「あー。そうか、お前トリガーを使ったのか。いやはや驚いた」
煙から出てくるのは俺の作ったサッカー選手のアバター。しかもその中でもキーパーだ。プレイヤーの中でも唯一ハンドが許されるあのキーパーだ。
「キーパーに投石をさせるとはなんと酷いことを」
「いや、さとりさん。トリガー使っていいかどうかの質問に答えなかったじゃん。いいともダメとも言わなかったじゃん」
何がじゃんだ。普段そんなこと言わねぇだろ。
ま、確かに良いも悪いも言ってないんだし、使っても良いかもしれないが。
要はこいつは蹴られるフリしてすぐさまトリガーを起動して、土煙に紛れて背後を取ったというわけだ。
「千五百九十二敗 十勝 五十引分け。だね、さとりさん」
「……おう」
さて鬼ごっこもほどほどに。
昼食の準備をする。調理開始だ。とは言ってもそんな大層なもんなんて作らない。
手を動かしながら思う。あの手。悠一の作戦。面白い手だとは思った。使うってこと自体を考えてなかったし、眼中になかった。アウトオブ眼中だ。
沸騰したお湯入り鍋にうどんを二人前入れる。
茹でて冷まして。
後は薬味を乗せるだけ、完成だ。
「でもやっぱり納得できないんだよ。さとりさんがこんな手にあっさり引っかかるなんて」
ソファーに背を預けながらそう言う悠一。
「もしかして、さとりさん」
——弱くなった?
……。
「はっ!何言ってるんだか、お前が強くなったんだろ」
そう言ってお盆に乗せてうどんとその他諸々を運ぶ。
「そう?でも、おれの知っているさとりさんは、前までのさとりさんはもっと強かったと思う。少なくとも俺だけで勝てるような相手じゃなかった」
加減はしていない。いつだってこいつと、こいつらとやる時は本気だった。
「現に勝ててるんだ、お前が俺を買い被りすぎた。それだけだろう」
二人分のうどんをテーブルに乗せ。手を合わせる。
いただきます。
「買い被りじゃない。本当にそれが言えるほどに強かったんだよ。前までのさとりさんは」
「……」
どうも悠一は俺の強さを買ってくれているようだ。ま、でも確かにこいつの言う通りだとも思う。今までのこいつの勝利、いや
俺相手にも忍田さん相手にでも。
そこには子供一人じゃ越えられない壁が、大人と子供の絶対的な差があったんだ。
「お前らとガチでやったのなんて何年も前のことだ。その間、お前らも大人になって、ボーダーの主戦力となるまでに成長した。それだけだろう。てか、早く食えのびるぞ」
そう、それだけなのだろう。絶対的が絶対的じゃなくなった。相対的な壁になった。
それこそ俺と一人で
それだけでいいだろ。
よくある話じゃないか。子供が成長して父親よりも身長が伸びた。強くなったと言うことだ。
「ま、良いじゃないか。今度はその強さで、俺を守ってくれよ。実力派エリート」
食後、急遽用事ができたとのことでそそくさと帰っていった。
「でも、鬼みたいに強いってみんな言ってたんだ。それは紛れもない事実だよ」
そんな言葉を残して帰っていった。
鬼ね。
俺は洗い物をし、片付けをしながら思う。一人考える。
——弱くなった?
その言葉の意味。弱くなったか……
人は誰でも自分の弱さを自覚するべきだ。
これは誰の言葉だったか。忘れた。
しかし、俺はその言葉を倣い、敬い、己の強さを、弱さを、醜さを、見つめて、
みんなを守るために。
初めから戦うことに対して怖くはなかった。でも弱かった。だから強くなったんだ。あの兵隊をガラクタと呼べるほどに。その裏側にいる近界住民をも倒せるほどに。
片付けがひと段落し、ソファに腰掛け、再度悩む。考える。瞑想する。自分を悟る。
——さとり。さとり!
はっとし、辺りを見回す。
「——どうしたさとり。お前らしくない。何か考え事か?」
あれ、忍田さんだ。まだ若い。疲れていない顔の忍田さんだ。
あ、これ夢か。
「ん?あ、ごめんごめん。ちょっと考えごと」
「大丈夫?さと
え、誰?
「——の言う通りだ。ちょっと休んでろ。アリステラからの連絡もまだない」
あ、
「はっはっは!なんだ?さとり。お前も疲れるなんてことがあったのか。存外人の子だったんだな」
うるさいよ城戸さん。
「うるさいよ城戸さん!……ねぇほんと、大丈夫?さとるくん汗がすごいよ?」
だから誰なんだお前。
「撤退しろ!速やかに撤退しろ!さとり!
「任せて!忍田さんこそ、お姫様たち守ってよ!」
あ、
「さとるくん!私も一緒に!!」
そうだこの後、
——いたぞ!王女だ。王族の血は残すな!なんとしてでも殺せ!
「させるわけねぇだろ!」
そう、ここだ。この攻撃は最悪の結果を生む。
——ッ!!
俺はこの時、自分の攻撃を打ち込んだ相手からカウンターを食らって。
腹にでかいのを貰って……
——さとるくん!今直すよ!
やめてくれ。お前のそんな顔、見たくない。
せめて、こいつらだけでも殺さないと。
よし、当たった。ちゃんとみんな死んでる。真っ二つ。
それより、俺なんかに、お前にそんな顔をさせる俺なんかにそのトリガーは使わなくて良い。お前がいてこその俺だ。
俺の他はいくらでもいるんだ。だから頼む生きてくれ。こんなことにお前の力は使わなくて良い……
そうだ!今は戦場だ!いつもの方法なんて使ったら死ぬぞお前、体は帰ってからゆっくり直せばいい。だからお前だけでも先に——
「——さっちゃん!起きて!」
「んー……ん……ってあれ、桐絵?」
いつの間にか寝てたのか、なんかめっちゃ懐かしい夢を見た気がする。てか、何考えてたんだっけ……
「どうした。てか、俺の家なのにどうやって入った」
「鍵開けっぱなしだったよ。何度も呼んだのに出てこないから入ってきたのよ」
そんな得意顔で言うなよ。普通に不法侵入じゃねぇか。
誰かーお巡りさん呼んでー。
「……はぁ。知ってるか桐絵。人の家に許可なく入るとそいつはその家から一生出られないんだぞ」
「え!?そうなの!?」
そんなわけあるか。空き巣にはさっさと出ていってほしいものだ。
ま、喉も乾いたし、この不法侵入者にはなんか飲み物でも出してやるか……いつのまにか夕方だ。
「ま、でもさっちゃんの家なら全然……」
「嘘だよ」
「——っな!?」
まだその癖抜けてなかったのか。
「何か飲むか?」
「ジュース!」
そんなものあったっけか。俺は、甘いものは好きだが、ジュースや炭酸は苦手だ。あの刺激も甘さも喉が痛くなるし……
「ほい」
「——ってこれトマトジュース」
そうだ。この前忍田さんが来た時に使った余りだ。残しておいてよかったわ。
「まぁ、いっか」
「いいのかよ……んで、それで何しに来たんだ?」
「ぁによ、迅は来てよくて私は来ちゃいけないの?」
そうは言ってないだろう。てか、ストロー咥えたまま喋んな。
だが、桐絵が何の用もなしに来るとは……いや、十分あるな、こいつ何かと理由つけて遊びに来てるわ。
「で、お前学校はどうした」
サボりか?制服着てるし、抜け出したか。
「今日は午前授業なだけ」
なん、だと!?そんなものがあるのか。
午前中だけとか何しに学校行くんだよ、三時間だけしか勉強出来ねぇだろ。
「ってそんなことはいいの!それより来た時すごい汗だった……大丈夫?」
——大丈夫?……くん
ん?なんだ今の。
「あー、寝汗だよ。気にしなくても大丈夫」
変なのがフラッシュバックしたな。
「……そう?」
「てか、腹減ったな。どうだ桐絵、どっか飯にでも行くか?」
うどんって意外と腹持ち悪いな。もっと食っとけば良かった。
てか、今のは一体……。
「行く!」
……ま、いいか。思い出せないことについてあれこれ考えても意味はない。
「よし、イタリアンの気分だ。ピザ食うか」
ちょっとさとりさんの昔話を……
駄文ですが、風間さんのお兄さん。初めはシンじゃなくススムだと思ってました。