「いらっしゃいませ、ご指名ありがとうございます」
「ひゅいっ! み、耳元やめて……」
「客を放置して2人でイチャイチャするなぁ!」
「マイクの近くでやれー!」
腐女子大歓喜
あうあうw
さく姐がホスト漬けにされちゃう…!
ゆら太×さく太…┌(^o^┐)┐
「ちょっと、恥ずかしいからあんまりアーカイブ見ないでよ」
さく姐の太股に頭を預けながら、昨日参加したアザミ先輩とあうろら先輩をホストとしてもてなす企画のアーカイブを見ていると、そんな声と共にスマホを取り上げられてしまう。
昨日から私の家にさく姐が泊まっていてこの企画も2人で一緒に出演したんだけど、男の子の声でちょっかいをかける度にさく姐がいい反応を返してくれるから面白かったんだよね。
「えー、かわいいのに」
「……そういう事、気軽に言わないの」
「本気なのにー、すりすり」
「くっ、体で支払えって言われてなければこんな事させないのに……!」
そんな言葉を真に受ける方が悪いんだよー、と思いながらも口には出さないまま、腕を回してさく姐の太股に顔を擦りつける事数分。
飽きたので顔を上げる。
「うわ、びっくりした」
「そうだ、さく姐に相談したい事があったんだった。ちょっと待ってて」
そうして私が部屋の奥から持ってきたのはちょっと前に買ったバイノーラルマイク。
「これの使い方教えて。さく姐、ネット声優やってたんだし何回か使った事あるでしょ? 今週中にメン限で初ASMRやろうと思ってるから、事前にちょっと触っておきたいんだよね」
「バイノーラルマイクかあ。わたしも音声作品で何度か触っただけだからそんなに詳しくはないんだよね……ゆのみ先輩にお願いした方が良くない?」
ASMRとなるとやっぱり名前が出てくるのはゆのみ先輩だろう。@Linkの面々で唯一ASMRをメインコンテンツにして半年以上活動しているわけだし。
「うーん……いや、やっぱりさく姐に教えてもらおっかな。初回はそんなにキッチリしたものをだすつもりじゃないし」
「そう? それならいいよ。なんだかんだ、みゃにわたしがなにかを教えれるのって、ちょっと嬉しいからね」
……? なんで嬉しいんだろう?
まあ、いっか。
「ありがと。じゃあ、今から私にやってみてよ」
「え゛? いいけどさ……」
さく姐は渋々と言った様子で、私が準備したバイノーラルマイクの前に座る。
私は両耳にイヤホンを付けて、メモとペンを持ち準備万端だ。
「そんな真面目に聞かなくても」
「いーや、さく姐が私のためだけにやってくれるんだから一言一句聞き漏らさないよー」
「まーた、そんな事言って……とりあえずやっていこっか。みゃはVtuberのASMR配信は見た事ある?」
「うん。ゆのみ先輩のを何度か」
「そっか。Vtuberが出る前だとスライムとか咀嚼音の純粋に良い音を聞く方が主流だった感があるかな。例えばこんな風に……」
さく姐がそう言いながら、さっきまで食べていたじゃがりこをバイノーラルマイクの近くで食べる。
ザクリ、ザクリとスナック菓子を噛み砕く時特有の咀嚼音がイヤホンを通じて私の耳に入ってくる。
「あ、こんな感じなんだねー。コーラとか合いそう」
「まあ、耳元で炭酸水の音聞かせたりするのもあるからナシじゃないとは思うけど……とにかく。Vtuberもそういう普通のASMRもやる一方で、人気なのはシチュエーションボイスかな。どちらかと言うと文化がわたしもやってたような音声作品に近いんだよね」
「ふむふむ、シチュエーションボイス。ゆのみ先輩がやってたみたいなヤンデレ幼馴染とか独占欲が強い彼女みたいなやつだよね」
「そう、そんなの。そういうリスナーが好きそうなロールプレイとか、あと、囁き声も見た感じは反応良さそうだよね」
「さく姐、やってみてよ」
「ええー、じゃあ……他の女の子に浮気しちゃ、ダメだからね?」
怒られちゃった。浮ついた気持ちで接してないからセーフなのに……
それはともかくとして、吐息交じりの囁きで背中がビクリとなる。
「おおー、ちょっとゾクッてしたあ」
「一々感想言われると恥ずかしいんだけど……あとは耳かきがやっぱりメジャーかな。はい、これで終わり! 後は自分で試しなさい」
「もっとやってくれてもいいのにー」
「駄々こねても、わたしだってもう引き出しないからね」
「ちえー……あっ、そうだ。さく姐、実験台になってよ。ほら、交代ね」
「えっ、えっ……?」
困惑するさく姐を寝転ばせ、私の付けていたイヤホンをさく姐の耳に突っ込む。
私は梵天耳かきを手に取った。
「人に耳かきするの初めてなんだ。ちょっと楽しみ」
「あっ、耳弱いから囁くのダメ……ってか、そんな初めてを私で消費するなぁ!」
「それじゃあ感想よろしくね。カリ、カリ、カリカリ」
「ひえぅ、どこでこんなの習ったのよぅ!」
耳かきの動きに合わせて、擬音を囁くとさく姐があられもない声を上げて身悶える。
「ゆのみ先輩がよくやってた、私も好き。続けるね〜。ガリ♡ ガリ〜♡」
「あっ、ちょっとぉ。ダメ、だってぇ……」
「ほんとに嫌ならイヤホン取ればいいのに。さく姐は欲しがりさんだね〜。ふぅ〜っ」
「ひゃう。ち、違うし、そんなんじゃないし……」
「耳かきの途中で息吹きかけるのって普段しないからなんか新鮮だね。カリカリ、ふぅ〜。カリカリ、ふぅ〜」
「あっ、ちょっとぉ……!?」
「ふふっ、かわいいねえ」
この後、10分程続けたら、ASMR耳かき免許皆伝(さく姐認定資格)をもらった。
涙目でプルプルしながら睨みつけてくるさく姐を見て、私は満足したのだった。