恋するカレンチャン   作:高崎ヒビキ

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気付いて、口にして、そうすれば変わってしまう。

だから怖くて、どことも分からない場所に隠そうとした。

でも同じ場所に、同じものを隠している人がいた。

そしたら私は、これをどこに隠しておけばいいのだろう。


第14話 エブリデイワールド Part1

 力なく腕が垂れ、諦めてしまおうかとも思った。その方が、きっと簡単でこれ以上苦しくはならないだろう。

 

 でも、葵ちゃんに言われた言葉が頭をよぎる。

 

 

『とにかく、ちゃんと二人の話を聞いてあげてね? きっと最初はなかなか教えてくれなくても、根気強く接してあげれば大丈夫だから』

 

 

 それにここで諦めれば、誰の苦しみも辛さも消えはしない。

 

 もう一度、『通話』を押す。

 

 10コールほど待って繋がった。

 

「……もしもし。電話に出る気分じゃないかもしれないけど、ちゃんと何があったのか聞いておきたいんだ」

 

『……』

 

「アヤベさん……今、部屋にいるのか?」

 

『……いないわよ。いつもと違って寝付けなくて、早く目が覚めたから今は一階のホールにいるわ』

 

 なら……話しにくい事も話せなくはないだろう。

 

「……教えてくれないか。どうして、カレンと喧嘩しちゃったのか」

 

 別にそこまで仲は悪くなかったし、傍から見れば……いやどうなんだろう。俺には仲が良さそうに見えたけど。

 

 たかが遊園地のチケットが関わる程度の話で、どうして喧嘩なんてしてしまったのだろうか。確かめなければ、これ以上話は進展しなくなってしまう。

 

『私が……悪いのよ、何もかも全部』

 

「……」

 

『カレンさんが貴方と遊園地に行きたいって話を聞いて、……私は』

 

 アヤベさんの声が詰まる。

 

 二度、三度と息を整えるような気配がした。

 

「……」

 

『……カレンさんが貴方を誘いたいのを知っていながら、貴方を誘っていた』

 

「そうか……」

 

 つまり俺は、カレンが誘いたいのを知らずに、アヤベさんにオーケーと答えていたって事か……。

 

「でも、どうしてそんな事をしたんだ?」

 

 いくらアヤベさんと仲が良いカレンでも、そんな事をされたら怒るだろう。

 

『……』

 

「……」

 

『…………』

 

「…………」

 

 流石に言いづらいのだろう。お互い無言のままで、しばらく――それは気分的なものなのだろうが――時間が過ぎる。

 

「……無理ならいいんだ。言うことで今より辛い思いをするなら、もう少し後にしてもいい」

 

『……それだと、何の解決にもならないじゃない』

 

「何かを解決するのに、必ずしも短い時間で終わらせなきゃいけないなんて、……そんな決まりはないさ。お互いの心の整理がつくまで、俺は待ってあげるから」

 

 時間は全てを解決してくれる薬ではない。だけど、思っているよりは効く薬でもある。だから時間に頼ることは、悪いことでも恥ずかしいことでもない。時間によって齎された、その結果が選択を評価してくれるから。

 

『そうかもしれないけど……』

 

「という訳だからな。話しにくいなら今は一旦切って、先にカレンに話を――」

 

『待って!』

 

 強い声で止められた。思わずスピーカーの部分を耳から離した。

 

「どうしたどうした急に……」

 

『……その、カレンさんに話を聞くのは少し待って。……話すわよ』

 

 どこか、俺がカレンと話すことが嫌なように聞こえたのは、気のせいだったのだろうか。

 

 分からないまま、アヤベさんが言葉を続ける。

 

『その、……貴方がカレンさんに盗られる気がして』

 

「えっと……『取られる』って、どういう事だ? 俺は別に、誰のものでもないけど。強いて言えばアヤベさんのトレーナー、ってくらいで」

 

『そうじゃなくて、……そうじゃないの』

 

「……そう言われるとなぁ」

 

 曖昧過ぎる言い方をされてしまっても、うまい言葉を返す事が出来ない。

 

「何て言うかさ……、もっと具体的に言うことは出来ないのか?」

 

『……貴方がカレンさんについて行くようになったら、じゃない……。私は、……自分がよく分からない。何をしたいのかも、何を思っているのかも……』

 

「……」

 

『私は、……私は、』

 

「?」

 

『どうすればいいの? 何をすればいいの? カレンさんに、何を返せばいいの?』

 

 その声は、嘘偽りのない心からの声だった。自分がどうしたいのかが分からない、それを何とか口にしているような……そんな感じだった。

 

「……」

 

『……』

 

「……じゃあ、こうしようか。今日の昼に、食堂に集まって三人で話さないか?」

 

『四人じゃなくて……三人?』

 

「……里宮さんがいた方がいいのか?」

 

 この話にはあんまり関係のない里宮さんは、いない方がいいと思ったんだけど。

 

『……呼んでくれないかしら。私一人だと、……貴方がいてもどうすればいいか分からなくなってしまいそうだから』

 

「分かった、里宮さんは呼んでおくよ」

 

『……ねえ』

 

「どうした?」

 

 しかしその問いかけに対し、続く言葉は無かった。

 

『……何でもない』

 

「そう、か。……じゃあ、今日の昼に食堂に来てもらおっか」

 

『うん……』

 

 弱々しい声が返ってくる。

 

 あえてそれ以上は追及せず、電話を切った。……言葉に出来ないような思いや感情を、俺は理解できるのだろうか。

 

 分かるようになる事を期待して、カレンに電話をかける。

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