水が流れる音とともにカポーンと竹のぶつかる音が温泉内に響き渡る。
緊張感溢れる戦いをしたことで疲れきった身体が休まるのがわかる。
竹で作られた壁の向こう側からは女の子達の楽しそうな声が聞こえてくる。
「あぁ、これぞまさに極楽ってやつか」
「ふふ、言い方がおっさんみたいだよ優斗くん」
「うるせぇなぁ〜いいだろうが」
普段の優斗からは考えられないほどみっともなくだら〜んと腕を伸ばし、空に顔を向けている。
共に温泉に浸かっているのは毎度おなじみ(おなじみ?)三好春風。
今回“撃退した”という結果だけしか知らない大社の計らいにより、春風を含めた勇者メンバーは温泉旅館にて羽根を伸ばしに来ていた。
(……最後の勇者、か)
それは、今から数日前のことである。
〜〜〜〜
引き分けというかなり悔しい結果に終わってしまった俺達。肉体こそ傷はそこまでないが、心に傷ができてしまった。
何もできなかった。最後に現れたフードの少年に何もできなかった。勇者の力を持っている俺を相手にして、俺が一方的にやられるなんて思ってなかった。
もしかしたら俺は、かなり思い上がっていたのかもしれない。
というか、なんで俺は個別で現実世界に戻されるんだよ……いや、一応樹海の中もある意味では現実世界だけどさ。
「無様ですね。黒き勇者だなんて呼ばれていい気になってたんじゃないですか?」
少女の声がした。聞き慣れた若葉達の声とは違う。
「全く、春風さんもどうしてこのような人を最強の勇者などと……」
顔を上げて声の方に振り向く。すると、壁に背を預けて腕を組んでいる長身の少女がいた。誰が見ても必ず二度見はするだろうと予想できる綺麗な長い金髪。まるでモデルのようなスラッとした身体。
「何を見ているんですか? もしかして、ワタシに見惚れちゃいました? でもごめんなさい。貴方はワタシのタイプではないのでそのご希望には答えられません」
「なんか勝手にフラれたみたいになってるけど全っ然違うからな!?」
「おや? 随分とキレのいいツッコミですね。これは弄りがいがありそうです」
なんなのこいつは……。
「説明しよう!!」
あ、春風さん……アンタどっから入ってくるんだよ。普通に扉から入れよ。なんで壁から上半身突き出てんだよ……意味分かんねぇ。
「あぁ、これのことかい? 気にすることはない! ティアの身体を調べるのに服を脱がそうとしたらこうなった!!」
「そりゃあアンタが悪いな!! ってか、そもそも女の子の服を脱がそうとする意味がわからねぇよ!!」
何をどうしたらそんなめり込み方をするのかは謎だけど、なんでそんなに嬉しそうに笑顔を浮かべてるんですかねぇ?
ちょっと……いや、かなり気味の悪い光景だなぁ。脱げだすのが困難なほど壁にめり込んでるのに浮かべてくるのは苦痛じゃなく歓喜の表情。うん、俺じゃなかったら気を失ってたな絶対。
杏あたりに見せたら面白いぐらいに悲鳴を上げるんじゃないだろうか? ちょっと試してみたい好奇心が湧き上がるが、その後の俺がどうなっているのかを想像しやめておく。俺はまだ死にたくない。
「はぁ……」
なんだろう……星屑と戦ってる時よりもどっと疲れた気がする。
「あ、そうだ……優斗くん、君たち勇者は今度の休みに温泉に行けるよやったね羨ましいな!!」
「きゅ、急にキレるなよ……」
それにしても温泉か……たまにはゆっくりと浸かりたいな。
「それは、真奈も?」
「うん、大丈夫だよ」
よし、みんなで行くか。
「言っておきますが、ワタシは行きませんよ? まぁ、ワタシの裸を覗く気なら、行ってあげても構いませんけど……その後どうなってるかは保証しませんが」
「誰が覗くかぁ!!」
もうヤダこいつ……。
その後、春風さんから貰った(というより押し付けられた)ファイルを見ながらティアの部屋を案内する。
「ここがアンタの部屋だ。内装とかは決められてないから好きに改造してくれても構わない」
「わかりました」
「ところで、その……なんなんだ? この、やけに重たいダンボールは?」
ほとんど俺が持ち運んでいるダンボールの箱。なにかがぎっしりと詰まってるみたいでかなり重たい。
「カップラーメンです」
「は?」
いやいやまさか……あんな軽いカップラーメンをいくらぎっしり詰め込んだとしてもこんなに重たくなるわけが……
「マジでカップラーメンじゃねぇか」
「だから言ったじゃないですか。カップラーメン、美味しいですよ? 王道ですがシーフードや醤油味は人間であれば必ず一度は食べているはずですよねなにせカップラーメンのキング・オブ・キングと呼んでも過言ではありませんし」
いや、知ってるけど。カップラーメンが美味しいのはわかるけど……王道かどうかは別として。
「なんでこんなに……まぁ、いいか」
取り敢えず部屋の中にダンボールを置く。
「あとは好きにしてくれ。俺は若葉達のところに行くから」
そう言って扉を閉める。
ため息を吐きたくなってきた。我慢しよ。
「みんなで温泉旅行?」
「あぁ、春風さんが密かに予約していたらしいんだ。俺達のためにな」
ティアの部屋をあとにして若葉を探すこと数分。いつも通りの場所にいるだろうなぁって思ってた訓練場――春風さんが勝手に設計して改造しやがった旧体育館に若葉はいた。いつもならいるはずのひなたの姿はない。
「まぁ、たまにはゆっくりと休めって言いたいんだろうな。俺らってほとんど鍛錬やら勉強やらしてるし」
「一刻も早くバーテックスを倒すためだ。仕方ないだろう」
「いや、まぁ……そうだけどさ、だからって自分の体調管理を疎かにはしちゃいけないけどな」
「それもそうだな。わかった。他のみんなには私の方から言っておこう」
そう言って若葉は訓練場を後にした。本当に思うけど春風さんいつの間に旧体育館を改造したんだろうか? 謎すぎるんだが……マジで。
まぁ、そんなとこはどうでもいいか。
「温、泉……? 行きたい行きたい!!」
「はは……だと思った」
病室で真奈に温泉の話をしたら目をキラキラさせながら乗り出してくる。危ないからちゃんと寝ながら聞きなさい。
「まぁ、そういう反応になるとは思っていたさ。俺達が温泉に行ったのももう随分と前だもんなぁ」
「うんっ!! だから久しぶりに浸かりたい!!」
「まぁ、春風さんも真奈を連れて行く気みたいだし……いいんじゃないか?」
すげぇ嬉しそう。
すっげぇ瞳がキラッキラしてるじゃねぇか。
「じゃあ、温泉に行くための準備だけはしとけよ?」
「うん!わかった!!」
真奈はすぐさま起き上がるとどこからかでっかいカバンを取り出してきた……うん?
「お前それ今どっから取り出してきた??」
「うにゅ? ベッドの下からだよ〜」
「嘘でしょ……」
嘘じゃなかった。マジでベッドの下にカバンがあった……。
〜〜
今日は待ちに待った温泉の日! 大好きな兄さんや勇者のみんなと温泉に行ける。これだけで私は幸せものだよ〜。
千景ちゃんとは会ったことあるけど、まだ他の勇者さんとは会ったことなかったから凄い楽しみ!!
「みんなと会う準備はできてるか?」
隣で兄さんが心配そうな顔で聞いてくる。そうだよね。私は病室で暮らす日々が多いから友達いないのすごく心配してたぐらいだもん。
「安心して兄さん。もう(勇者様に失礼のないように)準備はできてるよ」
「そうか……良かったよ。ちゃんと(友達作りの)準備ができてるようで」
なんだか兄さんと私の間で認識による違いを感じたけど、まぁいいかな〜。
兄さんは私の手を引いて病院の外に出る。すると目の前には少し大きめの車が停まっていた。車の前には6人の女の子と春風さんがいた。
私は一直線に千景ちゃんに突撃する。
「千景ちゃーーーーーーーーん!!」
「えっ? 真奈ちゃ……ごふぅ!?」
突撃したら千景ちゃんが腰を曲げちゃった。なんでだろう?
「な、なんだこの子は?」
「かっわいい〜〜!! お人形さんみたい!!」
「なんだなんだぁ? 随分と元気のいい女の子じゃないか」
「そうだね」
「いや、その前に千景さんを助けてあげましょうよ」
私が千景ちゃんのお腹にスリスリと頭で撫で付けていると、他の5人がそれぞれ違う反応を見せる。
「何やってんだよお前は……」
遅れてやってきた兄さんが呆れた顔でそう言ってくる。
「兄さん遅〜〜い」
「千景を見つけた瞬間、一直線に突撃するとは誰も思わねぇだろうが普通は!!」
「えっへん!!」
「褒めてねぇよ!」
兄さんなんで怒ってるの?
「あ、あの……井嵩さん、その子は?」
「俺の妹だよ。井嵩真奈っていうんだ」
「そうなんだ~。私、高嶋友奈! よろしくね!」
「乃木若葉だ。勇者としてリーダー的な存在だと思ってくれていい」
「土居球子だ! なにか困ったことがあったらこのタマになんでも言ってくれタマえ!」
「伊予島杏です。仲良くできたら嬉しいなぁ」
「上里ひなたです。大社で巫女として務めています」
みんながみんな、ちゃんと挨拶してくれる。病院にいる私と同い年ぐらいの子供は仲間はずれとか平気でしてきたからなんだか心がポカポカする〜。
「はじめまして、井嵩真奈です! 皆さんとお会いできて光栄です! あいにくと私に戦う力は与えられてないので、料理などでサポートしたいと思います!!」
「はは……嬉しいことを言ってくれるな〜タマは嬉しいぞ」
「料理かぁ……食べてみたいなぁ」
「うむ、よろしく頼むぞ真奈」
「改めて、よろしく真奈ちゃん」
「よろしくね真奈ちゃん!」
地元では最後まで作れなかった友達が、今ようやくできた。それに私の心が感動したのか
「お、おい……!?」
「なんで泣いてるの!?」
私は、涙を堪えきれなくなってしまった。
「だって……だってぇ嬉しいんだもん! 私、今まで友達いなかったから」
「真奈ちゃん……」
これ以上涙が溢れないように手で目を覆っているのにも関わらず零れ落ちてしまう。その様子を見て千景ちゃんが私の頭を撫でてくれる。
まるで壊れ物を扱うような手付きで撫でる。それがとても優しくて、ただえさえ第一人称だけで好きになったのにもっと好きになりそう。ううん……
「結婚しよう千景ちゃん!! 今すぐ!!」
「ええぇ!?」
「ええええええええぇぇぇぇぇぇぇ!?」
あ、兄さんがとてもじゃないけど放送できないような顔してる。
「まーまーいいじゃないか。それより早く温泉に行こうじゃないか」
春風さんがナイスタイミングで声をかけてきた。
私は喜々とした表情で車に乗り込む。外から見てて思ったけどやっぱり中身も大きいなぁ。
さぁさぁ、楽しい楽しい温泉だよ〜!!
できれば感想くれたら嬉しいなぁ。そしたらもっと更新速度上がるかもしれないなぁ。ほしいなぁ(それはもはやただの願望)