恋するカレンチャン   作:高崎ヒビキ

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いつかどこかで見た、自分がやられたくない事。

やられたくないから、今まで誰にも同じ事はしなかった。

でも今は、これしか手段が分からない。

どうか許してほしい、私は悪くないのだから。


第11話 世界は恋に落ちている Part1

 気付いたんだ、私の本当の気持ちに。

 

 

 きっと私は、気付くのが怖かったんだ。

 

 

 今の距離感が、関係が、変わってしまって、もう二度と戻らないような気がして。

 

 

 でもそうやって変わるのは、口に出してから。

 

 

 気付いただけじゃ、全部は変わらないんだ。

 

 

 でも、気付く勇気はあっても、動く勇気はまだ無くて。

 

 

 結局、いつも通りの日々が過ぎてしまうんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宝塚記念が再来週の日曜日に迫る、6月12日火曜日。

 

 授業も終わり、教室でたむろする生徒の声くらいしか響くものはない。カレンチャンはトレセン学園の廊下を歩きながら、水無月を探していた。

 

 その手には、某山梨のテーマパークのペアチケットが握られていた。

 

 それは、わざわざ誰かのために買ったものではなく、昨日たまたま手に入ったものだ。

 

 

 

 

 

「福引券? こんな時期にですか?」

 

 商店街の喫茶店で、会計の時に手渡されたのは福引券だった。季節外れにも思えるし、これといったイベントもない。理由が分からず、カレンチャンは首を傾げる。

 

「お客様感謝祭なの。ほら、いつもと雰囲気が違うでしょ?」

 

 女性の店員が笑いながら、目線を店内に向ける。確かに、いつもとは違う盛り上がり方をしていた。言われてみれば、商店街のあちこちに、『感謝祭開催中!』とか書かれたのぼりもあった気がする。

 

「それに、宝塚記念も近いでしょ? レースの開催に合わせて感謝祭を開く、っていう初めての試みなのよ」

 

「へぇ……初めてって、なんか意外だなぁ」

 

 言い方は悪いが、単純な結び付け方だ。既に一度くらいやっていそうなものだが、そうではなかったらしい。

 

「今日のカレンチャンの場合、福引券は二枚なんだけど……普段ウマスタで紹介してくれているし、特別にっ」

 

 と言って、福引券を三枚手渡してきた。

 

「え、そんな、申し訳ないですよ。二枚で――」

 

「サービスサービス、って事。大丈夫よ、貴女が多く貰う事を気にする人なんていないわ。それくらい、貴女に助けられているんだから」

 

 そう言いながら、無理やり三枚目の福引券をカレンチャンに手渡してくる。

 

「じゃ、じゃあ……」

 

 やっぱり申し訳なさは拭えないが、好意に甘えて三枚の福引券を受け取った。

 

 その後、店員に言われて商店街の真ん中――広場になっている場所に向かう。そこにはいくつかのブースと、福引の会場があった。

 

「えっと、特賞が温泉旅行券で……一等が遊園地のペアチケット? 一等も随分豪華な気が……」

 

 と思ったら、二等はにんじん料理の詰め合わせだった。言い方はあれだが、差が極端だなぁと思わずにはいられないカレンチャン。

 

(それなら、一等か二等はゲーム機でもいいんじゃないかな?)

 

 改めて、福引の列に並ぶ。列には制服姿のウマ娘を含め、10人ほどが並んでいた。祈るようにガラポンを回しているが、ティッシュやお菓子といった所謂外れを受け取っている人が多い。

 

 まあ、そう簡単にいいものが当たってしまっては、福引のお楽しみ感が無くなってしまうのはあるのだが。

 

 5分ほどが過ぎただろうか、カレンチャンの前の人がガラポンを回し終えた。残念ながら、ティッシュっとお菓子しか貰えなかったようだ。

 

「さあ、次の方……ってカレンチャンさんじゃないか。……だからと言って、当たりやすくするなんて事は出来ないんだけどね」

 

 商店街でよく見るおっちゃんが、にこにこしながら声をかけてくる。

 

「大丈夫ですよ、そんな事してもらわなくても……」

 

 ついつい、そういう言葉が出る。実際、自分だけ変に特別扱いされすぎても、どこか申し訳なさとかが湧いてくるものだ。

 

「よし、じゃあ特賞目指して頑張ってくれ。特賞が当たったとして、誰と行くのかは……いてっ」

 

「よしなさい」

 

 何かを口走ろうとしたおっちゃんの頭を、誰かが丸めた紙束ではたく。誰かと思えば、顔なじみの商店街のおばさんだった。紙束を持っている姿は初めて見るのだが、その扱いの様子から何となく察する事ができた。

 

「旦那が変な事言って悪いね。いけないわよねぇ、歳取ると私も気になっちゃうんだけど、この人は口に出しちゃうんだから……」

 

「気にしてないですよ、私も気になっちゃうんで」

 

 年頃でもそうでなくとも、誰でも気になる話という事である。

 

 気を取り直して、ガラポンのハンドルに手をかけて回す。まず1つ目は――

 

「あ~。残念だけど白だから、ティッシュ1つだね」

 

 そして2つ目は――

 

「これは青色だから、お菓子1個なのよ」

 

 あっという間に、3枚あったはずの福引券は残り1枚になってしまった。

 

 結果が変わるとは限らないが、一度ハンドルから手を離して深呼吸する。そしてもう一度ハンドルを握り、今度はゆっくり回してみる。

 

 ガラポンの中で、球が掻き混ざる音がガラガラと響く。

 

 

 カランっ――

 

 

 球が一つ、転がり落ちる。球の色を理解するより早く、球の色を見たおっちゃんとおばさんが小さく息を吸い、そして――

 

「お、おめでとう〜! 一等の遊園地のペアチケットだよー!」

 

 球の色は、一等の銀色だった。

 

 ガランガランと手持ちのベルの音が辺りに響き、後ろに待つ人やそれ以外の近くで見ていた人も、羨ましそうな顔をしながらも軽く拍手をカレンチャンに送る。

 

「え、っと……。本当に一等が当たったんですよね……?」

 

 どうにも実感が湧かず、前にいる二人に確かめる。

 

「本当だよ、カレンチャンさん。一等当選おめでとう!」

 

「嘘じゃないわよ、確かに一等だわ!」

 

 二人の興奮気味な様子に、ようやく一等が当たったのだと頭が受け入れる事ができた。

 

「や、やった……!」

 

 運が良かったんだよ、といった簡単な言葉も浮かばないくらいに嬉しくなる。

 

「で、カレンチャンさん……嬉しいのは分かるけど、次の人に順番を譲ってくれないかな?」

 

「あっ、すいません……」

 

 おっちゃんに言われて、ガラポンの前から離れる。

 

「じゃあこれ、一等のペアチケットよ」

 

 おばさんが『一等』と書かれた白い封筒を、カレンチャンに手渡す。

 

 紙切れ二枚――重くないものなのに、やたら重く感じるのは何故だろうか。

 

「ほらカレンチャンさん、旦那が変な事もう一度聞き始める前に、離れた方が良いわよ」

 

「あ、ありがとうございます……!」

 

 軽い足取りで、福引の会場から離れる。

 

 

 

 

 

 

 ――という訳で、水無月を探しているのである。

 

 だが、カレンチャンとしてはそれなりに歩き回っているつもりなのだが、どういう訳か水無月の姿が見つからない。すでに里宮にも聞いているのだが、帰ってきたのは『知らない』という答えだった。

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