「今日のさくさくクッキングは~……これ! もやし炒め!」
一週間もやし生活とはたまげたなあ…
はやく収益化してくれ
もしかして……ループしてる!?
ひもじいなあ…
「さく姐頑張ってるなあ……『今度、奢るからご飯行こうね…』っと」
スマホでさく姐が毎日やっている料理+雑談の朝配信を見ながら私も朝ご飯を食べる。
メロンパンをハムハムと頬張り、リスナーが喜びそうなコメントを打ち込んでいると、ディスコの通知音が鳴った。
「……マネさんから? こんな朝早くに何だろ?」
表示された名前は私の担当マネージャーの中村さんが使うアカウント名だ。
朝早く、と言ってももう8時半だから、社会人なら出社していてもおかしくない時間か。
マネ2連絡用 秋宮さん、おはようございます!
起きたら改めてご連絡ください
今後の企画について説明があります
……今後の企画? ああ、そういえば。
文面を見て一瞬疑問が浮かんだが、ある事を思い出した。
私達3期生に限らず、ウチの事務所ではデビュー1ヶ月程度の間は先輩とコラボ配信は行わないという決まりがある。この期間はリスナーに新人のキャラクター性を認知してもらうためといった意図があるらしい。
ずっと推してきたアイドルとよくわからん新人がいきなり絡むのはリスナーも戸惑うよなと私も思う。そういう意味では1ヶ月という期間はちょうどいい期間なのかもしれない。
ちなみにだが、もちろん同期間のコラボは自由だ。そうじゃなきゃとっくに怒られている。
もし、自主的にコラボをしないようなら運営の方からコラボの提案などするつもりだったようだが、ここ数週間の活動を見てその辺りの予定は私達に任せる事に決まったらしい。
それはともかくとして。そんな私達が先輩とのコラボを解禁されるのが、デビューからしばらく経った後に公式が企画する全員参加の配信の後からという形になる。おそらく中村さんの言う企画はこの事を言っているのだろう。
ひとまず返信をする。
秋宮ゆらら おはようございます
起きてます
マネ2連絡用 あっ、起きてましたか。おはようございます
配信していないライバーさんと朝からコンタクトが取れるのは新鮮ですね
秋宮ゆらら えぇ…?
そんな事ある?
私も人の事を言える程しっかりした生活はしていないけど、Vtuberは生活リズム狂ってる人ばかりっていうの本当だったんだなあ……いや、兼業で午前中はコンタクトが取れないって話の方が実際は多いんだろうけど。
マネ2連絡用 それでは企画の説明を。
デビュー直後ぐらいに説明していた箱全体企画を11月前半に行う予定です!
その名も『第二回@Link学力テスト!~Vaka王は誰だ? 3期生襲来編!~』です!
秋宮ゆらら あっ、それ見た事あります
中村さんから伝えられたのは予想していた通り全員参加の企画配信についてだった。企画タイトルも見覚えのあるものだ。
@Link所属になるにあたって、先輩達がどんなキャラクターかを知るために公式アカウントの企画配信のアーカイブは全て確認している。その中でも色んな意味で参考になったのがこの@Link学力テスト配信だ。
贔屓目に見積もっても中学生レベルまでの知識があれば解答できる問題群を相手にポンコツを晒す先輩方の姿を見て、『Vtuberってこういう感じなんだなあ……』と呆れ……いや、色々と参考にさせてもらったのだ。
秋宮ゆらら 困りましたね。第一回は確認してますけど、私あんなに面白い解答できないですよ?
私のキャラ的に真面目にやらずにちょっとはネタに走った方がいいですかね
マネ2連絡用 それ、みんな前回の時に言っててあの結果ですからね?
秋宮ゆらら えぇ…?
そんな事ある?(二回目)
真面目に解いた結果が500点満点で350点が1位になる訳ないから中村さんが話を盛ってるんだろうな、うん。
リスナーに馬鹿と思われるのは癪だから真面目にやるとして、前回の先輩方の醜態からどういう解答がウケがいいかはなんとなく傾向が掴めてる。取れ高と注目も欲しいし、ネタ解答をワザとだと思われない程度に入れて400点程度を目標にするかな。
そう決めて、スケジュールの確認と問題文について中村さんから説明を受けた後に話題が変わる。
マネ2連絡用 あと、遅くなりましたが登録者数5万人超えと収益化おめでとうございます!
幸先いいスタートで安心しました
秋宮ゆらら ありがとうございます
といっても、先輩方と箱推しリスナーのお陰でしょうけどね。まだバズれてないですし
マネ2連絡用 そんな事ないです!
ニヤニヤでも3期生の切り抜きがランキングに上がる事が何度かありましたし、純粋に実力と考えて頑張っていきましょう!
秋宮ゆらら そうですかねえ…
中村さんは呑気だなあ。
初配信には1万人を超える人が見に来ていたけれど、初配信から2週間程度経った今のソロ配信では4000人前後、コラボ配信でも1万人に同時視聴者数は届いていない現状だ。
デビュー直後のブーストがかかっている実感はまだあるし、その上でそれなりにはチャンネル登録者数も伸びているけれど、これでは私がいる意味なんてないだろう。
たまを人気にするために私が活動する。その目的を達成するにはまずは私が伸びなければいけない。私が集めたリスナーをたまに流す事が最もわかりやすいやり方だし、そもそも私が注目される立場にならないと何をやったって意味がない。兎にも角にも私が伸びないと話にならないのだ。
デビュー直後にたまゆらコラボを連打して話題になったお陰か、今の所はたまのチャンネル登録者数は3期生の中で一番上だ。ただ、たまが54000人、私が51000人、冬城が50000人、さく姐が45000人と大して差がある訳でもないし、当然ではあるが、先輩方のチャンネル登録者数とはまだまだ差がある。
先輩方の中で一番登録者数の少ないべる先輩の9万人超えを当面の目標にしたとしても、このままではかなり難しいだろう。ここまでのVtuber業界の伸び具合から見て、真っ当にやっていたらおおよそ半年程度はかかると私は考えている。
やはりバズりは必要か。ニヤニヤの切り抜き動画がランキング上位に載るとわかりやすく登録者数が伸びるし、ブーストがかかっている今のうちに切り抜きやすくて面白い行動を意識的にどんどんしていかないといけないなあ。
マネ2連絡用 収益化配信などするつもりはありますか?
がんばるぞいと気合を入れていたところで届く中村さんからのメッセージに返答する。
秋宮ゆらら そのうちします
みんなも収益化通ってるみたいですし、今日、3期生コラボの打ち合わせするのでその時にスケジュールが被らないように調整するつもりです
マネ2連絡用 そうですか!
秋宮さんに任せていれば安心です!よろしくお願いしますね!
いや、マネージャーとしてその返しはどうなんだ。私はそう思ったのだった。
◇
「……それじゃあ、明日の配信の段どりはこれくらいにして。収益化配信どうするー? あんまり日にちは被らせない方がいいだろうから一日置きにやるとして。さく姐がなるべく3期生推しの人からスパチャ投げてもらえるような順番にしたいからいつも通り春夏秋冬の順番でいい?」
中村さんとの連絡をしたその日の夜。ディスコ通話で明日の3期生コラボの打ち合わせ、といっても配信開始時の段どりだけ決めた後に収益化配信について話を切り出す。
『すまねえ……かたじけねえ……』
『謝らなくても大丈夫だよー。明日のコラボ配信で収益化配信の告知をすれば、リスナーさんもいっぱい見に来てくれるだろうしいい考えだと思うよー!』
『ア、アタシもそれでだい、丈夫』
「この決め方だと毎回、冬城がトリになっちゃうんだよねえ。今回は大丈夫そう?」
『が、がんばる……!』
「えらいじゃん」
相変わらず頼りなさげだったが、冬城もそれなりに会話に参加できている。自称保護者としては誇らしい気分だ。
『えらいねえ』
『え、えらいとかそんなんじゃないし……同期だからこ、このくらい当たり前だし』
『ことちゃん、たまちゃんもありがとう……極貧生活から脱却するためにも収益化配信頑張るわ!』
「おー、気合入ってるね。……ところでみんなは収益化配信なにするつもり? 全員が雑談配信ならともかく、ゲームとかするなら配信内容も別にした方がよくない?」
同じ内容だと折角のリレー配信方式なのにもったいないと思って、私はこう提案する。
『あー、確かに。わたしはリズム地獄の耐久配信する予定ー』
『あ、アタシも耐久配信。ビペでチャンピオン何回か取るまで、やろう、かな?』
『二人が耐久配信するなら、わたしは雑談配信でゆったりめにやる事にするね』
さく姐、冬城、たまとそれぞれ返答がくる。
耐久配信はスパチャ目的でやる分には結構いいだろうけど、たまの言う通りリスナーの負担を考えると耐久配信が続くのはあまりよろしくはないだろう。
「それなら、私もゆったりめの配信にしようかな。……歌配信にするか。一応、私たちアイドルだし一人ぐらいは記念日に歌っといた方がいいでしょ」
『『そ、そんな決め方でいいの!?』』
『わー! ゆらちゃんのお歌久しぶり! 楽しみ~!』
私が適当に配信内容を決めてさく姐と冬城が驚く中でたまだけが嬉しそうに喜んでいた。