美しき舞う花と黒き勇者   作:プロトタイプ・ゼロ

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第十二話「温泉」

 

 

〜〜井嵩真奈〜〜

 

 そこは井嵩の血を継ぐ私にとって天国と呼んでもいい楽園。日本に住んでるほとんどの人間が愛してると言っても過言ではないと思う。

 

 そんな楽園である温泉を前に私は、井嵩の血が滾るのを我慢できず……

 

「ひゃっほ〜〜い!!」

 

 思いっきり温泉に向かって飛び込んだ。

 

 普通に考えて行儀が悪いけど、私にとっては温泉なんて小学生の時に一回行ったきりなんだ。どうか許してほしい。女の子なんだから飛び込むな、なんてそんなまるで犯罪者を扱うような言葉で責めないでほしい。

 

 私は、私は……井嵩の血に抗えなかったんだ!!

 

 いつも着けている眼帯はどうしたって? 大丈夫! 春風さんが改造した影響で防水付与されてるから、たとえ火の中、水の中、草の中、森の中、土の中、雲の中、どこに行っても大丈夫なようになってるんだよね! 水の中で泳ぐときにゴーグル代わりになるし、何かと便利なんだ〜。

 

「こら真奈。温泉に飛び込んではだめだろう!!」

 

「まぁまぁ、いいじゃないですか。真奈ちゃんは滅多に温泉には来れないみたいですし」

 

 なんか若葉さんとひなたさんが、お母さんとお父さんの会話みたいなことしてる。夫婦っぽいなぁ。

 

「そんな……夫婦だなんて……ぽっ」

 

 なんで思ってることわかったし!?

 

 な~んかひなたさん腹黒そうなんだよなぁ。見た感じ聖母のような雰囲気あるけど。

 

「それにしても……極楽だなぁ」

 

「もう、発言がお爺さんみたいですよ若葉ちゃん」

 

 そんな会話が聞こえてくる。今頃兄さんは隣の風呂場で何してるんだろう……? そんなことを考えていたら勢いよく扉が開いた。

 

「タマが一番乗り〜って、もう三人もいる!?」

 

「もうタマっち先輩が色々と見て回ってるからだよ〜」

 

「ははは……」

 

「はぁ……馬鹿らしいわ」

 

 球子さんが入ってきて杏が少し怒りながら続いてくる。友奈さんが苦笑いし、千景ちゃんが呆れた表情を浮かべている。

 

「あらあら〜いつもどおり元気そうですねぇ」

 

「まぁ、そうだな……私はいつも球子の元気さに勇気をもらっている」

 

 球子さんって見るからに元気を勇気に変えてくれそうですもんねぇ。

 

「さぁて、読者のみんなもお待ちかね! いつもの定番いってみようか」

 

「た、球子さん……? その手付きはいったい……」

 

 急に様子を変えた球子さんを見て、ひなたさんは本能的に何かを悟ったのかタオルで前を隠す。

 

「成長検査の身体チェックだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 なんか急に球子さんが叫びだした。そして、なぜかギラついた鋭い目はひなたさんに向けられている。

 

「え? なんでしょう?」

 

 ひなたさんも球子さんのギラついた目に気づいたようで、不思議そうに首を傾げている。

 

「げへへ〜ひなたのお○ぱいは登りがいがありそうだなぁ」

 

 球子さんは、手をワキワキさせながら、まるでどこかのスケベオヤジのようなセリフを吐いて、少しずつひなたさんに近づいていく。

 

 ひなたさんは尋常じゃない球子さんの様子に一歩ずつ後退っていく。そんなひなたさんに救世主が現れた。

 

「タマっち先輩! 温泉は人の体を調べる場所じゃないんだよ!」

 

 今まさに隅々まで調べようとしていた球子さんから助けられたひなたさんにとって、杏さんは救世主のように見えただろう……実際、私にとってもそう見えた。

 

 温泉とは神聖なる場所。そんな邪な感情を抱きながら入るものではないのだ〜。

 

 最初こそ球子さんは「むむむ」と呟いていたが、ふと杏さんの身体を見て目の色を変えた。

 

「あんずぅ……よく見たら、お前も成長してないか?」

 

「ふえぇ!?」

 

 いくら今回この温泉が大社によって貸し切りになったとはいえ、隣の温泉には兄さんと春風さんがいる。乙女心が湧き上がるお年頃と言ってもいい女の子たちがしていい会話じゃない気がする……。

 

 その証拠として杏さんは顔を真っ赤に染めて逃げようとしていた。だけど、それよりも早く球子さんが杏さんに抱きついた。

 

「わっははははははは〜! こうなったら隅から隅まで調べ尽くしてやる〜!!」

 

「ひぃやああああああ!?」

 

 身体中を弄られて可愛い悲鳴を上げる杏さん可愛いしなんかエ○いです。ありがとうございます!!

 

「もう〜温泉はゆっくり入って疲れを癒やすものだよ〜。球子さんはわかってないなぁ」

 

 流石に杏さんが可愛そうなので助けようと私は立ち上がる。すると、

 

「キラーーン! 杏に負けて劣らずの身体じゃないかぁ。このタマが調べてやるぞぉ」

 

 まさか、私の方にまで横先が向いてくるとは思わなかったです。私は別にそこまでスタイルがいい方だとは思ってなかったから……球子さんが私目掛けて飛びついてきたときは恐怖のあまり目を瞑ろうとした。

 

 

 だけど、それよりも早い速度で、隣の壁から何かが飛んできた。

 

 ヒュン!! ザクッ!

 

 そんな音を立てながら私と球子さんの間に突き刺さったのは……

 

「黒い……刀??」

 

「げぇ!? この刀って……」

 

 私にとっては見覚えがないけど、球子さん達にとっては凄く見覚えがあるらしい。

 

『球子、温泉ではしゃぐ気持ちはわからんでもない。だけどな、あんまりふざけたことやってると……次は刺すからな?』

 

 壁の向こうから兄さんの声が聞こえてきた。それも、かなり怒気のこもった声で。

 

「は、はぁい……」

 

 球子さんはあまりの衝撃で腰が抜けたみたい。ひょろひょろと地面にお尻をつけていた。

 

「彼……意外とシスコンなのね」

 

「いいんじゃないかな……ライバル、増えそうだなぁ」

 

「高嶋さん!?」

 

 友奈さん……そのハイライトのない瞳で私を見ないでください。とても怖いです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜井嵩優斗〜〜

 

 

「ふぅ〜いい湯だなぁ」

 

「そうだね。疲れた体に効くよこれは……」

 

 最近春風さんは調べるものが多くて忙しかったり、色々と研究が捗っているのか寝てないことが多いらしい。

 

 流石に運転中に寝ることはなかったけど……というか運転してたの別の社員さんだったけど。

 

 仮面を被った社員さんに「寝かせておいてください……本当にあの人寝てないんです」って言われたときは流石にちょっと驚いた。

 

 春風さんのなにがそこまでやるのか俺にはわからないけど、その春風さんが爆睡するぐらい忙しいってことは早々ない。

 

 なぜなら春風さんは大社が誇る頭脳の持ち主だからだ。つまりは天才の部類に入る。大社の中でも特に少ないエリートメンバーの一人らしく、休みの日なんてあるのかって思いたくなるほどブラック企業も涙目な大社で日夜俺たちのために働いている。

 

「それで〜一体誰が好みなんだい?」

 

 ニヤニヤとしたウザってぇ笑みを浮かべながら春風さんが肩を組んでくる。

 

「なんの話だ?」

 

「またまた〜とぼけちゃってさぁ。あんなにも可愛い娘達に囲まれてるのに、なんの感情も抱いていないなんてないだろう?」

 

「仮に気になる子がいたとしても、アンタにだけは絶対に教えない」

 

 春風さんはニヤニヤとしたまま「へぇ〜」と呟く。なんかウザい。

 

「あんまりふざけたこと言ってるとぶっ飛ばすぞ……女子風呂に」

 

「それは割とシャレにならないし君なら絶対にやりかねないねうんわかった謝るよごめんねだから許してくれないかな?」

 

 すげぇ息継ぎすることなく言い切ったぞこの人。違う意味で尊敬できるかもしれない。

 

「はぁ……たく」

 

 向こうも向こうで結構楽しんでるみたいだな。こう言ってはなんだが、俺は他のみんなと比べてかなり異質な勇者だ。生身でも身体能力は上がってるし、意識してなくても遠くの声とか普通に聞こえる。

 

 まぁ、つまり何が言いたいのかというと

 

『キラーーン! 杏に負けて劣らずの身体じゃないかぁ。このタマが調べてやるぞぉ』

 

 こういう妹に悪質なイタズラをしようとしてる球子の声も聞こえちゃうわけだ。

 

「ん? どうしたんだい? いきなり凪咲くんを呼び出して……ま、まさか」

 

――あれ? 戦闘以外で呼び出されるのって初めてだね……ところでは君は、なぜ私を投げ槍のような構えで持っているのかな?

 

 俺は無言で立ち上がると位置的に球子と真奈の間に刺さるように凪咲をぶん投げる。

 

 その時凪咲の悲鳴が聞こえたような気がしたが……多分気のせいだな、うん。

 

『黒い……刀??』

 

『げぇ!? この刀って……』

 

 あ、そうか。球子は俺の神器は知ってるけど、真奈は勇者じゃねぇから見せたことがなかったな。

 

「球子、温泉ではしゃぐ気持ちはわからんでもない。だけどな、あんまりふざけたことやってると……次は刺すからな?」

 

 少し怒りを込めた声で球子に警告する。真奈は別に目が見えないわけではないが、あの瞳はその気になれば同性でさえも魅力することが可能だからな。

 

 前もって春風さんに水の中でも着けられるように、更に改造してもらった。正直過保護だと言われてしまえば終わりだが、唯一の身内だから仕方ないね。

 

「はぁ……もう上がる」

 

 手元に凪咲を呼び寄せて俺の中に戻す。春風さんは手をヒラヒラさせながら酒を飲もうと……どっから出した?

 

 ガラガラガラという音を立ててドアを開ける。タオルで身体を拭き服に着替える。服というよりは浴衣か……。

 

「……」

 

 これから先、俺はどうすればいいんだろう。敵は強い。正直今の実力では到底勝てない……そんな気がする。

 

――随分とお困りのようだなぁ?

 

 ……お前は誰だ?

 

オレか? オレはお前さ

 

 どういう意味だ?

 

ククク、まぁ、わからねぇだろうなぁ。人間として生きているお前には、なぁ

 

 何が言いたい!?

 

丁度いい機会だ。教えてやるよ……オレの名をなぁ

 

 そいつはニヤニヤとした雰囲気を見せる。姿は見えないけど。

 

オレはウルフ・バーテックス……てめえの半身さ

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