俺たちが三門市に入り、件の家に行くまでには雨は少し落ち着いていた。いや、落ち着いていたと言っても、吉祥寺の豪雨と比べればと言う話で、決して傘がいらないほどではない。
雨取家に向かう途中で数人の関係者とも合流した。その中には、ボーダーの本部長。俺の友人にして先輩にして同僚の忍田さんがいた。もちろん驚くこともない。事が大事なだけにいて然るべきであろう。いない方が問題だと言っても過言ではない。
しかしながら、その雰囲気からはやや疲れが窺える。目の下のクマだとか、痩せこけているだとか、そう言ったことではなく。そう、本当に雰囲気的な事だ。年齢から目の下にクマがあるのなんて不自然なことではないし、もともと痩せ型もとい引き締まった筋肉を持っている忍田さんだ痩せこけているとは言えない。
「忍田さん。ちゃんとご飯食べてる?休まないと倒れるよー」
何となしに聞いてみたつもりだ。向かう途中の道半ばでの些細な会話。
「まあ、休めているかどうかは別として、まともな飯は最近は食ってないな」
「前に家に帰ったのはいつぐらいよ?あ、忍田さんにとって本部が家みたいなもんか」
「そう思うならあんまり
な、なんだってー。そうだったのかー。知らなかったわー。何も言ってこないから俺のは容認されているものかと。
「それはお前が言っても聞かないからだ」
「仕方ないさ、脆いのが悪い。ていうか今後はないから安心してよ。家で静かにやるからさ」
何が仕方ないのかという質問は受け付けません。それに、言われたことなんて初めの数回しかない。開発室ほど使いやすく、実験しやすい場所もないからな。しかし、つい先日ようやく俺の家の地下にも同様以上の施設が完成した。これからは家でじっくりおもちゃ作りができるってもんだ。
「——っな!?お、お前本当にあんなのを作ったのか!?」
「え?だって城戸さん含め容認したじゃん。許可出したじゃん。それならやるさ」
そう、俺の家の地下施設にはトリオンやトリガーの研究施設を設けた。ボーダー名義で俺が金を出して買った場所だし。あのガラクタたちが街を壊したおかげで、三門市内の全体はもちろん、地下の施設も全体的に見直されることとなったから、敷地内はある程度掘り進めても問題ない。あの後の復興会議で些事のような扱いを受けた内容だが、しっかりと可決された事だ。
あ、ちなみに俺の持ち家は三門市に一戸と市外に一戸存在する。
「いや、あの内容のものを一人で作り上げるとは思わなかったからな。素直に驚いた」
できないことは言い出さない。やると言ったらやる。ま、おかげで完成までに三年近くかかったけど。
「ま、今日あたり見に来ると良い。仕事は別の日に回しといてよ」
「そんなことはでき……っておいどこに電話をかけているんだ」
「沢村」
「おい!」
ダッシュ!
止められるのも癪だから進行方向の数十メートル先へ走る。他の連中は驚くが、いつものことのようにスルーする。いや、俺、普段から突然走りだすような奇行しないから。雨だからってテンションあがんないから。
『お疲れ様です。沢村です』
お、出たな数年片思いが実らない残念後輩、
『なんだか今失礼なこと考えてませんでしたか。さとりさん』
「いえ別に」
『それで、要件はなんですか。私今忙しいんですけど』
俺を暇人みたいに扱うな。仕事じゃないが、俺も用事があって足を動かしている最中だよ。ダッシュしてる最中だよ。
「あ、そうなのねー。ま、忙しい中仕事増やして悪いけど、今日忍田さん帰らないから。後、明日は休ませるから。それじゃよろしく」
『え!?ちょっと!まって——』
切りました。はい、余計なことは言わせないよ。喋らせないよ。折り返しが怖いから電源も切っておこう。短い初登場だったね。やはり残念後輩か。いや、俺が今のは原因か。ははは。
さて、待つかね。
走って戻るのも考えたがどうせこの道を通るのだ待っていたほうがいいだろう。
お、学生さんだ。そうか、もう下校時刻か。雨で太陽が隠れてて時間感覚狂ってるな。
「お、来た。や、忍田さん」
と、その他愉快な仲間たち。なんか微妙な顔してるな。ま、そりゃ勝手に走って先に待ってる人間にする顔なんて無いよな。
「忍田さん携帯。電源切っといた方がいいですよ?これから大事な話をしに行くんですし」
完全に沢村対策だけど。
「いや、残念だが携帯は本部に忘れてしまってな。ま、急用だったら部下の方にもかかってくるだろうし問題はない。それよりお前、沢村くんに電話したんだろう。大方帰らないとかそんな内容だろう」
「大正解」
普段ならしないであろう凡ミスをするとはやはり疲れか……
「ま、そういうことだから今日は俺の家で夕飯と晩酌に付き合え。んで明日は休みな」
そんなこんなで、目的地に着いた。インターホンを押すのはもちろん忍田さん。おい二宮、そんな怖い顔で睨んでやるな、突然大人数押しかけた俺たちが悪いんだから。後ろめたくいかないと。
出てきたのは見たからに主婦って感じの女性。いや、主婦っていうぐらいだし女性なのはもちろんだし、ゴリゴリマッチョの人間が出てくるみたいなびっくり箱的要素は期待していなかったが、本当に普通だ。つまらない。
忍田さんは事情を聞いている。二宮をはじめとした他の人間も熱心に真剣に大真面目に聴いている。かくいう俺はというと、確認程度の事務作業のように聞き流していた。事前情報との差異はなしっと。
——おや?
目の端に人影が映る。学生服か。
少年だ。俺とおそろのビニール傘を持った少年だ。メガネの少年がこっちを今見ていたな。とっさに引き返すと怪しさ満点だ。百点満点だ。花丸をやろう。てか、二宮も気づいたな。
全く持って面倒だが、行くしか無いだろう。
「二宮、俺が行くよ」
一声かけると、頷きを返事として返してくれた。ま、こいつ的には今目の前にいるご婦人の話を聞く方が有用だろ。
というとで俺は少年を追う。ま、後を追うのでは無い。それでは気づかれてしまうかもしれないからな。そうなれば通る道は屋根だな。いや屋根だって人が通れるなら立派な道だよ?人が通ったところが道になるんだから。
そして、俺はすぐさま別方向の路地を曲がり民家の屋根に上がる。不法侵入?知ってるか?バレなきゃ犯罪じゃねーんだよ。
ということで捜索開始。と言ってもそう遠くには……
——いた。
すぐに見つけられてよかったよ。メガネくん。上から降ってきてごめんね?
——こんにちは。お兄さんはさとり。君は?
「……ッ!ぼ、僕は三雲、
主人公キタ―――(゚∀゚)―――― !!
あ、もちろんさとりさんも主人公です。