クトゥルフ世界で配信者   作:探索者8号

3 / 3
コラボ先の人の視点
一応、過去話


コラボ配信、あるいは新米探索者の受難(前編)

走る。

 

 

 

走る。

 

 

 

走る。

 

 

森の中を走って逃げる。

 

 

慣れない服と慣れない靴と慣れない身体で走り続ける。

 

 

4本の腕と垂直に開く口を持った毛むくじゃらの巨人から逃げる。

 

 

 

洞窟に帰ればきっと現実に戻れるのだろうけど、それは無理。

 

細かく方向転換しながら逃げていたから現在地はわからない。

 

大丈夫。ここは夢の世界。

だって、私の体はアバターになっているのだから。

黒猫の獣人の身体。

だから現実じゃない。

疲れるはずがない。

死ぬはずがない。

 

 

 

ーー本当に?

 

 

いつのまにか、座り込んでいた。

立ち上がれない。

もう一歩も動けない。

 

「死んじゃうの、かな」

 

でも。

だとしても。

せめて。

 

「私の夢なら殴れば勝てる……」

 

そう。あれは夢。夢の中の怪物。

私の強い認識で自在に歪む虚像。

ーー本当に?

 

怪物の腕が私めがけて伸ばされる。

一発。一発殴りさえば。

そうして右手を振りかぶりーー

 

 

 

 

 

 

 

 

否。

右腕は上がらない。

そんな体力は、もう残っていない。

 

だから、目を閉じようとした、その時。

 

 

 

 

 

 

ーー代わりにーー

 

ーー別の右腕がーー

 

ーー背後から伸びてーー

 

 

「間に合った、ね。安心して眠って私に任せて」

 

声が聞こえた

きっと、女の子の声。

多分、"彼女"の声。

 

そこから先はよく覚えていない。

目が覚めた時には"彼女"と猫に囲まれていた。

あの、私の魂を捉えた古風な街で。

 

 

 

 

 

 

「あ、起きた?」

「あ、はい……此処はどこです?この猫たちは?」

 

なんだろう。この場所は。そしてなぜ私は猫に埋もれているのか。

なんでカメラが空を飛んでいるのか。なぜ私は撮影されていたのか。

 

「とりあえず初めまして、アティちゃん。あーちゃんです!」

「あ、はい、アティです……それで何がどうなって」

「此処はウルタール。猫の街。この猫たちは君のお見舞い、かな。」

 

猫の街?確かに沢山の猫がいる。

首輪はしてないからきっと野良。でも健康的な太り方をしている。

ただの野良ではこうはならない。

そして、当然のように空を飛んでいたパソコンの画面には配信中の画面。

 

かわいい

うらやま

いいなぁ

 

自分で言うのもなんだけど、猫に埋もれて眠る美少女というのはポイントが高い。

撮れ高なら過去最高だろう。

 

「死にかけてたからみんな心配して集まってきたんだって。市場でパンとかチーズとかワインとか買ってきたから、とりあえず食べて。」

「あ、はい……いただきます」

 

死にかけてた?ああ、確かにそうだけど。

パンとチーズを齧りながらワインを飲む。空腹は最高のスパイス、とはよく言ったものだ。限界を超えて走り続けた今は日本では体験できない空腹状態。お世辞にも高級とは言いがたいこの食料は人生で一番美味しい料理だった。

 

「このカメラは……」

「寝顔配信」

「え?」

「いやね、君が走り疲れて猫に埋もれて眠ってるって言ったらリスナーのみんなが見せてくれって騒ぎ出してさ。私のチャンネルで配信中なんだ。あ、これ持っておいて。ここで使える銀貨と金貨が入ってる。日本円はここだと使えないし両替もできないから」

「いや、あの……」

「あと渡しておくものとしてガイドブックと猫語辞書とこっちで使える機材と武器は……山刀と薙刀でいい?」

「あ、はい……」

 

ウルタールってどこよ

調べても出てこないぞ

見た目的は欧州のどこか?

地震がない分古い街並みは珍しくないよね

欧州って金貨銀貨が流通してるのか?

機材がなんで空飛んでんだよ

CGだろ、流石に

アティが3D化してないのに3Dアティがいるのもおかしい

オーバーテクノロジーだから

オーバーテクノロジーの産物ですたぶん

オーバーテクノロジーの時点でダメだろ

あーちゃんは自分の3Dのガワ作る時数分で終わらせてたぞ

あーちゃんってVtuberだったん?

Vとのコラボの時にあったほうがいいから作ったんだってさ

というか死にかけてたってどういうことだよ

もしかして治安悪いの?

 

配信画面に目を移すと、数多の困惑しているコメントが流れていく。

日本円が使えない。というのはまあそうなんだろうけれど。

両替すらできないってのは異常。

武器が必要な治安の悪い地域……はまあ地球にだって掃いて捨てるほどあるか。

でも。

ここは人懐っこい猫で溢れた古都、なんて絶好の観光地。

そんなことありうるのだろうか。

 

 

「治安はね……ウルタールの場合はそこそこ安定してるはず。まあアティは猫が混ざっているからウルタールの中にいる分には心配しなくていいよ。ここでは何人たりとも猫を傷つけてはならない。そういう決まりだから危害を加えられることは無いと思う。」

「ウルタールの外はどうなってるの?」

「人喰いの化け物が闊歩してる。だから丸腰で出ないようにね。たまにウルタールに侵入することはあるけどウルタールなら自衛戦力はあるから。近場だとセレファイスも安全でダイラス=リーンは人間が生きていける環境だけど危険な場所だね。あとはソナ=ニルとフラニスも大丈夫。」

 

ああ、やっぱり私は食べられかけてたのか。

セレファイスとか、ダイラス=リーンというのは地名らしい。

ガイドブックの地図に書いてあった。

 

「総括すると……ボドゲの中世の治安を地の底まで落とせばまあ大体あってるかもしれない」

 

最悪では

なんでそんな場所で配信してんだ

早く地球に帰ってきなさい

寸劇じゃないん?

死なないで

 

これは私のリスナーの反応だろうか。

表示されているハンドルネームに覚えがある。

 

これはわかりやすい説明

大体あってるな

ダイラス=リーンでは酒場で難癖つけられて街中でチャンバラしてたな

あの絵に描いたようなチンピラ冒険者みたいなのには草生えた

 

こっちは、彼女のリスナーの反応。

慣れすぎじゃないかしら。

 

 

……あれ?

……うん?

 

かわいい

かわいい

かわいい

 

急にコメントがかわいいで溢れる。

 

「え……え?」

 

私の手が勝手に彼女が持っていた猫じゃらしを掴んでいた。

 

「あ、違っ……この手が勝手に!この手が悪いんです!というかなんで猫じゃらしが!」

「……趣味?」

 

 

 

元気出た?

調子戻ってきた?

 

まあ、元気は出たかな。




・ガグ
映す価値なし

・アティ
めでたくめでたくなく探索者デビューしたvtuber
悪い大人に騙されてドリームランドにやってきた
ドリームランドでは肉体がアバターに置き換えられる
リスナーからは即興で作られた3Dアバターだと思われているが
普段は猫動画を日記代わりに投稿している人
《既知世界》東大陸の南に築かれた積層型巨大構造体から成る完全環境都市の《猫虎》の荒事屋とはとくに関係は無い
キャラシの技能欄に月への跳躍とか九つの命とか書いてあるけど人間
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。