病み期、入ります。   作:セブンアップ

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 女子高生の無駄づかいから、一奏こと"マジメ"です。実写もアニメも面白かった。


一奏の病み

 お隣さんには、俺の幼馴染が居る。

 頭脳明晰、運動神経抜群、八方美人の出来過ぎちゃん。姓は(にのまえ)、名を(かなで)という。

 

 やたらとクソ真面目な幼馴染だ。しかし、彼女にだって欠点はある。

 

 大事な時や、落ち込んだ時に体調を崩す虚弱体質。40度を超える発熱と下痢と吐き気と頭痛と水疱瘡にぎっくり腰と突き指により、志望校を受験する事が出来なかった。

 

 そんな彼女は今や、4歳児レベル知能指数を持つ人間しか居ないような高校、さいのたま女子高等学校に入学した。一時はどうなるかと思いきや、話を聞く限りは楽しくやっているようだ。

 

「〇〇さん、早く起きてください!遅刻しますよ!」

 

 話を戻すが、奏はクソ真面目。真面目なところを悪いとは言わない。

 しかし、毎朝毎朝起こしに来るのはいかがなものだろうか。高校も違うというのに、わざわざ起こしに来る必要なんてない。

 

「…へいへい」

 

 このまま寝ていると、奏がしぶとく起こすのは目に見えてる。それはそれでそろそろうるさく感じるのだ。

 

「ほら!顔を洗って、歯磨きを済ませてください!その後、朝ご飯を食べるんです!」

 

「おかんかお前は」

 

 両親はしばらく出張とか言って、今に居ない。短期的な俺の一人暮らしが始まったと思えば、奏が起こしに来たり、学校の授業に付いていけているのかを確認するためにわざわざ俺の勉強を見たり。

 

「昨日もどうせ夜更かししていたんでしょう?遅くても10時に寝て、朝の6時半前後に起きなければいけません!早寝早起きを行う事で、人の身体は安定して動くんですよ!」

 

「へいへい」

 

 姑みたいだ。高校生になって、こんな子どもに言い聞かせるような内容を聞かされるとは思わなかった。

 

 俺は顔を洗って、歯磨きを済ませる。その後、オーブントースターで食パンを焼きながら、寝巻きから制服に着替えた。着替えたと同時に食パンが焼けたので、スマホを弄りながら食べていく。

 

「食事中のスマホ操作はマナーが悪いですよ」

 

「…なんでお前まだ居るんだよ。お前こそそろそろ行かねえと遅刻すんじゃねえのか?」

 

「この分ではまだ間に合いますから、ご心配無く」

 

「あっそう」

 

 自分で聴いておきながら、淡白な返事をした。食パンはすぐに食べ終わり、その場から立ち上がろうとすると。

 

「動かないでください」

 

「あ?」

 

 奏はティッシュを1枚抜き取り、俺の口周りを拭いていく。

 

「口周りに食パンの食べた跡が付いていましたよ」

 

 奏は呆れながら、ティッシュをゴミ箱に捨てる。

 

 本当、世話焼きな幼馴染な事で。こんな幼馴染欲しいなぁとか言う頭のイカれた人間が世に居るんだろうが、そんなのは幻想でしかない。

 100歩譲って、学校がある日なら助かるという人間も居るだろう。しかし、奏は休日でも俺の部屋に上がって、毎朝起こしにやって来る。

 

 休日ぐらい自由にしても良いだろうよ。どんだけ生活力無いって思われてんだ俺は。

 

「早く行きましょう。高校は違いますが、途中まで一緒なんですから」

 

「いや、マジでお前先に行って良かったんだぞ」

 

「ダメです。貴方は朝からコンビニに寄り道をする傾向があります。時間に余裕があるのであればそれは構いませんが、今コンビニに寄って予鈴にまで間に合うと思いますか?」

 

「何度も遅刻してんだぞ。今更1回増えたからって…」

 

「尚更いけません。何度も遅刻しているからこそ、その癖を改めなければならないんです。社会人になれば遅刻など言語道断。今のうちに予鈴が鳴るまで学校に行くという訓練をしなければならないんです」

 

 小さい頃からずっとそうだった。

 奏は真面目。皆が公園で遊ぶ中、彼女はずっと真面目に勉強に取り組んでいた。小中一緒だったが、クラスメイトは揃って「真面目」と言っていた。

 しかし真面目な性格が故に、誰かを助ける事も出来る。誰かが怪我をすればいち早く心配し、保健室に連れて行く。試合の助っ人を頼まれたら断らない。ノートを貸してくれと言われたら無償で貸し出す。

 

 真面目ではあるが、悪い奴じゃない。「真面目」と周りが言っていても、奏に対して好感を持っていた。

 

 真面目だけでなく、それは容姿にも結び付く話だ。

 髪は短く、所謂ボーイッシュなところがあるが、それ故に女生徒から告白を何度も受ける。男子からも告白を受ける事もあるが、おそらく好きになったのは、優しく真面目+おっぱいだろう。

 奏のは、中学生にしては大きく見えてしまう。思春期男子からすれば注目の的だ。大人の女性のように、魅力的に見えたんだろう。

 

 そんなわけで、奏はその気になれば男女を手球に取ってしまうジャグラー気質を持っている。無自覚系モテ女子というのが、タチ悪い。

 

「行きましょう、〇〇さん」

 

 …まぁ俺も、嫌いでは無いんだけどさ。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 私の幼馴染は不真面目だ。

 〇〇さんという、隣に住んでいる幼馴染。小さい頃からずっと一緒で、保育園、小学校、中学校はずっと一緒だった。

 

 彼は昔から不真面目なのだ。環境が遠因したのかは分からないが、とにかく不真面目。小学校は宿題をやるのを忘れて出さなかったし、中学の授業では途中途中寝ていた。

 その度に、幼馴染である私が注意していた。納得した表情を一度も見せた事はないが、渋々私の言う事を聞く。毎日毎日そのやり取りをしているからか、周りからは「仲が良い」「付き合ってんの?」と言われる始末。

 

 そういう時は、大体私より先に彼が否定する。「仲が悪いわけじゃないけど、付き合っていない」と。事実そうなのだから、その時は何も思わなかった。

 

 しかし、とある日。

 私が鷺宮さんとお近づきになりたいと、密かに思っていたその時。〇〇さんから、他クラスの女性と付き合ったと告げられた。

 その内容に胸に少し痛みを覚えたが、互いに好き同士であるなら祝福しなければならない。そう思った。

 

 だが、それは間違いだった。

 

 〇〇さんの相手は〇〇さんと同じく不真面目な方だった。他クラスの方なのであまり知らないが、周りの話が耳に入って来た。

 

 授業の態度は良くない上に、遅刻もする。酷い時は仮病を使って休んだり。

 

 そんな方と〇〇さんが付き合った。

 …ダメだ。ダメだダメだダメだダメだ。〇〇さん。今すぐその方と別れて。その方と一緒に居ると、貴方はより不真面目になってしまう。

 

 しかし、私が彼らを無理矢理別れさせるわけにもいかない。出来るならそうしているが、〇〇さんが選んだ方だ。ダメだと思っても、何か出来るほど私は偉くない。

 

 もうどうしようも無いのだろうか。そう途方に暮れていると。

 

「別れた」

 

 と、〇〇さんから告げられた。

 その瞬間、ここしばらくモヤモヤしていた気分がすぐに晴れた。私は何故別れたのか、理由を尋ねた。

 

「束縛も激しかった上に、奏をバカにしてきてさ。そんな奴とは付き合い切れないと思ったんだよ」

 

 どうやら、彼女は〇〇さんの前で私を蔑んでいたらしい。それを聞いた〇〇さんは嫌気を差し、別れたと。

 

 嬉しい。私がバカにされた事を怒ってくれるなんて。

 

 〇〇さんは確かに不真面目だ。けれど、彼もまた人に優しい。私は彼の優しさに触れて、何度心が温かくなったか。

 

 しかし、不真面目である事実なのは変わらない。

 だから、幼馴染の私が彼を更正しなければならない。彼に不必要な物は、私が取り除かねばならない。

 

 そのため、彼の現状を把握しなければならない。私はノートにメモを残し始めた。

 ノートの中に書いているのは、全て〇〇さんの情報だ。今日は何をしたか、誰と一緒だったか、何を食べたのか。小さな情報を1つずつノートに残していく。

 

 何分、何時間、何日、何ヶ月も彼を調べ尽くす。逐次アップデートする彼の情報を、私はすかさずノートに残す。気づけば10冊以上、彼の事を調べたノートが作成されていた。

 

 勉強と両立するのは確かに厳しいかも知れない。

 しかし、全ては彼のためだ。彼が真っ当な人間になれるように、私が傍に居て支えなければならない。幼馴染なのだから、当然と言えば当然だが。

 

 その後も私は彼を調べて調べて、そして良くないところを指摘する。

 〇〇さんの両親に承諾を得て、遅刻しそうになる彼を起こしに行く。学校までは私が隣に居て、寄り道しないように監視する。

 彼は「要らない」と言うが、そんなわけにはいかない。貴方を立派な人間になれるように支えるのが私の役目だ。

 

 人付き合いに関しても、時々口を出すようにしていた。特に女性関係は。

 

 本当に彼と釣り合うのか私が確認しなければならない。彼に悪影響を及ぼさないか監視しなければならない。

 もし彼に悪影響を及ぼすのであれば、動く必要があるから。同じ轍は二度も踏まない。

 

 中学を卒業し、高校は別々になってしまった。

 とはいえ、家が隣だから毎日のように会うのだが。同じ学校では無いため、学校の様子を観察出来ない。だから毎日、何があったのか、誰と居たのかなどを尋ねていた。

 

 そして現在。

 

「あー彼女欲しい」

 

「急にどうしたんですか」

 

「俺の友達がつい最近彼女出来たんだよ。そりゃあもう砂糖を吐くようなラブラブを見せられて」

 

「砂糖を吐く…?胃に何か異常でもあるんですか!?」

 

「そうじゃねえ。比喩だよ」

 

 そんな比喩表現があったのか。つい最近では「それな」という単語も聞いた。日本語とはやはり奥が深い。

 

「…そもそも、彼女を作ってどうしたいのですか?」

 

「そりゃやっぱり、デートとかだろ。どっかに出掛けて、泊まったりして」

 

 その程度であれば、代わりに私が出来ると思うのだが。私なら貴方と一緒に出掛けるし、私の家でも貴方の家でも泊まる事が出来る。

 

 無理に彼女を作る必要が無いと思うのだが。

 彼には私が居る。彼が至らないところを私が指摘し、支える。他の女性を捕まえなくとも、私が居れば出来ない事は無い。

 

「そういや、そっちはどうなんだよ」

 

「え?」

 

「前に言ってただろ。憧れの人と同じクラスになったって。確か、鷺宮(さぎのみや)だったか?お近づきになりたい〜ってお前言ってたろ」

 

「あぁ…」

 

 そう。今のクラスに、私の憧れの人が居る。

 孤高の天才、鷺宮しおりさん。同じ中学で話す事が無かったけれど、ずっと前から憧れていた存在だ。

 そんな鷺宮さんと同じ学校で、しかも同じクラスだ。奇跡だ。これを機にお近づきになりたいと思い、鷺宮さんを観察していたのだが。

 

「背脂の真似〜」

 

「ぷっ。似てるわね」

 

 田中(たなか)さんの、背脂の真似とやらに鷺宮さんは笑った。一度もクールフェイスを崩す事の無かった鷺宮さんが笑ったのだ。

 そこで私はある仮説を立てた。鷺宮さんに近づくには、田中さんを攻略する必要があるのではないか。

 

 しかし。

 

「…進捗があまり芳しくないと」

 

「はい…」

 

 田中さんの行動は予測不可能。328通りの行動パターンを予測していても、それを軽々と凌駕するのが田中さんだ。理解しようとすればするほどこちらに負担が強いられてしまう。

 

「普通に話しかける事が出来ねえのか?」

 

「は、はい……あのミステリアスな雰囲気に呑まれてしまって…。この間も2人きりになったのですが、何を話して良いか分からなくなってしまい…」

 

「お手上げか」

 

 他人の力を借りなければ満足に憧れの人と話す事すら出来ない私自身が嫌になる。結局、鷺宮さんには着衣のまま濡れるのが好きな変態だと思われてしまっただろうし。

 

「…学校の話題とかどうだ?」

 

「学校の話題?」

 

「テストとか宿題とかさ。勉強面だけなら、学校全員が共有出来る話題だからな。そういう方向性で接してみれば良いんじゃねえか?」

 

「な、なるほど……盲点でした」

 

 鷺宮さんとお近づきになりたいと思ってしまうあまり、そのような発想が抜け落ちていた。確かに、学校の話題ならば私でも話す事が出来る。

 私はすぐさま、〇〇さんのアドバイスをメモする。

 

「…本当、なんでも律儀にノートに残すよな。部屋ん中ノートだらけなんじゃねえのか?」

 

「ノートに残す事で、いつでも振り返る事が出来ますから」

 

「ふうん。俺なんてかったるくてやってらんねえけど」

 

「これを機に、一度ノートを取るというのを習性にしましょう。でないと、試験期間になって慌ててしまうのは〇〇さんですよ」

 

 勉強しなければ、後悔するのは〇〇さんだと言うのに。全く、私が居なければ〇〇さんは危ういんだから。

 

「やる気起きねえし」

 

「もう…。そんな事ばかり言っていると、苦労しますよ」

 

「そう言われたら余計にやる気が起きねえよ」

 

 不真面目というか、だらけている。

 幼馴染として、私は彼を更正させる必要がある。田中さんを理解するよりかは容易だが、どうしたものか。

 

「勉強もしたくねえし働きたくもねえな。いっその事、奏が養ってくれよ。俺は専業主夫として家に居るからよ」

 

 養う?私が、彼を?それはつまり、私の隣に彼が一生居続けるという事なのだろうか。それは…それは…。

 

 名案だ。

 

「まぁジョークなんだけども…」

 

「良いですよ。私が貴方を養ってあげましょう」

 

「へ?」

 

「ただ、今すぐとはいきません。お互いに高校生ですから、卒業して私が就職してそれなりに稼いでからです」

 

 そうだ。彼を養えば、彼は私から離れる事は無い。

 

 〇〇さんは過去に一度、交際した経験がある。〇〇さんは女性に好かれると耳にするし、また前のような女性と交際する可能性がある。

 そうなれば、私が彼を更正出来なくなる。加えて言うなら、私以外の女性では、彼を更正出来ないのだ。

 

 小さい頃からずっと一緒で、彼を知り尽くしている私だけが、〇〇さんを正す事が出来る。

 

 正すために、私は彼の隣に一生居なければならない。

 

「か、奏?ジョークよジョーク。イタリアンジョーク」

 

「ジョーク?何故です?とても良い提案じゃないですか」

 

「おーい?」

 

 そうだ。〇〇さんを更正出来るのは私だけ。私が彼を正さなければならない。

 

 そのためには、私と〇〇さんが結婚する必要がある。

 

「えっ無視?」

 

「…とにかく、貴方の家に行きましょう。結婚の話はまず2人で話し合い、そして貴方のご両親と私の両親にも話をするんです」

 

「け、結婚!?」

 

 丁度良い事に、私は彼の事を好いている。彼もまた、私の事を嫌っていない。彼と共に人生を歩む事に、私は何の不快感も感じない。

 

 だから結婚して、私は彼の隣に、彼は私の隣に居続ける。

 まさか高校1年で、結婚の約束をするとは思いもしなかった。人生とは分からないものだ。

 

「さぁ、行きましょうか。〇〇さん」

 

 貴方の全てを管理し、正します。

 

 全ては、貴方のために。

 

 

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