「みんなお疲れ〜!」
冬城のペヤンゴ完食耐久配信が終わってすぐ、たまがディスコの通話を通して同期2人に呼びかけた。
私の配信が終わった後、そのまま私の家で2人で冬城の配信を見ていたのだが……冬城が途中で駄々をこね始めたのでさく姐と一緒にディスコ通話で応援する事になったのだ。
『お……』
『お疲れ様。すごいわね、ついついッターのトレンドに乗ってるわよ』
「さく姐のインパクトすごかったからねえ。コメント欄ドン引きだったよ。私も草生えた」
『しばらくは清楚キャラでやってくつもりだったけれど、こっちの方がインパクトあると思ってね。思い切って路線変更しちゃった』
『あ』
「ウケはバッチリだったよ! わたし1人でしてもこんなに面白くならなかっただろうし、さく姐、一緒にやってくれて本当にありがとう!」
『どういたしまして。チャンネル登録がいい感じに増えてわたしも助かったからおあいこよ。それより、3人共もう口の痛みは引いた?』
「わたしはだいぶ楽になったかなー」
「ヨーグルト食べながら冬城の配信の応援してたけど、まだ口の中痛いわ。これ、明日まで響きそうだね」
『あ! あの……みんな来てくれてありがとう、ございましゅ……』
急に大声を出した冬城がどんどんと尻すぼみになっていきながらも私達に感謝の言葉をかける。
「ことちゃんも頑張ってくれてありがとー! 付き合わせちゃってゴメンね?」
『い、いいえいえいえ! たま、ちゃんが謝ることなんてないんで! ホントどうしようもないダメ人間でゴメンなさい! ゴメンなさい!』
「おう、もっと感謝してよね冬城」
『あ、う、うん……』
『ことちゃん、そこはちゃんとプロレスしてあげないと』
『あ、え、えーっと……』
言葉に詰まった冬城。カタカタとタイピング音が聞こえてきた。
冬城ことは 秋宮に感謝するのはなんか違うと思うんですけど!
そうしてすぐに、通話しているというのに冬城のチャットが同期のチャットルームに反映される。
「通話中にチャットするの……? 口で言うのとなんの違いが……?」
『あう……』
「もう! ダメだよゆらちゃん、ことちゃんはことちゃんなりに頑張ってるんだから!」
『とはいえ、ずっとこの調子だと大変だけどね。ちゃんとしたコラボが早くできるように、せめてわたし達と話すくらいは慣れようね、ことちゃん』
『あっ、は、はい。が、ガンバリマス……できなくても怒らないでね……』
人と話すだけでこの調子なのに、なんで冬城はオーディションに受かったんだろう……@Linkの採用担当はやっぱりガバガバなのでは? そんな疑念が浮かんできた。
『もう少しで12時になっちゃうし、そろそろお開きにしましょうか?』
「そうだねー。また明日からもみんなで頑張っていこーっ!」
「あっ、ちょっと待って。冬城、まだちょっとだけ話せる?」
『ぴえっ!? な、生意気言ってゴメンなさい…… 』
冬城に声をかけると蚊の鳴くような声で謝られる。
おそらくさっきのチャットの件だろう。それか、さっきの配信中に急に大声出した事か。そんなんで謝るとかどれだけ小心者なんだ……
ともあれ、いちいち付き合うのも面倒くさいし、とっとと本題に入る。
「冬城ってFPS得意なんでしょ。配信でやるって初配信でも言ってたし、Vtuberやる前も結構配信でビペやってたって聞いたよ」
『えぇと……と、得意って言ってもガチ勢には全然及ばなくてー……リスナーに助けてもらってもランクはプラチナが精一杯で……』
「なんだ十分上手いじゃん。私もビペやってみようかと思っててね。FPSはほとんど触ったことなかったから先生を探してたんだよ。冬城、私に教えて」
『あ、アタシが!? むりむりむりむり!? 人に教えるなんておこがましい事アタシにはむりですーぅ!?』
自虐の時だけえらく饒舌だな、とチャットなら打っていたであろう言葉を呑み込み、説得のため言葉を続ける。
「無理じゃないよ。冬城はさ、多分うまく教えられなかったらどうしようって思っているんだろうけど、私はすぐに上手くなりたいってわけじゃないからそれでもいいんだよ」
『へう……? そうなの?』
「だってそっちの方が冬城と一緒に長く遊べるでしょ? 私はそっちの方がいいな」
『へっ、あああ、アタシ、と!?』
冬城の声が動揺して大きくなる。
横で座っているたまが呆れた顔をしていたが無視して、言葉を続ける。
「うん、冬城と。冬城は私と遊びたくない?」
『そ、そんなことない、です! アタシも秋宮、と遊びたい!』
「よし、じゃあ決まり。今週の空いてる時間にでも事務所のパソコン借りて一緒に遊ぼうよ」
『えっ、オフ!?』
「そっちの方が教えやすいでしょ? ある程度できるようになったら一々事務所まで来てもらわなくてもいいからさ。……ああ、オフで会って話すのはもっと緊張しちゃうよね。前デビュー祝いでみんなで集まった時もカチカチだったもんね」
『う、うん……ゴメ』
「帰りに一緒にマックとか寄りたいなあって思ってたんだけど……同期だしさ。私的には仕事の付き合いだけじゃなくてもっと仲良くやっていきたいなって思いがあるんだよね。ま、ちょっと急ぎすぎたかな。今回は……」
『あっ! あのっ! お、オフでも、いいよ……?』
ボソボソとした小声だったが、冬城から望んだ言葉を引き出す事に成功した。
「ホント? 嬉しい。それじゃあ後で個人チャット繋ぐからスケジュール教えてよ」
『う、うん!』
『悪女やあ……』
「さく姐、しっ! 」
さく姐とたまが小声でやりとりしていたが、幸いにも冬城には気付かれなかったらしい。スルーしただけかもしれないが、まあいいだろう。
「それじゃ、私の用事も終わったし、お開きにしようか。みんなお疲れ様ー」
『お疲れ様。明日からも頑張りましょうね』
『お、おお疲れ様でしたっ!』
「お疲れ様ー!」
たまの言葉を最後に通話が終了する。
それを確認したたまが大きくため息をついた。
「……あさひちゃん、あんまりことちゃんをからかっちゃダメだよ? 一応、わたし達より歳上なんだからね?」
配信モードも終わり、チカが私の呼び方を変える。
「歳なんて関係ないでしょ。明らかに押しに弱いタイプなんだからドンドン押していった方がいいんだよ、ああいうのは」
「それはそうだけどさ、そもそもあさひちゃんFPSなんて興味ないでしょ」
「失礼な、FPSやりたいってのは本心だよ。Vtuberは結構やってる人多いからコラボのツールとしては優秀だもん」
嘘は言っていない。わざわざ冬城に声をかけた理由の一割にも満たない本心ではあるが。
「冬城が乗ってくれそうな話題だから選んだってのは否定しないけどねー」
「そっちがメインでしょ。ちゃんとわかってるんだからね」
「……まあ、チカならわかってると思ったけどさ」
むしろ露骨にやったぐらいだからなあ。冬城は気付かなそうだからそれでもいっかと思ってやったのだから当然か。
「さっさとあの人見知りをなんとかしないと同期コラボも全部放送事故になっちゃうからね。今日のも冬城が元々喋れる状態じゃなかったから事故にならなかっただけだし。今度、同期コラボする時までに何回かオフで会って会話に慣れさせるよ。とりあえず、どもらずに最低限の受け答えができるくらいにはする」
……そうしないと、チカが同期コラボという大きな武器を使えないし。
できれば2週間、最低でも1ヶ月で同期コラボが問題なくできるようにするためにも冬城の意識改革は急務だった。
「そんな事だろうと思った。わたしも行った方がいい?」
「いや、しばらくは2人っきりでマンツーマンの会話に慣れさせるよ。そのうちまた同期で遊びに行く計画は立てるから、その時はよろしく」
「りょーかいしました。……あさひちゃんもあんまり無理しちゃダメだよ?」
「こんなの、私にとっては部屋で寝っ転がってゲームしてるのとおんなじだよ。心配しなくても大丈夫」
そう、おんなじだ。別に何をしようが何も変わらない。
「そんな事より。チカは今日みたいな一発芸人みたいな配信はもうやらないでね。人気なんか私がなんとかするから、チカはちゃんとアイドルらしくやりなさい! いい!?」
「えー、どうしよっかなー」
「ちゃんと、聞きなさいっ!」
……その後。チカに正統派アイドルと色物アイドルの将来の差について1時間弱こんこんと説明した。
最終的にはそれでも「うん」と言わなかったチカに根負けする事になったのは不覚としか言えなかった。
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