世界の時が止まり真奈のいる病室から出た優斗は、突然自分の身体が光っていることに気づく。
「は、はぁ!? なんだよこれ!?」
驚いて騒いでしまった事で申し訳無さそうに周りを見渡す。だが、今は時が止まっているため誰からも文句は言われない。そのことに少しホッとする。
そして、光が眩く光った瞬間優斗の姿はそこから消えていた。
〜〜〜〜
光に包まれた俺が目を開けると、そこはどこか神秘的な世界の中だった。
結界によって俺達が見ていた空とは違う正真正銘の青い空。自然に生えた草花に、大きく育ったであろう大樹の
どういう場所なのか知らないはずなのに、俺の頭の中にはこの世界についての知識があった。
「ここは……神樹の中なのか?」
「正解だよ井嵩優斗くん」
不思議な世界で俺を呼ぶ声がする。その声は美しいソプラノ。聞いただけで心が癒やされるような、浄化されるような気分になる。
俺は後ろを振り返り声の主を見る。
「ふふ。こうして会うのは初めてだね。はじめまして。私は君達が神樹様と呼び敬っている存在です。気軽に話そうね?」
俺の前に現れたのは神樹そのもの。なぜ女性の姿をしているのかは知らないが。
「あ、驚いた? この姿は言わば仮の姿なのです!」
うん、知ってた。パターン的にそうだと思ってたよ。
「君をここに呼んだのは、おそらくここなら君が今一番やり遂げたいであろう鳳凰の憑依練習をさせるためだよ」
憑依?
「どういうことだ?」
「うーんとね、君達は精霊降ろしって呼んでるシステムのことだよ。アレは元々憑依っていう上級者にしかできない業物だったの。でもね、私が君達に勇者としての力を与えたから特に練習しなくてもイメージすれば憑依させることができるようになった」
言ってる意味の殆どが理解できなかった。
「まぁ、そんなことは気にしてもしょうがないよ! 今は君ができるだけ早く鳳凰の力を手に入れてもらうことが大切だからね!!」
それはわかるけど……気になっていることが一つだけある。
「時間は大丈夫なのか?」
そうこれ! これが気になっていた。いくら時間が止まっているとはいえ、若葉達は現在戦闘中のはずだ。練習してていいんだろうか?
というか友奈達は普通に憑依させたのに、なぜ俺だけ憑依練習しなくてはいけないんだろうか?
気になりはするが……。
「時間? 気にしなくてもいいよー! ここは君達が呼んでる樹海化とはまた違う力だから〜」
「そうか。まぁ、わかった……とりあえずは練習することとする」
「うんうん。頑張ってね」
なんとも言えない気の抜けるような声援を貰った俺は、死んでしまった二人を生き返らせるため鳳凰を憑依させる練習をすることとした。
それから時の止まったこの世界で何年過ごしただろう。気の遠くなるような時間を一人で過ごした気がする。時々神樹が見に来るけどそれだけだ。
俺は一向に鳳凰を憑依させられないことに苛立ちを感じていた。
なぜだ、なぜ来てくれない……そんな感情が俺の中で渦巻き闇となっていく。
違う……そうじゃない。
そんなことじゃあ鳳凰は俺に応えてくれない筈だ。
「結局……俺にあの二人を救うことなんて無理だったのか……?」
そんな事を考えた時だった。俺の身体が最初の時と同様に光り輝きその場から消える。次に目を開けたときに映った光景は……
「なんで……球子達の病室に?」
そう、球子達が眠りについている病室だった。全くもって意味がわからない。
『
その時、声が聞こえた。
まだ二十歳を超えてなさそうな男の声。まだ成長する前の女の声。もうすでに育ちきった女の声。しわがれた老人のような声。
様々な声の波長が一つとなって俺に聞こえてくる。その声を聞くだけで俺の頭がふらふらとしだし気分が悪くなってくる。
欲を言えば、今すぐトイレに行きたいレベル。
『
なるほど。この意味不明な波長をしている声の主は、どうやら俺が憑依させたかった鳳凰のようだな。
「それはつまり……お前を憑依させてもいいってことか?」
『
なるほどな。
「なら、遠慮なく……」
俺はいつものように自然に勇者服を身に纏う。初めてやったときはかなり戸惑ったが、バーテックスと殺し合いをしているうちに慣れてしまった。
俺はすぐさま鳳凰を自分の身体に憑依させる。精霊降ろしの重要点はイメージすること。自分が鳳凰を憑依させた姿を想像することだ。
ぶっちゃけかなり難しい。だが、今の俺にとっては簡単とも言える。友奈が二体の精霊(妖怪とも言える)を身に宿したときのがきっかけとも言えるな。
だからこそ鳳凰の気配が身体に宿るのがわかる。わかるのだが……
「あ、熱い……なんだ、この、身体の熱さは……!?」
なぜか身体中な物凄く熱くなった。というか絶賛燃えてます。黒い炎で。えぇ、まじでなにこれ……?
普通だったら恐怖を抱いてもおかしくはない黒炎に包まれているというのに、何故か怖くも熱くもない。逆にどこか心地よくそして懐かしい感じがした。
身体は熱いのに、黒炎は熱くないという矛盾が生じているが、今は気にしなくていいだろう。
手を二人にかざす。すると、俺の身に纏わりついていた黒炎が、二人の身体に覆い尽くす。
数分ほど時間が経つと二人の身体を覆っていた黒炎は消え、少しずつ瞼が上がっていく。
「あれ? 私達確か死んだはずじゃあ……?」
「タマ達生きてるぞ!」
元気に騒ぐ二人を見て、心の底から込上がってくる想いを止めれなかった。
「球子! 杏!」
「うおぉ!?」
「きゃあ!?」
思わず二人を抱きしめて地面に倒れる。一応相手はまだ死の狭間から帰ってきたばかりなので、倒れる方向は俺の方にした。
だって起き上がって早々に体を地面にぶつけるとか嫌だろ? うん、俺は一体誰に言い訳してるんだろうな?
俺のアホな意地で身体を地面に強打したことと初めて鳳凰を憑依させたことへの疲労感から、勇者に変身していたのが解除され私服に戻る。
「良かったぁ……本当に良かった」
「お、おい。そんなに泣くなよぉ、調子狂うじゃないか」
「無理ないよ。さっきまで私達死んでたんだし」
ちょっと情報理解するの早くないですかね杏さん?
「ま、まぁ……優斗がタマ達のことを思って泣いてくれているのだと思うと、タマは嬉しいぞ」
「うん、そうだね。私も嬉しいかな」
二人はとても嬉しいことを言ってくれる。今この現状が俺が生み出した幻想なのでは、と思うほど嬉しい。
「さ、さぁ! タマ達も若葉達に加勢しに行こうじゃないか!!」
球子の言葉で杏と俺の気が引き締まる。そうだな。いつまでもここにいたら駄目だよな。
「取り敢えず……俺の楽園を潰そうとした罪で、バーテックスは一人残らず殲滅してやる!!」
「井嵩さん、キャラ変わってますよー」
知るかそんなの。
「まぁ、取り敢えず……サクッと加勢しに行くか」
「バーテックスどの戦いが物凄く軽く感じるよ」
杏がなにか言ってるが無視で。
俺の身体が黒いオーラに包まれすぐに勇者服を身に纏う。見れば、杏と球子もそれぞれ白とオレンジの勇者服を身に纏っていた。
「さぁ、俺達の平穏を取り戻しに行こうぜ」
俺の言葉に二人は頷いて外へ出た。
〜〜〜〜
『ふむ、新たな力を手に入れたか……少し面倒だな』
『だとしても我らのすべきことは変わらない』
『フッ、それもそうか』
サジタリウス・バーテックスは弓を構え矢を放つ。常人なら見ることも聞くこともできない速度で飛ぶその矢を、いとも簡単に斬り伏せた。
優斗がやったのはただ焔香を横に振っただけ。焔香から溢れ出る黒炎の熱気が矢の速度を遅め、それを真っ二つにしたのだ。
全くもって理解不能過ぎる反応速度と無駄に凄い技術である。なお、その二つに関しては本人も自覚しているらしい。
『あいつ、本当に人間か?』
『流石に私もそう感じたよ』
「いや、お前らにだけは言われたくないんだが!?」
サジタリウス・バーテックスとキャンサー・バーテックスの呟きにツッコミを入れてる時点で人間なのかは疑わしい。なぜなら、この二人の会話に反応できたのは優斗だけであり、他の勇者達はまずその声を聞くことすらできていないのだ。
それは優斗の中にあるとある
「くそ……前回のスコーピオンの時とは違って、なんか緩いぞこの戦い」
『ふん、あんな考えなしに槍を投げる猛犬と一緒にしないでくれたまえ』
「えぇ……」
『そもそもの話、私と彼は梱包的に相性が悪くてね。共にいるだけで殺し合う仲ではあるのだがね』
なぜか説教が……というか長話が始まった。サジタリウス・バーテックスの隣りにいるキャンサー・バーテックスも呆れた顔をしているのが見える。まぁ、サジタリウス・バーテックスは一切気づいていないが。
傍から見ればこの光景はバーテックス側は大きく隙を見せていることになるが、勇者達はそれを見ても警戒は怠らない。何があっても油断しない。スコーピオン・バーテックスどの戦いは勇者達の心に大きなトラウマを植え付けたからだ。
「ってか、お前の事情なんかどうでもいいだろ!」
優斗は黒炎の翼を広げキャンサー・バーテックスにタックルする。キャンサー・バーテックスはその大盾でタックルを防ごうとするが、通常時よりも漠然にステータスの上がった優斗の突撃を防ぎきれず、後ろの方に大きく吹き飛ばされる。
若葉達は優斗がキャンサー・バーテックスの相手をしているのを見て、サジタリウス・バーテックスに向かう。
「優斗がキャンサーと相手しているうちに私達はやつを倒すぞ!」
「おうよ! 復活して強くなったタマの実力に恐れ慄け!」
頭を狙った矢は球子が神屋楯比売を盾に防ぐ。自分で強くなったというだけはあり、球子の反応速度は復活前とは比べ物にならない。
若葉はそんな球子に安心感を抱くと同時に、頼りがいを感じた。
戦いは球子、杏、優斗の加勢により勇者側に付き始めた。
友奈は一目連を宿し速さに特化した精霊憑依状態となる。杏は雪女郎を宿し守りに特化した精霊憑依状態。
『ふん! そうやっていられるのも今のうちさ』
サジタリウス・バーテックスはとある一つの剣を投影すると矢につがえ放つ。その狙いは赤と黒の勇者紅蓮華をモチーフとした服を着た千景だった。
「……っ!? 郡ちゃん逃げて!!」
友奈の声で狙われていることに気づいた千景が矢を避ける。だが、矢はまるで生き物のような意思を持つかのように起動を変え千景を狙う。その光景は獲物を逃さない猟犬のよう。
その矢が元となった剣の名は
執拗に狙い続ける矢を千景は避け続けるが遂に矢が千景の心臓を貫いてしまう。
「あぁ……郡ちゃん!!」
友奈が目に涙を浮かべ矢を放ったサジタリウス・バーテックスを睨みつける。だが、その怒りの表情は、次の瞬間驚愕に変わった。
なぜなら――
『ぐふぅ……!? な、なに!?』
サジタリウス・バーテックスの胸から千景の使う大葉刈の刃が突き刺さっていたからだ。その姿は先程までとは異なり、白いフードがついた装束に変わってる。
「ねぇ、今どんな気持ちかしら? アレだけの大事を言っておきながらその殺したと思っていた勇者に背後を取られてる……ふふ、正に滑稽という言葉が似合うわね」
「これ以上ないぐらい千景が煽りに来てる……!?」
「千景さん、恐ろしい子っ!?」
サジタリウス・バーテックスから大葉刈を抜くとたまたま近くにいた若葉の隣に来る。
「どうやったんだ?」
「簡単よ。七人御先を憑依させたの」
七人御先……それは高知県を始め、主に四国地方及び中国地方に伝わる亡霊の集団または荒神や祟り神、行合い神の類ではあるが、妖怪の一種として扱われる事もあり、妖怪の犠牲になった者を祀って「神」にする場合もある。
七人同時に倒さないと何度でも復活するその力はもはやチートと言ってもいいだろう。その相手が人間であれば、の話ではあるが。
「これなら……あの憎たらしい笑みを浮かべるサジタリウスを倒せるわね」
「な、なんか少し怖いぞ」
思わずといった感じで若葉が後退る。
若葉も源義経を憑依させ、その速度を活かしサジタリウス・バーテックスの懐に入ると鋭い一閃を繰り出す。
『くっ……ちぃ!!』
サジタリウス・バーテックスは舌打ちすると弓を放り投げ両手に干将・莫耶を投影する。剣による二人の戦いは誰が見ても唖然とするほどであり、友奈達がその中に入る余地はなかった。
だが、サジタリウス・バーテックスが若葉の居合の間から逃れようと大きく後ろに飛んだのを見た杏がすぐさま矢を放つ。
球子も神屋楯比売を投げ杏の援護をする。
凄まじいほどの連携にサジタリウス・バーテックスの注意が逸れる。
「いっくよーー! 千回! 連続! 勇者……パァァァァンチ!!」
いつの間にかサジタリウス・バーテックスの懐に入っていた友奈が早すぎて手が増えたかのように見える速度で勇者パンチを繰り出す。
『ぐうぅぅ……ぐああああああぁぁぁぁぁぁ!!』
地面に叩きつけられたサジタリウス・バーテックスがヒーローアニメのように爆殺し若葉達の勝利が決まった。
それと同時にキャンサー・バーテックスが若葉達の元へ飛んできた。
「そっちはもう終わったか」
焔香を担いだ優斗がそう言いながら降り立つ。
『くっ……舐めるなよ人間が!』
怒りに満ちた顔でキャンサー・バーテックスが優斗を睨みつける。
「これで終わりだ……」
そう言って優斗が黒炎を纏った焔香を振り下ろしたときだった。
「悪いな、これ以上オレの仲間を殺されるわけにはいかない」
突然現れたフードを被った少年が素手で焔香を握りしめた。
「な、なに!?」
驚いて隙を見せた優斗の腹をフードの少年が蹴り飛ばす。
「かはっ!?」
「なっ……優斗無事か!?」
「乃木さん、いまのを見て無事に見えたなら眼科を紹介してあげるわ」
腹を抑えて蹲る優斗に寄り添う千景は、若葉に毒舌を吐く。
「くく。無様だな黒き勇者様よ。こ~んな生身の人間にやられて行動不能になっちゃうなんてさ」
「き、貴様ぁ!」
「おっと……今日は別に殺し合いに来たんじゃないんだよ。まぁ、ただの様子見のはずだったんがなぁ」
フードの少年は動けないキャンサー・バーテックスを担ぎ上げる。
「今日のところはこれまでにしとこうか。次攻めるときはこれぐらいの蹴りで倒れるなよ? じゃあな」
フードの少年は空いている右手に
今回の戦いは引き分けに終わってしまった。優斗の努力も若葉の鍛錬も無駄だったわけでもない。
ただ相手が強すぎた。それだけのことだった。だとしても引き分けに終わることは勇者としては負けに等しかった。
「く、くそが……」
優斗の目から涙が溢れる。血が出るほど拳を握りしめ地面を殴りつける。
そして、そのまま意識を失った。
俺のモチベーションのためにも感想を……感想をください。無理強いはしませんが、感想が欲しい