朝6時、珍しく早起きした私は真っ先にようtubeを確認する。
「あ゛あ゛あ゛あ゛も゛う゛や゛だ~~~!」
【悲報】終わらない収益化配信
もう寝ろ
8時間ぶっ続けでテンション保てるのはすごいなって…
さくやさんがんばえー
「うわあ、さく姐まだやってる……」
昨日の夜10時から始まっていた筈のさく姐の収益化記念の耐久配信はまだ終わっていなかった。
寝る前にちらっと初めの方だけ見た感じだと、全クリまで時間がかかりそうだなとは思っていたけどまさかまだやっているとは……
秋宮ゆらら@Akimiya_Link
起きたらまだやってて草なんだ
#すのはライブ
「よし、と」
さく姐の配信タグをつけてついーとを投稿した私は朝食を適当に済ませた後で自室の隣の部屋に入る。
「こんな事やるのも久しぶりだなあ」
その部屋は書斎と呼ぶべきだろう部屋だ。
扉がある面以外の三方の壁が本棚に収められた本に埋め尽くされ、中央にポツンと椅子が置かれているだけの部屋。
今となっては私の買った本しかないこの部屋に、掃除以外の目的で最後に入ったのはもう大体3年前くらいになるか。なんだか懐かしい気持ちになりながら、なんとなく一つの本を手に取る。
「『このストレス社会でうまく生きていくということ』……ふふっ、結局上手に生きられなかったなあ」
ポイと本を適当に投げ捨てる。わざわざこんな部屋に朝早く起きてまで入ったのだ。自己啓発本なんて読んでる暇はない。
椅子に腰掛け、持ってきたヘッドフォンを耳にあてる。
「とりあえずネタ曲じゃなくてちゃんとした曲から練習した方がいいかな」
ヘッドフォンから音が流れ出す。
本家の原曲の後に、人気の歌ってみたの動画があれば再生数順に5曲、後は人気のVtuberさんがその曲を歌っていればそれも5曲程度が順番に流れるようにしたリストを1つの曲毎に事前に作成しているので、後はただ目を瞑ってそれを聞くだけだ。
もうここまで来れば説明するまでもないが、今から私が行うのは明日の歌枠のための練習だ。
気軽に歌を歌うと言ったはいいが、よくよく考えてみれば私はキャラ声で歌うという事を一度もした事がなかったため、歌枠配信を明日に控えた今日に慌ててそのイメージトレーニングと練習を行う事になったのである。
ただ原曲をほぼコピーするだけ、もしくは音程をぴったり合わせて歌うだけならここまでしなくたっていいけれど、『秋宮ゆらら』として歌うからにはそのどちらでも許されない、らしい。ネットの反応を見た感じ、キャラのロールプレイの声と歌声があまりにも乖離すると解釈違いを起こすのだとか。面倒くさいなオタクは。
ネタ曲なら別にあまり練習しなくても秋宮ゆららとして出している声で歌う事はできるだろうが、真面目な曲やアップテンポな曲でその声では逆に浮いてしまう事は私でも想像はつく。
秋宮ゆららを無視した声でも、秋宮ゆららの声でもどちらでもダメだと言うのなら、その両者を掛け合わせて秋宮ゆららとして許される範囲の声を調声する必要がある。
……とはいえ。私は歌のような明確な解答がない分野についてとやかく言えるほどの知識を持ち合わせてはいない。自分の感性はアテにならないので実際の反応は明日出してみてからのお楽しみかな、と正直投げやりな気持ちでもある。
「別に歌が下手でもそれはそれで推すんだろうしなー、オタクはほんとチョロい奴らだ」
ちょうど2人目のVtuberが曲を歌い始めた所でそう呟く。
1人目のラナ先輩が歌っていた時は歌を主戦場にしているだけあって、なんとなくだけど上手いなと思っていたが、この人はハッキリと下手だとわかるくらいには下手だ。メリハリがないし、歌詞は間違えるし、音程は外れてるし。
けど、不快かと言われるとそうでもない、と思う。普段の喋り方と変わらない『キャラクターとしての声』のまま歌っているからだろうか? ……そもそも普段からキャラを作らず素の自分で活動している人がこの界隈には多いみたいだからなんとも言えないけどね。
多分だけど私が今、参考にしなきゃいけないのはこういう歌だ。声だけじゃなく、歌い方でも『秋宮ゆらら』っぽさを意識する。
自由気ままな猫であり、感情を表に出さない捻くれ者で、社会に溶け込めないはぐれ者。
要素を挙げていく。……歌ならもうちょっと抽象的なテーマの方がいいかな。
「『無関心』は歌には合わないか。『孤高』って言えるほどカッコ良い人間、いや猫じゃないしなあ。というより、一応アイドルだし暗い感じは抑え目で……『流星』かな」
人の手の届かない空に流れて、そして闇に溶ける光。
一瞬の輝きと後に何も残らない静寂によって美しさを表現する消失する星。
うん、秋宮ゆららにはこういうテーマの方が似合う気がする。
「普段の声のトーンを中心にして、透明感とやらを意識、高音の所で消えそうで消えない儚さと力強さを表現してってなるとこんな感じかな」
ちょうど準備してきた1曲目のリストを聞き終えたのでここからは実践だ。
ヘッドフォンから伴奏が流れ出す。
秋宮ゆららの声のままだが、抑揚を意識して。聞いた中では歌い手の『そふぃー』さんの歌い方が一番私の目指す歌い方に近かったのでそれを参考に。後は普段と同じように相手に伝えたい感情を言葉に乗せる。
歌を最後まで歌い終わると、スマホで録音した私の歌声を確認する。
「……うん、まあこんなもんでしょ。後は秋宮ゆららとしてこれが受け入れられるかって問題だけど……こればっかりはチカに感想を聞いても『とっても良いよー』としか返ってこないしなあ」
身内に全肯定オタクしかいないと、判断基準に困るんだよね。
音程的には問題ないし、声質的にも秋宮ゆららの声とほぼ変わらないまま歌えている。これ以上は自分で改善する点も見当たらないので、後は他の曲も今の歌い方で歌えるように練習するか。
私は2つ目の曲のリストの再生を始めた。
◇
「……練習終わった〜」
準備した20曲の練習が終わる。
歌声のベースを最初に決めたので他の曲は1曲目程には時間はかからなかった。
2時間の歌枠の予定で途中に雑談も挟むだろうから、20曲全部歌う事にはならないだろうし、ましてや歌える曲がなくなるなんてこともないだろう。最悪、歌声だけは定まっているので、知っている曲を秋宮ゆららの声で歌うだけでそれなりの出来にはなるだろう。
集中していたせいか、気づけば午後の6時まで時間が経っていた。お腹も空いていたので遅めの昼食を食べに部屋から出る。
「あっ」
「……何してんの、チカ? もうすぐ配信でしょ」
部屋の前にはチカが座っていた。
8時から記念配信するんだから、もう準備もしとかないとダメだろう。
「えへへ……配信の前にご飯だけ作りにきたら、あさひちゃんが歌ってたからつい、ね?」
「何時間、廊下で座ってたのよ。言ってくれれば椅子くらいは用意したのに。それに部屋の外で聞くより中で聞いた方が良い感じで聞こえるんじゃないの?」
「それはやだ。ちゃんとした歌は明日の配信で聞きたいな」
「そう。それならバッチリ……いや、ちょうどいいから聞いておこうかな」
予想していた通りの回答が返ってくるのだろうと思いながらもチカに尋ねる。
「私の歌どうだった? ちゃんと秋宮ゆららっぽかった?」
「ゆらちゃんっぽさ? 相変わらず難しいこと考えてるねえ。わたしはとっても良かったって思ったけど、あさひちゃんはやっぱり不満なの?」
「……チカなら良いって言ってくれるだろうなって思って聞いただけ」
私がそう返した瞬間、チカが私の手を握る。
「何度だって良いって言うよ。わたしが言いたいからね。あさひちゃんが良いものを作ろうと思って頑張ったなら、それはもうわたしにとっても良いものなんだよ〜?」
……相変わらず、ずけずけと私の中に入り込んでくるなあ。
私自身が大嫌いで理解できない『私』をチカは好ましく思っていて、どれだけ私が道を踏み外そうと、簡単に引き上げてしまう。
その度に私は劣等感と虚無感に襲われるのだ。
望めば何にでもなれるような人間であるチカが私と幼馴染であったという理由だけで『私のお世話がかり』に甘んじているような現状が。それを心底幸せそうに感じているチカが。そして、チカがいなくなるだけで生きていけなくなる自分自身が、嫌いだ。
「……配信準備、しなくていいの?」
「忘れてた! 唐揚げ作って下に置いてあるからチンして食べてね〜」
そう言葉にすると、チカは足早に帰っていった。
「……たまの配信見ながらご飯食べよっと」
折角晩御飯も作ってもらった事だし、たまの配信もあと1時間ちょっとで始まる。どうせならと、私は配信を見ながらご飯を食べる事にした。
マシュマロ
→自由に使ってください。こっちも自由に使います
曲は流石に既存曲使わせてもらうつもり。オリジナル曲とか作れん。
あと、マシュマロでファンアートに関して質問あったので。
基本的に自由に描いてもらって大丈夫ですよ。
一応、ゆららの外見を箇条書きで下に続けときます。
・外ハネショートのオレンジ色の髪
・ジト目気味の薄い翡翠色の目
・猫耳猫しっぽ(しっぽはパーカーの中に収納してるので見えない)
・ロリ体型(身長135cm前後)
・膝のところまであるくらいぶかぶかの黒色のフード付き萌え袖パーカー、下はスパッツのみ(見えない)
・ルーズソックス+スニーカー