力が入らない。動くことも話すことも。寒い。そうかこれが死ぬと言う事。生きとし生きる全てのものが、平等に持っているもの。
——敵はカギュウだ!……退け!
カギュ、ウ……?なんだそれは…いや、もうどうでもいいか。
——ねぇ、
チチ、サマ……?だからなんだそれは。
眠い……いや、眠るように死ねるか。それはいい事だな……
——イバラ!お前の娘だろ!どうにかしろ!
「京介、飲んでるか?」
「さとりさん。はい、美味しくいただいてます」
何だこいつ。いつにも増して言葉遣いが丁寧だ。これにはマナー講師もニッコリだな。
「なんかあったか?」
様子がいつもと違う。そう、これは自然と口に出た質問だ。
「俺、
何だそんなことか……
玉狛には独自のトリガー技術がある。レイジや桐絵の持つトリガーがいい例だ。個での強さを最大限発揮できるのが玉狛の利点。
それにランク戦から除外されているから、連携はそこまで重要じゃないはずだ。もちろん取れることに越したことはない。
「見ました。四年前の、大規模侵攻前の旧ボーダーでのさとりさんの連携」
そんなのどこから見つけたんだよ。本部のやつは大体消して来たはずだぞ。
「すごいの一言です。的確に指示が出せて、みんなが戦いやすいよう戦況をコントロールして、本当に見事でした」
あれは黒歴史だろ。周りをコントロールできてる気になってただけだろ。
「……京介。お前は器用な人間だ。俺があった中でも上位に入る。下手したら俺よりもだ。なら、そこから導き出される答えは一つ」
「なんですか?」
「努力しろ。使えるもの全てを使い、考えて、考えて、思いついて、実行して、行動して、学習しろ。反省しろ。成長しろ。やれることは全部やれ。そうすれば強くなる」
当たり前のことだけど、それができずに腐る連中ばかりだ。ボーダーもこの考えが徹底されていれば、もっと強くなるのだがな……
「当然のことじゃないっすか?」
「それができてる奴が少ねぇから、言ってるんだなーこれが」
「そんなもんすか」
「当たり前のことをやってれば、結果はそれなりについて来る。それより先、強くなりたいなら、一回死んでみるのもありかもな」
おいおい、冗談だよ。固まるな。
「ま、こんなのは基礎の基礎だ。本当に連携を学びたいなら、俺が帰って来てからにはなるが、俺の下で働け。ボーダー以外のバイト全部辞めてな。教えられることはあるはずだ。もちろん報酬ははずむぞ」
それじゃと伝えて、俺はある人物の元へ向かう。
「よう、悠一。こんなところにいたか」
「さとりさん」
何だ?どいつもこいつもしけた顔してる。
屋上で一人とか、お前意外と暗いとこあるよな。
「悪いな、悠一。お前の警告無視して決めてよ」
「止められなかった……」
しけた顔がよりしけっていく。そのうち萎びそうな勢いだな。
まったく……
「そんなお前にいいこと教えてやる」
こいつはいつも、一人で勝手に抱え込んで、勝手に責任感じて、勝手に落ち込むバカだ。
「
「……でも」
でももヘチマもねぇ!
「未来が視えてるからなんだ!視た人間は責任終えってか!? はっ!誰だそんなバカなこと言ったのは。いいか、お前はガキだ」
「もう十九だけど。おれ」
そう言うとこがガキっぽいって言ってんだ。
「
人一倍責任感が強いこいつに、甘えると言う選択肢があるのかは知らないが、まだガキなんだ。子供は大人が守るものだ。
「おまえ、四年前もそんな顔してたな……結局大勢の人間が死んで、一週間以上部屋に篭ったな」
「……そ、それは」
その時なんて、こいつはまだ中坊だろ。なんでそんなことになったんだか……
「何故お前は死んだ人間ばかり気にする。少しは救った人間のことを考えろ。お前は大勢を救った。それが事実で真実だ」
あの時も俺がもっと上手くやれていれば、よかったのか。
「今回のことだってそうだ。なんでお前は俺が死ぬ未来しか視ない。生きる未来を視てみろよ。その方が面白いだろ」
「……そんな無責任なことできない、視たからには、視たなりに最善になるように」
そうだな、人としてはそう言うのが正しいのだろう。だが、
「お前は、俺の話何も聞いてなかったのか。全無視ですか、そうですか」
若干否定しようとしてるが、させんぞい。
「お前に責任は求めない。ここまで言ってもわかんないならもう言わんぞ。あ、じゃあ明言してやる。宣言してやる。宣誓してやる」
——絶対に帰って来る。
したり顔で言ってやった。少しだけ表情が柔らかくなったか?ま、今はそれだけでいい。
「じゃ、あとは一人で考えな」
そう言って後にする。
全くどいつもこいつも変なことで悩んでやがる。さて、俺も下に降りてお開きにしてやるかね。
どうやら下では片付け始めていたみたいで、それぞれがテキパキと行動している。
「よ、さとり。悪いな忍田が先に帰ってから、自然とお開きになってな」
林藤のおっさんが咥えタバコをしながらこちらへ向かって来る。
「いや、俺もお開きにしようと思ってたとこだったから全然……ってかおっさんは何もしないの?」
「俺は仕事がまだあるんでな」
そういえば幹部組は昨日会議してたな。俺は基本参加しないけど……
「……何もないのか?林藤さん」
「ん?なにがだ?」
いや、言わせんなよ。
「なんてな……まぁ、気をつけて行ってこい。後あれだ、瑠花ちゃんは戦争するなとか言ってたみたいだけど、自己防衛はしろよ」
「は?当たり前だ」
やられたらやり返す?いや、やられそうになったらやる。だ。正しいかどうかは後で確かめればいい。迷うぐらいなら動けってな。
と、おっさんと話してる間に片付け終わってるし、悠一もいつの間にか降りて来てる。一言締めの挨拶でも言ってやるか。
「ま、なんだ。今日は俺のために色々やってくれたみたいで感謝する。とりあえずは三ヶ月は旅をする予定だ。帰って来るのは色々考えた結果、十二月くらいになった。その間こっちの世界は頼んだぞ。ボーダー最強部隊!」
そう言って俺は玉狛支部を後にする。
さぁ。いよいよ明日。俺の人生最大のイベントが始まる。玄界にやり残した事はなし。準備万端。やる気満々。楽しみで眠れない以外は特に心配事もない。あとは帰って寝るだけだ。
不思議と足取りが軽い。不安が無くなったわけではない。あぁそうか、楽しみんだな。ここ数年なんとなくで過ごしてたから……楽しもう。思いっきり楽しもう!
いま わかれーのーときー
ということで出発前夜でした。
次回からネイバーフッドが舞台になります。