豪鬼(仮)   作:Sanae001

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No.0 男はわらう

 「ハ、ハハ、ハハハ、ハハハハハ」

 (わら)うしかない。無力さを理解し、痛感し、思い知って。目の前に転がる家族だったものを見下ろしてただただ呵う。今はそれしかできない。

 

 周りに生き人はいない、あるのは死体とガラクタと瓦礫だけ。虚しく木霊するその声は誰にも届かず霧散する。そして自らでその霧は吹き飛ばす。

 「ッハ!」

 

 ——帰ろう。

 

 来た道を覚束ない足で戻る。道だった道を辿る。野生の帰省本能に従うように、元家族を背にゆっくりとまるで抜け殻の如く進む。

 

 

 (不思議だ、あんなに守りたかった街も家も、友達も家族も壊れて、死んだというのに怒りがない、悲しみがない。見当たらない)

 戦いの中には怒りもあった、悲しみもあった。整理がついたわけでも、切り替えたわけでもない。

 ただ、今の心に整理する感情がないのだ。見失ったのだ。

 

 そんなことを考えながら歩いていると、惨劇というにふさわしい景色が目に入る。行きつけの喫茶店も、たまに寄るコロッケのうまい肉屋も、一切合切。人の営んでいた(ことごと)くが壊れている。人は泣いて叫んで、助けを求める。

 

 目の前の男の子が助けを求めている。抱えている女性の助けを求めている。知らない。

 つぎは女の子が泣いている。怪我をし親とはぐれて泣いている。知らない。

 つぎはおじさんが倒れている。子供を庇い岩を背負って倒れている。知るもんか。

 

 今は帰る。帰りたい。帰らねば。川の上にあるもう一つの家にもう一つの家族のもとに。だから足は止められない。

 「——さん!」

 帰るんだ。やるべきこと、成すべきこと。しなければならなかったこと、したかったこと。全部やった。やりきった。結果はどうあれやりきった。だから進むんだ。

 「——りさん!!」

 脳裏に仲間の顔が浮かぶ。怪我はないだろうか。死んではいないだろうか。弟妹(きょうだい)は無事だろうか。そんなわけがないとわかっていても、願わずにはいられない。

 

 

 「さとりさん!」

 不意に肩を叩かれる。気づけば人々と共に空も泣いていた。

 そんな中振り返り目の前にいるのは可愛い後輩。弟分、(じん) 悠一(ゆういち)。悠一は焦燥しきった顔を向け、そして瞬間的に安堵する。

 「よ、よかった。無事だったんですね……怪我は……してますよね。とりあえず、本部へ戻りましょう…城戸さんたちが街の人に説明してますから……」

 

 いつものように取り繕う声音も震えている。

 「もう……終わったんですから」

 涙ぐむ少年の頭に手を乗せ俺は微笑(わら)う。

 「ああ、帰ろうか」

 

 冷たい雨が彼の表情を誤魔化してくれているのだろうが、震える手はわかる。少し強めに握って進み出す。

 

 「さ、さとりさん!道、逆です」

 「あ、すまん」

 

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