恋するカレンチャン   作:高崎ヒビキ

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第8話 デートTIME Part2

「甘いものっ、甘いものっ~♪」

 

「……ノリノリですね」

 

 いつもとは違う里宮の調子に、戸惑い気に声をかける水無月。

 

「それは……疲れたら甘いものですよ!」

 

「まあ疲れていない訳じゃないですけど」

 

 珍しく二人して徹夜で仕事を片付けた次の日。水無月は里宮のトレーナー室で一緒に仕事をやっていたのだが、性分が性分なのでソファを使っていなかった。じゃあ何を使っていたのかというと、よりにもよってパイプ椅子だ。

 

(疲れていない訳ないですよ……。それで疲れてなかったら、水無月さんはすっごい変な人に……)

 

 まあ別に、パイプ椅子でも疲れない人はいるだろうが。

 

 それはさておき。

 

「でも甘いもの、って事ならコンビニでもよかったのでは?」

 

 そう。二人が来ているのはトレセンからほど近い――車で10分ほどだ――にある、昔ながらのデパートだ。対して水無月の言うコンビニは、歩いて数分の場所にある。

 

 確かにそんなに変わらないかもしれないが、しかしガソリン代など削れる要素があるのもまた事実。

 

「まあまあ、コンビニよりデパートの方が色々あるじゃないですか。選択肢は多い方がいいですよ」

 

「多すぎると、かえって悩んじゃうもんだと思うんですけどね……」

 

 優柔不断な水無月らしい考え方である。

 

「ほら水無月さん、フードコートですよっ。甘いもの探しますよ!」

 

「へーい」

 

 適当に返事をしながら、里宮の後を追う水無月。

 

 二人でいくつか店を見て回り、里宮が最終的に選んだのは――

 

「クレープ、ですか」

 

「はい。だって、クレープってなんかお祭りの時だけしか食べる機会がないじゃないですか。だから、久しぶりに食べたくなったんです」

 

「……祭りの時だけって、それは里宮さんの気のせいだと思いますけどねぇ」

 

 確かに、クレープを売っている露店や売店が、何も祭りの時にしかないという事はない。何かのスポーツの試合の時や、特に何もなくても移動販売車が来ている事だってある。

 

「だ、『だけ』は言いすぎましたよ……。でも普段から食べる機会がないのは、本当の事じゃないですか」

 

「まあそうですねえ。何にもないのに買うって事は、俺もあんまりなかったですし」

 

「だからこそ、クレープなんですよ」

 

 軽い足取りの里宮は、店の上に書かれているメニューを物色し始める。対して水無月は、特に考えずに買うものを決めていた。

 

(カスタードチョコバナナでいいか)

 

 普通のチョコバナナクレープに、生クリームだけでなくカスタードクリームも入っているものである。水無月はクレープを買うときは、大体これに類似したものばかり選んでいる。

 

 というか――

 

(……はて、俺は一緒に買う必要性はあったのだろうか?)

 

 ついては来た――というか引っ張られてここまで来たが、水無月には里宮と一緒に何かを買って食べる、という約束をしていたわけではない。

 

(あれか……考えたら負け、ってやつ)

 

「水無月さん、私決めましたよ。さっそく注文しましょう!」

 

(俺が決めたのかは、確認しないのね……)

 

 それは里宮が水無月の事を分かっているのか、はたまた視線をよく見ていたのか。いずれにせよ、水無月に理由は分からない。

 

「は~い、ご注文はお決まりでしょうか?」

 

「えっと、『大人のビターチョコいちご』を一つと……ほら、水無月さんも!」

 

「『カスタードチョコバナナ』一つでお願いします」

 

 注文をメモに書きとりながら、クレープ屋の女性店員が声をかける。

 

「『大人のビターチョコいちご』と『カスタードチョコバナナ』、ですね。お客様は、恋人割はご利用されますか?」

 

 どこかで聞き覚えがあるぞ、と思いながら、念のため確認をする水無月。

 

「えっと……それは、恋人同士じゃないとダメとか、そういうやつなんですかね?」

 

「いえ、男女ペアのご来店でもご利用できますよ」

 

 間髪入れずに答える店員。店員が指を差した先にある張り紙には、『恋人割ご利用のお客様は 全品半額になりますっ!』と書かれている。

 

 何を二人に期待しているというのか、水無月が聞いたその瞬間から、目がやたらキラキラしている。

 

(……もうやだよこれ)

 

 心中で愚痴りながら、隣の様子を窺う。

 

「え、あ、そ、そのっ、」

 

「何でしょうか?」

 

 声が上ずり口が回っていない里宮に、優しく声をかける店員。

 

「ほ、本当にいいんですか? 恋人じゃなくても……」

 

「ええ、大丈夫ですよ」

 

 その言葉を聞くや否や――

 

「こ、恋人割お願いします!」

 

 辺りに響くような大きな声で、里宮が恋人割を利用すると言ってしまった。当然ながら、周りの客の視線は二人に集まる。

 

 水無月は我関せず、といった様子で普段と変わりはない。だが肝心の里宮は、顔が真っ赤になっていた。

 

「……おーい、里宮さん? 大丈夫ですか?」

 

「――……っ、はい! わ、私は大丈夫ですから、水無月さんは席で待っていて下さい!」

 

 面倒くさい事になりたくない水無月は、それに従い大人しく適当な席に座る。だがその席というのが、クレープ屋から少し離れたところにあった。

 

 クレープが出来上がるのを待つ里宮には、水無月が何か言っているのが口の動きから分かる。しかしその声は、喧騒に紛れてしまい、里宮には届かない。読唇術を心得ているわけでもないので、本当に何を言っているのかは分からない。

 

 だがそれは――当然のことながら、水無月もまた同じであるという事である。

 

「……ま」

 

「こ、恋人割……え、えへへ……」

 

 その言葉にどこか酔っていた里宮。

 

 そのせいで、店員の声に気が付かない。

 

「――大丈夫でしょうか、お客様?」

 

「ひゃいっ?!」

 

「ご注文の『大人のビターチョコいちご』と、『カスタードチョコバナナ』でございます。どうぞお受け取りください」

 

 営業スマイルで、クレープを2つ差し出される。

 

「ありがとうございます」

 

 受け取って、そのまま彼の方へ――

 

「――お客様」

 

「……何ですか、もう受けとったと思いますよ」

 

 向かおうとした時、店員に声をかけられる。

 

 笑顔は笑顔だったが、それは営業スマイルとは違った。どちらかと言えば、まるで何かが上手くいっていない子供を応援するような、そんな笑顔で。

 

「お似合いだと思います、お二人は」

 

「……へ?」

 

「同じ女性として、応援しますよ。頑張ってください!」

 

 そう言われた時、最初は里宮の頭の中でその言葉がぐるぐると回るばかりで、意味が理解できていなかった。

 

 だが少しすると、店員のその言葉に含有されていた意味に気が付く。

 

「あっ……ありがとう、ございます?!」

 

 足早にクレープ屋から離れる里宮。席に向かうと、怪訝そうな視線を水無月に向けられた。

 

「……えっと、何があったんですか? それに顔が真っ赤d」

 

「何でもありません! 早く食べますよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れさま、結城君」

 

「いやいや、こっちこそお疲れさん、葵ちゃん」

 

 珍しく地方に二日間出張する事になった、桐生院と水無月。

 

 仕事も終わり、出張先の近くにある有名なジェラート屋の近くに来ていた。ジェラート屋の前には、数十人が列を作っている。

 

「どうしよっか?」

 

「せっかくなんだし、面倒だけどちょっと待とうぜ」

 

「そうだね。私達がまたここに来るか、今はまだ分からないからね」

 

 そんなこんなで、列に並んだ二人。

 

「ここのジェラート、お土産にできればいいんだがなぁ」

 

「私の車、さすがにクーラーボックスまでは入れてないからね。トレセン学園まで高速道路を通っても6時間かかっちゃうから、保冷剤使っても難しそうだし……」

 

 桐生院が持つ車は、5人乗りのハッチバックである。出張先の近くには空港があるので飛行機でもよかったのだが、いくらトレセン学園持ちとはいえ費用が高くなる事、そして桐生院が飛行機が苦手なことから車になった。

 

「里宮さんも鏑矢君も、私達に『絶対にお土産買ってきて』、なんて言ってなかったから大丈夫だって」

 

「……それもそうか」

 

 他愛もない雑談をしているうちに、二人が列の先頭まで来た。

 

「いらっしゃいませ! ご注文の方、お決まりですか?」

 

 二人の想像とは違い、店員は若い男だった。爽やかな笑顔が眩しい。

 

「じゃあ……俺は『ストロベリー』と『濃厚ミルク』で」

 

「私は「ミルクコーヒー」と『濃厚ミルク』でお願いします」

 

 二人がそう言うと、店員はレジの横にある張り紙を差しながら。

 

「お客様は、男女お二人でのご来店ですね? でしたら、カップルわ――」

 

 店員が言い終わるより早く、桐生院が遮る。

 

「結構です。普通の代金で大丈夫ですので」

 

 途中で遮られた事に驚いたような顔をしながらも、なお食い下がる店員。

 

「で、ですが、カップル割をご利用になれば、3割引きになりますよ? それでも利用しないんですか?」

 

 それは親切心からだろうか、店の方針だからなのだろうか、安くなる方を進めてくる。だが結果は、変わらない。

 

「ええ、分かっていますよ。でも、普通でいいんです」

 

 これ以上桐生院に聞いても無駄と悟ったか、後ろで話を聞いていた水無月に声をかける。

 

「え……あ、そこの男性の方! 本当にいいんですか?!」

 

 だが次の言葉は、彼の予想外の物だった。

 

「いいですよ。彼女の言うとおり、俺たちは普通に支払いますから」

 

「……どうして、でしょうか?」

 

 すると、口を開いたのは桐生院だった。

 

「『どうして』……ですか。後ろに並んじゃってるんで、簡単に言いますよ。……色々あったんですよ、少し……いえ、だいぶ前に」

 

「……色々ですか」

 

 どこか諦めたような、寂しげな笑顔で桐生院が続ける。

 

「ええ、色々です。ですので気遣いはありがたいんですが、……カップル割は利用しません。普通に支払います」

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