあの走りに一目ぼれしちゃって、いつもレースを見てるんです」

 

 突然の熱烈なファン宣言(?)に驚きながらも。

 

「あ、その……ありがとうございます」

 

「そちらは、トレーナーの水無月さんですよね? 二人とも、これからも頑張ってください!」

 

「覚えてくれている人がいるなんて、なんか嬉しいですねぇ。ええ、もちろん頑張りますよ」

 

 頭を掻きながら、頭をぺこぺこする水無月。まぁ実際トレーナーというものは、顔丸出しで歩いても滅多に声を掛けられる事は無い。

 

 それは分かっているアドマイヤベガだが、その様子を見ていると何となく胸がざわつく。いつも通り顔に出さないので、二人とも気付くことはない。

 

「そうそう、今日は恋人割の日なんです。どうしますか、割引しますかぁ?」

 

 とまあ、自然な調子で店員が尋ねる。

 

「……恋人割、ねぇ」

 

 そこまで周りに人はおらず、この会話はほとんどの人間には聞かれていない。まあそういう意味では安心なのだが、いろんな意味でいい事ではない。

 

「いやでもあれですよ、俺とアヤベさんは恋人じゃあないんですからね?」

 

 それにメディアの目ってのも――という言葉は飲み込んでおく。あまり口にしたくはないし、はっきり口にするのはどこか癪だった。

 

「こ、恋人……。え、でも、私はその、」

 

「大丈夫ですよ。恋人割は男女二人で来てくださった場合、年齢問わずに利用できます。

ですからぁ、トレーナーさんとアドマイヤベガさんのお二人でも、もちろん割引できますよ」

 

 少し悩むそぶりを見せてから、水無月がアドマイヤベガに声をかける。

 

「……だってさ、アヤベさん。まあ恋人割とやらを使うかは、アヤベさんの判断に任せるよ」

 

「あ、えっと、……私?」

 

「うん。せっかく安くなるなら……と思ったけど、買うのはアヤベさんだからね」

 

 そういわれた彼女の脳内で、いろんな考えが渦巻く。

 

 せっかく安くなるなら、いやいやでもそれを利用するって事はつまり、でもこれは財布にも優しいんだしそもそもそんな関係じゃなくて――

 

 さらに悩むこと数十秒。

 

「……」

 

「……アヤベさん?」

 

 その場で固まるアドマイヤベガを見てさすがに心配になったのか、声をかける水無月。

 

「いやぁ……水無月さん?」

 

「はい?」

 

 今までにこにこしていた店員が、さも呆れたかのような視線を向ける。

 

「えっと、俺がどうかしましたかねぇ……」

 

「ぜ~ったい、水無月さんのせいですよぉ」

 

「そう、……ですか?」

 

 まるで心当たりがない水無月は、ただ首をひねるばかりである。

 

「……すいません、あの、恋人割してください」

 

 そんな会話をしているうちに、顔を下に向けながらアドマイヤベガ注文する。

 

「はぁい、注文ありがとうございますぅ。『ふわふわパンケーキ』、恋人割ですねぇ」

 

 アドマイヤベガの注文を聞いて、先程とは打って変わっての笑顔で答える店員。

 

(何の違いなんだよ……)

 

 理解できずに心の中で愚痴る。

 

 そんな水無月を眺めながら、店員はアドマイヤベガに小さな声をかける。

 

「(私がこういう事を言うのは、本当はおかしいんですがぁ……よく頑張ったね)」

 

「……――!」

 

 そう言われたアドマイヤベガの顔は真っ赤だったのだが――それを知る術もその声を聴く術も、水無月には無かった。

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