アサルトリリィーTrinityー   作:門番

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まさか投稿機能を使う日が来るとは思わなかったよ…


第一話 鎌倉山中にて「相」を欲す

 ヒュージとか呼ばれているバケモノがこの世界に現れたのは50年ぐらい前のことらしい。齢15歳の小娘には半世紀前のことなんざドキュメンタリー番組の画面越しでしか知りえない話だ。

 

 我等がホモ・サピエンスの歴史は戦争の歴史である。などと昔は言われていたらしいが、人間同士の争いはヒュージという共通の敵ができたことによってピタリと辞めてしまった。政治や宗教といった社会・文化的な脅威に抗うために戦争を続けた我々から戦争を無くしたのは平和主義者達の尽力でもなんでもなく、より大きな脅威(ヒュージ)であったのはいくらか皮肉が効いているだろう。

 ともかくヒュージがこの世界に現れてから半世紀も経ってしまったらしい。

 

 ヒュージにはライフルだ大砲だミサイルだなんてロマンに溢れた武器は通用しない。正確にはデカブツ(ヒュージ)なんて名前の似つかわしくない小物にはなんとか通用しないこともないようだが、大型のヒュージにはまるで通用しなかった。

 

 ヒュージを確実に倒す方法ただのひとつだけ。

 

 リリィと呼ばれるティーンの女子たちに、身の丈程もある大きさのCounter Huge ARMS、通称CHARMと呼ばれる武器を使わせて戦わせることだけだった。CHARMを使うためにはマギと呼ばれる力が必要で、それを最も効率よく使えるのがティーンの女子達だからということだそうだ。ちなみにCHARMを作る職人のことを工廠(アーセナル)と呼んでいたりもする。

 

 しかし、ヒュージへの特効兵器ができたからといって、ヒュージと人類の戦いに終止符を打つことはできずに未だに未知の脅威との戦いは続いている。

 

 終わりの見えない戦いに業を煮やした老人達は遂に禁忌を犯す覚悟を決めたらしい。

 

 結論から述べると人体実験、そして人体への改造が始まったのだ。

 

 CHARMが開発されてからいくらかの月日は流れたが、人体の神秘は数千年以上に渡って飽くなき探究が繰り返されてきた分野だ。魔力(マギ)と名付けられた不思議エネルギーを使うために魔法のステッキを新しく組み上げるよりも、人体そのものへのアプローチにかけては一日以上の長があった。CHARMの開発が滞り戦力の拡充が遅れるようであればCHARMの担い手の方を弄くり回せばいいという発想に行き着くのは当然の帰結だろう。

 

 そして戦争の犠牲になるのは何時だって無垢な民衆だ。

 孤児などの保護が行き届かなかったリリィ適正の持ち主は優先して捕らえられ、プラモデルを改造するかのように弄くり回された挙げ句に戦場に放り出されたりもしたらしい。

 

 体を弄くりまされた不幸なリリィ達は強化(ブーステッド)リリィと呼ばれ、今日このごろも一般社会やリリィたちのコミュニティで迫害されたり保護されたりを繰り返している。

 

 

【人間は困難に立ち向かうようにできている】

 

 なんて言葉があるらしいが、間違いなくそれは事実だと思う。だが付け加えるべき文言がある。

 

【人間は目的を果たすためならばどこまでも残酷になれる】ということだ。

 

 

 

 

 

 

 ちなみにあたしもそんな不幸な強化リリィちゃん達の一人であり、リリィ養成機関(ガーデン)の一つである私立百合ケ丘女学院への編入学が決まっていたりする。

 成り行きとはいえども年始ににギガント級の巨大なヒュージを、相棒のアーセナルと鉢合わせた百合ケ丘のお嬢様リリィ達と共に協力して討伐してしまったあたし達は、あれよあれよと言う間にスカウトという名目で半強制的に百合ケ丘への編入学と転校を決められてしまった。

 アーセナル志望であり独学でCHARMを組み上げた相棒は百合ケ丘への転校が決まった時は、余りの嬉しさで二、三日の間ニヤニヤしたマヌケ面が抜けなかったらしいが、保護という名目で即座に百合ケ丘へと連行されたあたしにはたまったものじゃなかった。

 

 前を向けばごきげんようなお嬢様達がいて、右を見るとお嬢様達がお茶会を開いており、勿論左のお嬢様達もキャッキャウフフと戯れ、後ろを見ると辛気臭い顔をした特別寮の強化リリィ達ばかりだ。

 

 

 

▼△

 

 3月の末日、百合ケ丘女学院への編入学が決まっているあたしは学園の裏手に建っている訳アリ物件にしか見えず、これまた訳アリな奴しか住んでいない特別寮の一室で暇を持て余していた。

 教本やら入学に当たっての心得やらの冊子は一通り目を通したが、案の定まともに頭に入った気がしない。学院で保護されてからは住居も食事も与えられているばかりの身分ではあるが、あたしは机に向かってお勉強するよりも実際に体で覚えるほうが性に合っているのだろう。身の振り方は4月になってから考えればいい。

 

 リリィとしての給金が出るのなんて数カ月先の話で、街に繰り出そうにも面倒くさい書類をいちいち書かなければならない。1月の下旬に百合ケ丘に来てからはCHARMの調整やら素振りで時間を潰していたが、数週間後には流石に飽きていた。射撃の訓練もしていたが銃はどうにも性に合わない。何よりも同室のお節介焼きのシスター殿にからかわれるのが気に入らない。

 百合ケ丘女学園は幼稚舎からエレベーターに乗ってきた奴らを生え抜きのリリィと呼ぶらしいが、それなら私は筋金入りのAZ(前衛リリィ)だ。ちまちま鉄砲を撃ってるぐらいなら、突撃してCHARMを振り回す方が性に合っている。

 

 明日から嫌でも着ることとなるモノトーン調の制服に一足先に袖を通し、貸与されているCHARM(グングニル)を背負う。相棒(アーセナル)が転校してくるまでの間はあたしの専用(ユニーク)CHARMははお預けだ。一年後までおそらく見れないであろう静かな校舎を練り歩くことに決めた。

 

「よう安藤」

「ごきげんよう。真榊(まさかき)

 

 寮の出入り口で新しく顔なじみとなったばかりの同僚と出くわした。

 

 安藤鶴紗

 

 よく手入れされた少し色素の薄い金髪と対象的な不健康な白い肌のコントラストが特徴的なやつで、あたしと同じ強化リリィだ。人の事をとやかく言えないのだが、我らが特別寮の住民達は皆が皆同じような健康不良児達ばかりで辟易する。

 

 しかしこいつの印象の悪さは顔色の悪さだけではない。威圧するような目つきにぶっきらぼうな物言いと、言外に発している「話しかけるな」とでも言いたげな雰囲気がどうも苦手だ。

 野良猫を缶詰で釣り上げようとしているときのようには愛想よく出来ないのだろうか。本人は隠しているつもりのようだが、同室のシスター殿の(レアスキル)からは隠せなかったようだ。勿論猫から逃げられてばかりいることも知ってる。

 

 お互いに余り親しい訳でもなく、ガールズトークで花を咲かせられるほどの乙女らしさを持ち合わせていないあたし達は、目線と挨拶を交わす以上のコミュニケーションを必要としていない。

 

 

真榊(まさかき)衣緒里(いおり)さん」

 

 

 後ろから声をかけてきたのは同室ではない方のシスター殿、シェリス・ヤコブセン教導官

 

 我らが特別寮の支配人を兼ねている元リリィの教導官で、現役時代は歩いたあとには何も残らない『シスター・ゼロ』などと呼ばれていたらしい物騒な女だ。あと説教が長い。

 

「いいですか真榊さん?確かにあなたが入寮するにあたり、あなたの境遇や過去は把握しているつもりです。しかし!ここは誉れある百合ケ丘女学院なのです!成り行きとはいえ百合ケ丘へと入学し、リリィとして活動するともなれば、相応の態度や立ち振舞いが求められるのです。あなたが生来の反骨精神に満ち溢れ、情熱的で努力家である方だと言うことは重々承知しているつもりです。だからこそ、だからこそ!もう少し慎みや淑やかさを持って頂きたいと入寮されたときから何度も何度も繰り返し……「支配人」なんですか安藤さん!?」

 

「真榊ならもう逃げましたよ」

「えっ!?」

 

 

 

 

 話が長い奴は苦手だ。伝えたいことがあるならもっと簡潔にまとめてから喋って欲しい。端的に言うなれば三行でまとめて欲しい。

 我等が支配人殿と学友を背景の点にしたあたしは、本来の目的通りに人のいない静かな校舎を堪能することにした。

 

 静寂に満ちた工廠課の学び舎に編み上げのレザーブーツの靴音が響く。制服で指定されているブーツであるが、踵と爪先に鉄芯を仕込んで改造したブーツは先輩等の靴音よりも鈍く硬質な音を立てる。相棒(アーセナル)と一緒に機械だCHARMだのをいじくり回していたせいか、簡単な工作ぐらいなら出来るようになっていた。

 

 この無機質で人の気配のない廊下も明日からは騒がしくなるのだろうか。

 お目当ての部屋にたどり着くと、与えられていたカードキーを扉の前の端末にかざすと空気圧式の自動ドアが子気味のいい空気音を鳴らしてあたしを迎え入れた。ここは工廠課の校舎の最奥部に位置し、最新かつ高性能な機材が設置されている真島百由様に割り当てられた研究室...ではなく、その隣室の元物置を急遽改装したあたしの相棒(アーセナル)が使うことになる研究室だ。

 

 元物置部屋ということだけあって部屋は少し狭く窓も換気用のこじんまりとした物で、研究や開発用の機材も最新のものではなく学院に余っていたお古の物ばかりなため、真島先輩専用の研究室と比べると否が応でも貧相に見える。

 

 

 

「入学前から研究室通いなんて随分熱心な一年生ね」

 

 

 

 背後から再び子気味のいい空気音が聞こえた。後ろを振り返ると青色がかった黒髪のリリィが、珍しいものでも見るかのような表情で佇んでいた。

 

 真島百由

 

 百合ヶ丘女学院工廠課きっての才女であり、学生の身分にしてすでにマギ工学における世界最高峰の専門家らしい。その天才的な発想と独自の理論で多くのCHARMや独自の装備を開発してきた実績はリリィ界隈では知らないものはいない程のものであるとのことだ。いい意味でも悪い意味でも、と続くがな。

 こいつがド変人であることはその才能と同じぐらい有名で、研究者としては優秀でも頭がマッドなタイプな人間ではあるが、幸いなことに倫理観というリミッターが標準で設けられているため、某国際企業のお抱えの連中と比べれば幾分か話が通じるのはありがたい。

 

 

「ごきげんよう。衣緖理さん」

「よう。ヘボメガネ先輩」

 

 先輩は頭を抱えてため息をついた。

 あたしはこいつが余り好きじゃない。あたしと相棒をスカウトしたのはこいつだが、初対面の時に相棒が手塩をかけて組み上げたあたしのCHARMをヘボ呼ばわりしたのが本当に気に入らない。天才だがなんだか知らないが、あの一振りは相棒が青春を捧げて独学で組み上げた血と努力の結晶だったのだ。それを笑った奴は誰であろうが許せない。後から悪かったと何度も頭を下げられたが、しばらくの間はこいつのことを許せそうにない。

 

「だからあの時は本当に悪かったってば・・・それで何しに来たの?」

「別に。暇だったからブラブラしてただけだよ。そういうあんたこそどうしたんだよ。まだ春休みだろ」

 

「実家にいても機材が無くて研究出来ないし暇だから一足先に学院に戻ってきたのよ」

 

 御覧の通りの筋金入りの研究者気質らしい。

 先輩が頬に指を当てて斜め上を見上げながら問うてきた。

 

「あーと、それで?どうなのよ?」

「どうってなんだよ」

「百合ヶ丘でやっていけそう?」

 

 随分と哲学的な質問だ。

 

「まぁなるようにしかならんだろ」

「そう……」

 

「………」

「………」

 

 痛い沈黙が流れる。

 お互いにベクトルは違うがコミュニケーションを取るのが苦手なタイプなんだから、もう少し話しかけるタイミングや話題の振り方を考えてから会話を試みてほしい。

 

「もし、もし良かったらなんだけど、これから私とお昼にでも行かない?奢るわよ」

 

「行かねぇよ」

 

 窓を開けてもいない元物置部屋に、一陣の風が吹き抜けた。

 咄嗟に目を瞑った百由が次に目を開けると、そこには衣緒里の姿は既に無かった。廊下に顔を出すと遠くに衣緒里の小さな背中が見えた。

 

「まったくもう、この私がこれだけ歩み寄ろうとしてあげてるんだから、少しぐらいは仲良くしてくれたっていいじゃない……」

 

 百由は新入りのための研究室を自身のカードキーで施錠すると、肩を落としながら自身に与えられている研究室に戻っていった。

 

 

 

 

 既に正午を回っていることに気付いたあたしは、真島先輩が誘おうとしていたであろう学生食堂に向かったが、春休み中である影響か食堂は既に閉まっていた。腹の虫の叫びに従い、ホットスナックの自動販売機でコーラとハンバーガーを買ってランチ会場を探し歩いていた。

 

「結局ここに来ちまったのか」

 

 射撃訓練場である。

 半屋外の構造となっているため、CHARMの発砲音が外まで聞こえてくる。先客が既にいるようだ。

 

 更衣室でCHARMをケースから取り出して入場する。

 先客は射撃場で最も遠距離にある3つの目標を狙っているようだが、既にその一つは撃ち抜かれている。

 ベンチに腰を掛けハンバーガーの包みを開いて左手で掴み齧り付くと、無造作に置かれていた双眼鏡を手に取って目標の的を覗き込む。

 

 数秒もしないうちに発砲音が響くと、ほぼ同時に約1.5km先の目標の中心に穴が開くのが見えた。

 

 手慣れたボルトアクションによって空薬莢を弾き出した狙撃手は、手を休めることもなく次の弾丸を装填し、狙撃用にカスタマイズされたCHARMを構え直すと、先程の焼き増しかのように寸分の狂いもなく最後の目標を撃ち抜いた。

 

 双眼鏡を置いて手の甲を叩いて拍手をする。ハンバーガーを持っているので手の平を叩けないのだ。

 

「さすがシスター。ナイススナイプ」

「お褒めに預かり光栄ですわ。(わたくし)の騎士様。でも、昼食はもう少し上品に召し上がっていただけると助かりますわ」

 

 こいつこそがあたしのルームメイトであるシスター殿だ。本名は別にあるのにシスターなどと呼ばれているのは、リリィでありながら十字教の修道女を兼ねており、特別寮の支配人殿の後輩的な立場であるからだ。

 百合ケ丘の標準制服を着用しているが、シスターなんてあだ名の通りに黒いベールを被り、十字架のネックレスを首にかけている。

 本名はアンナだかマリアとか言うらしいが、長いので覚えていない。

 

 空き部屋の数の関係で同室になっただけのはずであったのだが、あたしとシスターは性格も何もかも違うので当初は傍から見ると水と油のように見られていたが、不思議とウマが合い近接特化のリリィと狙撃特化のリリィの組み合わせでレアスキルの相性が良く、一週間もせずに長年連れ添った親友のように仲良くなり騎士と修道女(シスター)などと呼び合う仲になった。

 

 

 ハンバーガーの最後の一欠片を口に放り込みコーラで勢いよく流し込むと、仮初の愛機を手に取りマギを注ぎ込む。すると、またたく間にマギクリスタルコアに(Hagar)(Thorn)にバインドルーンが浮かび上がりCHARMの起動が完了した。

 起動を確認したあたしはCHARMを振りかぶり射撃形態(シューティングモード)へと変形させると的へと向けた。

 

「あたしもやるか」

「あら珍しい。どういった風の吹き回しですの?」

 

「別に」

 

 あたしは兎にも角にも射撃が苦手だ。さっきも言ったがCHARMを振り回して突撃するほうが性に合っている。

 そして何よりも同室のシスターが狙撃に関しては屈指の実力を持っているからだ。ただでさえ苦手な射撃であるのに、それをルームメイトにからかわれるのが悔しくて仕方なかった。ついでに安藤の奴に同情されたのもとても悔しい。

 最初は悔しさをバネにして射撃場に通い詰めていたが、一週間の間に朝から晩まで的を狙い続けても的の端に命中させるのが関の山だった。あたしには射撃の才能が無いことを自覚させるには十分すぎる一週間だった。

 

 CHARMの銃口が火を吹いた。

 弾丸は標的には当たらなかった。

 

「さっきさ、工廠課の校舎に行ってきたんだ。」

 

 銃口が再び火を吹く。

 弾丸は標的に当らない。

 

「明日から相棒が来るんだよな。それなのに弾の一発も当てられないなんて、ちょっとな」

 

 再三弾丸が吐き出されたが、当然のように標的には当たらなかった。

 

「せめて的にぐらい当てられるようにって、な」

 

 シスターがあたしの腕を掴む。

 

「シスター?」

「仕方ないですわね」

 

 シスターが背後に回り込み、後ろから抱きかかえるようにあたしの両腕を掴み肩に顎を乗せ耳元で囁いた。

 

「今から私が照準を合わせます。合図をしたら引き金をお引きなさい。」

 

 シスターの腕が優しく銃口を導くと、およそ重火器を取り扱っているとは思えないほどの優しい声で囁いた。

 

 

「今です」

 

 

 シスターの声に従い撃ち出された弾丸は、寸分と狂わず標的の中心に風穴を穿った。

 

 当たった。

 呆然と呟く。

 

「初めて当たった……」

「当たり前ですわ。私が狙いを付けたんですもの。それよりも体で覚えるほうが得意なのでしょう?今の感覚を忘れないようにするのがよろしいのではなくて?」

 

 慌ててCHARMを構え直し引き金を引く。

 今度は中心からは逸れたが的に命中し穴が空いた。

 

 再度的を撃つと先程のように中心からは逸れたが的には間違いなく命中した。

 

「当たった。当たるよシスター!」

「手をかけさせますわね。最初からこうすればよかったですわ」

 

 

 

 

▼△

 

 

 

 結局、夜遅くまで射撃場に籠もっていたあたしは、静止した的になら特別な意識をせずとも弾を当てられるようになっていた。

 自室に戻ってくるも既に消灯時間の間際だった。夕食を逃してもなお練習を続けていたあたし達は寮の自室で簡単な夕食を取ることにした。

 

「稽古をつけたのは私です。反復練習を促したのも私です。しかし、いくら的に当てられるようになったのが嬉しかったからといっても、食堂が閉まるほど遅い時間まで射撃場にいる必要は無かったのではなくて?」

「だから先に帰ってろって何度も言っただろ!寮の門限過ぎてたけど、なんとか支配人が見回りに来る前には戻れたんだからさ」

「門限云々は別にしても鶴沙さんの部屋の窓から帰宅するなんて、いくらなんでも冒険しすぎですわ!鶴紗さんの不機嫌そうな顔を覚えていまして?明らかにベッドに入る直前でしたわよ!」

「あいつの仏頂面なんざ今に始まったことじゃないだろ!いつも辛気臭ぇ顔してるからわかんねぇよ!」

 

 キッチンタイマー代わりにアラームをセットしていた携帯端末が音を鳴らした。どうやら3分経ったようだ。

 シスターはフォークを、あたしは箸を持って麺を食べ始める。

 

「ズルズルズルズル音を立ててパスタをいただくのは辞めてくださる!?お食事のマナーがなっていませんわ!」

「うるせぇ。これはパスタじゃなくてラーメンだろ!ラーメンは音を立てて食うのが礼儀なんだよ!」

「私の国では麺をすすって食べるのはとても下品な食べ方でしてよ!」

「ここは日本だ!あとあたしのカップ麺コレクション分けてやったんだから少しは感謝しろよ!」

「元はと言えばあなたのせいで夕食を取れなかったのでしょう!というか、こんな添加物と炭水化物まみれの食べ物ばっかり食べてるから身長が伸びないのでしょうが!」

「言ったなテメェ!こっちはマジで気にしてるんだよ!表に出やがれ」

 

 コンコン

その時、ドアをノックする音が聞こえた。

 

 急に冷静になったルームメイト達は顔を見合わせる。時計を見なくてもとっくに消灯時間を過ぎてることがわかる。おそらく支配人だろう。

 

「すんません支配人。ちょっと近接戦闘論の談義で盛り上がっちゃいまして……」

「そうですわ。二人で予習をしておりましたの……」

 

 二人揃って扉を開けると、怒りに震えながら青筋を浮かべ恐ろしい眼光を光らせる安藤鶴紗が腕を組みながら立っていた。

 

「ギャーギャーうるさい。何時だと思ってるんだ。もう寝るところなんだよ。静かにしてくれ」

 

 あまりの眼光の鋭さにすくみ上がったあたしは柄にもなく即座に頭を下げた。

 

「す、すまん」

 

 シスターも遅れて頭を下げ始める。

 

「も、申し訳ございません!」

 

 これみよがしに大きな溜息をついた安藤は気が済んだのか背を向けて立ち去ろうとする。去っていく後ろ姿を見送りながらあたしたちは肩の荷を下ろした。

 

「あぁそれと、ここ壁薄いんだよな」

 

 安藤がこちらを振り向いた。

 

「辛気臭い顔で悪かったな。チビとノッポ」

 

 

▼△

 

 

 電灯を消し二段ベッドの下段に潜り込む。電源を落とすのは下の段のあたしの役目だ。特別寮の中でも特に日当たりが悪いあたしたちの部屋は街灯・夜間灯の光すら差し込まないため、夜間は明かりを落とすと完全な暗闇になる。

 

「さっきは言いすぎましたわ」

 

 上段のシスターが話しかけてきた。

 

「こっちこそごめん。あたしのせいだ。周りを見てなかった。もっと時間とか寮の門限とか考えるべきだった」

「では日本ではこの様な時は貸し一つ、と言うのですよね」

「そんなの日本語知らなくていいから……まぁいいよ。そのうち返すよ」

「あなたのことだからすぐ忘れるでしょう?すぐに返していただきます。明日は早起きしていただきますわ」

 

 衣擦れの音の後にシスターの声が鮮明に聞こえてきた。気配から察するに、どうやらベッドから上半身を乗り出して話しかけてきているようだ。

 

「え、明日の朝?」

「"私達"のレギオンメンバーの勧誘をするのですわ!」

「待て"私達"のレギオンってなんだ?あたしも入る前提なのか?」

「そうですわ!私達のレギオンです!コンセプトも既に決めてありましてよ?」

 

 レギオンとはリリィ達によって結成される戦闘部隊の通称のことだ。各ガーデンの方針によってその人数は変わってくるが、この百合ヶ丘では9人以上で編成することが基本である。正直に言って団体行動が苦手な奴にとってはありがたくない方針だ。

 以前にロスヴァイセとかいう特別寮の生徒のみで結成されているレギオンからも勧誘を受けたが、ほぼ全員が辛気臭そうな雰囲気を纏っていたことが気に入らなかったので丁重に断ったことが記憶に新しい。

 

「はぁ…まぁいいよ。付き合うよ。あたしたちの仲だしな。よろしく頼むぜシスター」

 

 別に断る理由もない。なんだかんだとシスターには面倒をかけている自覚もあるのだ。それにレギオンでの戦闘を軸とする学院の方針に逆らい続けても自身の活躍の場が狭められることは、反骨精神上等なあたしでもそれぐらいはわきまえているのだ。

 

 幸先がいいですわ。とはしゃぐシスターを無視して眠りにつこうとしたその時、再びドアがノックされた。

 二人の間に緊張が走り息を潜め始めた。

 

 寝ている振りをしてやり過ごそうとする二人であったが、ドアを内側から開けようとする気配が無いと分かった深夜の来客は、なんと部屋のドアを蹴破って入室してきた。金属の部品が床に転がる音がした。おそらく蝶番が壊れたのだろう。

 

「うるさい」

 

 聞き覚えのある声だ。暗闇で姿は見えないが、おそらく安藤だろう。ただでさえ虫の居所が悪そうな声色がいつにも増して恐ろしい。

 

「ご、ごめん」

「あと入学式は明後日の4月2日だろ」

 

 安藤は不機嫌な態度を崩す素振りを見せずに去っていった。もちろんあたしたちの部屋のドアの蝶番は粉砕されたままだ。隣室のドアを力一杯閉じる音が聞こえるとベッドの上段のシスターがボソリと呟いた。

 

「やっぱり明後日でお願いできますかしら」

「了解」

 

 




真榊 衣緒里

チビ
強化リリィで近接特化型の脳筋リリィ
在学リリィによる推薦入学
推薦したリリィは二人おり、片割れからの評価は戦闘面では新入生たちの中でも生え抜き組にも引けを取らない実力であるとのこと
射撃は大の苦手
以前は手が付けられない不良だったようだが…



アンナマリア・レギーナ・フェラーリ

ノッポ
シスターでアンナだかマリアとかいう人
イタリア出身で衣緒里のルームメイト
中後衛特化の狙撃型リリィで、愛機は狙撃戦用に魔改造されたアステリオン
それなりの健啖家で、しばしば夜食に衣緒里がカップ麺を食べさせてもえるようにせがまれるようだ。
レアスキルは【目】に関するものらしい。


相棒

衣緒里の担当アーセナル
独学でマギ工学を学びCHARMを組み上げた野生の天才
嬉しいことがあるとすぐに顔に出る性分らしい
CHARMは一機あたり数億円規模の予算がかかり、敵機的なメンテナンスや部品交換が必要な超金食い虫な兵器であるが、一体どのように資金や部品を調達したのだろうか


真島百由

ギリギリでマッドじゃないアーセナル兼業リリィ
基本的に善人で倫理観はなんだかんだでしっかりと持ち合わせており、友人思いの優しい性格のためマッド呼ばわりは実際失礼
衣緒里とは確執があるようだが…


安藤鶴紗

強化リリィちゃん
猫を前にするとき以外は仏頂面
笑顔がとってもかわいい。なお頻度
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