「ハ、ハハ、ハハハ、ハハハハハ」
周りに生き人はいない、あるのは死体とガラクタと瓦礫だけ。虚しく木霊するその声は誰にも届かず霧散する。そして自らでその霧は吹き飛ばす。
「ッハ!」
——帰ろう。
来た道を覚束ない足で戻る。道だった道を辿る。野生の帰省本能に従うように、元家族を背にゆっくりとまるで抜け殻の如く進む。
(不思議だ、あんなに守りたかった街も家も、友達も家族も壊れて、死んだというのに怒りがない、悲しみがない。見当たらない)
戦いの中には怒りもあった、悲しみもあった。整理がついたわけでも、切り替えたわけでもない。
ただ、今の心に整理する感情がないのだ。見失ったのだ。
そんなことを考えながら歩いていると、惨劇というにふさわしい景色が目に入る。行きつけの喫茶店も、たまに寄るコロッケのうまい肉屋も、一切合切。人の営んでいた
目の前の男の子が助けを求めている。抱えている女性の助けを求めている。知らない。
つぎは女の子が泣いている。怪我をし親とはぐれて泣いている。知らない。
つぎはおじさんが倒れている。子供を庇い岩を背負って倒れている。知るもんか。
今は帰る。帰りたい。帰らねば。川の上にあるもう一つの家にもう一つの家族のもとに。だから足は止められない。
「——さん!」
帰るんだ。やるべきこと、成すべきこと。しなければならなかったこと、したかったこと。全部やった。やりきった。結果はどうあれやりきった。だから進むんだ。
「——りさん!!」
脳裏に仲間の顔が浮かぶ。怪我はないだろうか。死んではいないだろうか。
「さとりさん!」
不意に肩を叩かれる。気づけば人々と共に空も泣いていた。
そんな中振り返り目の前にいるのは可愛い後輩。弟分、
「よ、よかった。無事だったんですね……怪我は……してますよね。とりあえず、本部へ戻りましょう…城戸さんたちが街の人に説明してますから……」
いつものように取り繕う声音も震えている。
「もう……終わったんですから」
涙ぐむ少年の頭に手を乗せ俺は
「ああ、帰ろうか」
冷たい雨が彼の表情を誤魔化してくれているのだろうが、震える手はわかる。少し強めに握って進み出す。
「さ、さとりさん!道、逆です」
「あ、すまん」