最終局面。残るは私達のチーム含めて2チームのみ。正真正銘の一騎打ちだ。
「冬城、突っ込むからフォローよろしく」
「う、うん!」
実質的な制限時間が迫る中、私は先に仕掛ける事を選択する。
冬城に声をかけ、敵へと突貫。私の後に冬城とついでに野良のチームメイトがついてくる。
物陰を飛び出した瞬間に鳴り響く銃声。当然だけど敵だって黙って見ているだけじゃない。幸いにして被弾はない。私は敵の攻撃に当たらないよう動きを止めずに応戦する。
「一人落ちた、けど体力ヤバい!」
敵チームが1人ダウンして、残るは2人。
「ゴメン、落ちた!」
「まか、せてっ!」
私の残り少なかった体力が削られきると同時に、私をダウンさせた敵が冬城によってダウンさせられる。
「これで、残りひと……」
残った1人に冬城が照準をあわせようとした所で、野良のチームメイトの攻撃によって敵が倒された。
画面に大きな「CHAMPION」の文字が映る。
「あっ……」
「よっし、勝った。GGぃ~」
「あ、うん! じぃじぃ!」
少し締まらない最後にはなったが、冬城の方を向いて声をかけると彼女はにへらと笑って返事をした。
こうやって事務所で顔を合わせて遊ぶのは3回目だが、合間合間で距離感近めで荒療治的に接してきたおかげか、冬城の目を見ないで話す癖はほとんどなくなっていた。
「チャンピオン、そこそこ取れるようになってきたよね。私もちょっとだけ立ち回りわかってきたよ。ありがとね、冬城」
ゲームを一度終わり、ジュース片手に一息つく中で冬城に礼を言う。
「そ、そう。それじゃあ、もうこうやって遊ぶのも、終わり、だよね……?」
おそらく私がそれなりにFPSをできるようになったから、助けは必要なくなったと思ったのだろう。
寂しそうな顔でおずおずと尋ねる冬城。
人と接するのが明らかに苦手だった彼女が表面上とはいえ、私と遊べなくなるのを残念に思っている。……ひとまず、最低限の意識改善は済んだかな。
健全なコミュニケーションは一方向からだけでなく、双方向からの働きかけがないと長続きはしない。話が上手いか下手かが重要ではなく、コミュニケーションを取りたいと自分と相手の双方が思っている事が大事だと私は思っている。相変わらず受け身だけど、冬城の方からこういう働きかけを行うようになってきたのは大きな前進だろう。
心の中でガッツポーズをしながらも、態度には出さずに言葉を返す。
「え、なんで? もっとこれからも遊ぼうよ、同期なんだからさ」
「う、うん! そうだよね、同期だもんね!」
いやあ、同期って便利な言葉だなあ……
無理矢理な行動もある程度は正当化できる関係性に感謝していると、私たちがいた配信用スペースに人が入ってきた。
「あれ? 人がいますよ。今日はスタジオの予定私たちだけでしたよね?」
「見ぃへん顔やな。新しく入社したマネさんか?」
おっとりとした雰囲気の女性と、関西弁で私と同い年くらいと思われる女性の2人組だ。若干声色が違うがその声には聞き覚えがあった。
席を立ち、2人に向かって声をかける。
「
「そやけど……」
名前を伺うと、戸惑いながらも関西弁の女性が肯定した。やっぱりそうだったか。
おっとりクール系女子高生のキャラで主にゲーム配信を主軸にしている水無瀬凪海と歌配信を主軸に活動する関西弁ヤンキー女子高生のキャラの明星ラナ。どちらも@Link所属のVtuberで1期生の先輩にあたる。
「ディスコで挨拶はしたけど、こうやって顔を合わせるのは初めましてになりますね。3期生として活動を始めた秋宮ゆららです。これからよろしくお願いします」
「えっ、秋宮ちゃんなの?」
「うわー……声全然ちがうやん。それにキャラと違ってスラっとした美人さんやなあ」
私が名乗ると、2人ともビックリしていた。まあ配信中はローテンションでもハイテンションでもメスガキでもどんな時でも幼さを残すよう意識してるし当然か。
「猫を被るのは得意なので。ま、猫だから当たり前ですけどねー」
「わっ、配信の時の声だ」
「はー、声使い分けれるのはええなあ。ウチはいっつもこんな話し方やし、リア友にすぐに身バレしたわ」
「ラナちゃんはもうちょっと気をつけた方がいいと思うなあ。……それで、後ろで固まってる子は? もしかして冬城ちゃん?」
名前を呼ばれて私の後ろで隠れていた冬城がビクンとわかりやすく動揺した。ちなみに、冬城は2人が入ってきてからずっと私の服の裾を握りながら背中に隠れていた。
「あ、あわわ……どうしよう秋宮ぁ…… 」
「ほら先輩だよ、ちゃんと挨拶しなさい。特訓の成果を見せる時だよ」
「ひん……」
「お前、ママか?」
「ママだねぇ……」
先輩2人がなにか言っているが、とりあえずそれは置いておいて。
私は冬城が泣き言を言ったりする前に、腰をがっしり掴んで逃さないようにして先輩の前に突き出した。
恨みがましい目線を向けていたが、避けられないと悟ったのか意を決して冬城が口を開く。
「あ、あああのっ! 冬城ことはですっ! よろしくお願いします!」
「ああ、やっぱり。水無瀬凪海です。これからよろしくねえ」
「おう、明星ラナや。これからよろしくな」
相変わらず声は震えていたが、私たち3期生との初対面の時よりはよっぽどマシな挨拶を先輩方は苦笑しながらも受け入れた様子を見せた。
「すいません、先輩方。うちの子はコミュ障でして……」
「ママやん……」
「ああ、それは配信見てたから知ってるよ。秋宮ちゃんが冬城ちゃんのママだったのは知らなかったけど」
「あ、秋宮はママじゃないですし」
「冬城は私の子だよ。いい加減認知してよ」
「認知もなにも初耳ですが!?」
私たちのやり取りを見て、明星先輩が笑う。
「アハハ! 3期生は仲ええんやなあ。ウチらはもうちょっと仲良くなるの遅かったよなあ、ナミ」
「そうだったっけえ? 割と最初からラナちゃんは距離感近かったけどなあ」
「そうかあ? Vtuber始めてからは時間が経つのが早すぎてあんま覚えとらんわ」
先輩方が思い出話に花を咲かせた所で私は口を開いた。
「今日は確か、1期生でコラボ配信でしたよね? ぽぷら先輩に挨拶しないまま帰るのは気がかりですけど、もともと今日は先輩方が来るまでスタジオのパソコンを使って遊んでいただけなので、私たちはこの辺りで退散しますね」
「ん、そか。また、同期以外とのコラボ解禁されたらコラボ配信誘ってくれや」
「その時はよろしくねえ」
「こちらこそ、その時はよろしくお願いします。ほら、冬城準備して」
「う、うん」
冬城を促してさっさと荷物を纏めると、私と冬城は配信用スペースを後にする。
「……ふぅ、ビックリしたねえ」
「そう? 配信の予定が入っていない時間を狙ったって言っても、事務所で遊んでたんだからいつかは先輩とも顔合わせてたでしょ。それより、ちゃんと喋れてたね。特訓の成果出てるよ」
「えぇ? 声震えてたし、陰キャ丸出しだったよ? 恥ずかしいなあ……」
冬城が大きなため息を吐いてがっくしと肩を落とす。
3期生の初めての挨拶の時は一度も目が合わずに自発的に口を開く事がなかったのを考えると大きく成長しているのだが、やはり自分では気づいていないらしい。
「いいのいいの。コミュ障もある程度のレベルなら個性として受け入れられるみたいだから」
「そうかなあ……?」
未だに私の言葉に冬城は懐疑的だ。
ただ当初懸念していた冬城のコミュニケーション能力もある程度は改善したと私は思っている。自信をつけさせる意味でも、そろそろ次の段階に進んでいいだろう。
「ねえ、今週のどこかでFPSのコラボ配信しようよ」
「……え、誰と?」
「冬城と私でやるに決まってるじゃん」
「え、えええええええ!!!???」
私の突拍子のない提案を聞いて、冬城の絶叫が事務所に響き渡った。
秋宮ゆらら@Akimiya_Link
明日の20時から同期の冬城と初のサシコラボでビペやってくみゃ。
FPSはほとんど未経験なので野良とものみんなは暖かい目で見守ってくれー
ハッシュタグは #3期生ちっちゃい組 でよろしくみゃー!