「え?まじかよ悠一!?」
悠一が久しぶりに俺の家に遊びにきたある日。飲み物を出しながら、土産のどら焼きを食べていた時、その言葉は唐突に告げられた。
「そうそう、あの子。えっと……三雲くん。試験受けてたみたいでさ、落ちたらしいんだけど。俺がさとりさんの推薦って形で入れ直しておいた。面白いものも視えたし」
いや、驚いた。まさかの修くんボーダー入隊とは。いや正確には仮入隊か。ま、それでも驚いたと言わざるを得ない。びっくりした。
この際俺の名前を出したことは不問にしてやる。
「気になってたんでしょ」
お前に修くんの話をしたのなんて一回だけだろう。
「いや、それほどでもないけど。礼儀正しい子供だったから覚えてただけだし」
「いや、十分気になってたんじゃん。さとりさんが覚えてるって相当だよ。(しかも名刺まで渡してたみたいだし)」
何を言う。俺は人の名前と顔は覚えられるぞ。顔と名前が一致しないだけで。
神経衰弱が苦手なだけだ。あれはマジでむずい。
「ま、何にしてもお前から見ても面白そうだって思えたなら、俺の勘も捨てたもんじゃねぇってことだ」
「——てか、さとりさんは知らなかったの?その、三雲くん?がボーダー受けるってこと」
正直にいうと知りませんでした。礼儀正しく面白そうな子って印象で後は殆ど……
しかし、あの子にボーダーは難しいんじゃ。
あ、勉強できそうだったし、エンジニア志望かオペレーターかな。それなら幾分かの関わりもありそうだ。戦闘って柄じゃないだろうし……
うんきっとそうだろう。俺の勘がそう言っている。
「それで、やっぱエンジニア志望?」
「いや、戦闘員」
はい。勘なんて当てにならねー。次のゴミの日にでも捨ててやろうか。
……しかし、だとしたら尚更、難しいだろうな。
まずCから抜けられるのかすら微妙だし。いや、もしかしたら意外と運動もできるのかも。動けるメガネ……知り合いに何人かいたな。
ま、いいか。もし本当に入るっていうならそのうちどこかで会うだろうし。
「——さてと、話はここら辺にして。昼前だしちょっと腹ごなしに運動するか」
ま、トリオン体に換装するから腹ごなしっていうのは無理だけど、気分的にってだけでもいいだろう。
「お、噂の地下訓練場!いいね。忍田さんも言ってだけど……って。おれ、S級になったからトリガー持ってないんだけど」
「え?トリガーってニ台持ちできないの?」
できるわけもないか、それでもS級て黒トリだろ。それ使えない時にどうするんだよ。
「……んじゃ。うちのやつ貸してやるよ。訓練用だし」
特段苦労もしてないみたいだしいいか。
そう思って立ち上がり、廊下へ出て地下へと続くエレベーターのボタンに手をかける。
「ルールは……結構昔にやってた鬼ごっこ覚えてるか?あれをやろう」
「え、トリガーは使わないの?」
なんでそんな殺意高いんだよ。
ちなみに鬼ごっこは普通の鬼ごっこだ。街中に設定したフィールド内を隠れ追いかけタッチする。それだけ。ただし、タッチしていいのは頭か背中だけ。そんな感じのルールだ。後はあれだな、鬼に捕まりそうになったら逃げ役は反撃していいっていうやつ。
「鬼ごっこだって言ってんだろ!勝手に殺し合いにするな」
到着っと。ついたのは地下数百メートル付近の大穴を改装した特別ルーム。この穴はおよそ数千年前の地殻変動でできたらしい。正確なことは専門家じゃないからわからないが、ここを作る上で聞いた知り合いがそう言っていた。
広さ的にはボーダー本部の四分の一もないのだが、一人や二人で使う分には不便ない大きさだ。
「「トリガーオン」」
二人同時にトリオン体に換装する。
「——って、何この格好」
「あ、やべ変えてなかったわ……いや、さ。この間忍田さん呼んでゲームしたりなんだと色々したのよ。その中でサッカーゲームやったんだけど、酒の勢いでトリオン体でサッカーやろうみたいなことになって……ま、後はわかるだろ」
はい、ということで、ユニホームです。サッカーの。しかも日本のじゃないフランス代表のだ。
え?人数はどうしたって?そんなのトリオン体でアバター作ってチーム戦よ。めっちゃ楽しかったです。はい。
「そんなのどうやってやったんだよ。ていうか忍田さんがサッカーとか、全然想像できないんだけど……」
「どうって、ゲームソフトのプログラムを拝借してトリガーに組み込んだ。もちろんこの空間内でしかできないことだ」
よかったな。悠一背番号10番。中村選手とかと一緒じゃねぇか。ま、フランス代表のユニホームですが。
「鬼怒太さんが聞いたら喜びそうなネタだ」
「ま、そんな事いいから早くやるぞ」
「よし、じゃ悠一お前が鬼な」
了承してくれたので、目を伏せカウントしてもらう。ま、カウントはアナウンスだけど。
『カウントダウンを開始。 十……九 』
さて、どうしたものかね。どうせ悠一のことだ、隠れてもさっさと未来を視て見つけてくるだろうし。
『五……四』
だからといって何もしないってわけにも行かない…………ま、これが一番面白そうだ。
『一……〇 スタート』
それと同時に悠一は走り出す。おそらく自身の視た未来の可能性。つまり隠れているだろう箇所を一つ一つ潰すのだろう。
うわ、相変わらずスゲー。
駄菓子屋に電柱の上。
一番でかい家の屋根上。
公園のでかい木の枝の中。etc…
スゲーな全部行こうと思ったところだ。てか、スピード上げすぎ。必死かよ。
……思い出すわ。お前や桐絵。それにレイジや他のみんなも交えてよくやったよな。
——お前らガキ相手でも手は抜かなかったけど。
これ以外にも、戦闘訓練なんって言って忍田さんも交えてみんなでガチでバトったり。
そのせいか知らないけどいつの間にかみんな強くなってるし。いつの間にか頼り甲斐のある奴らになっちゃってるけど……
(って!?急ブレーキ!?)
「うん、やっぱり。思った通りすぐそこにいたね」
そういって悠一は振り返った。下手くそな構えをして俺と向き合う。
ネタバレ。始まった時から息を潜めて背後十メートルをピッタリついて回っていた。これが未来視持ちのこいつには一番効く。常に動き続けて。可能性を絞らせる時間を与えない。実際俺は悠一との差を詰めすぎたと思ったら適当なところに隠れたし。
「いつわかった?」
純粋な疑問を投げかける。
「んー公園を出たあたりかな。綺麗な砂利だったのに足跡がおれのと合わせて二つあった。スタート地点から距離もあるから、ここに隠れてる可能性も考えたけど、いなかった。ここを通っても行ける場所なんて限られてる。だから一回思い出してみたんだよ。この手、後ろからついてくるやつ。前やった時にも使った手だ」
「いいね、悠一。高評価ボタンがあったら押してたかもしれない。探偵になれるんじゃない?」
けど、まだ足りないかな……
数多ある可能性を絞れてこその未来視。可能性に翻弄されて動き回るようじゃ……
「しぼれてたよ」
おっと?
「さとりさんが後をついきているってことは。途中、隠れていたことも含めてね。確かにおれのサイドエフェクトは無限に広がる可能性を絞る作業が必要だ。でも、それに翻弄はされない。それを込みでのサイドエフェクトだ」
どうやら俺は勘違いをしていたらしい。未来視という能力を使う悠一の事を。そりゃそうか。しぼれなきゃ未来視なんて言えない。分岐点が見えなきゃ未来を視えるなんて言えない。はなから絞るという作業を含めての未来視だったのか。時間なんてほとんどいらないのか。なるほど。
「ま、その興味深い話は後で聞かせてもらおうか。俺が勝った後でゆっくりと」
不敵に笑うとでも言っておこうか。その言葉が合図。一気に距離を詰めてきた。前に遊んだ時よりも数段、いや別次元だな早くなっている。迫るこいつ相手に俺が出来ること……
身体の重心を落としギリギリで交わす。
本来。ガラクタ相手に肉弾戦は行わない。武器を使う方が手っ取り早い身体。しかし、それは相手があのスクラップである時だけ。人間同士の戦いでは肉弾戦の可能性は十分にある。
だから彼らには受け身だけでもと教えた。
レイジだけは熱心に教えを求めて来たが……
「……ッチ」
あ、舌打ち。んじゃその舌噛まねえように、しっかり歯は食いしばっとけよっ!
鈍い音と共に悠一の顎を蹴り上げる。鬼の手に触れなければいいという特殊ルールだからこそ出来ることだ。
その間に距離を取る。
俺が教えたのは受け身だけ。後は他の奴らに丸投げした。しっかりと受け身は取れる悠一。トリオン体に受け身入らないって思ってる連中もいたけど。取れるだけでも違う。格段に次の動きに移しやすくなるのは当然だ。
ほらまた来た。
おっと、今度は下段蹴りか!掴むのがダメで手を変えて来たのはいいことだが……っ!
左半身に鈍い衝撃が加わる。
旋風脚って!どこぞの格ゲーキャラかよ!
「すごいな!今のは誰から習ったんだ。レイジか?」
「そう。何年も前に教わったやつだからできるか不安だったけど、案外出来るものだね」
普通はできねえよ。トリオン体の操作においてはやはり若い奴には勝てねぇな。
ま、それでも負けるつもりはない。
「まぁできてはいるが、やるならもっと鋭くした方がいいな」
「……?」
戦いの最中に疑問を持つな。
「——ッ!?」
加速からの肉薄。その後そのまま下段蹴り。やったことはそれだけだが、鋭さが違う。武器だけでない肉体での戦いは俺の方がやって来ている。おそらく、悠一からは一瞬消えたように見えただろうな。ま、視界の外に出て回り込んだんだ、そう見えても仕方ない。
住宅があるとは言え、数メートルは飛んだか。
モクモクと瓦礫の土煙が舞う。これで倒れるやつでもねぇ。
——やはり立ち上がるか。
受身を取ったとは言え、今のはからり聞いたと思うが。平然と立てるあたりすごいなこいつ。
(……うお!)
ヒュンみたいな効果音初めて聞いた。
何をしたかって?あいつが瓦礫を投げて来たんだよ。煙の中から。全く雪合戦じゃねえぞ。
「おいおい、そんなの当たるわけないだろ。それにこれは鬼ごっこだ。お前が俺に触らねぇと……っ!」
顔面セーフって鬼ごっこでも通じるのか。
いや、普通に痛覚はないんだけど。それでも心が痛いわ。
——はい、おれの勝ち。
そんな声が背後から響いた。
『試合終了。勝者 迅悠一』
あれ?
突然の終了コールに俺は思わず疑問で頭が埋まってしまった。
少し多くなりましたがご容赦を。。。