アレからまた数日が経ち、優斗は本屋に来ていた。本当は来るつもりは全くなかったが、大社から「伊予島杏が本屋に行く」という報告があり、陰から守ってほしいと言われたからだ。だからといって別に大社の言うことを素直に聞く必要はないのだが、以前友奈が狙われたこともあり護衛程度に本屋に来ていた。
優斗の部屋には本棚はあるが本を買うことがないために使っていない。そしてこの機会に本を買おうと考えたというのもある。
ちなみに興味ないだけでジャンルだけなら過去の知り合いに詳しい人がいたので、優斗は本にはそこそこ詳しい。
一時期はその知り合いと話のネタを作るためだけに知識を蓄えたので、優斗はチラッと本を一目見ただけでどのようなものなのか把握し、一応カゴの中に入れていく。
「本、好きなんですか?」
タイトルだけでなにか面白そうだと思った本をカゴに入れていると、突然目の前から声がかかった。その相手は、今まさに陰から警護していた伊予島杏であり、優斗は心の中で冷や汗をかく。
(不味いな。伊予島と接するつもりはなかったけど、まさか気づかれるなんて)
「私も本が好きなんですよ! 井嵩さんはどのようなジャンルが好きなんですか? 私は主に恋愛とかを読んでいるんですが、特にこれなんて特に面白くて!! シリーズもあって値段も安いので、買うならぜひオススメします!」
鼻息を荒くしながら杏が捲し立てる。
ちょっとだけ優斗は引いてしまった。前感じたか弱い女の子って感じの印象とはまるで違う。
「はうぅ!! ゴメンなさい。本が好きなのだと勘違いしてつい」
「い、いや、大丈夫だけど」
優斗はカゴから一つの本を取り出し、それを杏に見せる。
「恋愛かどうかはわからないけど、俺はよく端末でこれを読むかな」
そう言って見せた本の題名は「聲の形」である。
あんまり詳しい話までは把握していないが、一度テレビで放送していた時に感動したのを覚えている。過去の親友二人と泣きながら見ていた。ちなみに俺と和也その様子を和森が微笑んで眺めていたような気がする。
いい思い出だと思いながら、本をカゴに入れ直す。
「井嵩さん、恋愛小説読むんですね。ちょっと意外です」
「3年前にお前と同じように恋愛小説が好きな奴がいたんだよ」
何故か一緒に行動しながら、お互い本について語り合う。親友のためにつけた知識がここで役立つとは思ってもみなかった優斗は、表情にこそ出さなくても内心物凄く驚いていた。
(なんだろうな。こういうのもたまには悪くないな)
なぜだか安心している自分がいる。
四国に来た当初の優斗であれば絶対に感じるのことなかった感情である。
取り敢えず共に本を買い終えた優斗は、時間を見て昼時だなと思い、
「時間があれば一緒に昼ごはんでもどうだ?」
「えぇ……?ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!??」
杏に声をかけたのに何故か大声で驚かれてしまった。
――あはは! マスターは天然さんだねぇ。
(うるさいよ)
――言ってやるな。主も男の子なのだからな!
(お前は何言ってんの!?)
――主、なんか可愛い。
(ようやく登場した会話がそれでいいのか!?雷花さん?)
心の中で自分の神器とコント紛いのことをしつつ、取り敢えず落ち着いた杏の様子を見る。
「はわわ、初めて井嵩さんに誘われました。行きましょう! どこに行きます? やっぱりここはうどん屋さんですか?」
(すごく嬉しそうだなおい)
何がそんなに嬉しいのか、ウキウキとうどん屋に向かう杏に苦笑いしつつうどん屋に向かう。
(あれ? どこに行くかって聞かれたはずなのに勝手にうどん屋になってね? 俺あんまり麺類好きじゃないんだがな……)
なんとなく頭を抱えてしまった優斗だった。
〜〜伊予島杏〜〜
私にとって井嵩優斗という人間はとても怖かった。いつも冷たい目をしていて誰にも近づけさせない、そんな雰囲気をいつも纏っていたから。
私たち勇者の中では一番のコミュ力を持っていると言っても過言ではない友奈さんでさえも、最初は冷たく拒絶されていた。
そして若葉さんが怒っちゃって井嵩さんに斬りかかろうとしていた時に、ひなたさんからの提案で私たち五人の勇者と井嵩さんが試合して、当時上手く連携がとれなかった私たちは呆気なく負けてしまった。と言うよりも、井嵩さんが異常なほど強すぎるせいだと思う。本人は「もう誰かを失わないためにも力は必要だから」って言ってた。
私の親友であるタマっち先輩は彼にもうちょっと愛想良くしてくれることを望んでいた。私もそう。井嵩さんがもう少しだけ優しくしてくれるのを望んでいた。
そして今日、たまたま本屋さんで遭遇した井嵩さんの表情はいつも通り無表情だったけど、どこか優しくなったような気がした。
以前友奈さんと買い物に行って以来、井嵩さんは周りに少しだけ優しくなったと思う。今だって丸亀城に帰ってきた私たちと偶然居合わせたタマっち先輩と「今度、どっか出掛けるか?」って聞いてるから。
タマっち先輩嬉しそう。本当に何があったのかはわからないけど、井嵩さんは優しくなったと思う。これからもっと私たちと仲良くしてくれたら私も嬉しいかな。
今日は井嵩さんとても楽しそうだったなぁ。小説についても詳しかったし。昔の知り合いにも会ってみた……そう言えばひなたさんの説明では、井嵩さんが勇者になったのは地元が滅んでからだったんですよね。
きっと井嵩さんが表情を出さないのもそれが原因だったりするのかな。だったら私も悲しいな。
私たちで井嵩さんを救えたらいいな。
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杏と本屋で談話しうどん屋に行ってから次の日、優斗は隣で笑顔で歩く土居球子と一緒にキャンプに来ていた。
大社が管理するキャンプ場で鍋やらなにやら念入りに準備してカバンに詰め込んでやってきた優斗は、念のために腰に凪咲を下げている。一応球子の荷物まで持つなど、やはり四国にやってきた当初を考えれば相当人と関わることに甘くなっている自分に内心驚く。
「いやぁ、まさかお前から行こうって言ってくるなんてなー」
何故か物凄く機嫌のいい球子を見て微笑ましい感情が出てくる。言葉にできないなにかが優斗の中で溢れ出そうになっていた。
「たまにはこういうのも悪くは無いからな。それに、お前はこういうのに詳しいだろ?」
「優斗だって詳しいだろ?タマは知ってるんだぞー?優斗が昨日頑張ってキャンプについて調べているのをさぁ」
誰かと出かける予定がある時、優斗は昔からその場所の特徴や何を持っていったらいいのかなど徹底的に調べる事がある。
ほとんど当時見た目は不真面目な不良生徒会長をしていた知り合いの勤勉さが一部移っているだけなのだが。本人は全く意識はしていない。
「まぁ、楽しむ為にも調べはしたけど、それが詳しいのとはちょっと違うな」
テキパキとした動作でキャンプセットを設置していく。球子は食材や調理道具の入ったカバンやバーベキューセットを近くに置き、川の近くに二本の釣竿を立てる。
「それで?優斗は何持ってきたんだ?」
「人参とキャベツ、じゃが芋に玉ねぎ、肉……」
「お前カレー作る気だろ……?」
次々とカバンから取り出していく素材からカレーだと推理した球子。だがその後にカバンの中からカレーのルーが出てこないことに疑問を抱いた球子が、カバンの中を覗くとカレーのルーはどこにもなかった。
「最初からバーベキューするつもりだけど」
「そ、そうなのかー。いやぁ、タマは分かっていたぞ?うん。わかっていたんだが、そう、アレだ!ワザとだ!ワザと間違えてやったんだ」
「……そ、そうか。そういうことにしておくよ」
その後も二人で美味しくバーベキューを堪能し、釣りを楽しんだりした。球子から釣りで勝負を挑まれた優斗だったが、流石は経験者……知識だけ溜め込んだ優斗は呆気なく釣った魚の数で負けてしまった。
優斗と球子と杏の絆が深まった……そんな気がした。
先に言っておきます……次回、色々キャラ崩壊します。
「神さえ恐れる瞳を持つ少女」