「お、お待たせー。待った?」
待ち合わせ場所のベンチに座りながらぼーっと空を見上げてると、冬城が私に声をかけてきた。
意識を切り替えて、応答する。
「ううん、今来たとこ」
「ほんとぉ? また魂抜けてたよ」
「ほんとほんと。着いたの15分前」
はは、Vtuberの中の人に向けて魂抜けてるとはナイスジョーク。
適当にあしらい、私は冬城に問いかける。
「今日どこ行くー?」
「え、ノープラン、なの?」
「そりゃあ、今日は冬城をもてなす日だからね。冬城が行きたい所に行くよ。……あ、そう言えば、前の配信では私の行きたい所ならどこでもいいってコメントしてたっけ。ラブホに連れ込んだ方がいい? しっかりご奉仕するよ」
「ひん、ネット弁慶なだけなんです。ゆるしてー……」
手をわきわきさせながら私がそう言うと、冬城はぷるぷると震えながら弁明する。
そんなだからからかわれるんだぞ。
「冗談だって。友達同士でそういう事はしないって事ぐらい私にもわかるよ」
「あ、そ、そうなんだ。ヨカッター……」
「なんでちょっと残念そうなのさ」
「は、はー!? そんな事ないですけど!?」
そんな図星つかれたみたいな反応しなくても……
とはいえ、こっちのボケに反応してくれるぐらいには私にも心を許してくれているという事なのだろう。
うん、いい事だろう、きっと。冬城が普段ソロ配信でできてるトークをコラボ配信でもできるようになれば随分心強い。もう私が会話を回さなくてよくなる。……それは流石に求めすぎか。
とにかく、冬城も今日の予定はノープランらしい。
「ふむ……じゃあ、高校生の冬城ちゃんにあわせて、高校生っぽいデートしよっかあ」
「もうアタシ、24歳なんだけどなあ……」
その言葉を吐くなら、さく姐もそうだけど年齢に見合った落ち着きを持った方が良いと思うよ。
私は優しいので、そんな言葉は言わないでおいてあげたのだった。
◇
「ひええ……平日なのに人がいっぱいいるう……絶対不良なんだあ、囲まれてお金出せって脅されるんだあ……」
そうしてやってきたのは大型施設のゲームセンター。
以前誘った時には断られた場所に2人でやってきたわけだが、店内に入るやいなや挙動不審な様子で冬城がきょろきょろと周りを見ている。
「あれ、ほんとにゲーセン初めて来たんだ? 平日のゲーセンなんてこんなもんだよ。不良生徒のたまり場……いや、それは偏見か。ま、私たちみたいに平日でも暇してる人って案外世の中に沢山いるらしいよ」
「うう……平日に働いてなくてすみません……ダメ人間でごめんなさい……」
「私たちは年中無休の仕事をやってるとも言えるけどねー」
「ブ、ブラックだあ……」
実際ブラックだよね、Vtuber。長期休暇を取る人が度々いる理由もわかる気がするよ。
1年中ずっとVtuberとして活動していると、本当の自分がわからなくなったりするのかなあ、多分。
「それじゃあ、色々見て回ろっかー。何か気になるのある?」
「えーと、色々あるねえ……メダルゲームは2人でやるにはちょっとなあ……あ、おっきなエアホッケーだ! あれとかいいんじゃない?」
「え……? まあいっか。やろうよ」
──数分後。そこには両膝をつく冬城の姿があった。
「ひどい。いったい誰がこんな事を……!」
「お前だよーーっ!?」
「そもそも私相手にこんな体動かすゲームで冬城が勝てるわけないでしょ。自分の非力さを認めなよ」
「それでも……うう、もうちょっと手加減して1点くらい取らせてくれたっていいでしょ!」
「いや、私は普通に返してるだけだったし。全部自滅だったじゃん……」
ゲーマーとして鍛えた動体視力に体がまったく追いついてないんだよなあ。もったいない。
「も、もう秋宮とはこういうゲームしないもん。ぷい」
「あーあ、拗ねちゃった」
「他人事だなあ、もう。他のゲーム見に行こ!」
「はーい」
そうして、冬城と一緒におしゃべりしながらゲーセンの中を歩いていき、立ち止まったのはプリクラ機の前。
「ぷ、プリクラ……陽キャの象徴だ」
「うーん、偏見。折角だし一枚撮ってく?」
「え゛。い、いいよう、恥ずかしいよう」
「いいからいいから」
うだうだ言ってる冬城をプリクラ機の中に押し込む。
私もそんなに使った事はないし、こういうのはチカがノリノリでやるから操作方法もよく知らないけどなんとかなるだろう。
「最近のプリ機はめっちゃ盛れるらしいよ。知らんけどー」
「急に関西人みたいになられても、あわわ、もうカウントダウン始まってる!?」
「ほら、冬城笑ってー、はい、チーズ」
そうして冬城がヘタクソな作り笑いをしてピースしてる所に、私は後ろから彼女の両頬を摘まんで引っ張る。
その瞬間、パシャリとシャッター音が鳴った。
「ぷぷ、変な顔になったかもねー」
「……もう絶対プリクラしないもん」
「あー、ごめんって。ほら、この後、落書きできるみたいだよ」
拗ねた冬城を促して、ディスプレイを操作する。
「うう、やっぱり変な顔してる。秋宮は腹立つくらいいい顔で笑ってるし……この、この!」
「鬼の角とか書いても私はぷりちーなままだけど?」
「うう、だったらしっぽとひげと猫耳描いておにキャットにしてやるう!」
「じゃあ、私も冬城の顔にひげ書いちゃお。お揃いだねー」
そんなこんなで落書きされきったもはや原型を留めていない写真シールが印刷される。
「ほら、冬城の分。いい記念になったねー」
「最悪の記念だよう……」
渋々といった様子で自分の分のシールを受けとる冬城。
「あ、でもちょっといい、かも?」
実物の写真を見て、私に聞こえないようにしたのか、冬城はぼそっとそう呟いた。
◇
プリクラを撮った後も、ゲーセンを回る。
「ここのフロアはクレーンゲームがいっぱいだね」
「結構大きいゲーセンだからねえ。お菓子のクレーンゲームは採算性を考えて、もう少し数を減らしてもいいと思うけど」
「そんな夢のない事言わなくても……あ、レムの水着フィギュアだ!」
「ああ、レムはいっつも脱がされてるよね」
「そうなの!?」
人気アニメのヒロインはプライズフィギュアで頻繁に脱がされるよね。これを私は生き恥なんちゃらシリーズと呼んでいる。(呼んでない)
そんなリゼロのレムの生き恥水着フィギュア。それの外箱にプラスチックのリングをセロテープで貼り付けて、アームを引っかける方法で移動させるタイプのクレーンゲームの機体に冬城がお金を入れる。
「……うっわ、むっず。こんなの入るわけないじゃん」
ただ、冬城は今までゲーセンに来た事もないわけで。当然、初めてのクレーンゲームはまったくの見当違いの場所でアームが空を切る結果になった。
「もうやらんわ、こんなクソゲー」
「……仕方ないなあ。ほら、代わって?」
冬城と交代して、500円玉を入れる。
このタイプのクレーンゲームは一定のお金を入れる必要はあるけれど、絶対に景品が取れないアームパワーになっている事は少ない。基本的にはちゃんとやればちゃんと景品を取れるタイプだ。
それに、さっきの冬城の1回でボタンを離してからどこでアームが止まるか、アームがどこまで開くかは確認済みだ。
「ぱっ、ぱっと」
「わ、すごい! 穴のギリギリにアームが入った! でもこれだけしか動かないのかあ。クソゲーだなあ」
「これってこういうゲームだからねー」
気にせず次のゲームへ。箱が動いた分だけボタンを押すタイミングを変える。
「わ、また穴のギリギリだ。すごいすごい!」
3回、4回、5回と続けて、最大効率で箱が動くようにリングにアームを入れる単純な作業を続ける。
「秋宮ってロボットかなんかなの?」
「こんなかわいいロボットがいたら、人類は生殖活動を行えなくなって滅亡しちゃうぜっと。ほい取れた。1000円で取れたなら結構いい方でしょ」
ガコンと取り出し口に落ちた景品を手に取る。500円玉を入れたせいで2回分プレイ回数が無駄になったけどまあ構わないだろう。
「はい、冬城。あげるよ」
「え、いいの?」
「うん、私はいらないし。それに来週誕生日でしょ? 私からの誕生日プレゼントって事で。はいどーぞ」
「その誕生日ってライバーの設定だけど……?」
「知ってる知ってる。冬城のリアル誕生日なんて知らないんだからせめてライバー誕生日で祝わせてよ」
「あ、そっか。あ、ありがと……」
そういっておずおずと冬城は私が差し出した景品を受け取る。
「それにさ。ライバーの誕生日とリアルの誕生日どっちも祝えるならお得じゃん。またいつか、私たちに教えてよ。その時には盛大に祝うからさ」
「う、うん! ……いや、陰キャがわざわざ祝ってもらうために誕生日を言うのはハードル高い……あ、祝って欲しくないわけじゃなくてー!」
……まあ、冬城のリアル誕生日まで私がVtuber続けてるかなんてわからないけどさ。
とはいえ、なんかわたわたしてる冬城にそんな事告げる必要もないし、私はニッコリとその様子を見ているのだった。
「よーし、お腹空いたしサイゼ行こっかー」
「わ、すごい高校生っぽい」