先日チャンネル登録者数10万人を突破していたらしい。
Vtuber的には他社の企業勢でも登録者5万、10万となると新衣装や3Dモデルの制作など今後のキャラクター展開にも関わってくる重要な節目だ。
秋宮ゆらら@Akimiya_Link
チャンネル登録者数が10万人を突破していたみゃ~
おまえらサンクスちゅっちゅ
これからもどうぞよろしくにゃ
夏風たま@Natsukaze_Link
返信先:@Akimiya_Linkさん
おめ~!
霧ノ江アザミ@Kirinoe_Link
返信先:@Akimiya_Linkさん
あきみゃ10万人おめでとう~!
BIG LOVE___
冬城ことは@Huyuki_Link
返信先:@Akimiya_Linkさん
あきみやおめでとー!
あきみやがビッグになっておれ嬉しいよ…!
エレノア・レッドハート@Eleanor_Link
返信先:@Akimiya_Linkさん
クッソ微妙な数字でスクショ取ってて草
秋宮おめでとー!
ついついッターの報告にはリスナーからだけでなく、同期と先輩方全員からのリプも来ている。
活動期間が短いので感慨深いという思いはまったくないし、まだ10万人を突破していない先輩もいるにも関わらず、私みたいなぽっと出が大した苦労もなく節目の数字を達成してしまった事と、その上でまだサシでコラボもしていないのにこうやって温かくお祝いの言葉をいただいてしまった事に正直申し訳ない気持ちがある。
とはいえ、今の状況は私が最初に望んでいたものである事も確かだ。こんな感情を表に出すのは失礼だというのは重々承知の上だが、そもそもこんな感情を抱く事自体が間違いであるのだろう。
いつも通り生意気なクソガキロールで感謝のリプを返していく中で、今後の事を考える。
つい先日。たまもチャンネル登録者数10万人を突破した。
単純に数字だけで評価するつもりはないが、短期間で先輩方に匹敵する程の爆発的な人気を得ていると言っていいだろう。私のいた事による効果がどの程度あったのかはわからないが、とにかく成果はでている。このまま活動を続けていければ第一線で活躍するVtuberとして認知される日も近いだろう。
……まあ、箱内トップの登録者数はぽぷら先輩の36万人だし、Vtuber全体のトップ層は50万とか100万とか途方もない数字だから、山崎マネがそのあたりを目標にしているならまだまだなんだけどね。
「さて、と」
リプを返し終えた所で、私はある人にディスコ通話をかける。
@Linkでも他社の企業勢Vtuber同様、登録者数の増加に伴うキャラクター展開がおおやけにはしていないが存在する。
Vtuberとしての活動の幅を広げるきっかけになる3Dモデルの制作については登録者数に関係なく裏で進行されているらしい。その代わりというのもなんだが、チャンネル登録者数が5万人に到達すると会社の方で新衣装を用意してくれるというのだ。
ここでいう『新衣装』は配信に出している2Dキャラクターの着ている服を新調する事を指す。ようするに配信で使える新しい立ち絵がもらえるという事だ。自分で担当絵師さんやLive2Dモデラーさんに依頼するとなると、それなりの金額が必要になるのですごく太っ腹な話でもある。
『あ、聞こえてますか? 初めまして~』
「初めまして、うにたら子先生。いつも配信に反応してくれたり、コメントくれてありがとうございます」
『わっ、裏だと落ち着いた感じの声なの本当だったんだ~……なんか違和感がすごい』
「みんなそれ言いますね……」
そんな訳で、電話の相手は『秋宮ゆらら』の立ち絵イラストを担当したイラストレーター、Vtuber的には私の『ママ』のうにたら子先生だった。
5万人到達のご褒美ではあるが、私たち3期生のチャンネル登録者数の伸びが今までの比ではなかったため、運営の側もてんやわんやと混乱していたのだという。そのため、こうして新衣装の打ち合わせをするのも今になるまで延びたといういきさつがあった。この分だと、私たちの後輩である4期生がデビューする時にはこのご褒美の新衣装は10万人到達が条件に変わるかもしれないね。
それはともかくとして。うにたら子先生とはついついッターやディスコのチャットで何度かやり取りしていたけれど、通話で直接話すのは初めてだ。女性だという事は知っていたが、思っていたよりもほわほわとした感じの優しい声の人だ。Vtuberやれそう。
『それにしても、あきみゃちゃんと新衣装の相談するって、数か月前を思い出すなあ~』
「……? 話すの初めてですよね?」
『あ、話したのはたまちゃんだよ。たまちゃんの要望で、提出したデフォの立ち絵デザインをたまちゃんと一緒に通話とかラフ描きまくって一から作り直したんだよね。いやあ、あの時のデスマーチは本当大変だったなあ……』
なにやってんの、チカ?(真顔)
「衣装案のラフはたまちゃんがいっぱい出してくれたから一人でやるよりは楽だったし、あきみゃちゃんが動いて喋ってる所を見ると頑張って良かったな~って思えたけどね」と笑いながら言ううにたら子先生に私は何も言えなかった。ウチのチカが振り回してしまい本当に申し訳ない……
というより、そんな事やってたから私へのスカウトがあんなデビュー直前だったのか。私が断ったならどうするつもりだったんだよほんと……運営やマネさんはこんな無茶苦茶やって、もしかしてチカに人質をとられているのだろうか?
『それで、今回の新衣装はどうします?』
「あ、私からは特に要望ないです」
『えぇ!? かわいいの、とかカッコいいのとかそういうふわっとした方向性とかもないの?』
「はい、特にこうしたいとかないです」
『は、はあ……なんというか、たまちゃんと正反対だね』
「それは……そうですね」
服は自分で選んだ事ないしなあ。自分で買った服も修学旅行の時に買った『働かないで食う飯は美味い』と胸とお腹部分にでかでかと書かれた安いシャツくらいだし。
その分、チカは私を着飾る事に対して自分の事のように真剣だし、私以上に私の着飾り方を確実に理解している。私的には似合わないだろうなと思うような服も平気で着せてくるし。
「そこで、相談があるのですが。今回もたまに要望を聞いてもらってもいいですか? まさかデフォルト衣装でもたまが関わっているとは思ってなかったですけど」
『それだったら大歓迎ですよ~! いや~、てぇてぇだあ……』
快く私の要求に頷いていただいたうにたら子先生。
「あと、こっちは本当に無理だったらNG出していただいていいんですけれど」
たまが散々振り回して迷惑をかけた後でこんな提案をするのは、本当に迷惑だろうなあと思いつつ。それでも面白くなるだろうという思いから私はそう前置きしつつ、もう1つの提案を口にした。
「うにたら子先生、配信出演は可能ですか?」
『え゛?』
私の言葉を聞いて、本当に驚いたのか濁点交じりの声が返ってきた。