見た目は子供頭脳はアニオタなブラック鎮守府再建記   作:暁桃源郷

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提督が来た⑦

一六〇〇。

殆どの艦隊が帰還してこの鎮守府に着任してから、と言うよりも建造されてから一度も口にしたことがなかったカレーライスを警戒しながらも口に運んで行っていた。最初は口にしようとはしなかったものの夕立が美味しそうに食べているところを見て皆も食べ始めた。

そんな本当ならば当たり前のはずの非日常を見ながら私は何処を探しても見当たらない提督の行方を気にしていた。

 

「おい」

 

不意に話しかけられて私は声のする方に顔を向ける。

そこにいたのは先ほどまで提督室のソファに座っていた天龍だった。

 

「何だ天龍?カレーなら人数分ある。慌てなくても「そうじゃねぇ」・・・・」

「アンタ、新しく提督が着任するって黙ってただろ?」

 

どうやら、すれ違いで提督は提督室を訪れたらしい。

私はため息をつきながら仕方ない、と呟いて身体を天龍に向ける。

 

「・・・・・・場所を変えよう。ここは一目に付きすぎる」

「その必要はない」

 

さらに声が聞こえて来て私と天龍は声の主を見る。

そこに立っていたのは中学生に見間違える背丈をしながらも純白の制服を身に纏った提督だった。

 

「長門。今食堂には何人いる?」

「・・・・・・哨戒に出ていた川内神通、那珂木曾吹雪睦月の六人以外の計九十四名だ」

「了解した。なら、その六人には()()()()()()()()で挨拶をするとして今から自己紹介をするので二人とも食堂で待機するように」

「待てよ」

 

提督が食堂に入ろうとしたところで天龍が提督の肩を掴む。

提督は天龍を見はしないものの立ち止まって肩を震わせている。

それを見て私も天龍も少し身震いを起こす。

トラウマと言うものだろうか?

前任の提督、黒岩提督はそれはもう酷かった。

気にくわないことがあれば我々にキツく当たり、作戦もろくに立てずに出撃を繰り返し、駆逐艦は盾代わり。

夜は呼び出した艦娘をまるで玩具を使うように拷問や性行為。

沈んだ艦娘も数知れず、私も長門としては二代目に当たる長門だ。

 

「・・・・・・・どうした?何か言いたいことがあったから止めたのだろう?」

 

提督の声にハッとしたのか天龍は腕を震わせながらも声を絞り出す。

 

「今、アンタがあいつらの前に出たら確実に殺されるぞ。それでも行くならオレはアンタを止めはしない。正直オレなんて前任のクソ野郎どもに受けた暴行なんて微々たる物だ。でも、他の奴らは違う。そりゃ、提督と言う存在を殺したい程恨んでいる奴なんてゴロゴロいやがる。それでも、その足を止めねぇんだな?」

「・・・・・・・・・・」

 

しばらく提督が黙り込み、ため息をつく。

そのまま天龍の手を肩からゆっくり下ろすと提督は食堂の中へと歩いていった。

私と天龍も後を追って食堂に入る。

すると先ほどまで賑わっていた食堂が静まり返り、全員が今日の朝まで見なかった提督の制服を来たその男を見る。

ボソボソと話し声も聞こえる中、提督はキッチンに入るとどこに置いてあったのか分からないコンテナを引き摺ってカレーの受け渡し場所の前に逆さに置くとその上に乗り、コホン、と咳払いを一回する。

 

「・・・・・・・食べながらでいい、聞いてくれ。本日よりこの鎮守府に着任となった風切だ。宜しく頼む。質問等は後で聞くが、そうだな・・・。大淀明石間宮にはそれぞれ頼みたい事があるので明日の一二〇〇に提督室に来るように」

 

淡々と自己紹介を済ませていく提督を見て皆がさらにボソボソと話し始める。

大淀、明石、間宮をどうするのかも疑問に思うがきっと提督は前任のようにはしないだろうと、心の何処かで思っている私がいる。

 

「さて、質問の時間にしようか。何か質問のある者は?」

 

提督の言葉に上がった手は、一つ、二つ、三つ。

提督がその三つの手を一瞥して一番提督に近い手を見る。

 

「では先ずは・・・・夕立。君からだ」

「ぽい?私提督さんにお名前教えたっぽい?」

「ある程度顔と名前は一致させている。質問は?」

 

提督が聞き返し慌てて夕立が反応する。

 

「このカレーライスは提督さんが作ったっぽい?」

「そうだ。美味しく食べてくれているようで何よりだ。次に、よし。加賀

 

加賀が立ち上がって提督を見る。

 

「提督は、この鎮守府をどのようにしたいとお考えですか?」

「・・・・・・・・・」

「どうしました?」

「いや、いったい私はどうしたいのだろうな・・・・」

 

提督が真面目に悩んだような顔をして少し後ろを向く。

皆が不審な目で提督を眺めていると提督は何かを決めたかのようにこちらに振り向く。

 

「少なくとも、今よりは環境を良くしたいな」

「具体的には?」

「今君たちが口にしているカレーライスもその一環だ。今日は間宮が居なかったので私が作ったがこれからは間宮に作ってもらいたい」

「は、はい!」

 

間宮が立ち上がり声を上げる。

加賀も渋々と言った感じで席に座る。

 

「さて、後一人は・・・。君だね、加古

「あ~、私の事も知ってるんだ。なら、私の好きなことも知ってる?」

「もちろんだ。寝ること、だろ?

「・・・・・うん。合ってるけど、やっぱ提督って不気味だよ」

 

食堂の気温が数度程下がったような気がした。

誰しもが思ってはいたが口にはしなかったことを加古は言ってのけたのだ。

 

「だってそうでしょ?今日着任してきたばかりの提督が顔と名前を一致させてるだけならまだしも好きなことまで把握してるんだもん」

「・・・・・・・・そんなに、おかしな事だったか?」

「うん。とっても」

 

提督がため息をついて食堂の窓から外を眺める。

 

「・・・・・・・なら、次からは気をつけよう」

 

いや、もう遅いだろ。

そんな声が隣から聞こえてくる。

 

「それと、今から明日の〇五〇〇まで君たちには待機命令を出す」

「て、提督!それはいったいどういう・・・・・」

「長門」

 

赤城が声を上げるがそれを無視して提督は

私の名前を呼ぶ。

 

「な、なんだ?」

「君がさっき上げた六名は何処辺りを哨戒しているか分かるか?」

「あ、あぁ。確かここから南の方角を担当していた筈だ」

「そうか・・・・・。話は以上だ。各自食事が終わったら自室で過ごすように」

 

それだけ言うと提督は食堂を出ていった。

残されたのは提督に対する疑問と待機命令。

それぞれがそれぞれの憶測を話しているが結局提督の真意が分かるのはそう遠くの未来ではなかった。

 

 

 

既に辺りが暗くなってきた頃の事だ。

雨が降り始め次第に強くなっていく。

窓から海を見てみるが凄く荒れていてとても海を航海する事など出来そうにない。

 

「あの子達、大丈夫かしら・・・・」

 

私の隣で海を眺めていた妹の陸奥がそう呟く。

 

「・・・・・提督は、最初から海が荒れることが分かっていたのかもな」

「・・・・・だとすると、待機命令を出したのは私達にあの子達の捜索に行かせないため?」

 

結局は彼も他の提督と一緒なのかもしれない。

そんな不安を抱きながらも私達には彼女達の帰還を待つことしか出来なかった。

 

 

 

南の何処とも分からない島。

哨戒の為に鎮守府の南を航海していた私達は運悪く嵐に巻き込まれて島への上陸を余儀なくされていた。

島と言ってもただの岩礁で身を隠すところも雨風を凌げるところもない。

 

「川内姉さん、どうしましょう」

 

今声をかけてきたのは私の自慢の妹の一人の神通。

隣には一緒に辺りを警戒していた木曾もいる。

 

「この嵐だから敵もいないが、このままじゃオレ等はともかく吹雪と睦月がマズイ」

「どうにかして雨風を凌げる場所を作らないと」

「そうしたいけど私達にそんな技量も材料も無いし、火を炊こうにも雨だから消えちゃう」

 

でも、このままじゃ皆が凍え死んでしまう。

なんとかしないととは思うがこうも真っ暗だと何かがあっても分からない。

 

「み、皆!ちょっと来て!」

 

三人で顔を見合わせて考えていると反対方向を見張っていた那珂が声を上げる。

神通を吹雪と睦月の下に残して私と木曾は那珂のもとに走る。

 

「どうしたの那珂!?」

「あそこ!何かいる!」

「敵か?」

「分からない。でも何かゆっくりだし、不用心に灯りも付けてる」

「少なくとも、こっち側じゃ無さそうだね」

 

とりあえず砲撃の準備だけしておいて近付いてくる灯りを注意深く観察する。

次第に舟とそれに乗った人影が見えてくる。

 

「そこで止まれ!ゆっくりだ!ゆっくりと陸に上がって顔を見せろ!」

 

先ほどよりゆっくりと影が近付いてきてようやく全容が露になる。

その瞬間私は喘息にも似た発作が起こり息苦しくなる。

汚れ一つ無い真っ白な衣を身に纏う、私達からすれば悪魔の象徴のような服装。

 

「本日づけで着任となった風切だ。宜しく頼む」

 

・・・・・・・提督だ。

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