なんだろうか。かっか?というのはいったい……
——私は反対です。奴隷を閣下のお側に置くなど。
——は?この奴隷を……承知しました。
眩しい光が目を焼き付ける。誰かに腕を引っ張られる。痛い。腕についていた輪っかが外れ布をかけられる。
「君にはこれから、この国の英雄となってもらうよ。名前は……サルート。今日から君はサルートと名乗りなさい」
「サルート……」
兵士数名に虜囚を渡し、蛇たちをポーチに入れる。
戻る時はビー玉サイズの一つ一つの卵になるため、ポーチに入れてから卵に戻ってもらう。
艇に戻り次第、調整した後にまた一つに戻すとするか。
さて、話を通してくれていたトークンと共に手続きを進める。捕虜についての事情説明はまた後日となった。まずは捕虜から尋問するらしい。怖いことだ。
狭めの部屋に通され、専門の人間によって尋問のような手続きが行われる。
質問一。どこの国から来たか。
「前回いたのは玄界です。旅の寄り道程度に行ってみたら、酷い目に遭いました。はっはっは」
まるで失敗談のように話す。この国が初めてではない、他にも国は周っている。といった意味合いを込めて、この質問は乗り切る。
質問ニ。目的について。
「観光ももちろんですが、旅にて見聞を広めるためです」
当たり障りない返答をした。
質問三。持ち物。特に武器に関して。
この質問には適当な説明で答えた。蛇達をあのガラクタと同じ括りのトリオン兵で片付けるのは癪だが、致し方ない。下手に情報は渡せない。
その後は質問四、質問五と言ったようにどんどん質問攻めされてしまった。
「それでは、最後ですが。入国にあたり、監視官をつけさせていただきます。入れ」
そう言って入ってくるのは、二十代前半くらいの歳の少年だ。
「ハイドと申します!よろしくお願いいたします」
「さとりと言います。よろしく」
俺も立ち上がって、挨拶をする。
この国では中立国として、入国する人間に監視をつけ、不審行動を取らせない目的があるらしい。まぁ。ガイドには丁度良いか。
「では、二日後。本部にて、改めて説明をお願いします。それでは」
さて、入国は許された。玄界標準の時間で夕方近くになってしまった。腹はそこまで空いていない。
しばらく歩くか。
「ハイド君。私は旅人だから艇での寝泊まりを基本とするが、君はどうする」
「はい。その場合は野宿ですね」
対処の仕方が決まっているのならこちらが手を出す必要もないか。
この国は入国する者が少ないことから、宿屋などがあまり多くない。野宿しかないのだろうな。
俺も昨日今日あったような人間を、艇に招くほど警戒心の低い人間ではない。なんにせよ、彼には野宿をしてもらうしかないな。
ところで、何故入国者なのに自身の艇で寝泊まりできるのか。武器を隠し持っているかもしれない。密入国・密輸・密猟の可能性は考えないのか。という疑問が浮かぶが、答えは『可能性は、限りなくゼロに近い』だ。
そのようなことが発覚した場合、身分関係なく殺されるまた、戦争になるからだ。旅人一人で相手ができるほど近界の国は甘くない。それこそ国というパトロンがいない限り不可能だ。
信用されていると言えなくもないが、要は『お前程度相手にもならない』ということだな。
「ん?あの像は?」
しばらく歩くと見えてくる開けた場所。街の広場のようなところか。その中心に眠った赤子を抱えた女性の像が立っていた。聖母マリアの像とでも言ったところか。
「あぁ。あれは現・国主ミナカ様と、その御子息ニル様の像です」
国主。つまりはマザートリガーの核となった人物か。
「国主様はわかるが、何故その御子息まで?差し支えなければ教えてほしい」
その言葉は地雷気味だったのか?一瞬険しい顔になった。
「私の生まれる少し前、およそ二十年前。当時六歳だったと言われるニル様は急病を患い。お隠れになりました」
死んだのか。だから像なのか。祀る意味合いもあるのか?二十年前で六歳。俺と同じくらいの年齢だな、痛ましいことだ。トリオンの技術が発達しても、化学が、医療が発達していないこの世界ならではだな。
「……って、言われる?」
「この国は七歳までは出生の手続きができないのです」
何その謎ルール。聞きたいが、先程の顔付き見て聞くのは気が引ける。
「国柄ですね。七歳までは子供は死んでもおかしくないですから……もちろん公的手続きってだけであって、隠す人はいません。王族などの止ん事無き方々はその公表を遅らせるきらいがあります」
しっかり説明してくれた……それも随分としっかりと。
「なるほど」
「——そういえばミナカ様とニル様は、サトリ殿と同じく、目の色は銀色でしたね。これもお導きなのですかね」
「どうだろうか」
こちらを見ながらそう言った。俺よりも身長は低いため上目遣いといった感じだ。無論俺にそんな趣味はない……ていうか殿って。
ま、規律なのだろうか、訂正する必要もないし、慣れるまでの辛抱だな。
目の色は俺の場合、銀というよりは黒に近い灰色だ。燻んでいる色だ。そんなのを同じなどと言って不敬罪にならないのか……
「ところで、入国の目的の一つ。この国の巫女様の弟君・ディア様に面会を求めようと思っているのだどこへ行けばいいのだろうか」
「え、は?……ッな!」
聞こえなかったか?変な回答が返ってきた。
ではもう一度。
「この国の「いや!聞こえてます!聞こえた上で驚いたんです!」」
なんだそうだったのか。思えば王子に会う方法など一兵士に聞くものでもないか。
「我々にとっては雲の上の存在。お会いするなど……いや、しかし」
何やら考え込んでいるのか?ブツブツと。
「二日後の事情説明の際に上官へ報告いたします」
「そうしてくれると助かる。あ、その際『ワガセクチナワニニル』と伝えてくれ。面会時の合言葉のようなものらしい」
はぁ。という曖昧な返事。ま、俺もこの言葉の意味は知らないし、そんな返事でも別段気にならない。
その後適当に時間を潰し、日が暮れた後自分の艇へと戻った。
悟る
さて、飯は済ませた。缶詰もバカにならない。こっちで食べる料理より美味いのだ。
記憶の中で最も強烈なのが固すぎるパンだな。いや、あれはパンというか石に近い。トリオン体でもやっとの硬さ。あれを玄界の建築に使えば、もっと被害は減るのだろうか。食べられる家……悪くない。実際は食べたくないが。
ポーチから戦闘で使った卵を出し、調整機に設置する。
モニターの情報が下から上へとスクロールされる。
(やはり目立った外傷はない。少しの擦り傷くらい。これも既に再生済みっと)
連中、通常であればガラクタを出し艇に籠るのが一般的な偵察。ところが、外に出て剰え固まるという行動に出た。あまりにも稚拙。お粗末としか言いようがない。まるで残党狩りのような感覚すら覚える。
弱すぎるのも理解に苦しむ。艇から出て指揮を取るのなら最低でもA級クラスが必要だ。しかし来たのは雑兵。素人だ。しばらく周辺国の様子も見ておくか……
ん?この卵だけ様子がおかしいな。
数ある卵の中で一際大きい個体。
ていうか、幼体のままだし、完全な卵に戻れていない。見た目としてはヘビガミ必死に丸まっているような感じだ。
調べてみるか……
結果。原因不明。構造は他のシロヘビとなんら変わらない。照合してみたが違いが見つからない。なんなのだろうか。
(トリオンを込めてみるか……)
すると弱く光を放ち、手のひらでとぐろを巻く幼体が目を覚ます。
そっと機械に置き、キョロキョロするので停止命令を出す。
俺の作る蛇たちは個々がトリオンコントロール能力を有している。
構造の説明をすると、骨格を持つ他のトリオン兵と違い、純粋なトリオンのみで出来ている。そのため自身の体の分解、再構成が可能なのだ。例えとして、形を氷、トリオンを水とする。
もちろん核の破壊はその限りではない。しかし、およそ〇コンマ五ミリのマイクロチップを人間に破壊できるとは想像し難い。
嘗て、かの軍事大国・アフトクラトルのブラックトリガーと遭遇した際に、発想を得て開発できた代物だ。そう簡単に攻略されるはずがない。
閑話休題。
さてそれを承知の上でなぜ、この個体はこうも小さく、不安定な卵となるのか……前者は傷を負ったからで片付く。しかし、不安定になる原因がわからない。そして、こいつが今日行ったのは捕虜の拘束。それも失神した人間のだ。どこで傷つくのだろう……
単純に核の故障……いや、数値は正常だ。自分の意思を持ってその形に、なんていう答えを出して仕舞えば、それはつまり自我が形成されたことになる。
考えがまとまらないな。
ま、しばらくこいつは近くに置いて監視だな。
思考を止め、スリープモードにして俺も布団に入る。命令はしっかりと聞いているが、何故か戻ることはできない。なんとも不思議な現象だな。
数日空いてしまいました……すみまセン。
不定期投稿になりそうですが、どうかお付き合いください。