恋するカレンチャン   作:高崎ヒビキ

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何となく、鉛筆だけで絵を描いた。

褒めてもらえたから、その時は満足していた。

でも今見ると、どうしても物足りなく思ってしまう

どうしてあの時私は、モノクロを選んだのだろう。


第13話 君は天然色 Part1

 完璧すぎる者に対して、最初のうちは嫌う者がいる。どこか欠点を探したりと、どうにかその人物の完璧さなるものを崩そうとするものだ。

 

 しかしそれも、時間が経つうちに嫌悪から崇拝や畏敬の念に変わっていく。それはきっと、そんな人間を滅多に見ることがないが故に、不思議と芽生える感情なのだろう。

 

 そしてその感情は、この小学校ではある一人の少女に向けられていた。

 

「はい桐生院さん、今回も100点よ」

 

 教卓の前、妙齢の女性教師から全て丸がついたテストを受け取るのは。

 

「ありがとうございます」

 

 長い濡羽色の髪を腰までストレートに流す、『桐生院』――そう、昔から名トレーナーを輩出してきた桐生院家。その桐生院家の娘の桐生院葵だ。

 

 事前に100点を取っているのは二人しかいない、と言われていた理科のテスト。先生の『今回も』という台詞の通り、普段からテストで100点を当たり前のように取っている。

 

 桐生院が自分の席に戻ると、あっという間に同級生に取り囲まれる。

 

「葵ちゃん、また100点なの?!」「うわっ、すげぇ……丸しかない」「え〜?! ここって答えこうなるの?」「後で解き方教えてよ~」

 

「授業が終わったら教えてあげるから、今は座ろうね?」

 

 落ち着いた調子で、取り囲む級友達を促す。その声に含まれる不思議な説得力に、彼らは一旦席に着いた。まあ、まだ返却が終わっていない、というのもあるのだが。

 

「せんせ〜、100点取ったのあと誰ですか?」

 

 クラスメイトの男子が教師に声をかける。

 

「返していくうちに分かると思うから、もう少し待っててね」

 

「はーい」

 

「じゃあ次、久坂さん――」

 

 テストは次々に返却されるが、100点を取った者は中々出てこない。

 

 桐生院から更に15人ほど返却された。

 

「……もう一人の100点って、アイツじゃね?」「確かにそうかも」「え、でも最近は取ってなかったじゃん」

 

 順番が来て立ち上がった男子を見て、何人かがコソコソと小さな声で話す。短めの茶髪が揺れる背中は、そこまで堂々としているものではない。そこらにいる男子と、髪色以外は大して変わらないようだ。

 

「次は……水無月くん」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「久しぶりの100点ね。今回はちゃんと復習したの?」

 

 ここ最近1問だけミスをする、といった事が続き、理科に限らず中々100点に届かなかった水無月。そんな感じだったからこその、教師の質問だった。

 

「……いつも復習していたつもりなんだけど、ケアレスミスが最近は多くて……」

 

 その記憶が苦いものなのか、少ししょぼくれた顔で答える水無月。

 

「水無月くんって、確かにそういうのが多いわねぇ。でも今回は1つも無かったから、次のテストもこの調子で頑張ってね」

 

「そのつもり……です」

 

 笑顔だがそれだけではない顔で、水無月が自分の席に戻る。すると、桐生院の時と同じく、同級生に机を取り囲まれた。

 

「いいな〜、100点」「最近は100点じゃなかったのに、どうしたんだよ」「結城くん、後で教えてね」「俺も100点取ってみたいなぁ……」

 

「……ほら、先生も困ってるから、みんな一旦席に戻ろっか?」

 

 少し控えめなその声に、全員が反応した訳ではない。だが数人が動き始めれば、それに釣られて全員が席に戻る。

 

 水無月も桐生院ほどではないにしろ、テストで100点を取る常連の一人ではある。だがどういう訳か――いやそうでもないのかもしれない――桐生院のように、特別な人扱いされることはない。桐生院ほど完璧ではない、というのもあるのだろうが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人によっては年齢に関わらず、考えていることや感情が顔に現れるものだ。特にその傾向は、子供に顕著ではないだろうか。

 

 そんな顕著な傾向を見せているのが、ここにもまた1人。

 

(な~んか企んでいる顔してるわね)

 

 水無月の朝食を食べながら何か考えている顔に、彩結が勘づいた。

 

 すでに水無月の父は出勤しており、いつも通りの二人の朝食。何か変化があれば、真っ先に気が付くのが彩結だ。

 

 企んでいる、と言っても、悪い事を企んでいるようではない。どちらかというと――

 

(まあ……可愛いものよねぇ)

 

 なんというか、大人の彩結からすれば、小学生の真剣そうな企みも可愛く見えてしまうものである。

 

「ごちそうさまでした」

 

「あらっ……、今日は食べるのが早いわね。何かあるの?」

 

 勘づいていながら聞いてしまうのが大人の悪い癖かもしれない――そうは思いつつも、彩結が水無月に声をかける。

 

「えっ……と、何もないよ。いつも通りの日だって」

 

「あらそう?」

 

「……本当に何もないからね!」

 

 少し声を荒らげながら、水無月が食器を下げる。

 

(からかいすぎちゃったかしら?)

 

 少し反省しながら、部屋に戻る背中を目で追う。彩結が抱いた一抹の不安とは裏腹に、その背中は確かにいつも通りだった。

 

「何も無ければ……いいんだけど」

 

 人生で起きる出来事とは、常に上手くいくものではない。それは、彩結にとっては当たり前のことだ。

 

 だが何となく上手く生きてきた水無月には、まだその経験が無い。思い描いていたような結末が、迎えられないという経験を。

 

(まあ、そういう風になるっていう経験は、……どうなるのかしら)

 

 良いのか悪いのか――すっと答えが出るものでは無い。

 

「でもあれね、親の私が心配しすぎることじゃないわ。私が心配する以上に、あの子が頑張らなきゃいけないんだから」

 

 自らも食器を下げ、水無月の分も含めて洗う。

 

「せっかくだし、ケーキでも買っておいてあげようかしら?」

 

 自分の若かりし頃の甘酸っぱい想い出が蘇り、ついつい笑みがこぼれてしまう。いつまでも子供じゃないのよね――そう思うと、どこか寂しさもあった。

 

 だが親としてはやはり、子供を卒業して欲しいとも思うものだ。

 

「さて、私も頑張るとしますか」

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