アサルトリリィーTrinityー   作:門番

2 / 26
さりげなく主人公のファミリーネームを変更してしまったので初投稿です。(謝罪)


第二話 七度探してリリィを疑え

 

 およそ半世紀前にヒュージが出現し、私立百合ケ丘女学院が鎌倉府の海に面した山中に建立されてより、その一帯はヒュージとの戦争の最前線の一つになった。学院の周辺は人の手を離れて久しく、小鳥や小動物に虫の鳴き声が聴こえないのが不自然ではあるが、当時の若木達は巨木へと背を伸ばし、その木々の狭間から覗くかつての人の住まいには蔦状の植物達が繁茂しており、草木の香りが新しい門出へと向かう少女たちの鼻孔をくすぐる。

 

 

 桃色の髪に四つ葉の髪飾りを結わえた童顔の少女、一柳梨璃は本日4月2日にリリィ養成機関(ガーデン)の中でも屈指の名門・私立百合ケ丘女学院の入学式に出席するため、山中にそびえる学び舎を目指していた。

 

 かつて自身の命を救った一人のリリィに再会する。

 

 そんな健気な思いの一つだけでリリィの道を目指した少女の胸には、今朝方に起床してより希望に満ちた高鳴りが止まらなかった。

 学院へと続く道路はその殆どが急斜面の登板を容易にするため、山中を蛇のようにうねりながら舗装が敷かれている。

 ひたすらに長く急な坂を徒歩で登り続けたことで、酸素を欲した筋肉達が心臓を酷使し脈拍を上げる。

 どうやら彼女の心臓は希望に満ちた興奮だけで高鳴っている様ではなかった。

 

 校門前の最後の曲がり角のガードレールに背を持たれると ようやく見えた目的地へと目を向けると思わず口元が緩む。

 

 梨璃の胸には様々な想いが渦巻いていた。

 ここにたどり着くまでの努力と苦労、リリィとなって戦うことへの不安

 

 そして

 

 2年前に故郷をヒュージに追われた際に自身の命を救った救ったリリィに会うため、あの美しい黒髪のリリィに礼を言う。

 ついにここまで来たんだ。

 鞄にペットボトルをしまうと再び坂を登り始める。最後の坂を登り進める脚は、これまでの疲労をものともせずに羽のように軽かった。

 

 

 

 

「危なーーーーい!!そこの人!避けてェーーー!!!」

 

 

 

 

 悲鳴のような警報に思わず上を向くと、小山のような荷物を積み込んだ荷台が猛然とした勢いで転がり落ちてくる。咄嗟に横に跳ねて荷台を避けると、通り過ぎた荷台は先程まで自身がもたれかかっていたガードレールに耳をつんざくような音を立てて激突した。

 

「大丈夫!?怪我はない!?」

 

 急な下り坂を一人の少女が駆け下りてくる。先程の荷台の主のようだ。

 しかし、荷台の主は急な斜面で脚がもつれて、ものの見事に上半身から転がるように倒れ込んだ。

 

「大丈夫?……怪我はない……?」

「私は大丈夫ですけど……」

 

 転がり落ちてきた少女は自身の身に今しがた起こった大事故をものともせずに梨璃の身を案じているが、顔を真っ赤に染め滝のように汗を流しながら肩で息をする姿のほうが梨璃には心配だった。

 

 

 

 

 

▼△

 

 

 

 

「いやぁ〜ごめんね?本当に助かったよ。手伝ってもらっちゃってさ」

「あはは…どういたしまして」

 

 荷台に散らばった荷物を積み直した二人は、荷台を二人がかりで引き無事に校門前までたどり着いた。

 

「これって、なんの荷物なんですか?」

 

 梨璃が荷台の貨物に目を向ける。

 鈍く光る銀色のアタッシュケース、硬革製のCHARMケース、オイルの染みで汚れたダンボール箱、年季の入った風呂敷包、水滴の滴るビニール袋とまるで統一性のない外観の積荷が雑多に積まれている。

 

「あぁ夜逃げしてきたところなのよ」

「えぇ!?」

「うそうそ、実は嫁入り道具なんだ」

 

「ど、どっちですか!?」

 

 梨璃は目を丸くして思わず声を上げる。

 

「ごめんごめん。冗談だよ」

 

 ころころと表情を変える梨璃をからかって満足した少のか、積荷のビニール袋から麦茶のペットボトルを一つ梨璃に投げ渡しながら答える。

 

「これはあなた達リリィが背負っているCHARMのパーツだよ」

 

 梨璃は思わず自身の背に背負われたCHARMケースへと目を向ける。

 

「って言っても、これに詰んでるのは中古にジャンク品とかもいろいろ混じってるんだけどね……」

 

 麦茶で喉を潤した彼女は、少し恥ずかし気にどこか自虐的に汗で濡れた頬をかきながら続ける。

 

「自己紹介がまだだったよね。私は霞千秋!今日から百合ケ丘の工廠課所属になるアーセナルよ!」

「わ、私は一柳梨璃です。百合ケ丘女学院の普通課に入学するリリィです!」

 

 普段は少し内気な梨璃であるが、千秋の堂々とした自己紹介につられたのか、胸に手を当てて彼女にしては大きな声で答えた。

 

「リリィの梨璃ちゃんね。よろしく!」

「こちらこそよろしくおねがいします!」

 

 その時けたましい重厚な駆動音────エンジン音があたりに響いた。

 握手をしたま目を向けると、二人の前に黒塗りの豪奢な高級車が横付けされた。車から降りてきたのは少し癖があるが、よく手入れされた茶髪を上品になびかせるお嬢様然とした少女だ。

 

「車のドアぐらい自分で開けられますわ」

 

 急な登場に驚いた梨璃と千秋の二人はは思わずぽかんと呆けながら少女を見つめる。

 呆けた二人を順に見渡した少女はやれやれとため息を吐きながら呟いた。

 

「まったく、お父様も困った方ですわ。付き人はいりませんと何度も申し上げたのに二人も寄越すだなんて……」

「わ、私は付き人さんじゃありません!これから百合ケ丘に入学するリリィですぅ!」

 

 梨璃が食い気味に反論する。

 

「え、じゃあそちらの方は……?それにわたくしの荷物は先に学院の寮に送ってある手筈となっているのですが……」

 

 少女は二人の後ろにある荷台を覗き込みながら言った。

 

「誰が付き人よ!これは私の荷物!CHARMのパーツなんだから!」

 

千秋は荷台を指さしながら反論する。

 

「CHARMの……?」

「そうよ。私は霞千秋。今日から百合ケ丘のアーセナルなんだからね!」

 

「へぇ、では」

 

 少女が芝居がかった仕草で、髪を後ろにかき上げる。

 

「アーセナルの方でしたらこの私、楓・J・ヌーベルの名も知っているのではなくて?」

 

「「楓・J・ヌーベル?」」

 

 梨璃は自信に満ち溢れた笑みを浮かべる楓と、心当たりがあるのか口元に手を当てて考え込む千秋の間で、きょろきょろと視線を迷わせている。

 

「ヌーベル……グランギニョルCEOと同じファミリーネーム……?まさか、いやもしかして……」

「大正解ですわ!この私こそ世界最高のCHARMメイカー、グランギニョル社総帥が一人娘!楓・J・ヌーベルですわ!」

 

 オ〜ホッホと楓は高飛車な笑い声を上げる。

 

「ギニョギニョ?」

「グランギニョルですわ!何も知りませんのね。あなたは」

 

 失礼ですわね。と露骨に期限を悪くした楓が、目尻を吊り上げて梨璃を睨みつける。慌てて千秋が仲裁を兼ねた解説のために割って入った。

 

「CHARMメイカーズって呼ばれるCHARMの製造や開発を行ってる企業連があってね。グランギニョル社はCHARM開発メーカーの一つなの。こだわり抜かれたデザイン性と、採算を度外視した超高性能ぶりが特徴で、端的に言うなら業界トップクラスの超高級CHARMメーカーだね」

 

「あら、お詳しいのですね。しかし、トップクラスとは心外ですわ。"トップ"でしてよ」

 

「へぇ~楓さんってとっても凄い方なんですね!」

 

千秋の説明と自身を尊敬の目で見つめる梨璃に気を良くしたのか、みるみると楓の顔が上機嫌になっていく。

 

「さぁあなた達、行きますわよ。校門の前で話し込んでいても他の方たちの邪魔ですわ」

 

 彼女を褒め称える二人はいらないと言っていた筈の付き人扱いなのであろうか。

 ついてきなさい、とこれまた芝居がかった仕草で髪をかきあげた楓が学院へと歩き始めた。山中にそびえる乙女達の花園へと歩みを進める令嬢の後ろ姿は、芸術に疎い二人にもとても「絵になる」と感じられた。

 

 

 

▼△

 

 

 

「なんで私までこんな目に……」

 

「あはは……ありがとうございます」

 

 校門を抜けても二人がついてくる気配のないことに気付き引き返した楓には、荷台を階段の上へと乗り越えさせようと悪戦苦闘する梨璃と千秋の姿が待っていた。令嬢らしからぬ持ち前のお人好しのせいか助力を申し出たのだが、あまりの重さに間もなく筋肉は悲鳴を上げ玉のような汗が輝き始めた。

 一方の二人は登山の疲労に汗を浮かべてはいたが、あまり疲れている様子ではなさそうだ。

 

「あなた達意外とタフですわね……」

 

 楓が嫌味たらしく呟いた。

 

「あはは、田舎育ちなもので……」

「右に同じ!」

 

「田舎者にはついていけませんわ……」

 

 ね〜、と笑い合う二人から目を背けた楓が毒づく。それに気付かない千秋達は荷台を引いて歩き始める。

 

「ちょっ、待って、待って下さいまし!」

 

 楓が疲労を物ともせずに歩く二人へと嫌味を放つ。

 

「レディにこんなにも汗をかかせるなんて、随分なご身分ですこと!」

「いやぁ〜本当にごめんねヌーベルさん」

 

 千秋が申し訳無さげに頭を下げながら礼を言った。気のせいだろうか、既に態度が馴れ馴れしい。しかし、楓は素直に頭を下げられたことで溜飲を下げたようだ。気を取り直して、片目を瞑り悪戯気に千秋へ問いてきた。

 

「そういえば……アーセナル志望の方でしたら、もうお聞きになってらっしゃる?」

 

「何を?」

 

「今年度に2年生に転校してこられるアーセナルの方ですわ。ただでさえアーセナルの引き抜きは珍しいのに、なんでも独学でマギ工学を学んだ方で、CHARMの歴史をひっくり返すほどの発明をされた方だとか……」

 

 千秋が手を口元に当てる。

 

「うーん、聞いてないなぁ。そんなに凄いアーセナルの人なんて」

「そうですか……では、お知り合いになられたら私にご紹介頂けますこと?」

「ヌーベルさんに?」

「そうですわ。お父様から真っ先に声をかけろと仰せつかっておりますの」

 

「はぁ、となると謎の天才アーセナルさんはグランギニョル総裁の娘からのスカウトを受けられるってわけね。将来安泰そうで羨ましいや……」

「あら、他人の才に嫉妬しても何もありませんわ。そんな無駄な時間を費やす暇があるのでしたら、ご自分の実力を磨くべきではなくて?」

「仰る通りです……」

 

 千秋がどこか哀愁漂う表情でため息をついた。

 

「まぁそう落ち込まなくてもよろしいのでは?貴方にだってたくさんのチャンスがありましてよ。リリィは万年人材不足ですが、アーセナルも万年人材不足ですわ。あなたも何かしら実績や才があるのならば、グランギニョルだけではなく他のCHARMメーカーが放っては置きませんわよ?」

 

 千秋は足を止め荷台を下ろすと、積荷の背部に回って荷物を漁り始める。

 

「本当?それなら私が作ったCHARMを見てほしいな!」

 

「それ、今やる必要がありますこと?」

 

「善は急げって奴だよ!目の肥えたCHARMメーカーご令嬢にCHARMを見てもらえる機会なんてなかなか無いからね!」

 

 ため息をつきながらも場所を考えずに腕捲くりをして積荷を漁る千秋を待っていることから、なんやかんやと言っても楓・J・ヌーベルという女は面倒見がいいのだろう。梨璃が私も手伝います、と共に腕を捲って積荷に取り掛かる。

 この千秋とかいうアーセナル志望者は、楓からはとても奇妙に見えた。少し目をやっただけでも、彼女の手や腕は見るからにガサガサと荒れており、切り傷や火傷の跡が見て取れる。近頃のCHARMの製造は機械加工が主であり、完全な手作業でCHARMを組み上げることは少ないため、かつての鍛冶職人のように体を痛めつけるような機会は基本的には無いからだ。

 あまり気にしないようにしていたが、油や汚れの染みが残った安物の作業着を百合ケ丘の制服の上に羽織っており、襟元からブラウスが覗いていなければ、一見では百合ケ丘の生徒だとは気付かなかったかもしれない。短く乱雑に切りそろえられた黒髪からは、ところどころ寝癖とおぼしい癖毛が跳ねている。お洒落や身だしなみにあまり気を使う様な人間ではないのだろう。

 住む世界が違うのかもしれませんわね。酷く失礼な事を思いかけたその時、

 

「無い、私の特製CHARMが無い……」

 

 積荷を探していた千秋が呆然としながら呟いた。お目当ての品が見つからないようだ。

 

「あらまぁ。でしたらまた今度の機会にでも……」

 

 千秋が頭を抱えて絶望的な表情を浮かべている。

 

「やばい、落としたかも!」

「千秋さん、もしかしてさっき荷台が落ちてきた時にガードレールの下に落ちたのかも……」

 

 梨璃が先程の光景を思い出す。荷台には小山のような荷物が乱雑に積まれている。何をどこに積んだのか細かく把握しきれていないのだろう。

 

「ごめん二人共!私拾いに行ってくる!」

「わ、私も手伝います!」

 

「梨璃ちゃん達は入学式があるでしょ!先に言ってて!」

 

 助力を申し入れた梨璃を押し留めた千秋は、荷物を置いて校門の外へと向かって駆け出していった。

 

「ちょっ、この荷物どうしますのーー!?」

「工廠課の【真島百由】って人のところに運んでおいて下さーーい!」

 

 小山のような積荷と共に取り残された二人は、暫しの間無言で見つめ合った。あ、この子、私のタイプですわ。と楓は現実逃避気味に思った。

 

「え、え〜と、真島さん?って方はどんな人なんでしょうか…?」

 

 梨璃は律儀に荷台を引いていく気のようだ。こんなにも可愛らしい方だけに重労働をさせるべきではないだろう。仏国淑女は既にこの日の内に何度目かわからないため息をついて荷台のハンドルを掴んだ。

 

 

 

▼△

 

 

「ごけぎんよう、白井夢結様。中等部以来ですわね?」

「ごきげんよう、遠藤さん」

 

「亜羅椰、と呼んで下さる?」

 

 校舎の入り口で美しい黒髪を伸ばしたリリィと、薄桃色の長髪に猫の耳を模した機械をつけたリリィが対峙している。剣呑とした雰囲気があたりに漂っているが、人の気配が減るどころか見物人が続々と増えているのはお嬢様達には似つかわしくない野次馬根性のせいだろうか。

 

「久々のお手合わせをお願いいたしますわ」

「嫌よ。リリィ同士の勝手な私闘は規則で禁じられているわ」

 

 頬を紅潮させ熱に浮かされた様な喋り方をする亜羅椰に対して、夢結は氷のように冷たい態度を崩さない。

 

「あらら、嫌よ嫌よも好きのうち、夢結様は無理矢理のほうがお好きかしら?」 

 

 亜羅椰がCHARM(アステリオン)を引き抜きマギを注ぎ込むと、マギクリスタルコアにバインドルーンが煌めき、近接形態(ブレイドモード)への変形が完了した。夢結の顔がより一層険しくなる。

 

「では、その気になって頂かないと……食っちまいますわよォ!?」

 

 

「まぁ。私達よりも手の早い方がいらしたとは不覚でしたわ」

 

 亜羅椰の背後から二人のリリィがCHARMを背負いながら歩いてきた。スラリとした長身で黒い修道女のようなベールを被ったリリィと、くすんだ長い茶髪を夢結のように上品に切りそろえた小柄なリリィだ。

 

「誰よあなたたち。いきなりしゃしゃり出てきて何のつもり?私と夢結様の前座にでもなってくれるのかしら?」

 

 修道女のようなリリィ、アンナマリアは亜羅椰へと一瞥をくれたが、彼女の言葉を無視して夢結へと話しかける。

 

「ごきげんよう夢結様。私、アンナマリア・レギーナ・フェラーリと申しますわ。少しお時間を頂戴出来まして?お茶でもいかがかしら?そして、もしよろしければ私達のレギオンへと加入して頂きたいのですが……」

「勧誘なら結構よ。私に仲間はいらないわ」

 

「まぁ、そんなことは言わずにお話だけでも……」

「無視するな!」

 

 自身の言葉を歯牙にもかけずに淡々と無視するアンナマリアの態度に、思わず亜羅椰苛立ちを覚えた。

 

「夢結様のお相手にはあなたたちのような木っ端のリリィでは務まりませんわ。お引取り願える?」

「それはこちらの台詞ですわ。あなたのふしだらな噂は海の外にまで届いておりましてよ。遠藤亜羅椰さん?あなたのせいで百合ケ丘のエースたる白井夢結様の醜聞を耳にする羽目になったら────とても笑えませんわ」

 

 売り言葉に買い言葉で、アンナマリアと亜羅椰の間に険悪な雰囲気が立ち上る。蚊帳の外になりつつる夢結は早く場を離れたそうだ。

 

「へぇ、ではもう一度言わせていただきますわ。耳の穴をかっぽじってよくお聞きなさい。お引取り願えますかしら?それとも二代目アールヴヘイムが切り込み隊長、遠藤亜羅椰のCHARM捌き────その身体で味わってみる?」

 

 ついに亜羅椰がアンナマリアへと向かってCHARMを構えた。対するアンナマリアも背負ったCHARMに手をかけようとしたその時、傍観者に徹していたアンナマリアに連れだったリリィ、真榊衣緒里がその腕を掴み押し留めた。

 

「騎士様、お止めにならないでくださいまし!?これは夢結様を我等がレギオンに迎え入れるための試練なのですわ!」

「────切り込み隊長?となると、あいつはAZ(アタッキングゾーン)のリリィなのか?」

「そうですが……世界最強のレギオン、二代目アールヴヘイムでAZを務めていられるリリィですわ」

「へぇ……つまるところ、世界最強のAZってか?」

「世界最強クラスというのが正解でしょうね」

 

 衣緒里の顔に小柄で可愛らしい容姿に、まるで似つかわしくない肉食獣のような獰猛な笑みが浮かぶ。

 

 

「へぇ、それなら」

 

 

 その背に背負ったCHARM(グングニル)を目にも留まらぬ速さで引き抜くと、即座にマギを流し込み近接形態へと変形させた。

 

 

「あいつに勝てばあたしも世界最強クラスのAZってことだよなぁッ!?」

 

 

 衣緒里が獣の雄叫びのような啖呵を切った。対する亜羅椰は機嫌の悪さを隠さずに煽り立てる。

 

「へぇ、誰だか知らないけれど……無名のリリィ如きが私に勝てると思ってるだなんて、まったく随分と生意気なおチビさんねぇ」

「はん、色ボケピンクが。せいぜい勝手に油断してみろよ」

 

 衣緒里と亜羅椰がCHARMを構えて睨み合う。数分、いや数秒経っただろうか。校門側の通路から重い荷物を地面へと置くような音が聞こえた。

 

 その音が合図となった。

 職人技で美しく舗装されたデザインコンクリートの床を踏み抜いて飛び出した二人は、先程まで立っていた位置の丁度中央で鍔迫り合いとなった。

 

「食っちまいますわッ!」

「上等だァ!ヒィヒィ鳴かしてやるよ!」

 

 超至近距離でCHARMを叩きつけるように振るう二人の姿は、まるでお互いの血肉を喰らい合う肉食獣のようだ。さながら妖艶な女豹と血に飢えた狼、いや、それとも残忍で狡猾なハイエナかもしれない。

 

 

▼△

 

『あわわわわわ………亜羅椰の奴ついにやっちゃったよ〜!?』

 

 野次馬から少し離れたところで亜羅椰について話す三人組がいる。おそらく亜羅椰とは同じレギオンなのだろう。彼女らの口ぶりから亜羅椰の普段の素行が察せられる。

 

『止めますか?天葉姉様』

『うーん、面白そうだし見ていようか!」』

『そんなこと言ってる場合ですか!?アールヴヘイムのリリィが新人に怪我でもさせたらなんて言われるか!』

『あはは……多分大丈夫だよ』

『何を根拠にぃ!?』

 

 上級生らしき金髪のリリィは傍観に徹するつもりのようだ。

 

『まぁ見てなよ。新入生の子もなかなか見所がありそうだしね』

 

 

 

▼△

 

 

「ぐぅっ!?こいつ、なんて馬鹿力!?」

「どうした!?その程度かピンク頭ァ!?」

 

 数合の打ち合いであったが、亜羅椰の腕は重量級のヒュージの攻撃を受けたかのような倦怠感と痺れに襲われている。その原因は肉食獣のような気迫によるものだけではないだろう。対する衣緒里は怒涛の攻めの手を休めるつもりは毛頭ないようだが、亜羅椰は最初の気迫も鳴りを収め、迫りくる刃を受け止めることに必死なようだ。

 

(衝撃がCHARMを貫通して来る!?まるでマギの防御結界無しにあいつのCHARMを受け止めてるみたい!)

 

「ウジャァァッ!!」

 

 獣のように吠え猛る衣緒里の気合一閃

 ついにはまともにCHARMの腹で受け止めてしまった亜羅椰が大きく後方へと弾き飛ばされる。

 

 

▼△

 

 

『あの亜羅椰が接近戦で押し負けている!?』

『ね、言った通りでしょ?』

 

 金髪のリリィ、天野天葉が得意気にウインクした。

 

『あの子のスキルは多分ヘリオスフィア、いや出力的にはまだ聖域転換かな?』

『姉様と同じ?でも姉様のレアスキルはみんなを守る防御のスキルじゃ……?』

 

 天葉の(シルト)、樟美が不安気な表情を浮かべ天葉へと縋り付く。

 

『ヘリオスフィア系統のスキルは大きく分けて2種類の能力があることはわかるよね?一つはリリィのマギの防御結界に干渉して、その防御をさらに堅牢なものにする能力だよね。じゃあもう一つは?』

『有効範囲内にいるヒュージのマギ結合に干渉して外皮の強度を減衰させるアーマーブレイク……まさか!?』

『そうだね。多分、あの子はその逆をやっているんだと思う』

『となると今の亜羅椰は……』

『生身でCHARMの攻撃を捌いてるようなものだねぇ』

 

 

▼△

 

 

 弾き飛ばされた亜羅椰が着地する瞬間にあわせて、CHARMを右上段に構えた衣緒里が獣のように飛びかかる。

 亜羅椰は痺れの残る腕で強引にCHARM振り戻し、体の中心────胸部へのカウンターの刺突を見舞う。いくらリリィといえども宙に浮いた状態では身動きが取れない。そして長柄者で防御の難しい刺突を咄嗟の判断で繰り出せるのは、流石は二代目アールヴヘイムのリリィとでも言うべきだろうか。

 

 しかし、会心のタイミングで放たれた筈の刺突は、まるで最初からわかっていたかのように(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)、衣緒里の制服のボタンの留糸を切断するだけに留めらる。

 

(こいつ、私の動きを読んでいる!?未来予知(ファンタズム)のレアスキル!?)

 

 上半身を大きくひねり、亜羅椰のCHARMによる刺突を紙一重で回避した衣緒里が渾身の一撃を見舞う。CHARMを突き出し大きく隙を晒した姿勢の亜羅椰には完璧な直撃コースだ。

 しかし

 

 

 

「調子に────乗るなぁぁぁぁっっっっ!!!!」

 

 

 

 爆発的に放出されるマギの奔流が暴風となって衣緒里を吹き飛ばす。亜羅椰を中心として巻き起こったマギの嵐の中で、より一層の力を誇示するかのように彼女のCHARMが淡く輝く。

 

「この馬鹿みたいなマギ、フェイズトランセンデンスか!?」

「その通りよぉ!力比べで押し負けるんだったら……無限のマギで叩き潰す!」

 

 

 先程までとは逆に、衣緒里へと嵐のような連撃が襲い掛かる。体格では劣っても素の筋力では互角以上の様ではあるが、レアスキル(フェイズトランセンデンス)による無尽蔵なマギ供給により強化されたその筋力と防御結界、そしてスピードの前には回避の手段を選ぶことは難しく、防御に徹するだけで精一杯の様だ。

 

(いくら攻撃のタイミングが掴めていても(・・・・・・・)、パワーもスピードも相手が上だ。あたしのCHARM(グングニル)は本来中遠距離の射撃型、正面から何度も奴の攻撃を防いでいたらそのうち刀身がへし折れる。隙をついて聖域転換で防御結界に割り込んでも、出力差がありすぎて弾かれるだけだ。どうする……!?)

 

「どうしたのぉ!?時間稼ぎのつもりかなぁ?子猫ちゃぁぁん!?」 

「テメェにネコとか言われたかねぇな。股が乾きそうだぜ」

 

 軽口を叩いてはいるが、戦況は一気に亜羅椰の攻勢へと傾いている。フェイズトランセンデンスの枯渇を狙って攻撃をいなし続けているようだが、亜羅椰が倒れるよりも自身のCHARMが折れるほうが早そうだ。

 

 

 フェイズトランセンデンスとは、自身のマギ総量を無限に増幅するレアスキルだ。

 その担い手は一時的に無敵とも言える力を手に出来るが、その反動として枯渇(ディプリーション)と呼ばれる状態に陥り、一時的に戦闘力を失い無防備を晒すこととなる。しかし衣緒里は知る由もないが、亜羅椰はこのスキルをS級────覚醒と呼ばれる領域にまで昇華させているため、枯渇の隙を大幅に軽減し、時間経過による再使用が出来るため時間稼ぎは意味を成さない。

 

 衣緒里の様子が変わる。何かを仕掛けるようだ。

 亜羅椰の横薙ぎを受け止めた衣緒里が、CHARMから伝わる衝撃に身を任せたまま背後へと大きく飛び去る。

 

「逃げられると思ってるのォ!?」

「逃げるんじゃない!」

 

 空中でCHARMを逆手(・・)へと構えなおした衣緒里が、着地と同時に今日一番の勢いで駆け出す。

 

「仕掛ける!」

 

 先程の亜羅椰への強襲をも超える勢いでの突進だ。だが相手は無尽蔵のマギにより身体能力が劇的に強化されている亜羅椰だ。

 

「そう何度も同じ手を食らうと思ってるの!?」

 

 弓を引くかのように上半身を引き絞りCHARMを構えた亜羅椰が突進のタイミングに合わせて全力の横薙ぎを見舞う。

 しかし、薙ぎが当たる寸前に衣緒里が地面を全力で踏ん張り飛び上がると、その影は亜羅椰の頭上を通り過ぎた。またしても亜羅椰のカウンターは空を切ったことになる。

 横薙ぎの勢いのままに背後へと振り向くと、空中で振り向きこちらを睨む衣緒里と目が合った。その目に諦めの意志は見て取れない。

姿勢から察するに逆手に構えたCHARMを地面に突き刺し、着地の際の勢いを殺すためのブレーキ代わりにするつもりなのだろう。しかし、地面に獲物を突き刺すという事は致命的な隙を晒すことに他ならない。

 レアスキル(フェイズトランセンデンス)によって強化された脚力が二人の間の距離が一瞬で削りとる。

 

 

「馬鹿の一つ覚えみたいに跳ねてばかり!貰ったァッ!!」

 

 

 衣緒里のCHARMが地面に突き刺さり足を止めた所に、暴風のようなマギを纏った亜羅椰の突撃が襲い掛かる。

 

 

「知らないのか?」

 

 

 地面に突き立てたCHARMか何かを貫いているようだ。

 二人が接触する寸前、強烈な閃光が辺り一帯を包みこむ。

 

 

「馬鹿って言った方が馬鹿らしいぜ」

 

 

 超至近距離で炸裂した閃光爆弾(フラッシュグレネード)の光で網膜を焼かれた亜羅椰が自身の制服が汚れるのもお構いなしに地面をのたうち回る。

 

「あああああァァァァァッ!?目が、目がァッ!!」

 

 百合ヶ丘の制服には各種の戦闘補助や生命保護機能が搭載されており、胸元のボタンは強い衝撃で炸裂する攪乱や逃走用の閃光爆弾となっている。亜羅椰を飛び越えた先は、先ほど衣緒里が空中で曲芸のような回避を見せた場所でありCHARMが制服を掠った際にボタンが落ちた場所である。

 

「どんだけ堅くなろうが眼球までは堅くはできないだろ」

 

 転げ回る亜羅椰に近づき、腕を締め上げCHARMを取り上げて適当に放り投げると、首元に衣緒里自身のCHARMを突き付けた。

 

「あたしの勝ち、みたいだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




霞千秋

田舎者アーセナルなオリキャラ
見た目に気を使わないタイプなのか、服は基本的にワー〇マンで買う派
近年のCHRAM開発は基本的には素手で行う機会は少ない筈であるが、手や腕にはCHARMの加工の際についたと思われる傷や火傷の跡が見て取れる。
非リリィのため基本的に戦闘能力はナシ
工廠課きっての秀才、真島百由と繋がりがあるようだが・・・?


一柳梨璃

原作主人公
とにかくめっちゃ健気でめっちゃいい子


楓・J・ヌーベル

(・J・)
顔文字が簡単な人
めっちゃ"イイ"女


白井夢結

原作ヒロイン(?)
情緒が怪しい人
トラウマを抉られて地雷を踏みぬかれることに定評がある。


遠藤亜羅椰

経験人数がやばそうな人
これを書いている人をアサリリ沼にホイホイした。
初回のかませキャラにしまってすまない・・・すまない・・・


真榊衣緒里

暫定主人公
戦闘狂の血が騒いだ。
サブスキルとして聖域転換を持っており、亜羅椰曰くレアスキルは未来予知のファンタズムではないか?とのこと
夢結様そっくりヘアーは仲良しな先輩に切ってもらっているらしい。


アンナマリア・レギーナ・フェラーリ

夢結をレギオンに勧誘するつもりのようだったが、亜羅椰に絡まれているバッドタイミングで遭遇してしまった。夢結をお茶会に誘って自慢の珈琲の腕を振るおうとしていたが、そもそも夢結は紅茶派であることを知らない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。