秋宮ゆららは青を喰む   作:Ni(相川みかげ)

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10.冬城と遊ぼう

 昼下がり、昼食を適当に済ませた後に私は事務所を訪れていた。

 すれ違う社員さんに適当に挨拶を交わしながら、事務所内の配信用スペースに向かう。

 配信環境の不調で自宅から配信ができない場合や、オフコラボの企画の際に事務所からも配信できるように事務所には何台か配信用の共有パソコンがある。平日の真っ昼間で他に使う人もいなかったという事もあり、マネージャーに相談してみるとアッサリと使用許可が出た。

 

「あ、いたいた。冬城、お待たせー」

「ぴえっ!?」

 

 まだ待ち合わせ時間の20分前だったが、冬城は既に来ていた。

 一人でパソコンの前で座り、周りをチラチラ見ている彼女に背後から声をかけると、彼女は上擦った声を上げた。

 

「まったく、顔を合わせるのは2回目なんだからそんな驚かなくてもいいでしょ」

「ご、ごめんなさい……秋宮、さんみたいな陽……イケてる人と関わってこなかったので……」

「うん、対面で喋る時にコミュ障拗らせて、さん付けに呼び方が退化するのまずやめようか。あと私、イケてる人間からは程遠いと思うけど……私のどこを見て陽キャと言いかけたの?」

「……ほら、服とかカッコいいし! お母さんに服を買ってもらってるアタシと大違い!」

「今日の服、100パーたまセレクトだよ。お揃いだね」

 

 今日着てきたのは長Tシャツにジーパンの上からトレンチコートとカッコいい系の服装だ。チカは私に服を着せる時は可愛い系とカッコいい系どちらも着せたがるが、私的にはカッコいい系、正確にはズボンの方が体勢に気を使わなくていいから楽だ。

 ちなみにだが、冬城はゆったりとした長袖ロングスカートのワンピースにベレー帽とメガネといった格好。雰囲気のせいで非常に野暮ったい印象を受ける。顔立ちはいい分、もったいないなと思わない事もない。

 

「あっ……コミュ力高いし!」

「冬城と比べたらだいたいの人はコミュ強になるんじゃない?」

「デスヨネー……」

「さ、バカな事言ってないで遊ぼうよ。今日はよろしくね、冬城せんせ」

「ひえっ……! かかか顔近っ、うわめっちゃいい匂いだった……

 

 目と目を合わせて揶揄い交じりに名前を呼ぶと、顔を真っ赤にしてバッと目を逸らした後に小声でボソボソと何かを言っていた。反応が完全に童貞のそれだ。おもろ。

 それはさておき、今日の表向きの目的であるFPSゲーム『BPEX』を起動する。

 Vtuberでもメインコンテンツにしている人が多い基本無料プレイが可能なゲームで、3人1組のチームを作って最後の1チームになるまで戦うバトルロイヤル系のゲームだ。

 

「こういうチームを組むのが前提のゲームってソロでやっても勝てない印象だからやってこなかったんだよねー。ほら、私ボッチだし」

「大丈夫……だと思う。初心者はだいたいソロだし、セオリーなんて知らないから」

「ま、そりゃそうか。味方から怒られてもソイツは有名配信者の動画とかwikiで見たことを自分の知識と勘違いしているイタい奴って思えって事だよね。いやー、せんせの教えはタメになるなあ」

「そこまで言ってないですが!?」

「まあまあ。それで何からやっていけばいい? ちなみにゲーム内容は一切知らないよ」

「あー……それなら潜るよりトレーニングモードと射撃訓練場で一通り触った方がいいかも」

 

 言われた通りに私は隣の冬城から助言を受けながらゲーム内チュートリアルとして用意されているトレーニングモードを進めていく。

 

「わっ、ホントに初めて? エイムめちゃくちゃ上手だよ?」

「学生の時にシューティング系のアーケードゲームを友達と何回かやった事ならある。視点とかは違うけど感覚は似てるね」

「へー……アタシみたいな陰キャには一生縁がなさそうな体験だあ……」

「? この後帰りにゲーセンよってく?」

「いえいえいえ! 周りに人がいる中であんな目立つゲームするのはアタシにはハードル高いですう!」

 

 冬城がブンブンと手を大きく振る。やりたいのかやりたくないのかどっちなんだか。もうちょっと信頼を得てから誘った方がいいかな。

 そんな事を考えながらトレーニングモードを終えて、私は一通りの操作方法とテクニックを身につけた。その後、エイムにも問題なさそうとの事で冬城と一緒にカジュアルマッチを何戦かして今日のFPS教習会はお開きになった。

 

 

 事務所を出た後、冬城と喫茶店に入る。

 

「冬城、奢るよ。コーヒーとジュースどっちがいい?」

「えっ、あっ……じゃあジュース。コーラがいい、です」

「りょーかい。すいません。コーラとアイスコーヒー1つずつ。あとしろのわーる1つで」

 

 店員に注文だけして向かい合って座る冬城に目を向ける。目が合うとパッと目を逸らされた。

 

「あっ、ありがとう、秋宮」

「別にいいけど……まだ目を合わせて話すの恥ずかしい?」

「それは、恥ずかしいけど。後、こういうお店に入った事なくて、なんか緊張するというか……」

「チェーン店でそんな緊張しなくても……マックと一緒って考えれば全然問題ないでしょ」

「マックだって緊張するに決まってるじゃん。人がいっぱいいるんだから」

「ええ……?」

 

 それはもう家くらいしか緊張しない場所はないのでは?

 呆れてしまった所で飲み物だけ先に届く。

 

「でも今日遊んでてちょっとだけ安心したよ。冬城、ゲームしてる時はちゃんと喋れるじゃん」

「それは……ゲームに集中してたし、それに喋ってる事はゲームの内容だけだから話題を考えなくてよかったし……」

「うんうん。やっぱり配信者病なのかな。この感じだと今後ビペコラボやる時は配信事故はなさそうだね」

「……っん!?」

 

 私の言葉を聞いてストローでコーラを飲んでいた冬城が咽せた。

 

「えっ、コラボ? ……アタシと!?」

「そりゃそうじゃん。別にビペじゃなくてもいいけど、同期なんだからコラボはそのうちしないとでしょ」

「いや、それは……そうかもだけどぉ……」

「私だけじゃないよ。たまやさく姐はまず同期繋がりで定期的にコラボする事になるし、先輩達だってそのうちコラボする事になるんだから。事務所所属なんだからその辺は覚悟してたんじゃないの?」

「……うん。そう、だけどぉ……ほら、私って陰キャだし、コミュ障だし。面白いことなんにも言えないし……ダメだ、病みそう」

 

 自虐で鬱々しい雰囲気をまとい、がっくりと冬城は俯いた。

 

「秋宮、は、いいよね。コミュ力高いし、カッコいいし。私みたいなのにも付き合ってくれるくらいできてる人間で。羨ましいなあ」

「……まあ、うん。顔の良さとコミュニケーション能力に頼りきった人生だったからね」

「自分で言っちゃうんだ」

「自分で言うよ。私の長所だもん」

 

 コミュニケーション能力、顔の良さのお陰で随分と楽をさせてもらった身としては冬城が羨ましいと思うのもなんとなくわかってしまう。

 

「……冬城の気持ちがわかるわけじゃないけどさ。みんなが持っていて当たり前なものを自分だけが持っていない。そんなコンプレックスなら、私もなんとなくわかるよ」

「秋宮が? そんな事思うの?」

「だからこんなダメ人間やってる。というか、冬城だって私が自分と同種の人間だと思ったからこんなにすんなり遊びの誘いに乗ってくれたんでしょ?」

「うっ……バレてる。いや、陰キャって思ったわけじゃなくて、なんというか、こう雰囲気が暗いというか……その、同期の中だと一番話しやすそうだったし」

 

 まあ、チカは外面通りにバリバリの陽キャだし、さく姐は年上な上に環境的な面で余裕が全然なくてギラついた雰囲気だしねえ。陰キャが仲良くしたいと自発的に動くにはハードルが高い相手だ。

 

「うんうん。まあそうだろうね。で、話を戻すけどこのコンプレックスって別に他の事ができるから埋まるってもんじゃないじゃん。

5教科のテストで500点満点中400点、そこそこいい成績の中、国語の点数だけ0点で他の4教科が満点取ったって状況だとして、どう間違っても国語の点数が良かったって事にはならないじゃん」

「すごい極端な人だね」

「そういう極端な人が私達って事。冬城だってV始める前、それなりに人気の配信者だったのに未だにコミュニケーション能力で悩んでる。結局ね、コンプレックスは他のもので埋めれないんだよ。短所は長所で補えても、短所は短所のまま残り続けるんだよ。ヤな話だよね」

 

 そんな話をしてると、注文したデニッシュの上にソフトクリームが乗ったデザートが運ばれてきた。

 

「ま、これから活動していく中でコミュニケーション能力に難ありってのは確かに不安だよね。冬城がどうにかしたいなら私も協力するよ?」

「どうにかできるの?」

「どうにかするのは冬城だよ。こうやって会話するだけで緊張するのが原因なら、もっと過激な体験をして会話程度で緊張しないようにすればいい。それに、顔を見てコミュニケーションを取るのは大切な事だからね。というわけで〜」

 

 机の上のデザートを一口大にして、フォークを差し出す。

 

「はい、召し上がれ」

「ぴうっ!? え、秋宮のじゃないのこれ!?」

「私だけでこんな量食べ切れるわけないだろ。最初から半分冬城に上げる予定だったよ。せっかくだし、全部食べさせあいっこしようか。そしたら嫌でも私の方を見ないといけないでしょ?」

「そそそそんなハードル高い事私にはむぅりぃ!?」

「無理だからいいんでしょ。それともラブホにでも連れ込まれる方がいいの?」

「ひゅえっ!? え、エッチなのはダメです!」

「私だってそんなのヤだから。ほら、口開けてあ〜ん……あっ、もっと可愛い声の方が良かったら言ってね。私、ロリからお婆ちゃんの声までできるから」

「あう……そ、そのままの声でいいから……」

 

 観念したのか、冬城が真っ赤な顔で口を小さく開く。

 

「ほら、ちゃんと目を開けて。フォークなんだから自分から咥えないと危ないよ」

「うっ……うう」

 

 冬城のギュッと閉じていた目が開く。よく見ると若干涙目だった。そんな目で非難気に私を弱々しく睨むが全然怖くない。ただただか弱くかわいい生き物だった。

 そのまま彼女はプルプルと震えながら差し出されたフォークを口に含み、すぐにその上のデザートを飲み込んでフォークから口を外した。

 

「は、恥っずう……! こ、これってすっごいイケない事してるんじゃ……

「よくできました。それじゃ次は冬城が私にやる番だね」

「……えっ」

 

 冬城の反応を待たないまま口を開く。

 

「ほら、早く」

「あわ、あわわ……」

 

 言われるがままにフォークを差し出してくる。めちゃくちゃ手が震えてて顔はこちらを向いていない。

 

「目を逸らさないで。私の方を見て。フォークだよ、危ないよ」

「ひう……こ、こう?」

「あむ」

 

 冬城の目を見たまま、フォークの上のソフトクリームを舌で舐めとる。

 時間をかけてゆっくりと。口の中でソフトクリームが溶けるのを確認してから口を離す。

 

「うん、そんな感じ。ちゃんと目逸らさなくてえらいえらい」

「……え」

「うん?」

「えっちだよっ! こんなのコミュ障には荷が重すぎるよっ! っていうか普通の友達でもこんな事しないよっ!」

「そうだよ。冬城向けの荒療治だし。でも、今はちゃんと私の顔見れてるじゃん」

「……ほんとだ」

 

 私に指摘されてようやく気がついたのか、目線が泳ぎ、また冬城と目が合わなくなった。

 

「ほら、こっち見て」

「ひう……あの、まだやるの?」

「やるよ。どもりや会話能力はともかく、目を合わせる事くらいはこれで慣れよう。ほら、あーん。早くしないとソフトクリーム溶けちゃうよ。」

「あ、あうぅ……」

 

 冬城は渋々といった形で、私の差し出したフォークを咥えた。

 結局、半分も食べてないうちにソフトクリームは溶けきっていた。

 

 

 

秋宮ゆらら@Akimiya_Link

ただいまにゃー。冬城とケーキ食べさせあいっこしてきたよ。

 

メッチャ顔真っ赤で草だった。かわいいね♡

冬城ことは@Fuyuki_Link

返信先:@Akimiya_Linkさん

ばかばかばかばか

 

 

 

 




冬城で遊ぼう

公共の場で何やってんだコイツら…
身バレ云々は気にしないで。気になるようなら外で会話している時は別の名前で呼んでいるものと思ってください。
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