連絡の後に合流して焼肉屋に入った私達。
食べ始める前は「本当に奢ってもらっちゃっていいの? いや、給料はまだ入ってきてないからお金は全然ないんだけど……」と申し訳なさそうにしているさく姐だったが、「いいからどんどん頼みなよ。食べ放題飲み放題コースにするから」と私が言ってからはもう遠慮なしにどんどん飲み始め……
「うぅ~……もうやってらんないわよぉ~……!」
ドンと勢いよくジョッキが下ろされる。
さく姐は完全に出来上がっていた。普段は金欠でお酒も買えないみたいだし、明らかに飲むペースを間違えてるなとは思っていたけど、私は黙って見ていた。
悪酔いする上司の面倒を見る部下の気分……社会に出た事はないけど今はそんな気持ちだ。この人、私より6歳上なんだけどなあ。もう少し年上の威厳を見せてほしいものだ。
とにかく、これくらい酔わせれば少しは口も軽くなったかなと、今までしていた雑談から話題を変える。
「それで、今日はどうしたのさ? なにか相談したいんでしょ?」
「あぅ、そうだったぁ……あのねぇ、わたしって人気ないのかなあ……チャンネル登録者数も同期の中で一番少ないし~、配信の同接もどんどん減ってきてるしさあ~」
「あー……」
そういう悩みかあ……
さく姐からの相談内容に頭を抱える。先日の謎バズりのせいで同期の中で一番チャンネル登録者数が多いのは私になっちゃったし、私の立場から変に慰めたりすると余計に反感買う奴じゃん。
「この前の収益化配信は良かったじゃん。朝までやってたのに8000人見てたのは愛されてる証拠だよ」
「わたしがやりたいのはあんなリアクション芸人みたいな配信じゃなくて! もっと声優っぽい事がやりたいの! 演技つよつよって言われたいの! それなのに、マネさんはもっとアクションゲームとかホラーゲームとかやろうって言うし……わたしは面白お姉さん枠じゃないのぉ!」
さく姐は面白お姉さん枠だよ。と思ったけど言わないでおいた。
それにしても声優っぽい事かあ。
さく姐がリスナーから募集したセリフを読む配信を中心に活動してる事は、一応知っている。
セリフ読み配信は個人的に盛り上がりに欠けるなと思っている。事前に自分で読むセリフを決めて、それを読み上げていくという性質上、どこまで行っても配信は予定調和に進んでいくので盛り上がるポイントを作り辛いというイメージがあるからだ。……同じような性質の歌枠でバズった後なので、私の素人考えなんて当てにならないのだろうけど。
あと、Vtuberが何かになりきって演技をすると、『Vtuber』が演技をしている、より『Vtuberの中の人』が演技をしている感じになっちゃうんだよねえ。多分、リスナーはVtuberのうまい演技より、ヘタクソなシチュエーションボイスの方が聞きたいと思う。そうじゃなきゃボイス販売なんて売り上げも見込めないししないでしょ。
セリフ読みで人気を集めるなら……リスナーの喜びそうなちょっとエッチなセリフを読むとそこだけ切り抜きとかされたりするんだろうけど、それで人気になれるかと言われるとなんとも言えないよね。
ちなみに私はあまりにもバズらなければエッチなキャラでオタクを釣っていくつもりだった。
さく姐担当のマネさんの提案も至極真っ当だしな、と思っていると、ビールを再度注文したさく姐が机に突っ伏したまま呟いた。
「……ゆらちゃんはいいよねえ。今すごくバズっててさぁ。……いいなあ、やりたい事でリスナーに認めてもらえて」
「やりたい事……歌の事?」
「それ以外何があるのよぅ。あれだけ歌がうまいなら、歌がやりたいから@Linkに入ったんでしょ~?」
「……? ああ、そういえば言った事なかったっけ? 私、スカウトだからオーディションは受けてないんだよね。だから別にVでやりたい事とかないの」
「なにそれ初耳。スカウトって配信者じゃなくて歌手の人にもしてるのね~……」
「私、歌手じゃないよ。ネットの場末でクソ配信やってた引きこもりのニートだよ。人前で歌を歌ったのは昨日の配信を除くと友達と一緒に行くカラオケくらいかな」
「……なんでそれでスカウトされたの?」
「さあ……?」
それは私が聞きたいくらいだ。
とまあ、そんな話はおいといて。いい感じの慰めの言葉も思いついた。
「ま、私はこんなんだからさ、さく姐はカッコいいと思うよ。今はまだ結果は出てないかもしれないけれど、自分の好きな事で勝負したいって気持ちは変わってないんでしょ? そういう拘りとかプライドを持ってる人、私は好きだよ」
「でも、それでみんなに置いてかれたらカッコ悪いよぅ……」
「置いてかれるって。チャンネル登録者数だけで強さが決まるバトル漫画的な世界じゃないじゃん。さく姐が今やってる事は未来への投資だよ」
「みらい……?」
「Vの人って人気な人でも棒演技の人が結構いるし、声の仕事に強いってのはVtuberにとっては大きなプラスだと思うんだよね。リスナーだけに目を当てると成果が見えづらいだろうけど、運営とか外部の会社に認知してもらえれば、ナレーションとかゲームの声当ての案件とかもらいやすくなると私は思うな」
「そうかなあ……そうだといいなぁ……」
「私は拘りもプライドもなんにもないからなんでも平気でやれるけど、好きなことで生きていくって本当に大変だし、マゾゲーだなあ」という本音を隠しながら、それっぽい事を言うと、さく姐もある程度は納得したような素振りを見せた。
「そうなるよ。まだまだ私たち始まったばかりでしょ? 愚痴ならいくらでも聞くからさ、頑張ってやってこうよ」
「わたし、もう頑張ってるよぅ……?」
「私が頑張るんだよ。さく姐が好きな事やって人気になれるようにさ。そのくらいの協力はするよ、同期でしょ」
……こうなると、チカとやる予定だったラジオは延期かな。まあチカに歌を覚えさせる期間も欲しかったし、ちょうどいいか。
今はさく姐のメンタルケアを優先した方がいいだろう。
「ほんとぅ……? ありがとぉ~……!」
「わー、泣くな泣くな。ほら、ハンカチ……」
「……うぇ、吐きそ」
「ほら、立って!! トイレ行くよ!」
◇
「やほー、呼ばれたからきたよー」
「秋宮~! ありがと~!」
お!
助っ人きたな
あきみゃー!
家に帰ってから、冬城の収益化記念のビペ耐久配信を見ていたところ、あまりにも勝てなさすぎて私にSOSの連絡がきた。
今は先輩たちとのコラボはまだできないし、助けを求める先が私しかいなかったからだろう。
私もまだそんなにうまい訳じゃないし、上手なリスナーに助けてもらった方がいいと思うけどなと思いながらも、こういう突発的なコラボは盛り上がるらしいので、私は快くその申し出を受けた。
「記念配信なのに、私が来てよかったの?」
「いーの!」
「そう? ま、いいや。こんみゃー、知ってると思うけど冬城の同期の秋宮ゆららでーす。お邪魔しまーす」
絶賛バズってるよね
ソロだと沼ってたしなー
こんみゃー
「あ、そうだ! あ、秋宮のせいで変な期待がかかってたんだからね! アタシ、あんなスゴい事できないのに……」
「それって、私のお陰で記念配信が盛り上がってるって事だし、冬城はむしろ感謝するべきなのでは……?」
「もー! 秋宮がバズってるせいでリスナーから色々……」
「ゆらちゃーん……水ぅ……」
誰?
さくやさん!?
親フラか?
冬城と話していると、後ろで私のベッドで寝ていたさく姐が水を求めて呻きだした。
「あー、はいはいお水飲もうねー」
「……え、ちょっと! 秋宮どういう事!?」
「今日さく姐とご飯食べに行ったんだよね。それでべろんべろんに酔わせてお持ち帰りしたんだー」
「お持ち帰りしたんだー、じゃないよ!? ズルい!」
まーた、あきみゃが同期を誑かしてる…
ズルいってなんだよw
無差別百合営業女さあ…
てぇてぇの供給過多たすかる
「あぇー? ことちゃんー? おはよー……ぐぅ」
「あっ、さく姐また寝ちゃった……で、冬城ぃ、ズルいってどういう事ー? もしかして自分だけ私の家に行ってないから嫉妬しちゃった?」
「う……だってぇ。アタシだけ仲間外れは嫌というかなんというか……」
「ふふっ、可愛いね」
「かわっ!? か、からかうなー!」
さく姐ガチでぽやぽやしてるじゃんw
女を家に連れこんでおいて別の女に手出すのほんと…w
素直になれないのいいね
その後は冬城をからかいながら耐久配信の手助けをして、私たちの収益化記念リレー配信は終わったのだった。
秋宮ゆらら@Akimiya_Link
耐久配信お疲れ様みゃ。冬城の枠でてぇてぇの安売りしてきたからまだ見てない野良ともはアーカイブを見るように
あと、明日はさく姐のチャンネルにお邪魔してセリフ読みコラボ配信するよー
私たちに読んで欲しいセリフ募集中、私かさく姐にましまろを投げてね
お前ら、明日はサービスしてやるにゃ♡
またべねぼれ様(@benevolepwd)からファンアートをいただきました。本当にありがてえ…前回、ファンアートをいただいてから二話しか進んでないってマジ? 遅筆すぎるだろ…
是非、リンクから元ツイのリツイートなどしていただければ。
マシュマロ
→自由に使ってください。こっちも自由に使います