プロローグ・終わりの始まり
『――天より降り注ぐ白き獣、人達食べられ、その血で大地を濡らす。紅き太陽の神が定めし運命の導きにより、世界は混沌と化す。
五人の花の勇者達、白き獣に立ち向かい、天と地より授かりし二振りの大剣を用いる少年と共に、地獄の大地を走り
勇者御伝より』
平成2015年7月30日、いつも通り庄内小学校に通う少年――
なんとなくの気持ちで所属した美術室で6年生となって最高学年となってもつまらなそうな表情は変わらず、スケッチブックに描く絵も面白みのない絵だった。というか描くテーマなんて本人も知らない。
ほとんど我流に近い方法で絵を描いてきた優斗は、たとえ美術の授業だろうと関係なしに我流で描く。そのためそんな優斗を面白くないと思う人も存在する。
「まーた、つまらなそうにしてんな」
そんな時、美術室の窓から顔だけ出した少年が声をかける。その後ろには呆れたような表情をした少女もいた。
「和也と……和森か。なにか用か?」
その後ろにいる少女――
出会った時の日も時間も違うけれど、この3人は固い絆で繋がっているかのように仲がいい
一人は学校一の秀才で生徒会長、一人は学校一の美少女でクラスのマドンナ。そんな二人と親友である優斗。特に何かに優れているわけでもない優斗は、時々このふたりの近くにいてもいいのだろうか、そう不安になることもある。
「今日さ、どっか遊びに行かねぇか?」
「別に用事もないからいいけど」
「決まりだね! じゃあ、レッツゴー!」
「……今から?」
美術部は通称サボり部と呼ばれている。その理由は担任の先生が生徒にとても甘く緩いため。そもそも美術部は学校に来れない生徒のために学校側が作った部活だ。
生徒同士のいざこざや過激な虐めなどにより不登校になってしまった生徒が、唯一学校にこれる理由を作るためにだけに設立された部活。
そのため不登校の生徒以外でも美術部に所属する生徒がサボってもさほど何も言われない。
庄内小学校に通う生徒なら誰でも知ってる常識である。
「……まぁ、わかった。絶賛暇してたからな。遊びに行こうか」
机の上に広げていたスケッチブック等を早めに片付けて、ランドセルを背負うと下駄箱で待っている二人と合流する。
物事に関心を示すことの少ない優斗だが、感情がないわけでもない。勘もある程度は鋭い方なので、何かと二人が優斗を気にかけているのを知っている。
「取り敢えず着替えてくるか」
そう呟くと少し早足で家へと向かう。優斗の家は二人と比べると少し遠い。
十五分ぐらい歩いて家に着いた優斗はランドセルを部屋に放り投げ服を脱ぎ始める。部屋の中に妹が居るのを忘れて……。
「に、兄さん……」
「あ、ごめん。お前居たのか」
「それはちょっと酷い気がする」
流石に恥ずかしいのか優斗が愛する妹
さて、今更になるかもしれないが、井嵩優斗は井嵩家に生まれた子供ではない。井嵩家現当主
優斗は自分が拾われた子供であることは知っているが、その事実を知らない妹(なんとなく感覚で本当の兄妹ではないと感じている)が悲しまないためにも黙っている。
「今日友達と遊びに行ってくる。多分5時頃には帰ってくるって母さんに伝えといて」
「……わかった。ねぇ、兄さん」
「なに?」
「ちゃんと、帰ってくるよね?」
とても不安そうな、今にも涙が溢れそうな目で見てくる。
「ちゃんと帰ってくるよ。何が不安なのかはわからないけど」
「今日夢の中でね、兄さんが黒い服を着て白い化け物と殺し合ってるのを見たの」
小学生が殺し合ってるとか言ってはならない。それ以前にどこでそんな言葉を覚えてきたんだろうか?
思わず頭を抱えたかった。
「安心してくれ。俺はどこにも行かないから」
不安を取り除くためにも苦手な笑顔を浮かべる。そして優斗は集合場所である公園に向かって走った。心の中になにか嫌な予感がしているのを感じながら。
一度全員家に帰宅し私服に着替えた三人は、集合場所である公園で合流する。
白い無地のTシャツに黒いジーパンという格好の優斗。
黒い龍が描かれたシャツに青いジーパンとベルトの和也。
フワフワとした白いブラウスに同じ白のスカーフ、赤いスカートの和森。
「いよォーーーーし!!では早速山に登るぞ!!」
「何言ってんだよお前は」
今からコンビニ行こうぜのノリで山登りを宣言する和也に、少しだけ呆れたような表情を見せる優斗。隣で和森が苦笑いを浮かべながら笑っている。
だが、和也の瞳は何故かキラキラと子供のように輝いていた。いや、子供だった。
「実はな! 実はな! この山にはある祠があって、そこに二本のでっけぇ剣が祀ってあるんだとよ。それをちょっと見に行かねぇか?」
「…………和森に任せる」
「えぇ!? 私に任されても……うーん、和也くんが行きたいなら行こうか」
「よォっし! 決まりだな! 登るぜ!」
和森から同意を得られて嬉しくなった和也はそう言って二人を置いていく。嬉々とした表情で走り去っていく和也に呆れながらゆっくりと歩き出す二人。
「……」
「……」
和也がいた時と違い気まずい雰囲気が流れる。チラチラと優斗を見る和森とガン無視して登る優斗。
視線を向けられていることに気づいているものの気づかないフリをして無視する優斗に、和森は諦めたのか溜め息を吐いて足を進める。
「なぁ?」
しばらくお互い無言だったが、唐突に優斗が話しかける。
「和也からの告白どうしたの?」
「……ッ!?」
突然の質問に和森の肩がビクッとなる。ついこの前、和森は和也から告白された。その事を優斗は知っている。
和也が和森の事を好きなのも、和森が優斗の事を好きなのも、優斗は知っている。だが気づかないフリをしている。
優斗は以前和也から相談されている。和森に対する想いと告白する事を。この時優斗は大したことは言ってなかったが、それでも和森がどう答えたのかが気になっていた。
「断ったよ」
「どうして? アイツはある意味では馬鹿だけど顔はイケメンだし、スポーツ万能で成績もいい。性格も悪いわけじゃないからお前に似合っていると思っていたんだが?」
「私が好きな人は隣に居るから」
簡単に考えれば誰でもわかるさりげない告白。だが和也と和森の事を考えて一歩引いている優斗は、その告白に気づかないフリをする。
「隣ねぇ……いないじゃん」
その考えが時には残酷であることに気づいていながら、優斗は歩みを進める。後ろで悲しそうな顔をしている和森に気づいているのにも関わらず。
「……バカ」
やれやれ、そんな感じで方をすくめようとしたその時だった。
――チリン!
「鈴の音?」
どこからか聞こえてきた鈴の音に首を傾げる。周りを見渡してみるが誰もいない。
「和森? あれ? みんなどこ行ったんだ?」
少しだけ引き返してあたりを探してみるが誰もいない。山の中とはいえ小さめの山で遭難になることは考えてなかった。時間的にまだ遭難するはずもない。
「訳がわからないな」
取り敢えず足を進める。もしかしたら自分が知らないだけで先に言ってるだけかもしれない。そう自分に言い聞かせて。
「……いないな」
和也が言っていた祠にはすぐに辿り着いた。だが、その道中生物の気配が何もしなかった。流石に不気味に思えてきた。
「……なんだってんだよ」
祠の前に腰かけると、口から疲労の溜まった息が吐き出される。
家庭の都合上スマホという高級品を持っていない優斗には二人と連絡する手段はない。と言うよりも優斗には本当の意味での家族が存在しない。元々赤子の頃に井嵩家に拾われた優斗は、全てにおいて正体不明だった。
「どうするかなぁ」
――我らを手に
いつの間にか祠を背にして眠ってしまっていた優斗はハッと起きる。周りをキョロキョロと見るが先程聞こえた声の主はどこにもいない。
――聞こえるか、天と地の子よ
幻聴かなと考えてもう一度目を瞑ろうとした。だがやはり聞こえた。声の主は
自分でも矛盾していると思える考えだが、ゆっくりと後ろを振り返って祠の扉を開ける。祠と言っても小屋ぐらいの大きさのある建物。その扉を開けて中に入ると、二振りの大剣が地に刺さっていた。
――やはり来たか。天と地の子よ
――神の願いを、叶いし者
大剣二本から聞こえる鈴のような少女の声。優斗は訝しげに大剣に近づく。
――我らをとれ
――我らを、とって
言われるままに二本の大剣を掴み、優斗の身長以上もある大剣を地面から抜く。意外に重くなくすんなり大剣は抜けた。
――我らに導かれし、天と地の子よ
――来たりし、災厄の星共と戦え
二本の大剣から炎と雷が現れる。その炎と雷は優斗の体を覆うと、そのまま体内に入っていく。ちなみに地味に痛いし暑い。
「…………これ、大丈夫なのか?」
二つの属性が体内に入っていったことを心配する。地面から引き抜いた二振りの大剣を手に握ったまま外に出る。
「……なんだよ、これは……?」
祠から出て空を見上げた優斗は、地へと降り注ぐ白い星々を見て絶句した。星々は皆醜悪な姿をしており、カチカチと音を立てながら降ってくる。
「急がないといけないな」
後ろを振り向くがそこには祠はなかった。意味がわからないことに首を傾げるが、今はそんなことを気にしていられなかった。
慌てるわけでもなくそれでも急いで山を降りる。祠のある奥から下山するのは少しだけ時間がかかる。だが、今優斗の身体はまるで翼を持ったかのように軽かった。
たった一回の跳躍で山の麓まで降りた優斗は、
「人や建物を喰ってる……のか?」
バチャグチャと豪快に汚い音を立てて喰らう白い星――星屑を見て吐き気を催す。吐くまでにはいかなかったものの、それでも気持ちは悪かった。
左手に握った大剣に宿る雷の力が脚に纏い一瞬で星屑にまで近づくと、右手に握った大剣で斬りつける。斬りつけられた星屑は傷口から荒々しい炎が舞い上がり、星屑の身体を燃やし黒焦げにする。
一瞬にして星屑を一体斬り殺した優斗はグチャグチャな肉片になった元人間の姿を見てその場で吐いてしまった。昼に食べた給食の分まで吐き、胃の中が何もなくなる。
「はぁ……はぁ、はぁ……はぁ」
しばらく吐き続けた優斗は、右手に握っている大剣を杖替わりにして立ち上がると、未だ建物や人間に喰らう星屑に向けて跳躍する。
跳躍して跳躍して跳躍して。斬り殺して斬り殺して斬り殺して斬り殺して斬り殺して斬り殺して斬り殺して斬り殺して斬り殺して斬り殺して斬り殺して斬り殺して斬り殺して斬り殺して斬り殺して斬り殺して斬り殺して斬り殺して斬り殺して斬り殺して斬り殺して斬り殺して斬り殺して斬り殺して斬り殺して斬り殺して斬り殺して斬り殺して斬り殺して斬り殺して斬り殺して斬り殺して斬り殺して斬り殺して斬り殺して斬り殺して斬り殺して斬り殺して。
そして優斗は最初にみんなで集合した場所で、顔だけとなった親友の二人を見て涙を流した。枯れるまでずっと、溢れ出るように出てくる涙。
真っ赤な血に染まったスカーフ。優斗が和森の誕生日に送ったものだった。それを固く握るとパサッと首に巻いた。
「テメェらがこれからも人を襲うっていうのなら……俺がテメェらを殺す!」
尋常じゃない殺意を抱きながら星屑を斬り殺す優斗の服装が黒く光りながら変わっていく。
バイザーが顔に装着され黒を基調とした服装に変わった優斗の髪に黒に白のメッシュが混じり、瞳の色も右が紅く左が蒼い色になった。そして肩や肘、膝などにアーマーが装着された。
そしてたった一人だけ残った黒き勇者は、星屑を狩り尽くすと深い眠りに入った。
黒き勇者が誕生したと同時に、日本各地で八人の少女達が勇者となった。