「そう言えば、今日行くこと玉狛連中には伝えてるのか?」
信号待ちの何気ない会話だ。
「もちろんです。私はあなたとは違って、いきなり行ったりなどしません」
いや、確かに朝急に来て連れ出したのは悪かったが、なんか言い方に棘があるんだよな。
「こっちにだって準備というものがあります」
別に『三十秒で支度しな!』といったどこぞの空賊まがいのことは言っていない。
あ、化粧とかそういう話か。
「あ、化粧とかの準備ね。悪かったな。ま、お前可愛いし化粧なんていらない……グっ!」
運転中に脇を攻撃するのはやめろ。
てか、こいつも大人になったもんだ。俺なんて……っと、そう考えるとなんか虚しくなってきたので押し黙ることにする。
しばらく運転をし、十数分で玉狛支部に到着する。時刻はティータイムを楽しむのにちょうど良い時間、夕方。夕陽が川の水面に輝く。
久しぶりに玉狛まできた気がする……って言うか、なんか凄い賑やかだな。胸騒ぎというか、嫌な予感がする。
「ご苦労さまです。さとり」
お互いほぼ同時と言ったところだろうか。ドアハンドルに手をかけ、外へ出る。
「こっちこそ、今日はありがとな。それじゃ俺はこれで……」
「あなたも行くのでしょう」
「え?」
まじで、今入るの?
「ですから……ってすごく嫌そうな顔ですね」
え、嘘。顔に出てた?
いや、別に嫌というわけではないんだがね。なんだろう。今入るのはまずい気がする。この前捨てたはずの勘が警鐘を鳴らしている。
「とにかく、行きますよ」
「ちょうどいいし、林藤のおっさんにも伝えとくか。どうした?」
……。
俺に、さも先行しろと言わんばかりにその場に留まる。
ま、そんなおかしなことが起こるはずもないだろうしな。
腹を括って入るとするか。えっと……鍵、鍵っと。
鍵を開け中に入る。より賑やかな雰囲気が漂ってくる。それと一緒に甘い匂いも。クッキーでも焼いているのか。この声は陽太郎と桐絵か?後はレイジと林藤のおっさんか。悠一と京介はいないみたいだな。
「入るぞ……って何やってるんだお前ら」
俺が扉を開け中に入り、目に入ったのはクッキーを焼くレイジ。その横で洗い物をする
「あ、瑠花さん。いらっしゃい……ってさとりさん!?」
「よ、栞。久しぶりだな。お姫様を送るついでに来たんだ。クッキーでも焼いてたのか?」
見れば分かると言えばそれまでだが、コミュニケーションは大事。些細なことでも話題にあげる。
「そうなの。レイジさんが手伝ってくれてさ」
「俺は特に何もしてないぞ」
素直じゃないなこのゴリラは。お礼は素直に受け止めろ。俺の後ろからヒョコっと顔を出す姫様。
「陽太郎はいますか?」
この姫様は来て早々に弟かよ。
そう言うと、待ってましたと言わんばかりに、奥から出てくる
「あ!るかねーちゃん!さとり!」
そしてお決まりの姉弟の抱きつき。全くどこまでもブレねぇなこいつら。
「よう、久しぶりだな。さとり」
「あれ、さっちゃんだ!この間はありがとね。また連れてってよ、あのお店」
あの店というのは、吉祥寺の二宮と面接をしたあの店だ。昼飯に行こうとなり、悠一も交えて三人で行った。そう言えばあの時、クッキーを手土産に買って行ったっけ。
「おう。それはいいが、さっきまでやけに賑やかだったと思ったんだが……」
あ、目が泳ぐ。なんだその顔……陽太郎もまずそうな顔をしてるし。
「陽太郎、何してたんだ?俺にも見せてくれよ」
「——きゃああああああ!?」
スゲー!組体操って初めて見た。
ぐるぐる回ってらぁ。桐絵がこれでもかってぐらい陽太郎を振り回してる。ストレス溜まってんのか?
「さとり!すぐに止めなさい!」
はいはい。
「おい、もういいぞ。姫様びっくりしてるから。やめてやれ」
近づいて回ってきた瞬間をキャッチする。陽太郎を胸で受け止め、それに伴いバランスを崩した桐絵も抱き寄せる。
「え、さっちゃん?」
「危ないから、やめとけ。な?」
ほれ。っと言ってお姫様に陽太郎を渡す。いつものお説教だ。ま、こんなことだろうとは思っていたけどな。さてと———
「おっさん。話がある」
「え?なになに」
うるせぇ。お前には話してねぇよ桐絵。
「ちょっと大人な話だ。向こうでクッキー齧ってろ」
ここじゃなんだし場所移すか。
「いいぜ、話ってのを聞いてやるよ」
支部長室に移動して、お姫様に説明したことをそのまま伝えた。
そうか。と一言置いて、考え込む。
数分も経たないうちに考えるのを止め、向き直る。
「行ってきていいぞ。ま、俺がこんなこと言わなくても、お前は行くんだろうけどな」
「まぁな。差し当たって
「そうか、あそこは寒いからな。気をつけろよ……てか、まじで一人で行くのか?誰か一緒にとかじゃなくて?」
「あぁ。人数的には後二人は行けるけど」
「あたしも行く!!」
桐絵……連れて行けるわけねぇだろ。盗み聞きなんてしやがって。
「桐絵。言っとくが俺は一人で行くぞ」
「なんでよ!あたしも行くわ!」
なんでだよはこっちのセリフだ。
「遊びじゃねぇんだぞ」
「そんなのわかってる!」
「人と戦うかも知れないぞ」
「それもわかってる。でも、さっちゃん一人より、私がいれば戦いも捗る!……確かにさっちゃんは強いし」
そうじゃないんだよ。
「それに、なんだってできる!私なんて足手纏いかも知れない」
「いや、そういうことじゃない。下手したら……死ぬんだぞ」
「そんなの前からわかってる!」
だから、違うんだ。桐絵。そういうことを言いたいんじゃない。ここまで言っても伝わらないのか。
「でも、でもさ!あたしも強くなった」
「違うんだって!!」
「——っ!?」
「……いや、すまん。ちょっと焦りすぎた」
そう言って、屋上へ逃げるようにいってしまった。
昨日投稿できなかったのでもう一件投稿いたします。
編集日 2/26
「まぁな。差し当たってコンフィドに行こうと思ってる」
↓
「まぁな。差し当たって