「昨日はすみませんでした……」
昼過ぎになり、ようやく起きたさく姐が私のベッドの上で土下座しそうな勢いで平謝りする。
こんな時間まで寝こけていた事か、酔ってボロボロだった昨日の事か、それとも家主をベッドで寝かせなかった事か。何に対して謝っているのかはさておき、申し訳ないという気持ちは伝わってくる。
ちなみに、昨日の夜はさく姐にベッドを譲って私は布団を敷いて寝た。いくら無差別に百合営業をしかけてるとはいえ、寝ゲロとかかけられると嫌だし。
「いーよ別に。それより二日酔いとか大丈夫?」
「体は大丈夫です。ハイ」
「ならよかった。今日の夜はコラボでセリフ読み配信やるよ。私の家からさく姐のチャンネルで配信すると設定が面倒くさいらしいから、私のチャンネルになるけどね。配信予定もなかったし別にいいよね?」
「え、まって、すごく急」
さく姐が驚いた様子で私の言葉に反応する。
さく姐の了承を取らずに勝手にコラボ告知したしなあ。驚いて当然だろう。
まあ、ここは昨日の焼肉代の代わりに私に振り回されてもらうという事で納得してもらおう。
「新人Vtuberに休んでる暇なんてないよ? 昨日の内に冬城の枠でもコラボ告知したからマロにも沢山台本が届いてるし、つまりもう逃げ道はないって事」
「……うわ、ホントだ。知らない間に外堀が埋められてる……」
さく姐が自分のスマホでマシマロやついついッターを確認して呟く。
「男を人生の墓場にオトすためにはその親から懐柔するように、ライバーをオトすためにはリスナーを懐柔するのが一番だね」
「やっぱり悪い女じゃん……!」
「そうだよ。さく姐はもう私に捕まってるんだから観念してよね。ほら、たまがお昼ごはん作り置きしてくれてるから一緒に食べながら台本選んでこ」
「え、たまちゃんにご飯だけ作らせて帰らせたの!? ホントに悪いってそれは!」
失礼な。帰らせたんじゃなくて、用事があるから帰ったんだよ。
◇
たまの作ってくれた肉じゃがを食べながら、リスナーが送ってきた台本を選定していく。
「……えっと、さっきは急すぎて聞きそびれたけど。なんでわたしなんかとコラボしてくれるの? 自分で言うのもなんだけど、わたしとコラボしたってメリットないでしょう?」
先程からちらちらとこちらの様子を窺っていたさく姐が、聞いてて悲しくなるような自虐と共に訊ねてくる。
実際には私にもメリットは沢山あるけれど、言わない方がいいだろうな。
「さく姐にメリットがあるならそれでいいよ。コラボするメリットとかあんまり気にしてないし」
というか、これから箱内外問わずにどんどんコラボをしていくのに、一々メリットを考えるのは面倒くさいと思う。
一応アイドルだし、男V相手ならコラボしないよりで考えていたりはするけど、スケジュールがあうなら基本的にはコラボは断らないつもりだぞ、私は。
「それにさく姐が言ったんじゃん。声優っぽい事やって人気になりたいって。だったら今の私の状況を利用しない手はないって話だよ」
しばらくは私の配信を見にくる視聴者は増えるだろう。昨日、冬城の配信にお邪魔した時にも同接が2000人ぐらい上がったし。
それだけ注目されてる中でコラボ配信をすれば、普通に活動するよりも手っ取り早くコラボ相手のチャンネル登録に誘導できるという算段だ。
本当はたまのチャンネル登録者数を伸ばすための作戦だ。さく姐に対して効果がないなんて事はないだろう。むしろ効果がなかったら活動方針の見直しをしなくてはいけない。
「それは、ありがたいけど……利用って」
「使えるものはなんでも使いなよ、好きな事やって望んだ結果を出せる人なんてほとんどいないんだからさ。過程も結果も大事にしたいなら、それなりの努力と工夫は必要だよ」
こちとら結果だけ欲しくても、中々思ったようにはいかなくて悩んでるんだからさ。
「特に声の演技なんて、複数人で掛け合いとかやった方が見てる側は面白いんじゃない? 他の箱のVだってそういう企画やって盛り上げてたんだから、私の今の状況とかを無視してもそういうコラボ企画をやってくのはアリだと思うんだよね」
あまり演技関係のコラボにいいイメージを持っていなかったが、昨日、他箱の類似の企画配信を参考に確認してみると、単発の企画だとそこそこの集客能力はあるらしい事が判明した。
「企画がよかったから人を呼び込めた」か、「そもそも人気の人が参加してるから人が見にきた」か。どちらかと言えば後者なのだろうけど、素人演技のわちゃわちゃした感じを見るのが好きなリスナーが一定数はいるのだろうと思う。
さく姐の場合だと、個人配信でやってるセリフ読み配信にゲストで呼ぶって形で継続的なコラボコンテンツにも使えるし案外悪くはないと思う。……伸びるかどうかは正直わからないけど。
「……ああ、私の演技力については心配はいらないよ。演技指導は受けた事ないけれど、演劇部の助っ人も何回かやってたから、声優レベルまではいかなくても見れるレベルにはできる、と思う」
「いや、配信と裏ですごい声使い分けてるのは知ってるし、最初っから演技力については心配してないけど。むしろ、それで演技指導受けてないって方がビックリだわ」
そうなんだ。
そこまで自分の演技に自信を持ってる訳じゃないけれど、本物の声優さんがそう言ってくれるならまだまだ捨てたものでもないらしい。
「……うん、そうよね。今のやり方で結果が出てないのなら色んな事を試していかないと、か。わかったわよ。今更ウダウダ言ったってドタキャンする訳にもいかないしね。ゆらちゃん、今日はよろしくね」
「任せてよ。バッチリ面白くするからさ」
スッキリとした様子のさく姐に私はニヤリと笑って答えた。
◇
こんみゃー
みゃー!
おはるー、今日はお邪魔しまーす
みゃーみゃー!
配信が始まった事を確認し、裏で小さくBGMが流れる中でさく姐がマイクに向かって第一声を発した。
「ああ、人生しんどい~……生きてるだけでえらいって言われたい~……」
さく姐演技しろ
挨拶なしで始まったなw
ダメ人間の演技が板につきすぎてるんよ
「ふふっ、どーしたの。おねーさん? また私に甘えに来たの? もう本当におねーさんはダメな人ですね?」
聞いてるだけで力が抜けるような腑抜けた言葉に対して、私は押入れから引っ張ってきたお古のマイクに、クスリと笑い声を入れてからいつもより幼さを強めにした優しい声で返す。
「よしよーし。いーこいーこ。今日も一日お疲れ様ぁ」
「あ、しゅき……」
ばぶー!ばぶー!
てぇてぇ
バブみを感じてオギャルな
「……うわ、コメント欄やば」
もっと媚びてけ
急に突き放すな
もっと俺らにも優しくしろ
声をいつもの声に戻してコメントに反応すると、コメント欄からも反応が返ってくる。
「ねえ、ゆらちゃんのチャンネルのコメントっていっつもこんな感じなの?」
コメント欄を見てさく姐は若干、引いていた。私のチャンネルはこういう所だから我慢してほしい。
「はい、という訳でオープニングは『人生に疲れ切ったOLを甘やかす小学生ロリママ』でしたー。お前らー、こんみゃー。秋宮ゆららとー」
「おはるー! 春原さくやでーす! 今日はゆらちゃんちにお邪魔してまーす」
あっ、酔い潰されてお持ち帰りされたお姉さんだ
女2人、1つ屋根の下、何も起こらない筈もなく……
[冬城ことは](´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)
昨日はお楽しみでしたね
「昨日はホントになんにもなかったからね!? あと、ことちゃんはなんで泣いてるの!」
「えっ、昨日の夜はあんなに激しく私を求めてきたのにもう捨てられちゃうの? 酷いみゃ……」
「こらそこ! リスナーさんの悪ふざけに乗っかるな!」
リスナーに、乗っかる…?ひらめいた
[霧ノ江アザミ]ずるい。私もあきみゃにお持ち帰りされたい
草
きりおじもよう見とる
あ、またアザミ先輩見てくれてる。
ディスコでも好き好きコール来てるし、コラボ解禁後は真っ先にコラボに誘った方がいいかな、これは。
まあ、今はアザミ先輩の事はおいといて。
「今日のコラボ本当に急に決まったよねー」
「実際、昨日はご飯食べに行こうってだけだったからにゃー。さく姐が酔い潰れたから急に私の家にお泊りになって、ついでに今日コラボしようぜーって私から言い出したんだよね」
「その節は本当にすみません……」
あきみゃに世話焼かれるのは相当アレなのでは?
突発オフコラボたすかる
「詳しい話はまた後日、雑談枠とかで話すとして。それじゃあ次のセリフいこっか。さっきはさく姐が選んだ台本だから次は私のね」
「わかったわー。ゴホン……あー、疲れたぁ。パソコンの使い過ぎでもう肩が痛くて痛くて……」
咳払いを入れてから、さく姐が色っぽさを若干混ぜたお姉さん声で役に入る。
「おーおー、お疲れだねえ。おじさんが肩を揉んで労ってあげようか?」
ニヤニヤしてそう
えっちの導入か?
声のトーンを上げてお調子者っぽく振る舞う。
「ちょっと、手をワキワキさせないで。……それじゃあお願いしようかな」
「お任せあれ~。肩がこる原因に対処させていただきまーす。このたわわに実ったお胸に、突撃~!」
「ひゃ……うひゃあああ!? 本当に揉んできたあああ!?」
マイクから離れ、後ろから持ち上げるようにさく姐の乳を揉む。
台本を見ながら演技に集中していたさく姐が、マイクの近くで演技ではない驚きの声を上げた。
うるせえ!
鼓膜ないなった
こーれ、やってます
はいセンシティブ
「あ、ちょっ、ん……」
……揉まれる側しか経験してこなかったけど、案外楽しいな、これ。
「やめっ、てっ……」
「はーい」
ブラの感触の奥に秘められた柔らかな感触をひとしきり楽しんだ後に手を離す。
「はぁ、はぁ……へ、変態っ、けだものぉ……たまちゃんにことちゃんにも手を出しといて、私にまで手を出すなんて……」
「まあ猫だから、けだものっていえば、けだものだけど」
息も絶え絶えに私に非難気な目を向けるさく姐。
「台本は事前にオッケーもらったみゃ」
「胸揉んでいいなんて言ってないんですけど!?」
「逆にここまでくれば揉まない方が失礼!」
「言い切った!?」
たすかる
いいぞもっとやれ
「声優ラジオとか見てみなよ。あの人ら平気で女同士で胸揉んでるよ」
「いや、少数派でしょ……」
「百合営業はもっと積極的にやっていくべきだと思うみゃ」
「営業って言えばなにやってもいいと思ってない?」
さく姐、意外とアドリブもいけるんだね。私が適当な事言ってもちゃんとツッコミを返してくれるし。
心の中で感心しながらも、会話を続ける。
「焼肉奢った分は体で返してもらわないとね」
「それは給料入ったらちゃんと埋め合わせするから……」
「それじゃあ、しょうがないから私のも揉んでいいよ?」
「え」
エッ!
たわわとまな板では等価交換にならないのでは?
誘い受けあきみゃ……
「おいコメント欄、まな板だとは失礼な奴にゃ。お前らが思ってるよりはあるからな」
「わたしまで巻き込むのやめない? もう3期生の関係ドロドロだよ?」
「もっとドロドロにしちゃおうよ。ほら、触っていいよー」
迎え入れるように両腕を上げると、さく姐はおずおずと私の胸部に触れた。
「うわ、ホントだ。思ったよりある……」
「さっきのさく姐みたいにえっちな喘ぎ声出した方が良い?」
「やめなさい!」
もうてぇてぇ通り越して生々しいんよw
あきみゃに胸があるなんて信じないぞ
てぇてぇ…?
「……はい、この変な雰囲気終わり! 終わりー!」
顔を若干赤らめながら私の胸から手を離して、さく姐がそう言う。
「もう……台本くれたリスナーさんごめんね? 演技どころじゃなくなっちゃった」
「リスナーさんは想像以上のものが見れて喜んでると思うよ」
「そうかもしれないけど……もういいです、次行きます。ゆらちゃんの欲望に付き合った分、私のにも付き合ってもらうからね」
「次のやつ、趣味丸出しだもんね。いいよ、全力でやるね」
次はさく姐がリクエストした『年上のお姉さんにアタックするショタと、それをあしらうお姉さん』の台本だ。
私はショタ役。少年の役なら演劇部の助っ人の頃に何度か経験した事があるので、それを参考にすればいいだろう。
一息入れて、高音と低音が混ざり合った声変わり前特有の少年声を意識して言葉にする。
「……ねえ、ボクのものになってよ」
「な、なりましゅ」
「おい、演技しろよ」
ショタ声めっちゃいい…
即落ちw
おねショタの主導権をショタに握らせるな!
よっわw
「だって! ……ズルいじゃん! 不意打ちで理想の少年声聞かされたら、メスになるしかないじゃん!」
「いや、知らんが……?」
さく姐のまったく弁明になってない言葉に私は困惑した声を出すのだった。
ちなみにこの後、3回リテイクした。