空から災厄が降り注いだ日から3年が経ち、四国に現れた土着の神々の集合体・神樹により天の神の伏兵から守る結界が張られた。
「準備はいいか?」
その結界内で過ごす
最初に動いたのは若葉だった。幼い頃より居合道を収めていた若葉の鋭い剣撃が優斗を襲う。その技は誰が見ても美しく感じるほどで早い。
だが、優斗は後ろにバク転することで剣撃を躱す。その後素早い動作で若葉に近づき右に握った剣を振るう。若葉は左手に持っていた鞘で防御するが、それでも吹き飛ばされてしまう。
若葉を吹き飛ばした優斗は一回の跳躍で若葉に近づくと、その場で身体を回転させて両手の剣を振るう。そして今度は逆向きに回転して剣を振り、その次は回転の威力を入れた左手の剣を勢いよく振りかざす。
攻撃を防ぐことしか出来なくなったこの状況を見て、緊張で唾を飲み込んだクラスメイトから「おお!!」と歓声が聞こえた。
バランスを崩して倒れ込んだ若葉の喉元に、優斗が右に握った剣を突きつける。
「……俺の勝ちだな」
「そうだな。私の負けだ」
毎日やっている稽古が終わった。若葉は悔しそうに木刀を武器立てに戻し、状況をハラハラと見守っていた
「あぁ、なんて可愛らしい悔し若葉ちゃん! また私の若葉ちゃんコレクションが増えました〜」
「また撮ったのか!?」
「ひなちゃんはいつも通りだね」
稽古が終わってすぐさまクラスメイトが若葉に群がる。赤い髪をポニーテールにした少女――
「あれ!? 優斗くんは?」
「高嶋さん、彼なら……終わった途端出ていったわよ」
クラスメイトで唯一道場から優斗が出て行った瞬間を見ていた千景が言う。
「アイツなんかノリ悪いよなー。もうちょっとタマ達に愛想良くしてくれてもいいじゃんかよ」
「そうだね。私もタマっち先輩に同意かな」
「その気持ちはわかりますが、おそらくしばらくは無理だと思われます」
背が低い野性味溢れる少女――
唯一男でありながら勇者となり、黒の勇者と呼ばれている井嵩優斗が四国にやってきたのは2年前であり、この2年どれだけクラスメイトが仲良くなろうとしても無愛想であった。
瞳は冷たく誰も近付けない雰囲気を纏った少年に、最初に話しかけたのは高嶋友奈だった。
「初めまして! 高嶋友奈です! これからクラスメイトとしてよろしくね!」
香川のコミュ力お化けと称される程のコミュニケーション力の高い友奈が最初に話しかけたことに若葉達は「いつも通りだな」と安心していた。だが、
「……お前らと仲良くするつもりは毛頭ない。俺は、バーテックスさえ殺せればそれでいい」
それだけ言い残して教室に出ていく。当然その態度に若葉がキレたのは仕方のないことであった。最終的には斬りかかる寸前にまで限界が達していた若葉を納めたひなたは、四国の勇者と優斗が戦い、優斗が負ければ仲良くする、四国の勇者側が負ければもう何も言わない事を条件に模擬戦を開始させたのだが、当然若葉はその提案に真っ先に乗っかった。最初こそは見ているだけに留めていた千景も参加し、5体1の模擬戦を始めたのだが、いくら今後のために鍛錬してきたとはいえ怒りでチームワークなどがバラバラになっていたみんなは呆気なく優斗に負けてしまった。
どんなものであろうと負けは負けであることに変わりはないので諦めかけていた若葉達。そんな五人を見て何を思ったのか優斗は、
「今後、稽古の時に呼べ」
そう言って道場を出ていった。その言葉を聞いた友奈が一番嬉しそうだったのは語るまでもない。
こうして毎日若葉の稽古に付き合わされることになった優斗だった。仲良くするつもりはなくとも毎日付き合わされる稽古に嫌な顔をしない。変なところで律儀な勇者様である。
〜〜井嵩優斗〜〜
今日の稽古が終わって部屋に戻ってきた俺は、シャワーを浴びて私服に着替えるとベッドに横になる。年齢的にはまだ学生だけど、どうしても記憶の中に残る3年前の楽しかったあの頃が蘇ってしまうから授業は全部サボっている。
俺は勇者になるのが遅かった。だから親友二人を救えなかった。それだけがとても悔しい。とても悲しい。
でももう涙は枯れた。あの日から俺は表情を作ることが出来なくなった。いや違うな。あの日守りたかっま日常が壊されたことで、俺の心は世界を拒絶したんだと思う。
「所詮俺だって子供なんだ。物語の王子様や勇者様とは違う」
コンコン!
このまま寝てしまおうかなって考えていた俺の部屋に、誰かがノックする。
「ひなたです。中に入ってもよろしいですか?」
「構わない」
ガチャと音を立てて部屋に入ってくるひなた。そして机と椅子、ベッド以外何も存在しない俺の部屋を見て少しだけ驚いた顔を見せる。
まぁ、無理もないか。俺の部屋は基本的生活に邪魔になるものは置いてないし。
「随分と何もありませんね。なにか買わないのですか?」
「別に。欲しいものがないんだよ」
別に無欲ってわけじゃないんだけどな。
ベッドから起きあがり椅子を渡す。
「それで、何の用? 部屋まで来るのは初めてだと思うけど」
「そうですね。ちょっと大社の方から小言が届いていまして」
「聞くだけ」
ひなたがコホンと可愛らしい咳払いをして、佇まいを正す。
「大社のとある人がこう言ってました。『もっと周りと仲良くして欲しい』と」
またそれか。春風さんも懲りないな本当に。
「必要のないことはしたくない。バーテックスさえ殺せればそれでいい、最初にそういったはずだが?」
「それではいざという時に、周りと連携がとれません。お願いします。みなさんと……」
「くどい」
たった一言。たった一言に俺は殺意を込める。その殺意にひなたが黙り込む。
四国にやってくるまでの一年間で色々な武術を身につけたおかげで殺意の込め方もマスターした俺は、こうやって簡単に殺気を飛ばせるようになった。
絶対この年齢で習得するものではない気がする。
「あぁ、悪い」
思った以上に殺意が込められていたせいか、ひなたがだんだん発作を起こし始めた。さすがに慌てた俺はひなたをベッドに寝かせ、呼吸をしやすいようにする。
息が途切れ途切れになっているひなたが心配になるわ。
「邪魔するぞ。今からみんなでうどんを食べに行こうと思うんだが、優斗も…………」
あ、これは最悪かもしれない。
「お、おおおおおおおおおおおお、お前!!ひなたに何やってんだぁ!?」
おが多いな。風雲児様よ、落ち着きなされ。いや無理か。過呼吸を起こしている幼馴染みがベッドに寝かされていて、そのベッドの上で座っている俺を見たらな。
……うん。俺でも多分一瞬は勘違いしそうだ。主に真奈関連のことになると面倒くさいって昔和也と和森に言われたことがある。
「……お前は今物凄く誤解している。落ち着いて話を聞く気は?」
「あるわけないだろう!!」
だよね。知ってた。悲しいかな。元々無表情のおかげで、内心焦っているのを悟られなくて助かるかもしれない。すごく悲しいけどな。
まぁ、それはいいんだけどね。若葉さん、生身の人間に向けて生太刀を向けないでくれないかな? 鞘じゃないから俺の身体斬れちゃうよ?
「………………ならば仕方ない。こんなくだらない事で呼び寄せたくなかったが、物分りの悪い奴には戦って分からせるしかないようだな」
俺の手元に身長ほどの長い刀を呼び出す。
――呼んだ?マスター、呼んだ?
名前を持たない無銘の刀から鈴のような少女の声が聞こえる。俺の持つ神器から発せられた少女。
俺は
『悪いな。こんな下らないことに呼んでしまって』
――大丈夫だよ! 私達神器はマスターに使ってもらうためにあるんだからね♪
俺はお前達を道具とは思えないんだがな。
考えても見てくれよ? どこの世界に意思表現と言葉をはっきりさせる神器があると? いや、もしかしたらアニメの世界みたいに色々あるかもしれないが、少なくともこの現実世界にはないと思っていた。
まぁ、そんなことを考えるのはいいか。
「やめて……ください。お……二人とも、武器を、しまってくだ、さい」
先程までベッドで寝かせていたひなたが途切れ途切れながらも言葉を繋げて起き上がる。その様子を見てもう安心かと思い、俺は凪咲達がいる異空間に戻す。
「私が、悪いんです。みなさんともっと仲良くしてくださいと、無理をお願いしましたから」
いや、無理とは言ってないが。仲良くするつもりは確かにないけど。
――我らが主は孤独を生きるからな!
喧嘩を売ってるんだな? 焔香ちゃんよ? 今なら格安でその喧嘩買ってやるぜ?
ちなみに焔香と対になる存在である神器『護燕剣・雷』の名前は
まぁ、そんなことはさておき。
ひなたによる必死の説得により、なんとか若葉は生太刀を鞘に納めた。かなり焦った。
なんとなくまだ納得のいってない顔をしているが、ひなたに関しては物凄く甘い所のある若葉は、納得が出来なくても無理やり納得させたみたいだ。
そして今現在俺は本日二度目の稽古に付き合っていた。
と言っても今回は若葉だけではなく桜の勇者(個人的に俺がそう呼んでいるだけ)高嶋友奈もいる。今回勘違いさせたお詫びとして若葉の稽古に付き合う約束をしたら、偶然にも道場には帯を締めて武術の稽古をしている友奈と鉢合わせした。
で、何故か友奈は当然の如く稽古に参加し、二対一になる組み合わせで向き合っているのだ。
「一回でもいいから優斗くんと本気で戦ってみたかったんだぁ」
本気ねぇ。俺の本気かぁ。
「……死ぬ勇気があるなら出してやるよ」
最低限にまで下がった冷たい言葉に、いつも笑顔の友奈が引きつった顔になる。その隣で若葉も頬が引きつっていた。
「さて、もう一度聞くぞ? もしお前に死ぬ覚悟があるのなら、俺は本気を出すのを躊躇わない。それでもいいか?」
流石に友奈も俺の言っている『死ぬ』という単語が冗談ではないと察したようで、冷や汗を流しながら首を横に降っていた。何故か隣で生太刀を居合で構えていた若葉まで降っていたのは謎だったけど。
成り行きを見守っていたひなたが苦笑している。それほどまでに今の俺な言葉はおかしかっただろうか?
まぁ、別にいいか。
「なら、消滅しない程度に攻撃すればいいか」
「待って!? 今消滅って言った!? なんで消滅って言葉が出てくるの!?」
うるさいやつだな。何を焦っている? 本気を見たいって言ったのは友奈だろうに。
「……もし本気を出されていたら、私達は何も出来ずに滅んでいただろうな、ハハは」
なんで壊れたブリキのような動作になった? 時々若葉の行動は分からないな。
俺は両手に持った木剣を構えて腰を低く下げる。右手を少し後ろに左手を胸の前ぐらいに。最近見つけた俺の中で直接攻撃してくる敵に対して一番斬りやすい姿である。
武器の大きさや長さ的に他の武器よりも早く行動できないのが大剣の弱みなのだが、神器を手に入れた事で常人よりも強化された俺の身体なら一瞬で合計三十回程振り回せる。
まぁ、筋力が大幅に強化された割に体力が持たないけどな。これが神器を使っての稽古ならいくらでも体力を持たすことができるけど。
「さぁ、やろうか。今から地獄を見せてやるよ」
至って無表情でそう宣言にする。殺意も威圧も何も込めない。ただ純粋な稽古だ。
最悪入院するだけだから安心して俺と戦うがいい!!