恋愛問答――この感情は……? 作:若杉優太(テト/teto)
「――それでな、カルデアに来てからはキャスターの小僧と一緒にアドミラブル大戦略をやっておった!」
「アドミラブル大戦略?ああ、ゲームですか?」
「そう!あれが対戦要素もあって胸が躍るのだ……!」
酒器を片手にイスカンダル様はカルデアでの出来事を饒舌に語っていく。
ここまで王が上機嫌に話をする姿を見るのは、初めて見るかもしれない。
「ところで……うぬは、カルデアに来てから日が浅いが、何か心が躍るようなことでもあったか?」
「心が躍るようなこと、ですか……?」
唐突なイスカンダル様の質問に、口に酒を運ぶ私の手が止まる。
酒によって少しばかり霧のかかっていた頭を回すと、真っ先にあいつと再会した時のことが思い浮かんだ。
このことを話すのは少し恥じらいもあったが、私は酒で高揚した気分のまま言葉を呟く。
「私はあいつ――マスターと会えたことが嬉しかったです……」
「そういえば、うぬはカルデアに来る前に、マスターと面識があったのだったな……」
「はい、あいつは特異点で最後まで私を信頼し背中を預けてくれましたから……」
イスカンダル様の言葉を肯定しつつ、私は感慨深い面持ちで酒器に口を付ける。
酒器に入っていた少量の酒を一気に飲み干すと、私は本当に話したかったことを言葉にした。
「でも――あいつを見る度に不思議と胸が苦しくなるんです……どうしてかは分かりませんが……」
「……それが、今回うぬが抱えていた悩みか……」
納得した様子のイスカンダル様に無言で頷くと、イスカンダル様は酒気で赤らめていた顔を神妙な表情へと変えた。
そんなイスカンダル様の反応は当然と言える。何しろ、相談の内容が”胸が苦しい……”それだけなのだから。
しかし、こんな相談にも関わらず、イスカンダル様は数秒だけ考え込むとすぐに言葉を発した。
「聞くが……うぬ自身は、マスターの事をどう思っているのだ?」
「私はあいつのことを信頼しています……それに彼の勇敢な所が――」
イスカンダル様の質問に対して思ったことを口にするが、最後の部分だけは何故か言葉が続かなかった。
「勇敢な所が……?どうなのだ?」
「ぁ……それは……」
酒によって回っていた筈の舌が回らなくなり、途端に言葉が途切れた。
そんな私に対して神妙な表情を崩さぬまま、言葉の続きを聞こうとイスカンダル様はじっと答えを待っている。
何とか言葉を探そうとする私だったが、不意に頭の中に一つ疑問が浮かんだ。
「(私は……あいつのことを、どう思っているんだ……?)」
ずっと自分でも疑問だった。あいつに対して、自分が具体的にどんな感情を持っているのかを。
少なくともイスカンダル様や
でも、あいつと一緒に居る時は他の誰と居る時よりも幸せな気持ちになれる……まだ短い期間しか、一緒になっていないというのにだ。
「(もしかして、私はあいつに……ほ、惚れているのか……ッ!?)」
冷静に考えていた筈の思考がパニック状態になり、私は顔だけでなく耳までも赤く染めてしまう。
すると――それを眺めていたイスカンダル様が盛大にため息をついた。
「はぁ~~まったく、うぬはつくづく恋には疎いのだな?」
「え……?」
呆れた様子のイスカンダル様の言葉に私は思わず顔を唖然とさせてしまう。
「いつも余に尽くすことばかりで、戦と食事以外の己のことは疎か……特に人間関係など二の次で、他の臣下とは馴れ合わず一人で過ごし、婿を紹介されても興味が無いと断っておったな?」
「……ッ!?わ、私は戦いと食事があれば……それにイスカンダル様に尽くせるだけで私は――!」
「はぁ~~……まだうぬは気づいておらぬのか?己の本心に……」
再び大きくため息をついたイスカンダル様に指摘されるままに、私は先程から気付いていた”本心”を言葉にして出す。
「私があいつに惚れている……ということ、ですか……?」
「なんだ……しっかり気付いておるではないか……!それでいいんだよ、それで……」
私の発した言葉の内容に満足したのか、イスカンダル様は神妙な表情を満面の笑みへと変える。
「生きている間は、性のことなど一切興味を持たなかったうぬが、こうしてサーヴァントとして召喚されてから少しでも好きだと思える相手が出来た……それだけで喜ばしいことではないか……!」
「イスカンダル様……」
「うぬが余に尽くすことを至上の喜びだとしているのは分かっている……だがな、うぬは余の臣下である前に一人の女だろう?だったら、少しは女としての喜びを追及してもバチは当たるまいよ」
イスカンダル様はそう言って、酒器に口を付ける。
今、私が目の前の王を隣にして抱いている感情は喜びや戸惑いが入り混じった複雑な感情だ。
もちろんイスカンダル様が、私のことを生前から気に掛けてくださっていたということを知れたのは嬉しかったし、今回の件を肯定的に捉えてくださっているのは心が救われた気がした。
だが、やはりまだ恋という物を否定する自分がいる。
「(本当にあいつが好きなのだろうか?私はあいつと、まだ少ししか時を共にしていないのに……)」
葛藤を続ける私を見てか、イスカンダル様は酒器をテーブルに置くと、再び口を開いた。
「うぬは知っておるか?マスターがどんな戦いを経てきたのか……」
「はい……知っています……」
元々魔術師ですらないというのに、完璧に英霊達を指揮し、数々の特異点を解決していった英雄のような存在……それが私の認識だった。
「あのマスターはよくやっている……日夜一人でマスターとしての責務を果たし、人理修復に向けて様々な努力をしておるのだから大したもんだ。しかし、余は同時に心配があってな……」
「心配……ですか……?」
「ああ、あいつは確かに才気もあって根性もある。だが、身体と心はまだ子供のように無垢で壊れやすい、それ故に余は心配でな……」
少し遠い目をして語るイスカンダル様の表情からするに、長い間あいつと共にレイシフトを行ったり、カルデアに居たことで分かってきたことなのだろう。
「根性があるのは問題ない……しかし、あいつは少々我慢をし過ぎてしまうところがある。それは肉体的というよりは精神的なものだがな……」
思い返せば、あいつは確かに逞しい目をしてはいたが、同時に瞳からは隠しきれない闇を抱えていた。
カルデアに来たばかりの私は、あいつの闇を完全には把握することはできないが、おそらく数々の別れや苦難の末に抱えた闇には違いない。
そうして私が考え込んでいると、不意にイスカンダル様は私の方へ身体を向け、笑顔で力強く言葉を掛けた。
「――だからこそ、うぬがマスターを支えろ……!」
「……ッ!」
その一言で、私の中にあったモヤモヤとした霧が一瞬で晴れていくのが分かった。
「うぬが胸が苦しくなる程にマスターを想えるなら、あいつを精神的な面で支えてやれ!今のマスターには、傍に寄り添うパートナーが必要なのだからな!」
力強い言葉を締めくくると、私の肩を励ます様に軽く叩き、イスカンダル様は酒瓶を持ち席を立ち上がる。
「余が助言できるのはここまでだ。だが、余はうぬの恋路を応援しておるぞ……!頑張れよ、フェイカー……!」
「はい……ッ!ありがとうございます……ッ!!」
私も席を立ち上がると、思わず感極まって我が王の手を握り、私は涙を浮かべながら感謝を述べる。
「(ああ……やはり、イスカンダル様はお優しい……)」
生前も影武者に過ぎない私に名前を与えようとしてくださり、死ぬ寸前も私のことを気遣ってくださった。
そして、サーヴァントになった今でも、イスカンダル様は私のことを大切な臣下として見守ってくださっている……それが幸せで仕方ない。
「泣くな泣くな……泣く時はマスターの前だけにしろ……」
「はい……ッ!はい……ッ!」
苦笑いしつつも我が王は、泣きじゃくる私を穏やかな瞳で見つめてくださる。
私はとめどなく流れる涙を止めきれずに永遠とも思える時間、イスカンダル様に見つめられながら涙を流し続けるのだった。