アサルトリリィーTrinityー   作:門番

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これがワイの書きたかったアサルトリリィ


第二十一話 PrimeBullet/HeatEdge

 2052年五月二十六日午後13:05分。

 もしも、聖メルクリウスインターナショナルスクール学園都市東部の防衛用高壁を望遠鏡で覗く不埒な輩がいたとのなら、ゴマ粒大の小さな影が落下していく様子が見えたかもしれない。

 しかし、それはゴマ科植物の種子では無く高壁から縄無しでのバンジージャンプを決行する三人のリリィであったのだ。

 

「「きゃあああああ!!!」」

 

 衣緒里によって高壁の外に投げ出されたレミエとルルディスが、無防備な落下で悲鳴を上げる。

 メルクリウスの第一空挺団として戦う彼女らでも、何の前振りも無く空中に投げ出される経験は無かったようだ。

 内臓が自由落下によりかかる重力加速によって、まるで内蔵が体の外に飛び出るかのような感覚が二人の中で暴れている。

 それに対し衣緒里は空中で落下の方向を器用に変え、壁面スレスレへと近づき落下の最中で壁に足を着き、その斜面を重力を手繰り寄せるかのように地面に向かって駆け始めた。

 

「レアスキル、ゼノンパラドキサ!」

 

 壁面にかかる摩擦と落下による空気抵抗を推進力に変換し、さらに落下速度を跳ね上げ衣緒里が地面へと降り墜ちる。全身を打ち叩く大気の壁に白い制服のマントがはためいた。

 地面に激突する数メートル手前、マギによって超人的な筋力を得た両足で壁を蹴り飛ばし、落下による運動エネルギーのベクトルを強制的に横方向に変換。地面に着地する衝撃すらも運動エネルギーへと変換しヒュージの大群へと躊躇なく切り込んだ。

 

「だりゃあああああ!!!」

 

 乾坤一擲の強烈な鉄刃の振り下ろしがアリ型ヒュージの脳天へと滑り込み、一刀の下に叩き斬る。衝撃によりクレーターの様に凹むコンクリートの地面。そして地面に突き立った刃を起点に空中で一回転。二回目の振り下ろしがもう一匹の脳漿をぶち砕いた。そして、地面にめり込んだ巨大な刃を番えたCHARM、ムラマサ/Ⅱを軽々と肩に担ぎあげ残身の構えを取った。

 落下の勢いと速度を活かし、ヒュージの大群へと一瞬で飛び込むことに成功。これで大量のアリ型ヒュージ、グンタイアリの大群の注意を引き付けることが出来た。

 眼前のヒュージの一匹に刃へ横振りの斬撃を叩き込む。

 

「硬ぁッ!?」

 

 ムラマサの凄絶無比たる刃はヒュージの生体装甲に食い込みこそすれど、その刃は体幹の中ほどまででせき止めらていた。先程は乗りに乗った速度を上乗せ出来たからこそ刃が通ったのだろう。霞千秋の鍛えた刃はトップリリィ達でさえも凶悪な切れ味と評価する。その刃をだ。

 しかし、その事実に怯むのも一瞬。衣緒里が即座に次の手を打つ。

 

「サブスキル、聖域転換!どりゃあああ!」

 

 衣緒里のサブスキル、聖域転換による防御結界の減衰により軟化した装甲を、強化された贅力によりそのまま両断する。

 倒れ伏すヒュージの骸に一息つく暇もありはしない。そこに衣緒里を覆う巨体の影。その身の数分の一の大きさの相手の不意を打つ強襲。飛び掛かるヒュージを一瞥することも無くレアスキルにより察知し続く手を”撃ち出した”。

 プシュ、という圧縮空気の抜ける音に続いて鉄の塊が、飛び掛かるヒュージの頭部を強打して撃ち落とした。

 撃ち出されたのはCHARMの背面に取り付けられている銃身部分。それだけでも数十㎏の質量を持つ鉄塊だ。圧縮空気により撃ち出されたそれは砲弾の様に宙を舞ったヒュージをもんどりうたせるには十分な衝撃をもたらす。

 跳ね返った銃身のグリップを掴み、真横から襲い掛かるヒュージへと即座に発砲。至近距離から塊の様に放たれた無数の散弾がヒュージの頭部を粉々に粉砕した。

 瞬く間の攻防により切り伏せた骸の中で、今度は衣緒里が次の手を打った。両刃剣(グラディウス)に変形した刀身の束から伸びるワイヤーを掴み、投げ縄のように振り回す。

 ムラマサの堅牢な刃により形成された刃の結界がヒュージに対するけん制の防壁となった。

 攻め入るには頑強で、捨て置いて進軍するにはあまりにも苛烈な一匹のリリィ。ヒュージの進軍が開始してより、一瞬の膠着状態に入る。

 それを終わらせるのは上空からの射撃。

 赤いパラシュートをはためかせて、降って来た二人のリリィの対地上射撃により複数体のヒュージが倒れ伏した。

 

「何するのよ!普通に死ぬかと思ったわよ!」

「もう少し相談してから動いて欲しかったですね」

 

 青筋を浮かべた二人は慣れた動作で五点着地によりひらりと着地し、即座にパラシュートに変形していたマントを脱ぎ棄て、CHARMを構えて援護射撃を行う。

 千秋からの『お願い』という指令を聞いてすぐさまに首根っこを掴まれて高壁の柵の上から放り投げらた二人は未だに怒り心頭なようだ。

 

「いいじゃねぇか。こんだけの数がいるんだ。時間が一秒でも惜しいん、だよッ!」

 

 振り回す刃をワイヤーが伸びきったままに振り下ろし、遠心力と重力によって加速した刃をヒュージに向かい叩きつけ、道を切り開く。ムラマサの刃によって切り開かれた射線の先に合流した二人の姿が見えた。

 

「いいか!?こいつら、結構硬いぞ!あたしの近くのヒュージなら聖域転換で防御結界を軟化させられる!」

「わかったわ。だったら教本通りに行きましょう」

 

 ルルディスが近接形態(ブレードモード)の大剣型三世代機CHARMのフルンティングの刃でヒュージの一匹を叩き割る。

 

「イオリさんはAZとして最前線!レミエはBZとして後方からの援護射撃!私はTZとして戦線を押し上げるわ!」

「……わかったわよ」

「あいよ!司令官殿!こちとら暴れるのが取り柄なんだ。派手にやらせてもらうぜ!ゼノンパラドキサ!」

 

 衣緒里の姿が搔き消えるとほぼ同時に数発の発砲音と刃の閃きが宙に舞いそれに遅れて倒れ伏すヒュージ達が複数。無法者(デスベラード)の字名は伊達では無い。超高速戦闘能力は複数体の敵との戦闘により真価を発揮するのだ。

 それに続くのはルルディス・プロムシュテット。驚くなかれ、優等生然とした彼女はかの『至宝』と呼ばれて百合ヶ丘が獲得した楓・J・ヌーベルと肩を並べ世界に名を轟かせた優秀な司令塔。だがその本質は優等生と称するには些か苛烈であった。

 振り下ろす刃でヒュージの脳天を一刀両断。刃の冴えを鈍らせずに、続く切り払いがヒュージの二頭を屠る。続いて背後から迫るヒュージを衣緒里と同じく一瞥することも無く察知し、上半身を側転の様に折り曲げながらCHARMを変形。迫撃砲形態(バスターランチャーモード)となった第三世代型CHARMであるティルフィングの束を地面に突き立て固定し強烈の砲撃を見舞う。着弾と同時に複数体のヒュージを巻き込む強烈な爆撃。そして砲撃の反動に身を任せて振り上がったCHARMを再び近接形態へと移行。宙を舞う肉体を鍛え上げられた体幹で制御し、思い切りCHARMを振るった。すると、振りの加速によってティルフィングの巨大な()が遠心力により強烈に打ち出された。

 ティルフィングはユグドラシル社の製造する最新鋭の第三世代型機である。第三世代CHARMは各ユニットを分割したパーツ交換による拡張性と、各ユニットを分離変形させることにより、レアスキル:円環の御手のような二刀流による手数と打撃力の確保を可能とする設計思想に基づいて製造されている。しかし、ティルフィングの設計はそれらと些か異なる。複数種類の装備を同時に扱い手数と打撃力を強化するのでは無く、堅牢かつ巨大な刀身と砲身の大部分を脱ぎ捨てるように分離変形することだ。

 投げ飛ばされた刀身はヒュージの胴体を貫通し地面に射止め、その刃を追いかけレミエがひた走る。些か、縮んでしまったCHARMは本来刀身の内部に格納される短剣(ショートブレード)、その切れ味は重量に劣る大剣にこそ遠くとも、ヒュージの関節部などの箇所に突き立てる分にはその性能を十分に発揮する。

 アリ型のヒュージの脚部の関節を次々と刃で突き刺して機動力を奪う。目当ての刀身部が突き刺さるヒュージの首を切り払いCHARMを合体、再び大剣の姿を取り戻したフルンティングがヒュージへと襲い掛かる。

 

 数の多さに押されながらも着実に前線を押し上げる二人のリリィ達。打ち漏らしたヒュージをもレミエが着実に刈り取り、本来の目的である時間稼ぎは現状間違いなく達成されている。

 しかし、レミエの端正な顔は苦虫を嚙み潰したかのように苦々しい。

 

「私だって……」

 

 レミエの呟きは戦場の喧騒に溶けて行った。

 

 

◇◆◇

 

 

 遂に始まった枢機卿のスピーチがアンナマリアの端末から流れている。拡張高い低い声は自信と神の威厳を感じさせてくれた。

 彼らはアンナマリアがガーデンという名の聖域(アジール)の壁の中でなお戦場にあるという事実を知らない。

 レアスキル:天の秤目で学園都市内を見渡してはいるが、少なくともまだその位置は特定できない。

 

『こちら千秋。通信は聞いてた?いおりんが海岸に出現したヒュージの大群の足止めをするために出撃したよ。加えて高壁部隊が若干パニック気味で監視網が怪しい。建物の屋上とかに例の人が出てきても見つけられないかもしれない!気を付けて!』

「ありがとうございます。騎士様なら大丈夫でしょう。また、高壁内の警備はリリィだけでなく一般の警備も必要十分以上です。これだけ探していただいても見つからないということは、地上にはいないのでしょう」

 

 アンナマリアがCHARMケースをまさぐり、CHARM用のライフルスコープを取り出す。分厚いレンズの層がギラリと輝くそれをCHARMの銃身上部に取り付け構え直した。超視力を持つレアスキルの持ち主には無用の産物であるのだが、何かの儀式的行動なのだろうか。

 

「千秋様、メルクリウスの方々に至急調べて頂きたい事があるのですがよろしいでしょうか」

『めっちゃ忙しそうだけど聞いてみる!何を調べて貰えばいいの?』

「現在飛んでいるヘリを派遣された報道機関の中で、財政状況が特に乏しい会社と、そのヘリが飛んでいる位置を教えて頂けますか?」

『わかった!ちょっと待ってて!』

 

 スコープのレンズカバーを開き視界を確認。視界は良好。装備品の手入れは良き兵士にとっての嗜みだ。それはアンナマリアにとって習慣づけられた躾であった。

 

『シスターさん!調べてもらったよ!アメリカのワシントンBCとカナダのモントリオール・コミュニケーションズの二つだって!ワシントンBCは三年前と一昨年の粉飾決算二期連続での粉飾決算によって本国での放送権の剥奪の可能性により株価下落中で、モントリオールは隣接する湖に発生したネストの関係で本社移転のための資金繰りで財政赤字が続いてる!財政状況が怪しいのはこの二つ!ワシントンが北部の高壁側でモントリオールが北東部の広場側!にいる!どう?役に立ちそう?』

「詳細な情報感謝致します。皆様にもお伝えくださいませ」

 

 アンナマリアが拠点としている旧ヌーベル邸は学園都市の南東部に位置している。どちらへの視界もほぼ良好であり、仕込んでいた『細工』も恐らくは機能する。敵が高層の建物をスナイパースポットに選ばなかったのは予想外ではあったが、それで慌てふためくことは無い。アンナマリアは若干十五歳にして歴戦の戦士(リリィ)であるのだ。

 ギラリと威圧的に光を放つスコープを乗せた愛機越しにアンナマリアが北部を飛ぶワシントンBCのヘリへと向けた。

 

 

◇◆◇

 

 

「あたし様のお通りだぁッ!道を空けやがれぇッ!」

 

 無限と分割の名を持つレアスキルと巨刃を振りかざし、最前線をひた走る衣緒里は間違いなく鎧袖一触たる無双ぶりであった。

 衣緒里には知る由も無いが、現在戦闘しているヒュージの群れは丁度一年ほど前に御台場で起こった確認最大規模のアルトラ級称された超巨大ヒュージ襲来と、それに伴う迎撃戦において敵群の歩兵戦力となっていた種で、凡そ一般的な昆虫であるアリ型の骨格を持っているため『グンタイアリ』と命名されている。当時の御台場で開催されていたノインヴェルト戦術の教練会の関係で、近代的な対ヒュージ戦闘のために大出力の兵装を保持するものが少なかった。その結果、ノインヴェルト戦術による瞬間的な大火力を有しつつも、堅牢な装甲を持つ小型ヒュージの群れに手を焼いたという記録が残っている。

 こと衣緒里に関しては高い対応力を持つ前線向けのスキルを持ち合わせ、三形態への変形機構を持つ巨大なCHARMにより、複数体の敵を同時に相手取ることが可能である。メルクリウスの警備本部では糾弾された千秋の指示は、少なくとも間違いでは無かった。

 

「……イオリさん!気を付けて、大きくて速いヒュージがいる!多分『特型』よ二時の方向から接敵されるわ!」

「何ッ!?」

 

 ルルディスの指示した方向にレアスキルにより拡張された感覚を向けた瞬間、アリ型ヒュージの群れをなぎ倒すかのように出現したヒュージが前脚と思しき器官を衣緒里に叩きつけた。

 巨刃の腹でそれを受け止めるも、思わず腰を折るほどの凄まじい衝撃。衣緒里が小さく苦悶に呻いた。

 重い剛爪を受け止める衣緒里へもう一対の腕が襲い掛かる。

 だが、振り上げたその剛腕へ後方からの援護射撃が撃ち込まれた。連射されるマギの弾丸と迫撃砲の強烈な弾幕が集中し、鋭利な爪を生やした腕が生々しい水音を立てて地面に落ちる。未だ神経が通っているかのようにのたうつ腕を放り出し、たまらずそのヒュージは再びアリ型ヒュージの群れへと転がるように姿を消す。

 

「イオリさん、怪我は無い?」

「あぁおかげさまでな。気を付けろ。今の奴、結構速いぞ」

 

 衝撃によって痺れの残る腕をさすりながら衣緒里が立ち上がった。

 CHARMを射撃形態(シューティングモードへと変形)させ、先程のヒュージが逃げて行った方向へと砲撃を打ち放つ。小型化されているとはいえ、元が大口径のバスターキャノンであるムラマサの砲撃は小型のヒュージであれば、衝撃でいとも容易く吹っ飛ばす威力を備える。

 砲撃が切り開いた道の先には先程のヒュージの姿。それは鳥の嘴を彷彿とさせる長く尖った器官をアリ型のヒュージに突き刺し、気色の悪い音を立てて何かを吸い出していた。

 

「ヒュージを食べてる……!?」 

 

 生気の無い無機質な二つの眼球がぎょろぎょろと忙しなく動かし周囲を探っている。その前脚には巨大な鉤爪、背中から下半身はハリネズミのような鋭い体毛に覆われ、発達した前脚に対して後ろ足は短いがずんぐりむっくりとした全長にして凡そ4メートル程。肉体を軽々と支える筋力を思わせる程に太く筋肉質だ。

 アリ型ヒュージから引き抜いた口吻から特有の青褪めた体液が滴らせ特型ヒュージが洞穴から吹きぬける風音のような咆哮を上げると、レミエとルルディスが吹き飛ばした右前脚が強化リリィの高速再生能力のように肉が蠢きながら生え、元の鋭利な爪までもが再生する。

 

「アリクイ……?」

「昔お母さまに見せてもらった動物図鑑で見たことあるぜ。オオアリクイさんって奴だろ?」

「そうね。ヒュージのアリを食べるアリクイなんて聞いたことないけど。差し詰め『グンタイアリクイ』ってところかしら」

「随分愚直なネーミングセンスだな。……千秋!特型が出た!とにかくデカイ図体の割に速い奴だ。……まだ援軍は出せないのか!?うぉっ!?」

 

 衣緒里が通信機に怒鳴りつけた直後、先程のヒュージが再び鋭利な爪で襲い掛かる。ルルディスの腰を掴み衣緒里が飛び引いた箇所に爪が突き刺さり穴を穿つ。道路の往来の中央でその穴から水が噴水の様に吹き出した。埋設されている水道管を傷つけでもしてしまったのだろう。水道管は走行する数トンの車両の影響を受けない程には深くに埋まっている筈であるのだが。

 

「ねぇ、さっきよりもあの爪、大きくなってない?」

 

 そう、ルルディスとレミエの射撃によって落とされた腕が明らかに肥大していた。そして、その腕先から生える爪は対の詰めよりも明らかに巨大になっている。

 

『いおりん、ごめん!まだ援軍は出せないみたい!』

「ケッ、しょうがねぇか」

 

 元種のアリクイの威嚇行動の様に二本足で立ち上がり、『グンタイアリクイ』は悍ましい咆哮を上げる。

 アリ型ヒュージ、グンタイアリは同胞を喰われようとも、特に何の反応を示さずにグンタイアリクイを戦列に加えるようだ

 自然界では時に自身達の城すら壊して根こそぎ同胞を喰らいつくす悪魔のような天敵と肩を並べるその姿勢は、余りにも自然の摂理に反し冒涜的ですらあった。鉱物と有機体の入り混じる歪さが両者を繋いでいるのだろうか。

 

「千秋。どちらにしろ援軍が無かったらあたし達は全滅の犬死だ。ムラマサに仕込んだ例のアレ、人命がかかってたら使っていいんだよな?」

『え?うん。しえらちゃんはそう言ってたけど……』

「だったら問題無ぇなぁ!パツキン!委員長と一緒に前線に上がれ!」

「えぇっ!?」

 

 後方にて打ち漏らしの掃討に専念していたレミエが叫び返す。

 

「あたしのCHARMに仕込まれた切り札を使う!起動の時間を稼いでくれ!頼む!」

「何でアンタが仕切ってるのよ!」

 

 当然の反応であった。まだ出会って数日、それまで顔も名前も知らない他人であった。指揮官として優秀かつ付き合いも長いルルディス・プロムシュテットと衣緒里の言葉では厚みが違う。命を預ける壁は厚いに越したことは無いのだ。

 だが、ルルディスの考えは違った。

 

「私とレミエはAZとTZラインに繰り上げ!衣緒里さんは後退してその切り札とやらの準備をお願い!」

「ルルディスまで!なんでこんな奴の為に!」

「もう私達が出来ることは少ないわ。だったらイオリさんの切り札ってのに賭けてみるしかないんじゃない?」

「はぁっ!?」

 

 至近距離でルルディスが打ち放った迫撃砲がグンタイアリクイの腹部を直撃して吹き飛ばされるがいまだ健在。傍らのグンタイアリをおもむろに爪で突き刺し、空いた穴に口吻を突き立てた。

 ルルディスが付けた傷が再生し、今度は腹部が金属質の輝きを持つ装甲で覆われていく。

 そう、このヒュージは討伐に時間がかかるほど強化されるのだ。そして、その強化と再生のための材料は周囲に無数に蠢いている。少なくとも、現状の装備の火力では確実に葬り去るほどの火力を有している者はいない。

 少なくともルルディスは、衣緒里がこの土壇場ではったりをかまして戦場に背を向けるようなすくたれものだとはレミエより短い付き合いでも微塵にも思ってはいなかった。

 だからこそ、この新しく頼もしい客人の戦士に賭けてみるのが最適解だとルルディスの指揮官としての頭脳は判断したのだ。

 

「~~~~~あぁ、もう!どいつもこいつも!」

 

 前線の二人が切り開いた道をレミエが駆け上がる途中、前線を引く衣緒里と目が合った。

 

「頼んだ!」

「ふん、頼まれたわ」

 

 グンタイアリクイの爪を寸での所で躱し、ルルディスが迫撃砲のの砲撃を再び叩き込むも、その砲撃は表皮を焦がす程度の損傷しか与えられない。むしろ、着弾の衝撃で周囲のヒュージが吹き飛ばされるほどの威力はあるのだが、グンタイアリクイは着実に成長し続けている。

 

「ルルディス、合わせて!」

「えぇ、わかったわ!」

 

 戦場に並び立つ二人の戦士。

 その二人の得物の柄に輝く二つの宝玉(マギクリスタルコア)が一段と輝いた。

 

「レアスキル、カリスマ!」

「レアスキル、レジスタ!」

 

 二人がレアスキルをここぞと発動。

 レミエの起動したカリスマが周囲のマイナスのマギを吸収しリリィのプラスのマギへと還元、ルルディスの有するレジスタがCHARMの出力を大幅に増強。対超大型ヒュージ戦でも用いられる必殺のコンビネーションだ。

 フルンティングの刃がグンタイアリクイの肩部に食い込み血飛沫が舞う。

 だが、追撃を阻むかのようにアリクイの獲物であるはずのグンタイアリが、ルルディスを襲う。レミエが援護に入りグンタイアリを切り払うも肝心のアリクイは刃の外に逃げ、アリの骸を漁っていた。

 らちが明かない。ケイブのマギが尽きない限りヒュージは湧き続ける。少なくともケイブからのヒュージの発生が止まることを期待して戦うには戦力が足りない。

 だからこそ衣緒里の切り札とやらに賭けるしか道は残っていないのだ。

 二人の奮闘の背部で衣緒里がCHARMを振りかざす。

 都市迷彩の塗装が施されたそれは、道路の舗装の上では逆に浮いて見えた。

 

「ベルセルクシステム起動!スタンバイ!」

 

 マギクリスタルコアの接合部を覆う保護カバーが展開、衣緒里のCHARMの心臓部は禁忌の光に輝いた。

 

 

◇◆◇

 

 

 赤と黒の修道服に身を包んだ初老の男、ビセン・ヴァン・トゥアン枢機卿は格調高い声色の演説に、学園都市の広場に集まった群衆は聞き入っていた。

 黄、白、黒と多人種入り混じる正に国際的(インターナショナル)な場と化している会場にいる人々の熱い視線は間違いなく一人の男に集められ、この時この瞬間は間違いなく戦争とは無縁に平和を願う人々の心は一つとなっている。少なくともヒュージの出現を知らされておらず、物騒な枢機卿暗殺の計画を知る由も無いからでもあるのだが。

 

『私達が愛と感謝の心を永久に忘れず、憎しみと怒りの心を忘れ手を取り合うことが出来たから、人類はヒュージに立ち向かう事が出来たのです!』

 

 トゥアン枢機卿が演説に熱が入り拳を振り上げた。

 

『よいですか、皆さん、イエス・キリストは数々の奇跡をその生涯の中でなされました。その一つにイエスは五千人の貧者を、五つのパンと二匹の魚で彼らの腹を満たしました。マタイによる福音書の第十四章十七節より、『弟子たちは言った、「わたしたちはここに、パン五つと魚二ひきしか持っていません」イエスは言われた、「それをここに持ってきなさい」そして群衆に命じて、草の上にすわらせ、五つのパンと二ひきの魚とを手に取り、天を仰いでそれを祝福し、パンをさいて弟子たちに渡された。弟子たちはそれを群衆に与えた。みんなの者は食べて満腹した。パンくずの残りを集めると、十二のかごにいっぱいになった。』何故そのようなことが出来たのか。それは単純なことなのです。イエスは意味が無い、無理だ。という気持ちを抑え、まず自分たちが他者に分け与えるということを実践されたのです。これを現実的に解釈するのならば、旅に疲れたイエスの一行が己の空腹を気にもせず、率先して食べ物を分け合った姿を見て、民は己の持つ食料を他者と分け合ったのです。イエスが起こされた奇跡はパンを増やしたことではありません。魚を増やしたことでもありません。他者と分かち合うことが出来れば、飢えることも無く貧ずることも無いということを証明された事こそが奇跡であり、御業なのです!』

 

 枢機卿の演説に沸く大衆の歓声に怯むことも無く儼乎たる様相を崩さない枢機卿は、大衆の熱狂を諫めることも無く、静かに力強く優しい目線で空を仰いだ。

 一方、ドロシー・ヴァレンティア・マッカートニーは買収した報道機関のヘリコプターの内壁に背中を預け、ヘリに備え付けられたラジオから流れる枢機卿の演説を静かに聞いていた。

 それは歴戦の暗殺者としてのルーティーンだ。

 リリィとして戦っていた頃、兵役の中で多くの期間で経験した塹壕戦の名残であると本人は認識している。

 ヒュージの熱戦から逃れるために掘られた塹壕に身を隠し、着実に狙撃を遂行するため精神を安定させ集中力を高める行動は、現在でも仕事の前の癖となっていた。

 腕時計をちらりと見ると十三時十五分。そろそろ高慢ちきな童貞を撃ち殺すには丁度いい時間だ。

 

「マッカートニー、時間だぞ」

「わかってるよ」

 

 構えた愛銃のスコープを覗き込もうとしたその瞬間遠くで何かがチカチカと反射する光が見えた気がした。

 

「どうした?」

「いや、端の方に何かが映った。恐らくスコープの反射光だ。となると……」

 

 光が反射する方向スコープを向け倍率を変えると、そこに映るのは白いメルクリウスの制服に身を包み修道女のベールを被ったリリィが建物の屋上からCHARMの銃口をこちらに向けていた。

 修道女のような恰好に、屋上に体を固定するために折り曲げてなおも長い手足。報告書にあったヴァチカンが派遣したと思われるリリィの情報と完全に一致している。

 

「ビンゴだ!ヴァチカンの犬がこちらを狙っているぞ」

「何?」

「少なくともこちらを捕捉している。童貞の前にあの小娘の方を先にを殺る」

「枢機卿暗殺が任務の最優先事項だが、わかっているな?」

「勿論。だけど横やりを入れられるのは困るでしょう?先にあの小娘を殺してからでも、時間は十分にある。むしろ爺はギリギリで撃ち殺したほうがいいでしょう。明日の新聞の見出しはこうかしら『枢機卿、慰問演説終了直前に凶弾に倒れる』ってね」

 

 芝居がかった声で言い訳を述べると、暗殺者は遠くで同じくスコープを覗くアンナマリアに狙いを定めた。

 そう。これはいい訳なのだ。リリィとしての才覚を持ちながらも神の使徒などという美辞麗句に飾られた拝金主義者共のいいなりになって自分を殺しに来た若い女を逆に撃ち殺す、というおおよそプロとは言えない己の身勝手を正当化するための良い訳であり、ある種の自慰行為でもあった。

 超常の力が枯れ果て常人となってしまった己が若く才能に溢れ期待を一身に受けるその芽を摘み取ることが出来れば、それは過去の栄華が嘘では無かったと自分を慰めることが出来る。

 スコープをアンナマリアに向け測距を行い射撃角度を調整する。こちらのスコープは光学式。レーザーやレンズを用いずに測距を行う最新式の物だ。スコープの先で自分を必死に探す小娘の姿は酷く愚劣であった。

 

「じゃあね。ヒーローガール」

 

 引き金が引かれた。大口径の狙撃銃の火薬の発破音は、取り付けられた消音器と周囲を飛ぶヘリの羽音が打ち消してくれた。

 しかし、枢機卿を撃つ筈であった凶弾がアンナマリアに放たれたその瞬間、スコープに映る視界の下部が揺らいだ。

 

「陽炎?そんなの建物の上になんて起こるはずが……」

 

 ドロシーの疑問に答える者はいなかった。引き金は引かれたのだ。もうそれを止めることは出来ない。

 放たれた弾丸は軽々と音の速さを超え、刺客気取りの小娘の脳天を打ち抜いた。その筈であった。

 だが、

 

「嘘……!?」

 

 凶弾はアンナマリアを傷つけることは無く、アンナマリアしゃがみこんでいる屋根の板を吹き飛ばすに終わった。

 狙撃手の修道女は依然として健在である。

 

「なんで……!?」

「外したのか!?」

 

 ヘリの操縦手の呼びかけにも答えずもう一度ドロシーがスコープを覗き込み、その照準を下へと下げるとそこには豪邸にありがちな広いプールに水が張られていた。

 それもただの水では無い。昼間でありながらも、もうもうと白い煙が立ち上る熱湯だ。先ほどスコープに映った陽炎の原因であった。

 高速で飛行する鉄の弾丸は、その質量と火薬の量によって時に鉄板に風穴を開ける程の威力を発揮する。しかし、その推進力が強ければ強いほど、速度が上がれば上がるほどに弾丸の進行方向以外から受ける力の影響に弱くなる。

 特に気温や湿度、風向きといった周囲を取り巻くあらゆる要素が勘案しなければ狙撃の成功に繋がらない。

 そう。高温の水が沸騰することによって発生する局地的な上昇気流は弾丸の軌道を容易に変えてたのだ。

 わなわなと手が震え、自分を構成する何かが折れる音が聞こえた。

 

「ドロシー!狙撃が失敗したのか!?」

 

 操縦手の呼びかけにドロシーが我に返った。

 不味い。今の狙撃で狙撃位置が完全にバレたはずだ。

 

「狙撃は失敗!早くずらかるわよ!」

「何!?周囲に報道ヘリが飛んでいるこの状況だと急な旋回は無理なんだぞ!」

 

 絶体絶命であった。空という完全に逃げ場のない状況。周囲には報道ヘリの大群で身動きは完全に取れない。

 超常の力を失って久しいこの身のはずが、彼方で自身に銃口が向ける修道女の姿が不思議と克明に見えた。

 自身らが閉幕させることが出来なかったトゥアン枢機卿の力強い演説が、ラジオから未だ響いている。

 

『主よ、わたしを平和の器とならせてください』

 

 どうにか退路を作ろうと操縦手が像住管を小刻みに動かしていた。

 

「憎しみがあるところに愛を、争いがあるところに赦しを」

 

 ラジオから聞こえる枢機卿の言葉を、思わずアンナマリアは共に口ずさむ。彼女にとってその祈りは幼いころから慣れ親しんだ祝詞であった。

 

『分裂があるところに一致を、疑いのあるところに信仰を』

 

 早く逃げろと金切声でドロシーが叫び暴れるも、悲しいことに機体が上下に揺れるだけだった。

 

「誤りがあるところに真理を、絶望があるところに希望を」

 

 アンナマリアが愚かにも慌てふためく暗殺者を照準に捉えた。

 

「『闇あるところに光を、悲しみあるところに喜びを!』」

 

 発射(フォーコ)、と聖フランシスコの平和の祈りに続いた呟きと共に、アンナマリアの愛機が一筋の弾丸を放つ。

 23㎜口径の銃身内部に刻まれた施条(ライフリング)が弾丸にアンナマリアの祈り(マギ)を刻み、不届きな暗殺者の乗るヘリへと迫る。

 弾丸が打ち抜いたのはヘリの回転翼(ローター)下部に設置されたエンジンの一部。CHARM規格の弾丸はヘリのエンジンを破壊するには十分すぎる威力を持っていた。

 

「墜落する!近くの屋上に緊急着陸するぞ!」

 

 ドロシーは運転手の言葉を受け、力無くシートベルトに手を掛けた。

 

 

◇◆◇

 

 

『こちらアンナマリア。狙撃の阻止に成功いたしました。北部のビルにエンジントラブルで着陸するワシントンBC社のヘリと乗組員を確保してくださいませ』

「わかった!すぐに伝えるね!」

 

 警備室で報告を待っていた千秋が喜びの声を上げる。

 現状二つの危機の内、これで片方を片付けることが出来た。

 

「せーてーさん!アンナマリアさんの仕事の方が終わったよ!エンジントラブルを起こして着陸するワシントンBCのヘリと乗組員を捕まえて!銃で武装している可能性があるから近くのリリィに向かってもらったほうがいい!」

「何!?終わったのか!皆の者!仔細聞いていたな!北部の警邏のリリィを動員、ヘリと乗組員を即座に確保しろ!」

 

 ティシアの命を受けた警備室の人員が即座に伝令を発信し始め、再び慌ただしくなってきた。

 

「これで東部海岸の救援を出せる。第五飛空艇団ラグエル、出るぞ!」

「待ってくれティシア」

 

 意気揚々と立ち上がった瞬間、それを止める一人の声。

 それはティシアにとって長く戦場を共にした友であった。

 

「私が行く」

 

 そう静かにアルテア・アレッサンドリーニは立ち上がった。

 メルクリウスの暴君が妹のため、ついに動く。

 

 

◇◆◇

 

 

 構えた機械仕掛けの妖刀(ムラマサ)は、衣緒里の声に違法強化(ブーステッド)CHARMとしての真髄を発揮することで答えた。

 衣緒里の指に嵌められた指輪、リングカートリッジと呼ばれるマギの追加充填を可能とするそれが鈍く輝く。

 ベルセルクシステム。

 B型兵装(バーサークユニット)と名付けられた、より絶えない激戦に身を置いていた旧世代のリリィ達でさえ禁忌とした術式(プログラム)。それが霞千秋の鍛造したCHARMには組み込まれている。

 旧世代のものをそのままにでは無い。より凶悪に、より強く、そしてより鋭利に研がれたそれが。

 

「モードセカンド!オーバーブースト、レディ!」

 

 衣緒里のさらなる呼びかけが禁忌のその先を呼び起こす。

 尋常を超え、過剰にマギを喰らうCHARMが更にマギを欲したことで、急速にマギが消費されたことでリングカートリッジが崩壊。鉄の粉が花を咲かす。

 

「予備回路全段接続!マギ抵抗器(レジスター)強制介入!ブースターチャンバー追加接続!」

 

 あまりにも衣緒里の纏うマギが高まった影響でムラマサの刃の輪郭がぼやける。

 いや、違う。マギの影響そのものでは無い。陽炎だ。そのCHARMそのものが高熱を発し、光の反射を歪な物に変えているのだ。

 

「エクスプロージョンユニット、アクティベート!全ユニットオールクリア!ブレードセーフティ解除!」

 

 プラスのマギが、CHARMによって加熱されたマギが衣緒里を中心に昂る。獲物(ヒュージ)を喰らい殺さんと群れ長の号令を待つハイエナのように。

 そして、ついにムラマサに宿る『炎』が解き放たれる。

 

「燃え滾れ、ムラマサ!」

 

 その雄叫びと共に解き放たれたのは『熱』であった。

 滾る炎のように熱い力。

 嵐の様に吹き荒れるそれが周囲のアリ型ヒュージを吹き飛ばした。

 

「何!?」

 

 戦場において目の前の敵から眼を背けることは致命的だ。

 しかし、それは眼前のヒュージ達も同じであった。目の前の脅威より、おそらくは強大である脅威を注視するのは必然であったのだ。

 次に解き放たれたのは『翼』であった。

 吹き出る二対の青い炎が噴炎のように嵐を貫き現れる。

 放たれるマギがより一層に高まったその瞬間、嵐は嘘のように掻き消えた。その中心にいた筈の衣緒里も。

 

「イオリさん、何処なの!?」

 

 ルルディスの心配の声はヒュージの金切声のようなヒュージ達の悲鳴に遮られた。

 吹き荒ぶ一陣の風。思わず顔を覆ってしまい程に熱い熱風が、戦う二人の右翼に吹き荒んだ。

 目を開くと、そこにはなます切りにされた夥しい数のヒュージの骸の数々。

 その骸はそれぞれが熱に焦げたように黒く染まり、白い煙を吐き出しながら『焼き』切られていた。

 瞬時にもたらされた異様な焼死体のヒュージの山。

 レミエもルルディスも、グンタイアリクイでさえも、その暴威に射止められていた。

 骸の山の上に立つ一人の影。

 都市迷彩の塗装が焼け落ち、本来の漆黒の刀身の姿を取り戻したムラマサ/Ⅱは赤い炎を纏い、神話の如き様相であった。

 よく手入れされたロングヘアは迸るマギの奔流に逆立ち、龍の髭のように揺らめいている。

 そして、その背から漏れ出るマギの奔流がガスバーナーのように燃え盛り、翼のようにはためいていた。

 

「『ヒートエッジ』、だぜ。全力でブチ焦がす!」

 

 最後に解き放たれたのは、『戦士』であった。

 先程のまでの比では無い。肥大化したマギを纏いB型兵装により強化された体躯が駆け始める。

 複合レアスキルであるゼノンパラドキサに含まれたサブスキル:インビジブルワンは、自身の進行方向に反して抵抗となるエネルギーベクトルを逆に推進力に変換するスキルである。

 抵抗とは自身の持つ推進力が大きくなるほどに比例して大きくなる。ならば、B型兵装によって尋常ならざる脚力を得た衣緒里の場合はどうであろうか。

 

「おおおおおぉぉぉぉぉッ!!!!!」

 

 絶速。

 目にも止まらぬ超高速かつ超高熱の刃がヒュージの群れの中で閃いた。

 瞬く間に死骸の山が一つ、二つと盛られていく。

 衣緒里の言う切り札を見届けたルルディスが指令を出す。

 

「イオリさん!グンタイアリクイの相手をお願い!私達が他のヒュージを減らす!」

「任せろ!」

 

 ヒュージの群れの中で方向転換した衣緒里が叫んだ。高速移動をする衣緒里の位置は容易に分かった。

 彼女の軌道上のヒュージが全て焼き切られているからだ。

 

「勝負だ!アリクイさんよぉ!」

 

 燃え滾るムラマサの刃がグンタイリクイの交差した両爪と激突する。

 しかし、その二つの刃は交わしきれない。グンタイリクイの爪の強度がは強化された贅力と切れ味の前には脆すぎた。

 その勢いのままに刃がの切っ先がオオアリクイの肩口へ突き刺さり、青い血が噴き出すもムラマサの放つ超高熱が瞬く間に蒸発させる。

 だがヒュージ達も馬鹿では無い。己達を喰らう同族こそが自身達の生命線であるという矛盾を飲み込み、衣緒里へと襲い掛かった。

 先程のように衣緒里が奇襲をかけるわけでは無い。同時に四方八方で襲い掛かるアリ型を刃の一振りで切り払うも、グンタイリクイは即座に離脱し再び捕食行動を始めた。

 

「クソッ!このままだと千日手だぞ!?」

 

 三度再生し、成長したアリクイの姿は更に大きくなっている。

 ムラマサの刃で砕かれた爪は更に凶悪に肥大化し、先程袈裟懸けの裂傷を与えた箇所はその周囲を更に分厚い装甲が覆われた。

 衣緒里の背とCHARMから吹き出すマギの炎が、心なしか弱まってきていた。

 

「消耗が思ったよりも速い……最初に飛ばし過ぎたか!」

 

 B型兵装は諸刃の剣。一度でも攻撃を受ければ致命傷となり、起動限界を超えて使用すればレアスキル:フェイズトランセンデンスの枯渇(ディプリーション)状態のように戦闘能力を喪失する。

 大量のマギを放出しながらもレアスキルを酷使する衣緒里の戦い方は、刻一刻と破滅への秒針を進めていた。

 だが、()の衣緒里は一人では無い。

 

「イオリ!多分、そいつは一撃で倒しきらないと、他のヒュージを食べて復活する!何か一撃で倒し切る方法は無い!?」

 

 衣緒里が切り開いた骸の道をレミエが駆ける。

 

「あるにはある!だけど、使うにはマギの出力がもう足りない!」

「だったら、私が!」

 

 レミエのCHARMが二度輝き、その祝福(レアスキル)を放つ。

 

「CHARMを交わしなさい!レアスキル、カリスマ!」

 

 周囲のマイナスのマギをプラスのマギへと還元するレミエのレアスキル:カリスマ。

 そう、周辺は衣緒里が築いたヒュージの骸の残骸が山積みになっている。

 その肉体のほぼ全てをマイナスのマギで構成しているヒュージの骸は死を迎えると時間と共にマギへと還るのだ。

 ヒュージの骸から湧き上がるマイナスのマギを還元し、青く輝くレミエのCHARMの切っ先を衣緒里は未だ燃え盛るCHARMで受け止めた。

 再び吹き上がる超高熱のマギの奔流、衣緒里の背とCHARMから吹き上がるそれは、再誕する不死鳥のよう。

 

「一撃でブチ焦がす……!」

 

 グンタイアリクイが本物のアリクイのように後脚の二足で立ち上がり鋭利な爪を広げ威嚇のように立ちはだかる。

 それを狩り殺さんと四足獣のように身を屈め、突撃の姿勢を取る衣緒里。

 一瞬の視線の交錯。

 ルルディスの激励が決戦の火蓋を切った。

 

「イオリさん!頼んだわ!」

「ウジャァァァァァ!!!」

 

 衣緒里が獣のような雄たけびと共に駆け出す。

 レアスキルによる初速からのトップスピードの加速。それがグンタイアリクイが剛爪を振り下ろすよりも早くに懐に飛び込み、(はらわた)へと刃を突き入れた。

 だが衣緒里の猛突は止まらない。

 突進の衝撃に浮いた巨体を刃に突き刺したままさらに加速。ムラマサの切っ先がその背を貫通し担ぎ上げながらもさらに加速。

 ヒュージの背から生えた切っ先は更に熱量を増し、山吹色に輝く。

 

「まだ!終わりじゃねぇぇッ!」

 

 レアスキルにより市街地にそびえる高層のビルの壁面を駆けあがり、重力の軛に抗いながらもさらに加速。

 炎の翼をはためかせ天へと駆けあがるその姿、それは民を守り平和をもたらす守護天使(シュッツエンゲル)そのものであった。

 

「これで終わりだ!焦熱の(バーナー)……!」

 

 勢い余り衣緒里が空へと駆け出す。

 地上数十メートル。そこにはこの特型の餌となるヒュージの姿は無い。

 CHARMの放つ炎は最高潮に燃え上がり、昼間であるのにも関わらず二つ目の太陽のように光り輝く。

 

掘削刃(バンカー)!!!」

 

 衣緒里の雄叫びと共にムラマサの刃から放たれた炎の嵐が天に上るほどの炎柱を聳えさせる。

 山吹の炎は超高熱の証。凡そ三千五百℃の超高熱は、耐熱性の高いタングステンと玉鋼の特殊合金からなるムラマサの刃であるこそ耐えられる。

 だが、ヒュージはその限りでは無い。

 鋼のような硬度をもちつつも、生体組織である限り有機的な組織は含まれる水分と炭素の性質からは逃れられない。その炎の熱に耐えられたのは数瞬、瞬く間にマギと炎の奔流が皮膚を、筋肉を、神経を、臓腑を、骨髄を焼き尽くす。

 炎の奔流が放出しきり、ムラマサの切っ先射止められていたグンタイアリクイはかろうじて原型をとどめた、がらんどうの炭の塊であった。

 やがて文字通りの消し炭となった残骸を刃を衣緒里が振るい叩き割る。

 数秒前まで生命活動を行っていたそれが粉々になり、風に靡きやがて消えていった。

 ムラマサから吹き出る炎が大気に溶けていく。起動限界が来たようだ。

 CHARMの起動限界が来る前にビルの屋上に華麗に着地……することは出来ずによろめき大の字に倒れた。よろめく脚でなんとか上体を起こし一息を吐く。

 

「ブチ焦がしたぜ……」

 

 寝転がったまま城塞都市の方向に目を向けると、リリィが遠征の際に使用する航空機(ガンシップ)がこちらに飛んできている。

 今頃になって救援が来てくれたのだろうか。シスターの奴は仕事をやり遂げられたのだろうか。それが心配であった。

 航空機の外線用スピーカーから聞き覚えのある声が聞こえる。

 

『こちら第1飛空艇団ミカエル!只今よりヒュージの掃討に当たる!レミエ、私だ!お姉ちゃんが来たぞぉぉぉ!!!』

 

 最後の方は完全に絶叫であった。

 アルテアだったか。レミエの姉ちゃんじゃねぇか。

 心配なのは分かるが、私情丸出しじゃねぇか。

 ……あれ?パツキンの奴、確か姉に何か苦手意識を持っているような感じだったが、まさか……

 

「ごめんパツキン。やっぱりあたし、姉ちゃんはいらないかも」

 

 どっと吹き出した疲れに身を任せ、今度こそ汚れたセメントの床に預けた。

 




衣緒里ちゃん
久しぶりの超本気モードで切り札であるB型兵装を使用した。
やっぱりお姉ちゃんはいらないかも。

千秋
今回は連絡中継担当
百合ヶ丘に撤収後、衣緒里ちゃんが無茶な使い方をしたムラマサのオーバーホールをする羽目になる。

アンナマリア
勝☆利
カウンタースナイプにおいても湯気の中を通してなおも狙撃を成功させるのは完全に実力です。

レミエ・ルルディス
実質今回の作戦の外部協力者
結構かっこよく活躍させられたと思います。
この二人、もうちょい公式様は活躍させて欲しいです。情報が欲しいです。

アルテア・アレッサンドリーニ
メルクリウスの暴君、暴れん坊将軍お姉ちゃん。
妹を大切に思う気持ちは人一倍で仲良くしたいと思っているのだが、だいたい空回り気味。
他校に彼女?がいる。

ドロシー・ヴァレンティア・マッカートニー
今回のヴィラン
リリィ時代の経歴は二水ちゃんが調べてくれた通り。
狙撃に自信ネキであったがそれは結局のところ、自分が駆け抜けたリリィとしての戦場の青春に固執し、年若き才能に嫉妬するコンプレックスから来るものであった。
この後にメルクリウスの学園都市で尋問を受けるが、途中でヴァチカンから介入により何処かに連れ出される。
その行方はわかってはいない。















・グンタイアリクイ
横須賀近海に出現したケイブより発生したミドル級の特型ヒュージ。
対処に当たった三人のリリィが便宜的に命名した。
おおよそのオオアリクイと同じ身体的特徴を持ち、嘴のような口吻と両手に鋭利で巨大な爪を有し、身の丈に合わない俊敏な動きが特徴。
最大の特徴は他ヒュージを捕食する事である。
しかし、それは捕食というよりも補給しているという解釈の方が自然である。
現に対処に当たったリリィが複数回の攻撃を行った際に逃亡。逃亡先にいたアリ型ヒュージであるグンタイアリ捕食した際、損傷を与えた箇所がより強固かつ肥大化して再生されたとの報告がある。
出現時の対処としては、周囲に他ヒュージがいない箇所に誘導し迅速に撃破されたし。

・B型兵装次世代型ヒートエッジ
私立百合ヶ丘女学院の二年生、霞千秋が設計したCHARMであるAC-21ブリューナクREムラマサ/Ⅱに内蔵された改良型B型兵装。
銃身部を閉鎖し内部にマギを超高密度に圧縮し、それを時間経過と共に放出することで、刀身は超高熱のマギを纏う灼熱の刃と化す。
背中から吹き出る翼のように見えるマギの奔流は、使用者が制御しきれないマギを強制的に体外に排出することで発生している。
刀身が超高熱化することでヒュージの堅牢な装甲を、文字通りの意味で焼き切ることが出来る。
副次的な効果としてヒュージの生体組織を焼く潰すことで、有毒なヒュージの体液の拡散を抑制する。
術式(プログラム)には明らかに無駄となっているコードが複数行含まれている。これは本来別の術式に組み込まれていた物を抽出した物なのではないか?

・焦熱の掘削刃
ヒートエッジを起動中にCHARMの炉心をオーバーロードすることで起動させる衣緒里の『必殺技』
刺突と同時に超高熱のマギを対象に浴びせ、衣緒里曰く「ブチ焦がす」
どれだけ既存生物からかけ離れようとも水分と炭素を含む有機体であれば、突き刺した対象を内部からそれを焼き尽くせるのだ。
これは明らかに真榊衣緒里個人が会得している技術では無い。現にヒートエッジの術式にはこの技術を使用するためのコードが含まれている。

次回、後処理
   もうちょっとだけ続くんじゃ
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