「今日から君も勇者として活躍してもらうよ」
「ようやくですか、随分と長かったですね」
とある一人の勇者に与えられた部屋……否、まるで独房のような場所でおざなりに作られたベッドの上に座る少女がいた。
鉄格子の扉を開けて入ってきたのは三好春風。大社が誇る天才的な頭脳を持つ青年。
その春風の言葉を、ベッドの上でカップラーメンを食べる少女が待ちわびたかのように顔を上げた。顔に表情はないが。
「いやぁ、上の連中も頭が固くてねぇ……説得するのに時間が、ねぇ」
「そうだと思ってました。貴方ほどの人物が時間を掛けるなど、それ以外で考えられませんし」
「それはそれは……じゃあ、早速勇者として出てもらおうかな」
「了解です。ところで……」
「なんだい?」
少女は少しだけ驚いた表情をしながら春風を見る。その理由がわからない春風は首を傾げているが……。
「どうして樹海化によって時間が止まっているのに、貴方は普通に動けるのですか?」
「……ふふ、そういうのは聞いちゃだめなんだよ?」
いたずらっぽくウィンクしながら人差し指を立てる。つまりは「黙ってろ」と言いたいらしい。無駄に顔の容姿がいい分イラッとくるのを我慢する。
少女はため息を吐くと「う~ん」と体を伸ばしながら部屋から出る。
その時小さく呟いた春風の声は少女の耳には聞こえていなかった。
「君の活躍、期待してるよ? 黒き勇者の次に期待されている最後の勇者……」
〜〜〜〜
「くぅ……今回は前回よりも数倍数が多いな!」
「文句を言っても仕方ないわよ」
迫りくる星屑を斬り伏せながら若葉が愚痴をこぼす。それに対して千景が大葉刈を振り回しながら若葉に視線を向ける。
今戦っているのは若葉と千景だけだ。友奈は退院したとはいえまだ戦えない。球子と杏は病院の特別室にて凍りついた状態なので戦力外。そして、優斗はまずどこにいるのか全くわからない……いわば不明。
勇者の力を得た若葉達は、樹海化が始まるとその場で結界の中に移るのが普通だ。だが、今回なぜか優斗だけはその場で移動しなかった。それは優斗の妹真奈の部屋から出て少し歩いただけの千景だからこそわかったことだ。なぜなら、千景の近くに優斗の姿がいなかったから。
若葉は思わず小さく舌打ちする。今この場所にいない優斗に対してではない。
無数に存在している星屑の後ろにいる二体に対してだ。
まるで射手のような姿をした男性。髪は白く後ろに撫でられており、黒いインナーに赤い外套。左手には大きな黒い弓。右手には矢はなく手ぶらだった。
敢えて名をつけるとすれば
もう一人は……大きな盾を持った鎧騎士。とある国に仕えて王のために聖杯を探し出した英雄。
モチーフとなった存在が英雄であるだけに、中身が人類の敵バーテックスだと思うと逆に憎しみという名の感情が若葉の胸に湧いてきた。
どこまで人を愚弄すれば気が済むんだ、と。
『やれやれ、なぜあのような小娘二人を殺すのに手間取っているのか、理解できんな』
『そう言うな……我が同胞達も命をかけて勇者に向かっているんだ。その勇姿を無駄にはしてはならない』
もしここに、天の神が居たらこう言うだろう。
【否、命をかける概念など星屑にはないぞ!?】と、きっとそう言うだろう。それはもう、かなり驚いた顔をしながら。
若葉は警戒心を高めて生太刀を構え、いつでも斬り掛かれる体勢に入る。その隣では鎌を構えて守りの姿勢になる千景。
それらを見たサジタリウス・バーテックスはゆっくりとした動作で、弓に矢を構え放つ。その矢の速度は勇者に変身している若葉でさえも避けるのに苦労するほどだった。
頬を掠める風の音と痛みが、それが現実であると実感する。頬に垂れる血を腕で拭き取り、改めて生太刀を構える。
「大丈夫、乃木さん?」
「あぁ……心配はない。掠めただけだ」
優斗が辿り着くまで持ちこたえられるかわからなくなってきた……。一瞬だけそう考えたが、すぐに頭の中から考えを消す。
(駄目だ……優斗に頼り過ぎたらまた、あんなことになる)
勇者としてのステータスで大きく優斗に劣っている若葉達は、自分たちの力で二人のバーテックスと戦わなくてはならない。おまけにその周囲にはまだまだ無数にいる星屑の姿がある。
状況はとても絶望的だった。このときまでは。
「勇者ーーーーパァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンチ!!」
空から流星のようにライダーキックしてきた一片の桜の姿。それを見た瞬間、千景も若葉も歓喜の感情が湧いてくる。
「「
友奈のライダーキックもとい勇者キックは縦を構えたキャンサー・バーテックスによって防がれる。そこからサジタリウス・バーテックスの追撃が来ないように後ろにバク転し、若葉達の元へ合流する。
「ゴメンね! ちょっと遅れちゃった!」
「それは別に構わないが……お前」
「高嶋さん、大丈夫なの!?」
元気いっぱいに降り立った友奈を見て、一週間前まで大怪我をしていたのを知っている千景が近づき確かめるように見渡す。
「もう~大丈夫だよ! 郡ちゃんは心配性だなぁ」
「心配するわよ! だって、だって、高嶋さんは……」
千景の脳裏に浮かぶのは、あの一週間前に無理な身体で強力な精霊酒呑童子を宿したあとの血だらけになった友奈の姿。
もうあんな想いはしなくない。友人が血だらけになっているのを黙ってみているだけなんてもう嫌だ。そういう思いが心の底から湧いてくる。
『君達の無駄話に花を咲かせるのは勝手だが……私達のことを忘れてないかね?』
その声で瞬時に警戒心を高める勇者達。その瞬間、矢が友奈の頭目掛けて飛んでくる。
「……っ!! あ、危ない!」
間一髪の所で矢に気付いた友奈が回し蹴りで叩き落とす。
『ほう……人の身でありながら私の矢を弾くか』
『お前だって体のベースは人間だろうに』
『それはお互い様ってやつではないかね?』
友奈の蹴りを見てサジタリウス・バーテックスは感心したように呟き、キャンサー・バーテックスがそれに呆れた声を出す。
強すぎる……それが二人のバーテックスを見た若葉の感想だった。
全く隙のない雰囲気、こちらを明確に殺すつもりでいる攻撃方法、そして尋常じゃない殺意。どれを持ってしても今の若葉達では相手にならないだろう。
人としての本能がそれを感じ取った。感じ取ってしまったのだ。
思わず膝から崩れ落ちる。手にとっていた生太刀も地面に落ち、その顔には絶望がある。そんなかっこうの隙を見逃す相手ではない。
『ふむ……戦場に居ながら戦意を無くすとは。まぁ、その気持ちもわからんでもないが……』
キリキリと音を立てながら矢を引っ張り、そして放つ。
当たれば待っているのは死。
「やあぁ!!」
若葉の脳みそに向けて放たれた矢は、友奈の蹴りによって防がれた。
『ふむ、これも防ぐか……ならば』
サジタリウス・バーテックスはどこからか一本の剣を手にする。それはとある英雄が使ってたとされる伝説の聖剣(魔剣)である。
その英雄の名はフェルグス・マック・ロイ。ケルト神話で知られる伝説の大英雄。
そんな大英雄の使ってた神器を手にしているのはなぜか? それはサジタリウス・バーテックスの元となった人物である
サジタリウス・バーテックスはガルドボルグを弓で引く。その瞬間、サジタリウス・バーテックスの体内に宿る魔力がガルドボルグを矢に変える。
『終わりにしてやる……偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)!!』
弓から放たれた矢偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)が一直線に友奈の元へ向かっていく。その速度は先ほどの比ではない。
今度こそ死は免れない。それを理解した瞬間、友奈の足が止まる。
(死ぬ、の? こんなところで……? まだ、何もしてないのに)
偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)が友奈の心臓に突き刺さる瞬間、
「まだ終わりじゃありません!!」
そんな声とともに飛んできた
「え……嘘、嘘だよ。こんなことって……」
声の方を向いた友奈の瞳から涙が溢れ出る。
「全く、タマ達が少〜し寝ている間にこんなことになっちまうなんてな!!」
橙色の勇者服を着た盾を持つ小柄な少女。
「仕方ないよタマっち先輩」
白い勇者服を着た守ってあげたくなるような少女。
「無駄口はいいから、さっさと片付けるぞ」
そして……
「ゆ、優斗くん!!」
「悪い。遅くなった」
黒い勇者服を着た二振りの神器を持つ少年。
今ここに6人の勇者が揃った。
「さぁて、こっからは手加減なしだぜバーテックスども!!」
優斗の体が黒い炎で燃え上がる。その光景を見て三人は心配そうに駆け寄りそうになるが、
「大丈夫だ、みんな」
「井嵩さんなら心配ないですよ」
黒い炎が大きな鳥へと姿を変え優斗の身体を貫く。すると、優斗の身に纏っていた勇者服に変化が起こる。
ロングコート風だった勇者服は和風騎士のようになり背中からは黒い炎がまるで翼のように羽ばたいている。
「我が身に降りよ、鳳凰!!」
その言葉とともに手を振り払うと黒い炎は消え去り、二体のバーテックスの元へ駆け出した。
春風ストーリーいりますか?
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ぜひ書いてほしい
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書かなくていい
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第一章・乃木若葉の書を書き終わったらで