恋愛問答――この感情は……?   作:若杉優太(テト/teto)

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 ガチャでヘファさんをお迎えできなかった悲しみを込めて書きました……
 良ければお楽しみください。


偶然の再会

 苦しい。胸の苦しみが止まらない。

 カルデアに来て、[[rb:あいつ> ・・・]]を見るたびに胸が苦しくなる。

 この苦しみを抑える為には、どうすればいいのだろうか……?そんな当てもない答えを見つけるべく、私はカルデア内をふらふらと歩き回っている。

 

「(はぁ……どうにも、だるさが消えないな……)」

 

 廊下や中央管制室、シミュレーションルームなどを歩いて回ったが、身体にまとわりつくような倦怠感というのはずっと消えなかった。

 あいつと再会できたことや、我が王の姿をカルデアで見れたこと……振り返って考えると良い事しか起きていない。

 だが、私の胸はいつまでも締め付けられるように苦しいのだ。

 

「(この苦しさを取り除くのには、どうすればいい……?)」

 

 すれ違う英霊達に心配されながらも、私は頭を抱えながらカルデア中を歩き回った。

 しかし、いつまで経っても私の胸は締め付けられるばかりだ。

 そうして歩き回っていく内に、私はいつの間にか食堂へと足を運んでいた。

 

「(水でも飲めば、気も晴れるだろうか……?)」

 

 我が王と会うことを避けるために、英霊達の交流の場所となっている食堂には行かないようにしよう……そう決めていたはずだが、ぼんやりとした私の頭はそんなことも忘れ、食堂のカウンター席へと腰を掛ける。

 

「水を一杯頼めるか……?」

 

 厨房に居たエミヤに一言呟くと、すぐに彼は水を運んできてくれた。

 

「大丈夫か……?随分、具合が悪いようだが……」

「ああ……少しばかり気分が晴れやかじゃないだけだ、気にしないでくれ……」

 

 心配するエミヤに言葉を返すと、彼は心配そうに顔をしかめながら厨房へと戻っていった。

 どうやら、他人から見た私の顔色は相当に悪いようだ。

 幸いなことに、今の情けない私を見つめる者が居ないというのが救いだろうか?

 

「なんだろうな……この気持ち悪さは……」

 

 テーブルに頬杖をつき、私は思わず大きくため息を漏らす。

 自分でも胸の苦しさの原因を探そうと思い当たる節を片っ端から探したが、その度に頭の中に浮かぶのは、あいつの顔だけ。

 あいつのことを考える度に胸の苦しさが私を襲うが、それと同時に形容し難い感情が私の中に浮かんでくる。

 しかし、その形容し難い感情が何なのかが全く分からない。

 

「(らしくもないな……私がここまで悩むなど……)」

 

 水の注がれたグラスを見つめ、私はあいつとの出会いを思い出していた。

 

 

――また、会えたね!フェイカー!これから、よろしく……!

 

 記憶の中でのあいつ――マスターは涙ながらに私との再会を喜んでくれた。

 顔も見た目も少年のような風貌はしているが、彼は戦闘になる時や人理修復についての思いを語る時は、カルデアに居る名立たる英霊達のような強い目をする。

 それに、英霊達と良好な関係を築けているということも驚愕に値することだった。

 ただでさえカルデアには私のように、事情が複雑な英霊達が居るというのに彼はそんな英霊達とコミュニケーションが取れ、なおかつ食事を共にしたりしている。

 そんな彼の姿は私にとって、眩しいものに見えた。

 

――フェイカー……!信じてるからね!

 

 思えば魔眼蒐集列車(レールツェッペリン)で会い、そして別れるまで私は彼の姿を目で追っていたのかもしれない。

 最後の最後まで私を信用し、背中を任せてくれた……その姿が眩しくて、私は彼のことをうっとりと見つめていたんだと思う。

 だが、そこまで思い出せても、胸の内に渦巻く感情の正体は分からなかった。

 

「どうすればいいんだろうな……?どうすれば……」

 

 そうして、ふと虚ろな目を無意識に食堂の入り口へと向けた瞬間――私は思わず言葉を失ってしまった。

 

「よぉ!今日も、美味い酒を用意してくれてるかエミヤよ……!」

「また、昼酒か……征服王……」

 

 筋骨隆々の身体の上半身にタンクトップ、下半身には短いズボンという何ともラフな格好で、我が王……イスカンダル様は豪快な笑みを浮かべながら、呆れるエミヤへと言葉を返す。

 

「まぁ、そう渋い顔をするな……このカルデアで余の唯一無二の楽しみが酒なのだ。そんな酒を自由に飲めないとなっては余の楽しみが無くなってしまうではないか……」

「はぁ……君に我慢という言葉は通用しなさそうだな……」

 

 疲れたようにため息を吐くエミヤの反応を楽しみつつ、私の座るカウンター席へとイスカンダル様は一歩、また一歩と迫って来る。

 

「(何故、私は食堂に足を運んでしまったんだ……ッ!?こうなる可能性も想定できたのに……ッ!)」

 

 何も考えずに食堂へ来てしまったことに心の底から後悔しつつ、私は咄嗟に顔を下に向けて、何とかイスカンダル様に気付かれないように振舞う。

 所詮、頭隠して尻隠さずの状態だが、それでも気付かれたくない一心で気づかれないように願った。

 

「さて、今回の酒は――……?これは、見たことない酒だな……ビールでもウィスキーでもなさそうだ」

「ああ……これは”日本酒”というものでな、その中でも良い物を今回用意しておいた」

「おお!マスターの国の酒か!そりゃあ、珍しいもんを用意してくれたな……!」

 

 カウンター席から少し離れたテーブル席で、イスカンダル様はテーブルに置かれた瓶を上機嫌で見つめる。

 幸いなことに、イスカンダル様は日本酒というものに興味津々な様子で、カウンター席には目もくれていない。

 

「ところで味は……っと、それは余が確かめた方が早いか……いつもすまんな、エミヤよ」

「まったくだ……少しぐらいは、こっちの苦労も知ってほしいものだな……」

 

 互いに言葉を交わし合う二人の様子をこっそり伺うが、会話の内容からしてイスカンダル様は酒を受け取りに来ただけのようで、すぐにでも自室に戻ってしまいそうな雰囲気を出していた。

 

「(私はまだ、あの方と会うわけにはいかないからな……)」

 

 本当は会って話をしたいが、あの方の死後に起こった争いを考えると顔を向けができない。

 もし会うとしても、もう少し時を置いてからの方がいいだろう。

 今はただ、あの方の姿を目で追うだけ……そう、追うだけだ……

 

「ところでエミヤよ、ちょいと聞きたいことがあるんだが……いいか?」

「……?なんだ?」

「実はな……」

 

 あいつにも見所は沢山あるが、やはりイスカンダル様を見てしまうと若干あいつが霞んでしまう。

 本当にできるものなら、あの方と今すぐにでも話を――

 

「ああ、彼女ならそこに居るぞ……」

 

 完全に思索にふけていた私の頭を、エミヤの一声が現実へと呼び戻す。

 それと同時にエミヤが誰のことを言っているのか、見当が付いてしまった。

 

「(確か、私以外にカウンター席に座ってる英霊は居なかったような気が……)」

 

 もしかしたら、私以外の誰かを探している可能性もあるかもしれない。いや――そうであってくれと願いつつ、私はカウンター席の奥まで目を凝らす。

 背中から汗を伝わせつつ、誰か英霊が居ないか必死に探す……探す、探す。

 左右のカウンター席に隈なく目を凝らすが、やはり英霊は一人も席に座っていない。

 

「(ということは……)」

 

 恐る恐るイスカンダル様の方へ目線を向けると、しっかりイスカンダル様と目が合ってしまう。

 それに動揺してか、私もイスカンダル様も数秒だけ無言になった。

…………

………

……

 

 驚きとショックで表情を唖然とさせ、私は石像のように固まる。

 だが――

 

「探したぞ……!我が影武者よ!いや、フェイカーと呼んだ方がいいか……?」

 

 私の姿を見るや否や、すぐさまイスカンダル様は嬉々とした様子で私の座る席へと駆け寄ってきた。

 

「まったく、少しは余に顔ぐらい見せろ……!心配しておったのだぞ?うぬがカルデアで上手くやれておるかどうか」

「ぁ……は、い……すいま、せん……」

 

 ショックでまともに声も出せなくなった私を気にせず、イスカンダル様は私の肩に手を置き豪快笑みを浮かべてみせる。

 

「まぁ、細かいことは酒を飲みながら語るとしよう!エミヤ!すまんが、酒器を二つ程用意してくれ」

「分かった……すぐに持ってくる」

 

 若干、言葉に気だるさを残しながらも、イスカンダル様の言葉を受けエミヤは厨房へと踵を返す。

 厨房に消えていくエミヤを見送ると、イスカンダル様は私が座る隣の席へと腰を下ろす。

 

「(イスカンダル様と会うことでさえ、おこがましいというのに、酒を飲むことになるとは……ッ!)」

 

 自分がやってしまった不徳に頭を抱えて、心の中で悶絶するが、そんな私の心境とは対照的にイスカンダル様は楽しそうな様子だ。

 私としては今すぐにでも、この場を立ち去りたい気持ちで一杯だが、動こうにも身体は相変わらず石で固められたように重い。

 

「持ってきたぞ……後は好きにやるといい」

「おう、恩に着る」

 

 厨房から戻ってきたエミヤが私とイスカンダル様の前に酒器を置くと、再び厨房へと戻っていった。

 残されたのは当然、私とイスカンダル様だけ……何とも気が重い話だ。

 そんな私の心情を見抜いたのか、呆れたようにしてイスカンダル様が私の顔を覗き込む。

 

「何を辛気臭い顔をしておるのだ……悩み事でもあるのか?」

「……ッ!?い、いえ別に大したことでは――」

「隠さなくてもよい、臣下の悩みを聞くのも時には必要よ……」

 

 言葉を濁そうとした私に釘を刺し、イスカンダル様は手に持っていた酒瓶の蓋を開けた。

 

「ですが……私は……!」

「うぬが、余の死後に起きたことを気に病んでいるというのはマスターから聞いた。だが、だからといって余に話し掛けることを躊躇う必要は無かろう?」

「……ッ!!」

 

 諭す様に言葉を紡ぐイスカンダル様に、私はまともに言葉を返せず、黙り込むしかなかった。

 

「生前共に戦った臣下が同じ場所に居るというのに、話すらできんというのは余も辛いのだ……だから、今日だけは余とうぬの二人水入らずで語り合わせてくれ……」

「……」

 

 そう言ってイスカンダル様は寂しそうに呟くと、二つの酒器に酒を注ぎ始めた。

 この方の表情を見るに、ずっと私のことを気に掛けてくださっていたのだろう。

 

「(今日、こうして再開してしまったのも偶然ではないな……)」

 

 いつかイスカンダル様と会う日が来ると覚悟していた。

 それがカルデアに来て間もない、今日だとは予想していなかったが。

 

「……イスカンダル様、私の悩みを聞いていただけますか……?」

「……ッ!おう!」

 

 不意に私の口から出た言葉に、イスカンダル様は一瞬驚いた表情をしつつも、すぐに顔を力強い笑顔へと変えた。

 会ってしまった事実は変わらない……なら、いっそ遠慮なくイスカンダル様と酒を嗜みつつ悩みを聞いてもらうことにしよう。

 

「(ごちゃごちゃと考えるのは疲れた……今はこの方に溺れよう……)」

 

 酒の注がれた酒器を見つめ、私は心の中でぼんやりと呟く。

 生前、イスカンダル様と酒を嗜むということは少なかったが、まさかカルデアに来てから我が王と酒を嗜めるなど夢にも思わなかった。

 

「それでは、話の前に乾杯といこう!」

「はい、お願いします……」

 

 高揚した気分のまま酒器を持ち、イスカンダル様の持つ酒器へ近づけ――

 

「「乾杯!」」

 

 互いの酒器がぶつかり心地良い音色を出した瞬間に、私とイスカンダル様……二人だけの酒宴は始まるのであった。

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