〜〜乃木若葉〜〜
温泉から上がった私達は優斗を除いて部屋で集まっていた。
「それにしても、優斗のやつ、いつ部屋に来るんだろうな?」
「春風さんは普段の疲れが出てもう寝てしまっているようですが、優斗さんはどこにもいらっしゃいませんし……心配ですね」
もう2時間近く経つが一向に優斗が来る気配がない。いくらなんでもこれはおかしいと思う。
いくら待っても優斗が来ないことに不安を覚えたのか真奈が探しに行こうとしていたが、私達全員で止めた。本人曰く両目を隠す眼帯はオシャレのようなもので実際には見えているらしいが、どうにも信じられない。
春風さんが改造したものだと聞いたときは瞬時に納得してしまったが……それでも行かせるわけにはいかない。
「なんだ……もう遊んでたのか?」
私達の心配を返せと言いたくなるほど、優斗は普通に入ってきた。
「悪いな。少し考え事しててさ、遅れちまった」
「大丈夫だ。まだ始めたばかりだからな」
「そりゃあよかった……じゃあ、
なにか違和感を感じた。それがどういう違和感なのかはわからないが、今の優斗は優斗なのかが私にはわからない。
「若葉、どうした? オレの顔をそんなに見つめて……?」
「えっ? あ、いや……なんでもない」
そんなに見つめていたのだろうか? 私にはわからなかったが……やはり、今の優斗はどこかおかしい。そんな気がしてならない。
私も疲れているのだろうか?
それからはこの抱いた違和感を忘れようと思い、みんなと遊ぶことを選んだ。
日頃ゲームをしているからか、千景が一番強かった。私達はでも足も出なかった。
最後まで千景といい勝負をしていたのは優斗だった。初めの方は
「ふう……少し飲み物買ってる」
数時間遊んだせいで喉が渇いたのか優斗が立ち上がると襖を開けて出ていった。
「なんだか今日の優斗くん、少し変だったね」
友奈の瞳を見て私はゾッとした。なんだあのハイライトのない闇が見えそうな瞳は……。
〜〜???〜〜
ふぅ……流石に遊びすぎたかな。どうやらあの連中の中では乃木若葉のみオレの違和感に気付きかけているみたいだが、結局最後まで完全には気づかなかったみたいだな。
オレは誰もこなさそうな場所で大きな丸い鏡を出現させる。その瞬間、オレの髪が黒から白へと変わり、黒い瞳が赤くなる。そして、鏡の向こう側に写っているオレの姿は何も変わってなかった。
『おいどこだここは!? ここから出せ!!』
「うるせぇな……もう少し静かにしてろよ。まぁ、お前の声はオレ以外には聞こえないけどな」
鏡の中にいるのはもう一人のオレ……光と呼ぶべき存在の方だ。
「鏡の中っても案外悪くねぇだろ? なにしろ、鏡があるところであればどんな場所でさえも見れちゃうんだからなぁ」
『テメェ……何が狙いだ!?』
「さぁてな? まぁ、もうちょっと楽しんだら返してやるよ。それまではオレが井嵩優斗だ」
そう言って鏡を小さくする。鏡の中から『卑怯者!』とか聞こえてくるけどむしろ大好物です。
来た道を戻り部屋に入る。
「あ、優斗!」
「ん? どうした若葉!?」
なぜか顔が真っ赤になってる若葉が突然抱きついてきた。
「私はここにいるぞー? ほら、怖くないからな〜」
「……え?」
駄目だ。少し待ってほしい。ちょっと……いや、全然理解できないけどどうなってるの?
「あぁ~~井嵩しゃ〜ん。待ってひゃいたよ〜」
伊予島杏……お前もか。
「優斗くぅ~ん!」
「ぐはぁ!?」
え? なになに!? 何が起こってるの!? なんで友奈さん顔面にタックルしてきたの!? しかも意外と盛り上がってた胸のおかげで首を少し痛めた程度に済んだけど。
「タマ〜タマタマ〜」
球子は……いつもどおりだな。
「タ〜マ! タマタマタマ! タマ〜!」
ごめん。何言ってるか理解できない。
「井嵩くん!」
「は、はぁい!? なんでしょう? 千景さん!?」
「私と高嶋さん! どっちが大事なのよ!?」
「一回落ち着いてもらってもいいかな?」
「優斗さん……甘やかさせてあげますよ。こちらに来てくださいな」
いや怖いんで行きたくないです。
「私と上里さん! どっちが大事なの!?」
「さっきと質問変わってるけど!?」
「うるしゃい! 答えなしゃい!」
め、面倒くせぇ……。オレがいない間に何があったんだこいつら……って
「もしかしてお前らお酒飲んだのか!?」
足元には空になった酒が転がっており、少しだけだが若葉たちから酒の匂いがした。
「マジか……一番飲まないだろうと考えてたお前が飲むなんて」
とりあえず離れてもらっていいですか? いつの間にかみんな抱きついてるせいで地味に重たいし柔らかいし甘い匂いもするから男としては落ち着かない。まぁ、今はバーテックスなんだけどね。肉体は人間だけど。
あ、ヤバい……意識が。くそ! もっと
〜〜井嵩優斗〜〜
「いい加減にしろよ……お前らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
とうとうキレてしまった。流石にこれはヤバすぎるからな。そんで怒ったら元に戻れたぞやったー。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁはぁ……覚悟しとけよ春風ぇ!!」
転がってる酒を掴んで握りつぶす。この酒が誰の酒なのかはわかりきっているので、今すぐに潰しにいかなければならない。
以前アニメで見た覇王色の覇気っぽいのが、俺の身体から放たれた影響で若葉達は気絶したようだ。普段の若葉達なら効かなかったと思うが酔っていたせいで効いたようだ。釈然としないけれどまぁ、結果オーライということにしておこうか。
ちなみに俺の愛する妹である真奈は、これほどの騒動があったというのに酒も飲むことすらなくぐっすりと眠っていた。逆に関心レベルだよこりゃあ。
まぁ、取り敢えず……
「大義のために消えやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「えっ!? ちょっ待っいきなり何を……ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
〜次の日〜
「うぅ……なぜだ……頭が、痛い」
「ゆ、夢の中でとても恐ろしいことを言っていた気がするの……夢よね。ふふ、ふふふ、ふふふふふ」
「タマァ? タマタマ!」
「はうぅ……なぜだがわかりませんけどとても恥ずかしいです!」
「……頭を撫でたかったです」
「む、胸が地味に痛い」
「むにゃむにゃ……」
アレから酔いが覚めた若葉達は車の中で全員おかしいレベルの自分を思い返して赤面していた。相変わらず球子だけ言ってること意味不明だけど。
「僕は昨日いきなり君に殴られて悲しいけどね」
「元々をいりゃ春風さんが酒を持ち込んだからこうなってんでしょうが!」
今日の朝春風さんを強制KOした俺は、首根っこを捕まえて頭を抑える若葉達に謝罪させた。日頃から大社関連でストレスが溜まっていたらしく、それを解消しようと思っていたところ知らないうちに飲まれていたらしい。
やれやれだよ……全く。
『本当になぁ』
うるせぇ出てくんなウルフ。
ウルフ・バーテックス。本来なら存在しないおおかみ座のバーテックス。ケンタウルス……つまりはケンタウルス座に槍で突かれるおおかみの姿を表した星座らしい。 おもに南半球で見ることができる南天の星座だけど、6月ごろであれば日暮れの頃合いに南の地平線近くにその全身を見ることができるためか、夏の星座に数えられることもあるらしい。
『連れないねぇ……』
それきっきりウルフの声は聞こえなくなった。さきほど語った通りおおかみ座はケンタウルスに槍で突かれたからか、サジタリアス・バーテックスとスコーピオン・バーテックスが大嫌いらしい。
サソリは関係なくね? そう思って聞いてみたら……
『奴は槍持ってんだろうが』
って怒られた。解せぬ。
あ、一応言っておくな。飲酒は二十歳になってからだから良い子の読者は二十歳になるまでは飲んじゃ駄目だぜ?
〜〜〜〜
「ねぇ、オフィウクス」
『なんだい?』
「次はいつ仕掛けるのかしら?」
バーテックスによって占領された大阪城……その天守閣で寝そべった天の神が、オフィウクス・バーテックスことオレに尋ねる。
『オレは今アンタの護衛代わりをしているんでね。襲撃組については知らないわけよ』
「でも、貴方ならその程度なんとかなるよね?」
『そりゃあ過大評価ってわけだぜ? オレにだってできないことの2つや3つはあるんだ』
その解答は予想通りだったようで、天の神はつまらなそうに顔を向ける。その表情は若干拗ねているようにも見えた。
「早く優斗の周りにいる女どもを殺してきてよ! というか、なんであの二人生きてんのよ! あと眼帯つけてる女もついでに!!」
『そいつ殺したら怒り狂ったアイツが襲ってくるけど!?』
ただの嫉妬じゃねぇか!! 以前一度死んだ二人を蘇らせるために、天の神の命令と嘘ついてスコーピオンに本を渡させにいかせたけど……本当にさぁ、地の神……神樹に頼むのきついんだぜぇ? やれやれだよ。
はぁ……早く強くなってくれねぇかな。コイツのお守りもかなりしんどいから……。
本当に酒は二十歳になんでからにしたほうがいいよ。まぁらたとえ二十歳になっても酔う人はいるけどね……作者みたいに