「そうか、三雲修ね。いい名前だね。修めるって言う字は成長に関する漢字だ。うんうん。とてもいい名前だ」
そうか、この子があの消えた少年。
「名前を教えてくれたお礼に、一つお兄さんからアドバイス」
「……?」
「知らない人に会ったときに名前は言わない方がいいね。特にお兄さんみたいな空から降ってくる不審者には」
小学生でも知ってる常識。不審者に名前を教えちゃいけません。
「いやぁ。ま、言ったのが空から降ってくる不審者の中でも比較的優しい部類の俺でよかったね。次から気をつけたらいい。これで一つ知識を修めたと言うことだ。おめでとう」
なんだい?そんな驚いたような表情をして。鳩が豆鉄砲を食ったような顔だね。
あ、空から不審者っていうのはそうそういないって思って驚いているのかい。
「おーい。聞いてるかい。三雲くん……うーん。えい」
「——!?」
他人からの無視ほど不快なものはないからね。ちょっとデコピンを一発。
「す、すみません。突然のことばかりで混乱しちゃってて」
なるほど。やはり処理落ちしていたわけだ。フリーズしていたわけだ。テレビが止まったり壊れたりした時はナナメ四十五度の角度で殴るといいとは言うが、人間が固まった時はデコピンが有効なんだな。俺も一つ知識を修められた。ありがとう三雲少年。
「——さて、それで三雲くん。いや修くんでいいかな?お兄さん、人を苗字で呼ぶのがどうも苦手でね。そう呼ばせてもらうよ」
「あ、はい」
別段そんなことはないのだが、三雲という発音がしづらいからそう呼ぶだけ。下手したら『いくも』て聞こえちゃいそうだし。その名前は二度と呼びたくない。
「あ、そうそうこれを渡しとこう。お兄さんとの出会いの証」
ポケットに入れっぱなしになっていてよかった。数枚しか入らない名刺入れ。ほんとなんでこんなものを買ったのだろう。ま、今役に立ったんだ、良しとしよう。
「えっと、これは…………って(ボーダー!?)」
「ん?知らない?名刺だよ名刺。名前をさし出すと書いて名刺。あ、でもこの場合は名刺じゃなくて
「……なんか物騒になってませんか。それ」
名前で刺し殺すというのは何というか、強者感がすごいな。
「って、そんなことはどうでもいいんだ。修くん。君は雨取さんの家に用があったんだっけ?でも、今は僕たちが、あ、僕たちって言うのはね「ボーダの人なんですよね」……」
「ボーダーの人ってことは麟児さんの件ですか?」
おや。どうしてそう思ったのだろうか。彼が消えたのはつい昨日のはずだ。何か知っている……か。
「そのことを知っているって言うことは、君も関係者ってことかい?」
「あ、いや、その」
当たりか。
「あ、じ、実は千佳……あ、千佳っていうのは麟児さんの」
「あぁ。知っているよ。それでその子から聞いたのかい?」
「……はい」
そうかい、そうかい。なるほど。昨日ことが起こってついさっき連絡が入って。急いできた訳だ。うん、一応変な点はないな。
「あの、僕。実は麟児さんから実行は次の土曜って聞いてたのですが。何かの間違いとかじゃ」
「いや、間違いじゃない。昨日5月1日。彼は向こうの世界に行ったんだ。ま、行ってないかもしれないがね。十中八九……いや九分九厘行ってるだろうね」
死体も出ていない。トリオン反応があった。そして鳩原のあの言葉。
「ま、なんだ。その情報については麟児くんの優しい嘘だと思えばいいさ。君に妹を託したんだろう」
「そうなんでしょうか」
「ところでその妹さんはお家にいるのかい?」
ま、いるから走ってまで来たのだろうが。
「え、えぇ」
「そうか、じゃぁお兄さんが事情を説明してあげるから中に入って妹さんと会ってやるといい」
ありがとうございます。という言葉をしっかり聞かず背中で聞いた後。俺は道を曲がり再び合流を図る。
「よ、二宮。この子、雨取麟児くんがカテキョーしてるとこの教え子みたいでな。今日授業があるはずなのに、来なかったから何かあったのかと思っているところ、妹さんから連絡が入って駆けつけたみたいだ。入れてやってもいいな?」
「——好きにしろ」
余計なことは言わなくていいだろう。
「えっと、さとりさん。ありがとうございます」
「いいよいいよ」
笑って手を振り見送ってやる。子供らしからぬ礼儀正しいいい子だな。三雲修。
「あんたが子供好きだとは知らなかったな」
「ん?なんのことだ?二宮」
「いいや、そんな顔を見たことがなかったからな」
失敬な。そんなんだったらお前にも同じように接してやろうか。
「そうかそうか。あんな感じに接して欲しかったのか。よしよし、たんと可愛がってやろう。二宮くん」
自分でも、我ながら虫唾が走るって思ってやってるんだ。だからそんな睨むな。
「お、忍田さん。それで、どこまで聞けた?」
「あらかたと言ったところだな。とりあえずは要は済んだ。帰って報告書にまとめるとする。撤収するぞ」
その一言に全員了承し、来た道をみんな仲良く戻る。さ、帰って仕事仕事。
いや、行かせんよ。
「はい。忍田さんはこっちね。もうこの後は帰るって約束でしょ」
約束はしていない。一方的な誘いだ。誘拐だ。ま、そのことを伝えた時点で止めなかった忍田さんの負けだ。
「いや、流石に報告書は書かせろ」
ダメダメ、始めたら全部やっちゃうでしょ。忍田さんの場合。そんなじゃいつか禿げる。そして過労で倒れる。ま、他の幹部の皆様にも当てはまりますがね。
「そんなの俺の家でやっていいから、職場には今日は戻らない。次に行くのは明後日。これ絶対。嫌なら先に止めておくべきだったね」
「そんな隙なかっただろ」
ボーダー随一の剣士がつけない隙なんてないだろうに。
「それじゃ隙を作るべきだったね。とりあえず今日は本当に帰さないから。寝かさないから。ということで二宮たちもここでさよならだ。気をつけて帰れよ」
相変わらず無反応の二宮と遠慮がちにへこへこしてくる数名職員。ま、そんなこんなで忍田さんを連れて俺は帰路に着くのだった。
え?これが原因で忍田さんの仕事が増えるって?いやいや、その仕事は沢村と仲良くやってもろて。
忍田さんと沢村さんがくっついてくれる日は来るのでしょうか。
追記
いつのまにかUAが3千を超えてました( ゚д゚)
ありがとうございます。お気に入り登録も大変励みになります。
拙い所も多々ある、というかそれが殆どの文章ですが、どうぞこれからもよろしくお願いします。