ここは数多くのプロヒーローを輩出する
次世代のプロヒーローを育てる高校、雄英高校に在学している俺はピカピカの1年生……とまでは行かないが、入学してからなんだかんだと月日が経っている。勿論、ヒーロー科所属である。
「おーい〇〇!昼飯食おうぜ!」
気さくに話しかけてくるこの男は、
「俺も混ぜてくれよ」
バンダナを巻いたこの男は、
他にも様々な個性を持ったクラスメイトが居て、最後まで紹介すると時間が掛かるので省略しよう。
鉄哲や泡瀬の他にも、同じクラスの男子と一緒に食堂に向かった。
クックヒーロー、ランチラッシュが安価で提供する食堂は、毎日のように人が溢れかえる。あの美味しさを学生の懐に優しい値段で食べられるのだから、必然と言えば必然だ。
それぞれが欲しい料理を注文し、空いた席に座って昼食を取り始めた。そんな時。
「そういえばさ。〇〇と
「俺は知ってるぜ。夜になると、決まってお互いどちらかの部屋に行くよな。で、隣から慄きの声が聞こえて来る」
「あー…うるさかったか?」
「別に騒ぐぐらいなら気にはしねえよ。それよりもだ。いくらホラー映画を観るとはいえ、わざわざ2人きりで部屋に篭る事はねえだろ?しかも、〇〇の部屋か、あるいは柳の部屋で見てる。これだけの証拠揃ってて、何もねえとか言うつもりじゃあねえだろ?」
うちの女子もそうだが、男子もそこそこ恋バナ好きよな。例えば、鉄哲に好きな人が出来たって言われたら気になるけど。お年頃だ。
「つっても、お前らが思ってるようなえちえちなイベントは無いぞ?レイ子とホラー映画観て、たまにネットで怖い話検索して…」
「絶対嘘だろ!俺夜中に柳が〇〇の部屋から出て来るの見たぞ!何もねえって信じる方が無理あるだろ!どうだ柔造、〇〇と柳、何もねえと思うか?」
回原が
「本人が何も無いって言ってるんだし、何も無いんじゃない?ただ客観的に見たら、恋人らしい事の1つや2つしてるって疑うけど」
「ほら見ろこの青春謳歌野郎!何ヒーロー科に来て恋愛に現を抜かしてんだ!」
「そう言われてもな…」
付き合ってしまったものは仕方ないだろ。なんなら別れる気だって無いし。
「でも柳って結構嫉妬深いだろ?ほら、〇〇が柳と付き合う前の」
「あ。あれか。
「?何の話だよ」
「お前、いつだったか
「そうなんか?」
レイ子はあまり自分の事を話したがらない。だから無理して尋ねる事はしていない。けれど時々、レイ子が不機嫌そうに見えたのはそう言う事だったのか?
「〇〇が幸せなんだから何も言わんけどさ、柳あいつマジで嫉妬深いから。安易に他の女と話さない方が良いぜ?」
「そ、そうか…」
嫉妬深いから注意しろという回原のありがたい忠告を受けた。
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迎えた放課後。
俺はブラキン先生に提出物を渡す為に、皆より少し遅い帰宅になった。レイ子が「待ってようか?」と言ってくれたが、別に待つほどでも無いから先に帰らせた。
しかし、それが間違いだった。
「あ〜、〇〇くん!久しぶり!忘れちゃった?」
「…ねじれねぇ…」
目の前に現れたのは、家が隣の
「そういえば、なんでまだ学校に居るの?自主練?それとも自主学習?〇〇くんってそんなに真面目だった?」
「単純にブラキン……ブラドキング先生に提出物を渡してただけ」
「へぇ〜!何の提出物なの?宿題?」
これがねじれねぇの困る所。とりあえず気になった事はなんでも尋ねて来る。一度、彼女をフル無視した事があるんだが。
『ねえねえなんで無視するの?私の声聞こえてるよね?もしかして私の事嫌いなの?なんでなんで?私〇〇くんに嫌われるような事してないよ?なんで聞こえてないフリするの?ねえねえねえ』
同じ事ずっと聞かれ過ぎて心が折れた。いやマジで怖い。なんなら段々と圧が凄くなってたし。
そんなわけで、これから彼女を無視してはいけないのだ。無視したらねじれねぇに心をへし折られる。
「じゃあ俺、そろそろ寮に帰らないと行けないから」
「えぇ〜!もうちょっと一緒に話そうよ〜!」
ねじれねぇの困る所その2。融通が利かない。自分の気になる事を知るまで尋ねる辺り、我が強い人間なのは分かっていたが、これほどまでとは思わなんだ。
だから結局、ねじれねぇの思うがままになる。寮に帰るのは、その数時間後だった。
「〇〇、遅いんだけど」
寮に帰ると、不機嫌そうに出迎えたレイ子が。その奥では、男女共有スペースに設置されたソファで寛いでテレビを見ているクラスメイトがチラホラ。
「何してたの?」
「いやまぁ……」
そういえば、レイ子は嫉妬深いとかなんとか言ってたな。ここで雄英でも有名なねじれねぇを出せば、レイ子の嫉妬心を刺激しまくってしまいそうだ。かと言って、嘘吐いてバレた時更にヤバい気がする。
正直に言った方がマシな気がする。
「…ねじれねぇに絡まれてた」
「ねじれねぇ……波動先輩の事?」
「そう。あの人のキャラ知ってるだろ?だから帰るに帰れなかったんだよ」
ねじれねぇに質問攻めされていたと答えれば、流石にレイ子も文句を言えないだろう。何故なら、今の段階では100%ねじれねぇが悪いんだから。ねじれねぇのキャラを利用させて貰ったぜ。
「…私よりも付き合い長いんだから、断る事も出来たじゃんね」
「付き合いが長いからこそ断れないんだよ。あの人フル無視したらどのホラー映画よりもウラメシいんだから」
「〇〇〜、口癖移ってるよ」
ソファで寛ぐ取蔭にそう言われて気付く。
「ウラメシイ」とは、レイ子の言葉で「怖い」とかそういう類の意味。彼女と長くいるからか、その口癖が移ってしまっている。指摘されないと気付かないほど無意識に。
「とにかく悪かったって」
「…もし〇〇が残るなら次から私も残るから、絶対。2人きりなんてさせない」
なんかもう修羅場の予感しかしないけど大丈夫か。修羅場起きるフラグ立ってるんじゃないか?
「遅い理由は分かったから、早くお風呂に入って来なよ」
溜め息を吐きながらレイ子はそう言った。丸く収まって良かった、うん。ここでポルターガイストなんて発動されたらたまったもんじゃない。一瞬で
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「〇〇の事になるとレイ子って本当に怖くなるよな」
一佳がそう揶揄う。
彼が押しに弱いだけ。いくら付き合いが長いからって、付き合う理由が無いなら断れば良いのに。
私は〇〇が好き。愛してる。絶対に離れるつもりは無い。
出会いはクラスが一緒になってから。隣の席だったから、社交辞令で挨拶して来た。私は最低限の挨拶をするだけで、そこまで関わる事は無かった。
彼に出会うまでは、人と関わるのがあまり好きじゃなかったのだ。
私の趣味はホラー映画の鑑賞、または怖い話をインターネットから漁る事だ。小さな頃から好きだった趣味。
しかし。
『え、柳ってホラー映画好きなのにヒーロー目指してんの?変な奴』
『どっちかって言うとヒーローより敵側じゃない?』
自分の好きなモノを否定されるどころか、ヒーローを目指す事でさえ馬鹿にされた。「ヒーロー目指す奴がホラー映画を趣味としてるなんて変だ」、「お前のその姿じゃ子どもとか泣くんじゃないか」なんて事も言われた。
ホラー映画の見過ぎやネットサーフィンのやり過ぎで、夜更かしする事が多かった。結果として、目の下に隈が出来ている。その上、私の個性はポルターガイスト。人間1人分の重さのモノを、または1人の人間を操る事が出来る個性。
容姿と相まって、私はヒーローよりも敵寄りと見られた。
それでも、なりたいモノはなりたいのだ。以降、私は周りの声など一切通さずに受験勉強をして、雄英に合格したのだ。
しかし、敵と言われた事が私の中で根付いていたからか、B組の誰とも話そうとしなかった。また趣味で引かれたりしたら嫌だから。
でも。
『あ、俺その映画今度観に行くんだよ。続編やるって時キターって思ったんだよな』
私はスマホで最新のホラー映画の情報を見ていた。周りに見られないように、細心の注意を払っていたのに。
『柳ってホラー映画とか好きなタイプ?』
『…だったら?』
『俺も好きなんだよ、ホラー映画。もし良かったらこの映画観に行かない?』
初めてだった。私の趣味を否定せず、まさか誘って来るなんて。
同士だと思った。だから私は、〇〇のその誘いを受けた。今考えてみれば、傍から見たらデートか何かと勘違いされていたかも知れない。
『あーおんもしろかった!受験勉強とかで観に行けて無かったし、久しぶりに観に来れたわ』
『…ねぇ、〇〇。1つ聞いて良い?』
『うん?どうした?』
もし何か言われたらどうしよう。そう思ったが、尋ねずにはいられなかった。
『…私、ホラー映画とか観るのが趣味でさ。怖い話をネットで探したりとかしてるんだけど。…ヒーロー目指す人間の趣味がこんなとかさ、やっぱりおかしかったりする…?』
『いや全然』
恐る恐る尋ねたのに、彼はあっけらかんと返した。
『俺だって趣味が柳と近くてさ。心霊スポットとか行ったりもしたけど、ヒーロー目指す人間の趣味がホラー映画が変かって言われたら、そんな事無いだろ』
『でも、私みたいな人間は敵の方が似合うって……。趣味も普通じゃないし、容姿だってこんなだし…。お化けみたいな個性だし、人を助ける人間の姿じゃないって…』
『ヒーローって別に姿云々で決められるわけじゃないだろ。人を助ける姿を見て、この人はヒーローなんだって決められるもんだろ。それが雪女の格好だろうが悪役みたいな格好だろうが変わらんでしょ』
その言葉に、私はどれだけ救われたか。
趣味も容姿もコンプレックスだった。だから他人と関わる事をしなかった。いや、出来なかった。嫌われる事がウラメシかったから。
『少なくとも俺は柳が敵寄りの人間とかは思わないな。そりゃ悪い事したら敵扱いになるだろうけど、柳だってなんらかの理由でヒーロー目指してんだろ?そんな人間を誰が否定するんだよ』
彼は私の全てを肯定してくれた。今こうしてクラスメイトと話す事が出来るのも、〇〇が居たお陰なのだ。
だから、好きになった。
体育祭や職場体験、期末試験に林間合宿。ヒーロー仮免許取得試験に、文化祭。様々な行事を経る事に連れて、私は彼に寄せる想いが強くなった。
しかし、それは彼も同じ事だった。
『お前の事が好きなんだ。付き合って欲しい』
ありきたりな告白だった。けれど、とても嬉しかった。だって、私の好きな人から告白されたのだから。
こうして、私と〇〇は付き合う事になった。
と言っても、付き合う前とやる事は変わる事は無かった。ホラー映画を一緒に観たり、怖い話を検索して楽しんだり。強いて言えば、互いの部屋に入り浸る事が格段に増えたぐらいか。
ただ、精神面では大きく変わった事は否めない。
付き合って以降……いや、付き合う前から彼の隣に居る事が多かったからか、いつの間にか〇〇の隣に居るのは私だけで良いと思うようになった。他の人間じゃなく、私だけが居れば良いって。
彼の優しさは私だけが独り占め出来れば良い。彼のカッコいい所は私だけが見ていれば良い。ホラー好きなのに、ちょっとウラメシがる可愛い所は私だけが知っていれば良い。
彼の全部を、私だけが独り占め出来れば良い。鉄哲も拳藤も
彼にとって大切な人間は、私だけで良い。
こんなに誰かに執着するのは初めてだ。これが恋だと言うなら、思ったより恋というのはウラメシイものではないかと思う。
好きな人の隣に私の友人が居たとしても、それを許せない程の嫉妬心が激しくさせてしまうから。好きな人の隣に友人が居る事すら許せないぐらい、私は彼を独り占めしたい。
「ほーんと、良い男見つけたよね。あんな大事にしてくれる奴、そうそう居ないって」
「…言っておくけど、〇〇の部屋に入るのはダメだから。私の〇〇だから」
「分かってるよ。同じ過ちはしないって」
付き合う前に、取蔭は〇〇の部屋に入っていたのを目撃した。嫉妬した私は、気付けば男女共有スペースにある家具を操っていた。
私は面倒で重たい女。でも、それすら〇〇は肯定してくれた。その上で、告白してくれたのだ。
「でもさ、〇〇って結構モテるよな。ファンクラブとかあるらしいし」
「それ言い出したら一佳だって同じっしょ。
〇〇がどれだけモテていようが関係無い。〇〇は私の〇〇。その事実は変わらないし、変えられない。
死んでも離さない。絶対に。
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夕飯と風呂を済ませたら、各自自由時間。俺とレイ子は、変わらずにホラー映画を一緒に観ている。時間はとっくに12時を過ぎており、なんなら1時になる頃であった。
「もうそろそろ寝るか。学校無いとは言え、そろそろ眠たくなって来た」
因みにここはレイ子の部屋。内装は勿論、ホラー関係ばかり。夜中にも関わらず、雰囲気作りの為か電気を点けていない。なのに、2人でパソコンの画面を共有してホラー映画を観ている。間違いなく、目に悪い。
「じゃあおやすみ、レイ子。また明日な」
そう言って、俺はレイ子の部屋の扉のドアノブを回した。のだが、何故か扉が開かない。
「…今日は部屋に泊まってよ。戻ったらダメ」
「…お前、個性でドアを動かなくさせたな」
彼女の個性はポルターガイスト。身近にある人1人分の重さのモノ、あるいは人1人を操る事が出来る。ドアが動かないのは、レイ子が個性で動かなくさせているからだ。
「明日は学校休み。夜更かししても何の問題も無いし、部屋に泊まってもブラドキング先生に気付かれる事が無い。だから今日は泊まって」
「……お前、最初からそうするつもりだったのかよ」
何度もレイ子の部屋に入り浸りはしているが、なんだかんだで泊まるのは初である。夜中にレイ子が俺の部屋から出て行ったって回原が言っていたが、単純に今みたいに夜更かしをしていたから。
「…分かったよ。泊まるよ」
ドアノブから手を離して諦めた。すると今度は、俺の身体が勝手に浮き始めた。
「お、お前……今度は俺の身体を操ってるな…!」
向かった先は、レイ子のベッド。ベッドに仰向けで寝転ぶ形になり、そのまま身動きが取れないでいた。
「…早く解除してくれん?」
しかし、レイ子は聞き入れてくれなかった。それどころか、今着ているる服や短パンを突然脱ぎ始めたのだ。残ったのは、彼女の下着だけ。
「え、ちょ、何してんの?いや、マジで何してんの?」
彼女の奇行に、俺はウラメシく思う。突然彼女が服を脱ぎ出したら、それはホラーなのだ。
「〇〇、最近弛み過ぎ。私の彼氏って自覚が無いから、〇〇は誰のなのかをはっきりさせておく必要があるの」
仰向けになった俺の上にレイ子は馬乗りになる。手を俺の胸辺りに這い寄らせて、自信の顔を俺の顔に近づけさせる。
「まだ、〇〇とこういう事してなかったよね」
「待った待った待った。流石にヤバいって。夜中だぞ夜中。絶対バレるって」
「良いじゃんね、バレたって。付き合ってるのにシてない方がおかしいんだから」
「いや、マジ待って。ゴムが無いから…!」
「大丈夫。ピル持ってるから」
あっこれ最初からヤる気満々なやつだ。多分いつかこういう事をしようと考えていたのだ。
「それに、〇〇のここ……すっごくウラメシい事になってる…。下着姿の私に馬乗りされて、興奮してるんだ…」
「そらお前、これで反応しない男がどこに居るんだよ…!」
胸に置いていたレイ子の手は、今度は俺の頸に回す形になる。と同時に、俺の両手が勝手に動かされて、レイ子を強く抱きしめる形になった。その抱きしめた衝撃で、レイ子は「んっ…」と喘いだ。
「…好き。〇〇の事が好き。死んでも離さないし、死んだって〇〇に取り憑いて離れない。でも絶対に浮気はダメだから。そんな事したら、死んで呪うから」
俺の彼女は柳レイ子。とても愛の重い女。けれど、それすら好きになって付き合ってたのだ。
なら返す言葉はこれしか無い。
「…俺もだよ、レイ子。こうなりゃ責任でもなんでも取るぜ」
そこから、俺達は互いが満足するまで身体を重ねて愛し合った。きっと同じ階の部屋の住民に、レイ子の喘ぎ声が聞こえてしまったかも知れない。だがそれすら考える事なく、ただただレイ子を愛する事だけに集中した。
結果、次の日にはおもっきりバレてしまった。しかしバレたのにも関わらず、レイ子は幸せそうな表情をしていた。
柳の過去に関しては完全なオリジナルです。もしかしたらそういう事もあったかも、と思って創作しました。にしても、ちょっと病みが足りんかったかな。