楽玲短編詰め   作:赤鱶

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つづきかも?


太陽を墜とす

 

「うーん……どうしようコレ」

 

言わずもがな、玲さんから貰ったバレンタインチョコである。

 

いや礼儀として、お返しするとも言ったんだから、じゃあ食べなきゃ駄目だろうというのはもちろんその通りなんだが。

 

義理チョコは誰に貰ったかメモを取ってある。 おやつに食べてもいいし瑠美にあげてもいい。 有象無象なんだから適当に消費すればいい。

 

でもこれだけは適当に食えない。

そんじょそこらの義理と同列には思えないし、といって本命だと言い切れる訳でもないが……何よりも玲さんから貰ったものだから。

 

端的に言えば、俺はお菓子一つを食べるだけの覚悟が決められないでいた。

 

「紅茶淹れるか……」

 

時間稼ぎ、そう時間稼ぎだ。

別に今すぐ食べなきゃいけない訳じゃない。 普通に考えれば今日中に食べて日付変わるまでにはお礼メッセージ送って、シャンフロで会えればそっちでも言って……いやこれどう足掻いても数時間以内に食べなきゃいけないやつだな?

 

お湯に浮かんだティーパックが恨めしい。

まだ数時間はあったはずのタイムリミットが『淹れた紅茶が冷めるまで』に短縮されてしまった。

 

「愚策、自縄自縛、稀代の大ガバ……っ!」

 

蒸らす待ち時間は2分。

つまり120秒だ。 戦闘中なら何でもできる長い時間が、しかし一瞬で過ぎ去って。

 

混ぜて淹れる。

準備が整ってしまった。

 

もはや俺はこれをただのイベントだとは認識していない。

リュカオーン級の特級案件に匹敵するだろう

 

なんだ、なんでこんなに緊張してるんだ?

 

 

もったいない? 名残惜しい?

違う、そういう気持ちもない訳ではないが、それはごく一部でしかない。

 

この緊張の原因の大部分は、まだ認めたくない、だ。

それに尽きる。 もう分かってる。

 

思った以上にガチっぽいからこそ、どう向き合ったらいいのか分からない。

食べて、味わってしまえば……よしんば本命だと思ってしまったら。

 

相応の対応が必要になる。

 

向き合うにはレベルもスキルも足りてない、でももう手遅れなのだ。 受け取ってしまった時点で、全ては既定路線に列べられてしまった……

 

 

「………………南無三ッ!」

 

 

 

 

 

死ぬほど美味かった。

 

来年も貰えますか? 俺次第?

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

15回の推敲を重ねた当たり障りのないメッセージを送って、ラッピングを畳んで引き出しの奥深くにしまい込んで。

 

ゲームのイベントを走らなかったバレンタインデイなんて初めてだ。 シャンフロにはinしたけど集中出来なかったし、レイさんにも会えなかったし。

 

久しぶりに「ちゃんとした」時間にベッドに入ってみたが、どうにも寝付けそうにない。

 

 

夕食も食べたし歯も磨いた、なのにチョコの甘さが口の中に残っているような気がする。

どれもこれも玲さんのせいだ。 玲さんからバレンタインチョコを貰ったという事実のみがこの不調を作り出した。

 

きっと義理だと言われていれば、こんなにも気になる事は無かった。

 

今からでも確かめる事は可能、そう可能だろう。

そうする気が起きないのは何故なのか、今の俺には分からない。

 

チョコを貰った時はあぁ律儀なひとだなぁと思ったのも束の間、いつもとは違う覚悟を決めたような異様な雰囲気に呑まれて……

 

バレンタインデイなんてイベント期間に、付き合ってるなんて噂が流れている男子と、相合い傘なんてして、チョコを贈って

 

 

……普通そこまでするもんか?

 

付き合ってないと否定するような関係性なら、少しくらいは躊躇うものじゃないのか?

 

 周りから付き合っていると思われてもいい、という事だろうか。

 

 

 じゃあ、それは何で?

 

 

 

口の中が乾く。 心臓が早鐘を打つ。

 

今までも思い付いて、そのたびに否定してきた“可能性”が、今になって確かさを増していく。

 

莫大な恐れと微かな甘さは、チョコレートに似ている。

坂を登っていくジェットコースターのような高揚と恐怖、その先にあるものは果たして落下なのか?

 

「……いやまだそうと決まったわけじゃない、変なことを考えるな」

 

例えば玲さんが俺のことを好いている、だとか。

例えば俺がホワイトデイに、

 

「………………俺が?」

 

 

よくない。

 

この、思考が走り出す感覚は。

 

いつかジェットコースターで吹き飛んでいったそれか。

 

 

「……俺は、玲さんが、好きなのか」

 

 

口に出してしまえば、それは驚く程すんなりと形を持った。

 

 

……どうしよう。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「ルート固定もびっくりな視野狭窄だな……」

 

 

玲さんが好きだと気付いてしまってから、バレンタインチョコ……玲さんの気持ちに関しては考えるのを止めた。

どう考えても俺に都合の良い解釈しか出来なくなってしまったからだ。 選択肢を固定してクリア出来るゲームはない。 あったとしてクソゲーだろう。 俺は現実が思い通りになってくれる事を期待するほど馬鹿じゃない。

 

結局玲さんはあれからもいつも通りで、むしろ恋心を自覚してしまった俺の方がギクシャクする始末。

無理矢理にバレンタインデイ前までの俺をロールプレイしてやり過ごして、最近は何とか今まで通りの関係性を演じられるようになってきたところだ。

 

 

「陽務どこいった!!」

 

「さっき階段の方行くのが見えたよー」

 

「サンキュー!」

 

……さて、チロルチョコで買収した隣のクラスのひとが実に良い働きをしてくれて、雑ピを撒いた所なんだが。

 

ここ、玲さんのクラスなんだよね。

そして休み時間もそろそろ後半、友達と話しながら教室に入ってきた玲さんの声が聴こえていて、じゃあ俺は何処にいるかというと。

 

「……どうしような、これ」

 

掃除用具入れの中だったりするんだ。

 

 

咄嗟に逃げ込んだにしては良い選択肢だったし、その時点での目的は完璧に果たされた訳だが……考えが浅かった。

 

次の授業は担任の教科、遅刻すれば教壇前で絶妙にズレた説教を聞かされる羽目になる……晒し者にされるのは御免被る。

だから俺は今からここを出て自分のクラスに戻らなきゃいけない。

でも、いきなり掃除用具入れから出てきた奴が耳目を集めないはずがない……そりゃあ俺は多少は変人だったりするだろう。 半裸で覆面だったりする。 でもそれはゲーム内だから出来る事であって、人間関係の中心たる学校で奇行をやらかして噂が広まるのはかなり辛い……

 

いや認めよう、玲さんに変な風に思われるのは嫌だ。

 

どうしたもんか、いっそのこと今から出ていくとして、理由は雑ピに閉じ込められたって事にしておくか……?

 

タイムリミットは近付いてくる。

具体的にはあと2分以内に戻らなければアウトだ。

そんな事を考えていて。

 

 

ふと。

 

用具入れの扉の通気孔から、玲さんを見られる事に気が付いてしまって。

 

 

視線が吸い寄せられる。

そりゃそうだ。 好きなんだから。

 

でも、いつもと何か違う気がする。

 

「……体調悪かったりするのか?」

 

自分の呟きで理由が分かった。

 

血色が悪い、とはちょっと違うと思う。

普通の人と同じくらいではある、いつもほっぺが赤いひとだと知らなければ、違和感など覚えないだろう……

 

「……き、」

 

何を言おうとした、この口は何を言おうとした!?

 

 綺麗だ、なんて、分かりきったこと。

 

でも、面白い人、可愛い人だって印象の方がずっと強くなっていた事に今になって気付く。

 

高嶺の花、そう言われるのも納得がいく表情だった。

 

「斎「ここだーーッ!!!!」

 

 

バァン! 教室中に響き渡る音を立てて掃除道具入れの扉が開かれる。

身を屈めて来ていたのか今の今まで気付かなかった。

見下ろせば凶悪な笑みを浮かべた雑ピが俺の制服の裾を掴んでいて。

 

視線を走らせた先、協力者の手の内に購買の菓子パンが握られていた事で全てを理解した。

 

 ――買収、いや司法取引……ッ!!

 

「見付けたぞ陽務ェ……」

 

教室中の視線を集めている以上、無様な真似は出来ない。

即席だが鉛筆をベースにロールプレイを組み上げて、ゆっくりと掃除道具入れから足を踏み出す……

 

「こうなっちゃあ仕方がないね、でも俺を懲らしめる時間はあるのか?」

 

「クッソ、次の授業内容まで把握してやがったな!?」

 

「では皆さんごきげんよう~、」

 

 

そこでさ。

 

 

いつものようにほっぺを赤くした玲さんと目が合わなければ。

目が合って、視線が交わって、玲さんが耳まで真っ赤っ赤にならなければ、さ。

 

もうちょっと平静でいられたのよ。

 

 

 

「………………勘弁して」

 

「する訳ねぇだろうが」

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「どういう星の巡り合わせかは分からない、けど……」

 

チョコレートが死ぬほど美味かった訳だ。

隠し味は愛情です。 ってか!

雑ピを笑えないラブポエマーっぷりに自嘲を一つ、カラカラと笑って気分転換。

 

どうしたって現状は簡単だ。 俺にとってはヌルゲーだったろう。

その代わりに玲さんが勇気を出した、いや振り絞ったと言っていい。

なら俺が今さら怖気付くのは違うだろ?

 

「3倍返し……いや、それじゃ足りない……!」

 

だって玲さんは、夏休みにコンビニで会った時にはもう愛らしい程にほっぺを染めた女の子だった。

もしあれがそういうことなら、あのチョコレートに詰まっていた()()()はどれほどのものか?

 

それをたった一回のホワイトデイで返せるはずもない。

だから、もう俺に残された道は一つしかない。

 

 

 

そっくりそのまま返すのは違う。

俺の想いを伝えるチョイスは。

 

 

 

「……キャンディか」

 

携帯端末の画面で、ハートが踊っていた。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

『ただいま電話に出ることが出来ません。 ピーという電子音の後に、貴方の恥ずかしい思い出を「初手で弱み握ろうとするのやめーや」……サンラクから電話してくるなんて珍しいじゃん、どういう風の吹き回し? カッツォをイジる最高のネタでも思い付いたの?』

 

 

同じ穴の狢、どんぐりの背比べ。

夏目氏やシルヴィア=ゴールドバーグのラブアタックに気付かなかったカッツォを煽る資格は、俺には欠片もありはしなかったということが判明してしまっている。

 

また、うまく事が運べば……恋に沸いた頭はこういう事を平気で考えやがるからどうかしちゃってると思うもんだが、うまく行けば俺は一応彼女持ちになるわけで、ペンシルゴンは俺をイジるネタとカッツォを煽るネタを手に入れる、と見る事も出来る。

 

「似たようなもんかな……」

 

電話の向こう側で疑念の気配、まぁ話を進めれば嫌でも伝わるだろう。 相手は稀代の策士ペンシルゴン、情報の欠片から全体像を把握する天才だ。

 

 

「今日は流行の最先端を行くトップモデル様に相談があってさ」

 

『……話だけ聞こうじゃん』

 

「バレンタインにチョコを貰ったんだけど、お返しを何にしようか悩んでるんだ」

 

『そんなことで?』

 

「男子高校生はそんなことでも一大事なんだよ」

 

毎年事務所にチョコの山が出来る側からすれば、そんなことかも知れないが。

暫しの沈黙、何を考えているやら……

 

『…………今年のトレンドは“bouquet”の「anémone」シリーズ、信頼してる相手に贈るならこれに限ると言っていいかな』

 

「永遠様流石っす、助かりますホント。 今度なんかお礼させてくれな」

 

さて聞きたいことは聞けたし適当に褒めちぎって通話終『いやいや待って待ってストップ!スターーップ!! ちょっとは疑いなさい! 今日のサンラクおかしいよ、普通なら3回は疑ったりジャブ打ってきてるじゃん! なに普通の高校生みたいなムーブしてんの!? 変なものでも食べた!?』

 

今日は察しが悪いなペンシルゴン、変なものでも食べた?

 

 

「何かしてもらったらお礼、至って当たり前の行動だと思うんだが」

 

『サンラクが壊れちゃった、叩いたら直るかな? 良い病院紹介してあげるから行きなさーい!』

 

「草津の湯でも治りゃしねぇよ。 ……これ以上は勘弁してくれ、な?」

 

『あっなるほど……そういう事ね、やっと理解した』

 

俺も恥ずかしくて説明しづらいからな、伝わったようで何よりだ。

 

『一応聞いておくけど、レイちゃんよね?』

 

「…………ぉぅ」

 

言わせんなってのに、鉛筆はやっぱり容赦無い。

そんなんだから外道とか良心無いとか言われるんだぞ。

 

『怒らないで聞いてほしいんだけど、……いやさっきのオススメね、所謂()()()()ってやつでね?』

 

「そんなところだろうと思ったぜ」

 

『まさか疑われないとか想像できないじゃない……成功を祈ってるわ』

 

「声が笑ってんだよ。 ……でもまぁ、ありがとう。 頑張ってくるよ」

 

今度こそ通話終了。

肩の力を抜いて……溜息を一つ。

 

 

 

「逃げ場があると思うなよ、俺」

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

ブランド洋菓子の入手は速達で間に合った。

花の形のキャンディのセット、月の小遣いの半分近くを対価に召喚したそれに……ありったけの想いを載せて。

 

 

今日も登校は一緒になった。

いや違う、玲さんが合わせてくれたのだろう。

夏休み明けに通学路で遭うようになってから暫くは俺の登校時間はそれなりにランダムだったはずだ。 固定エンカ、そう固定エンカかもしれないなんて考えるくらいにはほぼ毎日、()()会っていて……仲良くなって。 それを俺は廃人とユニークホルダーだからなんて、馬鹿らしくなるような勘違いをしていたってわけ。

 

鉛筆配下の物好きでもそんな事そうそうしないってのにな。

 

で今朝も一緒に雑談しながら登校した訳だが……これが渡せない。

話題も振れない、タイミングが図れない、挙げ句に関係ない話題の最中に噛みまくる始末。

緊張してたとはいえ、笑えてくるくらい無様だ。

 

「ヘタレじゃん」

 

これではウィンプを笑えない。

玲さんを見習えよ。 あの人は少なくとも半年以上の片想いに押し潰されずにちゃんと渡したんだぞ。 意識しまくる相合い傘の下で、どれだけの勇気を振り絞ったか。

 

「凄いひとだ……ほんと……」

 

その想いに報いたいと思うなら、その隣に立ちたいと願うなら。

同じだけの……それ以上の事を成し遂げないと。

 

 

[サンラク:今日はロックロールに寄っていきませんか]

 

お互いに帰宅してしまってから呼び出せるとは思えない。 今から匂わせるのも憚られる。 ……ギリギリのライン。 少なくとも下校は一緒に出来る。

 

[サイガ-0:私も岩巻さんとお話したい事があったので、お供させていただきます]

 

 

「……何なんだろうなぁ」

 

シャンフロか、それ以外か。

玲さんにとって岩巻さんは友人なんだろうか?

果たして俺は告白出来るのか、したとして玲さんに友人と会うだけの余裕は残っているのか、しかしこの一ヶ月間で気付いた事があって……俺も大概ヘタレであるという事。 恐らくこの機を逃せばもうこちらから距離を詰めるだけの勇気は出ないであろうという事。 ちょっとやそっとの理由で躊躇うようじゃ一生告白なんて出来やしない。

 

「岩巻さんに謝る用意はしておかないと」

 

リアル恋愛は土産話になるだろうか。

あのひと乙女ゲーに特化してるからな、旦那さん捕まえたときも大変だったっていうし……ならなさそう?

 

売れ残り(クソゲー)取り置きしてくれなくなったらどうしようか。 土下座でいいですか?

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

沢山話した。

 

いつも以上に時間を掛けて、いつも通りの通学路を歩く。

ロックロールまでの道が短くて、だから歩調が緩んでいく。

 

15通りのパターンがタイミングを逃して無為に消えた。

65歩先のロックロールまでに決めてしまわないといけない。

クソゲーを漁るだけの俺は、岩巻さんと話していくだろう玲さんより早く店を出る事になる。 店の外で待つだけの理由は見付からない、じゃあ……

 

俺と玲さんの関係性を、このままにしておかないために。

覚悟なんて決まってなくても、渡してしまいさえすればギリギリ伝わるようにキャンディを選んだ。

 

花束を。 贈れ。 この想いを全部詰め込んで。

 

 

「そうだ、今日ホワイトデイだったよね」

 

自然に、そう自然に。

 

何でもないように渡したそれは、何でもないと判ずるには少しだけ高級品の趣き漂う気品あるパッケージ。

 

目を落として受け取る玲さんの手は震えていて

 

「ぇ……ぁ、ぁりがとッ、ございます!」

 

消え入るような声で、家宝にしますと、聴こえてしまった。

でも、きっと俺が耳をすましていたなんて想像していないんだろう。

 

食べてくれ。 せめて開けてくれ。 じゃないと伝わるものも伝わらない。

 

 

……俺と同じだ。

 

()()じゃなかったら怖いから、曖昧にしておけるなら、まだ曖昧にしておきたい。

俺だって同じ恐怖に苛まれているから、その気持ちは痛いほど分かる。

 

だから。

 

そんな恐怖、俺が祓ってやる。

二度とそんなバカみたいな理由で目を伏せる事がないように。

背筋の凍るようなこの怯えに、玲さんがもう心囚われる事のないように。

 

一ヶ月前の玲さんの覚悟に応えただけじゃ、やっぱり足りない。  

なら、俺には何が出来るのか。

 

 

「玲さん」

 

たった一言名前を呼ぶだけに一生分の覚悟を必要とした気がしている。

玲さんが俺を見た。 真剣な表情に驚いたのか目を丸くするのが分かる。

表情がよく変わって可愛いひとだ。

 

これからどうなるのかは分からないが

 

「……ら、楽郎君?」

 

「ずっと貴女の事を誤解していました。 シャンフロ廃人ってレッテルを貼って、何も見ようとしなかった」

 

怪訝そうな表情に挫けそうになる。

けど結果として砕けようが成就しようが、もう伝えてしまうしかない。

俺はこの想いをそのままに出来ないし、玲さんはもう賽を投げた。

 

「やっと気付いたんだ。 玲さんは本当は、…可愛らしいひとだったって事に」

 

事ここに至り事態を理解したのか、表情に驚きの片鱗を見せる玲さんが後退ろうとして……思い留まってくれた。

 

だからもうこの口は止まらない。 告白は止められない。 分水嶺を越したなら流れ落ちるだけだ。 その先に、全てが帰結する。

 

顔が熱い。 心臓はかつてない速度で胸の中を暴れ回っている。 耳の奥で血潮が鳴って、たった一度の賭けだと叫ぶ。

目を逸らしそうになるのを縫い留めて、ただこの一心を伝えることだけを考えて

 

決着を。

宣言しよう。

 

 

「玲さん、 俺は玲さんが好きだよ。 ……良かったら、俺と付き合ってほしい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




腰を抜かして嬉し泣きする玲さんを支えてロックロールに駆け込むまであと2分。



おしまい。
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