辺りには巨大な刃物で抉られたかのような爪痕が幾つも走り回り、少し注意を向ければ砕けた金属部品らしきものが陽光を受けてキラリと輝く。幾度もヒュージとの戦闘があったのであろう。戦闘の痕跡と思われる箇所は、最近刻まれたばかりのものや、雨水が溜まり苔が萌えている箇所もあり、経験あるリリィはかつての激戦を想起することだろう。
在りし日の牙城が再び護国の砦としての役割を担うことについて、この地に眠る武士達は何か思う所もあるのではないだろうか。
「盛者必衰、驕れる者は久しからず、というものでしょうか。こんなにも跡形もなく朽ちてしまっては、かつての栄華に思いを馳せることも出来ませんわ」
「でも時を越えて、時代を超えても誰かを守るために使われ続けるってなんだか素敵な感じがします」
「そういうものでしょうか……日本人の感性にはイマイチ共感できませんわ」
脱走したヒュージの討伐────恐らく熱心に世話を焼いてくれている友人の不始末を任せられた夢結が、二人の新人達とかつての要塞跡を歩いていた。
空を見上げると、学園を出発した頃には柔らかい朝日で三人を照らしていた太陽が、いつの間にか頭上にて輝いている。探索を開始してから数時間は経っているようだ。────一人で出立していれば、探索にこんなにも時間を割かなかったのではないか。
そんな夢結の不満を露知らず、桃色の髪の新人が遠くを指差した。
「あ、あそこに誰かいます!」
梨璃が指を指した方向の数百メートルほど先に人影が見えた。目を凝らすと、ゴシック調の百合ヶ丘の制服姿が見える。服装のシルエットから工廠科の生徒で、背中にCHARMケースを背負っていることからおそらくはリリィだろう。自分たち以外にもリリィが出撃していたのだろうか。こちらに気付いたのか、リリィらしき人影がこちらへと駆けてくる。
「はぁ、このままでは埒が明かないわ。彼女と合流するわよ」
「あら、あの方は……」
「千秋さん!?」
少々必死な形相でこちらへと駆けてくるのは、今朝方に二人が校門前で別れたはずのアーセナルの卵、霞千秋だった。
梨璃と楓が顔を見合わせた。出撃する数分前に、学友が一人探索へと向かった先がいつの間にか危険地帯になってしまっていたことを完全に失念していたのだった。
「知り合い?」
「はい、今朝出会ったばかりの私たちと同じ新入生でアーセナル志望の方の筈ですが、荷物を落としたから探しに行くって言われてて……」
楓が梨璃に合わせて相槌を打った。
「ヒュージが出現しているのにリリィでもない新入生が出歩いていたということ!? なんでそれを早く言わなかったの!?」
「今朝の決闘騒ぎで完全に忘れておりましたわ……」
呆れ半分に二人の後輩へと声を荒げる。
「私達が気付かなかったら、彼女はヒュージが闊歩する山の中で一人立ち往生する羽目になっていたかも知れないのよ。少しはリリィとしての自覚を持ちなさい」
「うぅ、面目ありませんわ……」
「一柳さん、あなたもよ。聞いているの?」
彼女にしては珍しい後輩への熱心な指導を尻目に、梨璃はこちらへと駆ける千秋の方向から目線を外そうとしていなかった。
「何か来てます……」
「何がですの? 千秋さんがこちらに走って来ているのは見えていますわ」
楓が額に手を当てて目を凝らすが、こちらへと駆けてくる千秋以外に特に目につくものは見えない。
「いえ! 千秋さんを追って後ろから"何か"が来てます!」
「助けてぇぇぇ!!!!」
千秋が悲鳴の悲鳴が耳に響くのと、CHARMを構えた夢結が飛び出したのはほとんど同時だった。
血潮のように身体を巡るマギの流れに身を任せ、およそ百メートルは開いているであろう距離をその健脚で刈り取る。稲妻のような速度で千秋の頭上を飛び越して躍り出た夢結が、CHARMを叩きつけるかのように振るうと、彼女の腕にリリィとしては嫌でも慣れ親しんだ感覚が伝わってきた。
マギにより硬度を増した特殊金属の刃とヒュージの生体装甲がぶつかり合う。激突の衝撃で周囲の景色に溶け込んでいたその姿が露わになる。白い無機質な球体状の本体から、有機的な動きを感じさせる巨大な鎌のような手足を生やした怪物、ミドル級のヒュージだ。
その名に恥じない大質量による突撃が、夢結によって強制的に止められたことで、衝撃が辺りに弾けた。
「ぎゃァァァ!? ぶべっ!」
およそ乙女とは思えない悲鳴を上げながら千秋は顔面から地面に着地した。
「あなたの知り合いのリリィも来ているわ! 早く逃げなさい!」
「だ、誰!? 私助かった!? 知り合い?それってもしかして……」
ヒュージの体内から撃ち出すように伸ばされたケーブル状の触手を夢結が切り払うと、先端の短槍の状の鋭利な突起物が千秋の頬を掠めて飛んでいった。
「速く!」
「ひぃぃぃぃ! あ、ありがとうございますぅ!」
夢結へ礼を叫ぶと一目散に背を向けて駆け出した。
飛び出した夢結を追って来た二人のリリィ、千秋にとっては今朝方出会ったばかりの新しい友人たちが走り寄ってきた。
「うわぁぁぁん! 梨璃ちゃんとヌーベルさんだぁ! ありがどぉぉぉぉぉ! 助けに来てくれたんだねぇ!」
並んで走ってきた二人へ飛びかかるように千秋が抱きついた。抱きしめるその両手は、恐怖のせいか極度の緊張が解けたせいか、何れにせよ痙攣するかのように激しく震えていた。土地勘もなく一人山の中を彷徨っていた中で、怪物に襲われたのだ。その恐怖は容易く察せられるものではない。
しかし、顔を汗や涙でぐちゃぐちゃに染め上げ、泥で化粧を施されながら抱きつかれるのは溜まったものではない。
「ちょっ! 離してくださいまし!汚ッ!ばっちぃですわ!」
楓が梨璃へと押し付けるように熱い抱擁を振り解いた。
「梨璃さん! 千秋さんをお願いしますわ! 私は夢結様の援護へと向かいます!」
「は、はい。わかりました!」
白銀の輝きを放つCHARM・ジュワユーズを構えると、楓は宙を羽ばたくように飛び出していった。
およそミドル級と称される個体と言えども中々に強力な個体のようだ。体内から大量の触手を伸ばされればCHARMの刃は届かず、弾丸を放てば触手が分厚い壁を形作り、その守りを貫くことは容易ではない。まるでリリィとの戦い方を理解しているかのようだ。
「夢結様! 援護いたしますわ!」
意気軒昂に高らかな声を響かせて宙を鮮やかに舞う彼女の手中で、CHARMの刀身部が中心から二つに裂けた。柄を中心として円環状に走るフレームの側面部へと開くと、刃と言う名の蕾に秘された砲身が露出し、洋弓状の射撃形態への変形が完了した。
「これでも食らいなさいな!」
数瞬の間に銃口が幾発もの火を吹き、マギの弾丸がヒュージへと炸裂する。堪らず頭上を舞う羽虫を撃ち落とさん、とヒュージが大鎌のような脚部の一つを振りかぶり投げ放つ。
いかにリリィといえども空中で自在に回避する手段は多くはないことを見越しての一手であったが、射撃の反動を逆に活かし空中でなお体制を整えていた楓は、不意打ち気味に放たれた刃を体幹を捻ることで優雅に回避し、お返しとばかりに反撃の弾丸を叩き込んだ。
着地と同時にCHARMを一振りすれば刀身部が折りたたまれ、瞬時に近接形態へと移行する。脚部による攻撃は予備動作から容易に軌道が察せられ、触手による攻撃は射撃により撃ち落とされる。夢結のCHARM・ブリューナクよりも簡素に見える変形機構により、二つの形態を高速で切り替えられる楓とは抜群に相性が悪いようだ。
振りかぶった脚部と巨体の隙間に潜り込んだ楓が、CHARMの刃を装甲の薄い関節部に突き立てた。悲鳴のような金切り音がどこにあるかも分からないヒュージの口から漏れ出た。
なるほど、大口を叩けるだけの実力はあるようだ。
二人の強襲者を同時に相手取ることを不可能と判断したヒュージが、四肢と触手を暴れるように振り回し楓を振り払うと、その巨体に見合わぬ軽快さで空高く跳躍した。
「逃げるおつもりですの!?」
「いえあれは……!」
空を転がるように飛んでいく軌跡の先には、
「うぎゃぁぁぁぁ! こっち来てるぅぅぅ!!?」
待機形態のCHARMを抱えた梨璃の背で隠れるように縮こまっている千秋が既に何度目かわからない絶叫を上げた。
梨璃は抱えているCHARM・グングニルを必死に起動しようとしているようだが、柄に取り付けられたマギクリスタルコアには未だに光が宿らない。
眼前に土煙を巻き上げて着地したヒュージが悠悠と脚部の刃を振りかぶる。迫る凶刃を目にした梨璃はCHARMの起動を諦め、背中に縋り付く千秋と共に横に倒れ込むと、先程まで二人の首が座っていた空間を白い刃が通り過ぎる光景が目に入った。
今度は上方へと振り被られた脚部が、倒れ伏す二人へと鋭く振り下ろされる。思わず目を瞑り怯える二人だが、肉を貫かれる痛みも衝撃も襲っては来なかった。
「夢結様!」
赤い火花が散った。
二人が目を開けると、ヒュージを追ってきた夢結が二人に迫る凶刃の間に割り込み、CHARMの側面部で刃を受け止めていた。
「ぼさっとするな! 早くCHARMを抜きなさい!」
「それが……! CHARMが動かないんです!」
「えぇ!?」
思わず夢結の端正な顔に苛つきが浮かぶ。一瞬の隙を手にしたヒュージが後方へと後退りその身をぶるりと震わせると、白い水蒸気のような煙が巨体から吹き出した。
「どどど、毒ガス!?」
「いえ、ただの煙幕みたいね。でもこれは……」
瞬く間に辺りが煙幕のベールに覆われると、真昼間にも関わらず数メートル先も禄に視認できない。これでは響く声でしかお互いを確認する術はない。こうなってしまえば方位も見当が付かず、ヒュージも夢結に置いていかれた楓も見失ってしまう。
「うっへぇ、これがホントの白昼夢って?」
「冗談を言える余裕はあるみたいね。ところで一柳さん…………あなた、まさかCHARMとの契約も済んでいないのについてきたの?」
梨璃が目をパチクリと瞬かせた。
何を問い詰められているのか分かっていないようだ。
空気を読まずに地べたで胡座をかいていた千秋が得意気に口を開いた。
「CHARMって使用者の体液……大概の場合は血を記録させて、主機のマギクリスタルコアとの契約を結ばなきゃいけないんだよ。さっきからCHARMが起動しないのはそのせいじゃないかな……って後ろっ!?」
基本中の基本だよ。と続けようとする千秋を、いつの間にか夢結の背に浮かび上がっている巨大な影が許さなかった。
千秋の目線の先、自身の背後をCHARMで振り向きざまに斬りつけようとするその時、梨璃が夢結に抱き着いて引き倒した。
「駄目です夢結様!」
完全に意識の外から働いたベクトルに思わず体制を崩し夢結が梨璃と共に倒れ込む。
「何をするの!?」
夢結が怒声を張りながら振り向くと、そこには先程の煙に浮かぶ影は見当たらなかった。
「これでトドメですわ! って夢結様!?」
ヒュージに代わって矢のように突撃してきたのは、先ほど分断されたはずの楓だった。鋭い針状の刃の切っ先を、槍のように突き出して突進してきたのだ。梨璃が夢結を引き留めていなければ、今頃どちらかが血を流す羽目になっていだろう。
一拍遅れて霧状の煙幕は晴れヒュージが現れる。しかし、輪郭の一部が周囲の風景と見分けがつけられない。また周囲の景色に溶け込むつもりだろうか。
こちらはCHARMを使えない新入生
情けない悲鳴を上げてばかりの非戦闘員らしきアーセナル
中等部時代から、数多の実績を獲得してきた大物新人
一通り現在の戦況を確認した夢結は、自身の下に倒れ伏す梨璃の制服のボタンに手をかけて毟り取った。
「ひゃっ夢結様なにを!?」
「一時退却よ」
ボタン型のフラッシュグレネードがその場に叩きつけられると、目を刺すような鋭い閃光が辺りを包みこんだ。
爆音と閃光が晴れる頃には、依然として健在なヒュージが一体ぽつんと取り残されている。
獲物を逃した憤りなのか、金属を擦り合わせたような不気味な雄叫びが辺りに木霊した。
「行ったみたいね」
辛くも逃げおおせた四人は、樹木と岩の影に逃げ込んで休息を取っていた。
「この二人に関しては紹介はいらないみたいね。私は白井夢結よ」
「あなたが夢結ちゃん!? 真島さんからお話はよく聞いてるよ。霞千秋です、よろしくね!ホントにありがとう! 私のことを探しに来てくれたんだね!」
千秋が夢結の片手を取ると両手で掴み、握手のつもりかぶんぶんと振り回す。
「真島……あぁ、あなた百由の知り合いなの?随分と気安いのね。……学園から脱走したヒュージを追ってきたのよ。あなたみたいな迷子がいるなんて報告は、つい先程この子達から受けたばかりだわ」
どうやら共通の友人がいるらしい。
夢結が新人達に視線を促すと、二人は気まずそうに目を背けた。
「え、えぇ……? き、聞かなかったことにするよ。でも助けてくれてありがとうね」
顔を引きつらせるも再度感謝を述べる。自分が忘れられていたことを気にしたくはないようだ。
「で、この後はどうしますの? いくら新入生主席の私と夢結様が揃っていても、相手は未確認の能力を持つ特型ヒュージを相手にして、非戦闘員のアーセナルとCHARMも起動できていないド素人を庇いながら戦うのは容易ではありませんわ」
議題に挙げられた梨璃が、悔し気にスカートの裾を握り締めた。何か言いた気に口元をもごもごとさせている。
「自重すべきではなかったのではなくて? 自分の身の丈に合わない行動で、周りが迷惑を被るのは想像出来なかったのかしら?」
「で、でも……」
「ヌーベルさん、その辺にしておきなさい。彼女を連れて行くと決めたのは私で、彼女がここまでの初心者であったことを見抜けなかったのも私です。責めるなら私を責めなさい。それに……あなたは一柳さんにお礼を言うべきよ。彼女がいなかったら今頃あなたは真っ二つだったわ」
光学迷彩のような擬態能力に、ガスによる目くらましや同士討ちを狙うかのような立ち回り、それらの行動は既存のヒュージの範疇にはない知性を感じさせる。このような窮地に陥ったのは梨璃と千秋のせいでもあるが、最悪の展開を免れられた要因は少なからず梨璃の観察眼の力添えによるものでもあった。
「ふん。……貴方、眼は良いみたいですわね」
「あはは、田舎者なので視力には自身があるんですよ」
夢結が岩肌に立て掛けていたCHARMを楓の前にかざした。
主機となっているマギクリスタルコアの結晶部は弱々しく点滅し、機体の節々から所々に火花が飛んでいる。
「さて、楓さん先程の分析は一つ外れているわ。受けどころが悪かったのか、見ての通り私のCHARMは故障中よ。何れにせよ。あの煙幕の中では一柳さんの眼だけが頼りだわ。やるべきことは一柳さんのCHARMの起動を完了させて、最低限の戦力を確保することよ。撤退すべきか討伐作戦を続行するかはその後に決めましょう」
CHARMの側面部から見て取れるヒビに気付いた梨璃が目を逸らした。損傷の位置からして、倒れ伏す自身への攻撃を庇った際の故障だろう。
「作戦会議中にごめん。実はB案があるよ」
ここまで口を閉じていた千秋が口を開いた。背負っていたCHARMケースを地面に置きジッパーを開くと、革製のケースに秘められていたCHARMを重そうに取り出した。大柄な刀身と銃身を歯車型の変形機構を用いて鍔元のコアで束ねたようなCHARMが姿を表す。刀身部は日本刀を思わせる鈍色の重い輝きを放ち、峰にあたる刃の背部に砲身が組み付けられたCHARMだ。シルエットは少々異なってはいるが、夢結の愛機と並べても各ユニットの構成要素には大差がないようには見える。
これが校門前で楓に見せたいと言っていた代物なのだろうか。
「夢結ちゃんのCHARMのコアを私のCHARMに移植する。こうすれば夢結ちゃんも戦線復帰できるでしょ?」
「あなた正気ですの? コアの移植なんて繊細な作業、専用の設備が無ければおいそれと出来るものではありませんわ!」
マギクリスタルコア────それはCHARMの主機となっている超高性能演算装置だ。その取り扱いは繊細で、戦闘中の損傷は生命線を絶たれる事と同義であり、平時であってもその取り扱いは細心の注意を払わなければならない代物だ。
「前にコアをアタッチメント化して戦闘中に付け替える人達を見たことがある。やれない訳じゃあないよ」
「御台場女子のような戦術の話ですか? あれは専用規格のシステムや共通機構を搭載しているからこそ可能となっているのですわ! 全てのCHARMがボルトオンパーツで組まれている訳では御座いませんのよ!? そもそもコアを換装した所で動作する保証はありま……ひぃっ!」
捲し立てる楓の胸元に腕が伸ばされた。千秋が楓のブラウスを無作法に掴み上げたのだ。予想もしていなかった非戦闘員の凶行に楓が短い悲鳴を上げた。
「うるさいなぁ……私は出来るか出来ないかの話なんてしてないんだよ。やるのかやらないのかの話をしているんだよ」
楓の頭が影となっており千秋の表情がよく見えないが、先程までの情けなさを隠さない茶化したような態度は鳴りを潜め、低く唸るような声色からは機嫌が良くないことだけは察せられた。
「出来ようが出来なかろうが、やらなきゃいけないんだったら私は絶対にやり遂げるよ。それとも……あんたは違うの?」
そう言って千秋が襟から手を離すと、楓は腰が抜けたのかぺたんと尻餅をついた。
「って、あぁ〜! グランギニョルの御令嬢に喧嘩売っちゃったぁ!? どうしよう、アーセナル人生いきなり大ピ〜ンチ!」
露わになった千秋の顔は、先程までの気の抜けた表情とは変わりなかった。えらいこっちゃ、えらいこっちゃと頭を抱える千秋に気を取り直した夢結が声をかける。
「こちらのCHARMはユグドラシル製のブリューナクよ。でも、整備や修理のために一部に非純正の部品や汎用品が使われてるかもしれないわ。どう、やれそうかしら?」
「問題なくいけると思う。こっちのCHARMはユニーク機だけれど、変形機構とメインフレームの一部は夢結ちゃんの使ってるブリューナクと同型の物を流用しているの。たまたまだけどね。だから使い勝手はあまり変わらないと思うよ。どうする?」
夢結が目を閉じて暫しの間逡巡するが、やがて口を開いた。
「先ずは一柳さんにCHARMを起動してもらいましょう。あなたの眼が頼りよ。CHARMさえあれば最低限の自衛は出来るわね?」
「はい!」
夢結に頼られたことが嬉しいのか、梨璃が少し嬉し気に返事をした。
「霞さん、コアの換装にはどれ程時間がかかるの?」
「逆に梨璃ちゃんのCHARMの起動がどれ位かかるか知りたいな。それに合わせる次第だね」
「5分……いや10分程度かしら」
「了解。こっちもそれぐらいには仕上げるよ」
先程までの情けない態度とは打って変わって頼もし気な声色だ。何処から取り出したのか調整用の簡易端末を小脇に抱え、工具を両手の指の間に挟んで準備は万端といった様子である。
地面に座り込んで惚けている楓に声がかかった。
「最後に楓さん、その間の護衛を頼むわ」
「CHARMの契約には血が必要よ」
梨璃の腕には先程転けた際に右腕に出来た傷から血が滴っていた。夢結がCHARMを手に握らせると滴る血が腕を伝い柄を伝い、やがて契約の指輪へと流れ着く。
血を流す腕を抑えながら痛みを堪える。
その可愛らしい顔を曇らせているのは痛みだけではない。
これまでの間、親切な学友や、かつての恩人であり憧れのリリィである夢結の足を引っ張り続けた後ろめたさが彼女を苛むのだ。
千秋は計器に目をやりながら工具をせわしなく動かしている。大口を叩いていただけはあり、整備を進める手には迷いが無い。
岩肌に並べられた二本のCHARMのコアには、それぞれ数本のケーブルが小型の端末へと繋げられており、細かい数字が液晶の上で踊っている。
「換装作業は問題なく終了。夢結ちゃん、こっちはいつでも行けるよ」
どうやら楓の心配は杞憂に終わったらしい。
千秋がスパナを握りながら、楓に向かってVサインを送った。
「どんなもんだい!ちゃんとやり切ったよ!」
「えぇ、平時であればあなたの腕前に賛辞を送りたかったのですが、そうは問屋が卸してはくれなさそうですわね。来ますわ!」
楓が声を張り上げると、辺りには例のヒュージが放ったと思われる煙幕が立ち上り、たちまち視界が白く染められる。
「千秋さん!」
「オーケー!持っておいきなさ~い!」
緊張感がまるで感じられない声と共に夢結へとCHARMが投げ渡される。グリップを握ると同時に主のマギを受け取ったコアにルーンが輝く。数回も手に馴染ませるように振ればブリューナクと勝手はあまり変わらない。なるほど、刀身が愛機より少し短く全体的に重量が感じられるが誤差の範囲だろう。戦闘には支障はない。
少々頼りのない風体のアーセナルのようであるが、夢結のお抱えのアーセナルである百由の身内ならば腕は確かなのだろう。
「夢結様、前から来ます!」
梨璃の声に応え戦場に一歩踏み込むと、警報の通り前方から煙を裂きながら巨大な大鎌のような刃が迫りくる。受けどころが悪ければ先程の様にCHARMが損傷しかねない。
しかし、夢結は迫りくる硬質な刃を真正面から受け止めると、刃の鋭利さに腕を任せてそのまま断ち切った。
先程までは装甲の薄い関節部や触腕を狙わなければまともにこちらの攻撃を通せなかったが、千秋のCHARMはヒュージの生体装甲、特に攻撃に使われる硬質な部位をものの見事に断ち切ったのだ。
「凄まじい切れ味ね……このCHARM、名前は?」
「【ムラマサ】!」
「いい名前ね。ムラマサ、少しの間力を貸して貰うわよ!」
煙の幕の中では夢結が振るうムラマサの銀閃と、楓のジョワユーズの物と思われるマズルフラッシュが閃く。
(わたし、何もできてない。悔しい。早くCHARMを機動しないと……このままじゃ、ただの足手まといのままだ……)
CHARMがなかなか起動しない焦りから自虐的な考えに陥ってしまう。
不安気にCHARMを掴むその手に、背後から抱き締めるように千秋のゴツゴツとした硬い手が重ねられた。
「私の相棒……友達が言ってたよ。夢結ちゃんってとっても凄いリリィなんでしょ。そんなすごい人に"あなたが頼り"なんて言われたんだからもっと自信を持っていいんだよ」
「でも……それは千秋さんだって夢結様のCHARMを任せて頂いていたじゃないですか……」
「そうだよ。私も夢結ちゃんに任されて、自分が出来ることはやりきった。だから次は梨璃ちゃんの番だよ。大丈夫、梨璃ちゃんならきっと出来るよ」
梨璃の持つCHARMのコアに黄金の軌跡が走った。CHARMが担い手を認識し主と認めた証、バインドルーンがコアに宿ったのだ。柄の部分からメインフレームがスライドし、グリップシャフトが伸縮、折り畳まれていたブレードが展開され細身の長剣へと変形を完了した。
グングニル
第二世代と呼ばれるCHARM群の一つであり、その中でも傑作機と呼ばれる代物だ。頑強で故障しにくい質実剛健な造りであり、初心者にも容易に高速変形が行える設計に加え、豊富なアタッチメントによる機能拡張も可能という正に万能機だ。
「き、起動しました! 千秋さん、わたし……」
「皆まで言うな! ぶちかまして来なさい!」
「……はい!」
しかし、戦場に勇み立ち飛び込んだ梨璃の眼に飛び込んできたのは、想い人の夢結が大量の触腕に絡め取られて打ち上げられる光景だった。
リリィには防護結界があるため即座に絞め殺される訳ではないだろうが、このまま行けば夢結が圧殺されかねないことは想像できた。
思わず叫びそうになるの堪える。
今の私は「リリィ」なんだ。
パニックになっちゃ駄目だ。
あの夢結様が私に任せるとおっしゃってくれたんだ。
夢結様が信じてくれた自分の眼を信じるんだ!
触腕の根本を眼で辿ると、根本である本体が霧に隠れながらも確認出来た。先程夢結が真っ二つに斬り裂いた一つに加え、その対角線から生えた脚部がもう一本無惨に砕かれている。
脚部の損傷に加え、楓と夢結の波状攻撃により消耗が激しいのか動きが鈍い。
夢結を捕えた攻撃は、ヒュージが最後の力を振り絞っての反撃だということは予想できる。
「楓さん!」
「そんなに声を出さなくても聞こえていましてよ」
名実共にリリィとなった梨璃の背後に、いつの間にか楓が背中を合わせるように立っていた。
「おそらくあのヒュージはもう殆ど動けません! だから! 私と楓さんの同時攻撃で夢結様を解放します!」
先程まで震えていた梨璃が、逞しく言い切る姿に面食らうも直ぐに切り替える。
「いい表情になりましたわね。一撃でしてよ! それ位ならできまして?」
「当然です!」
二振りのCHARMの切っ先が槍のように構えられた。
狙いはただ一つ、夢結を捕えた触腕が束となっている箇所だ。
雄叫びを上げながら二人のリリィが、刃を携え一直線に突貫する!
「「やぁぁぁぁぁぁ!!!」」
束ねられた刃による突貫が触腕の束に風穴を空けた。ケーブル状の触腕が弾け、内部を循環していたヒュージの体液が辺りを染める。
宙に浮かぶ触腕の牢獄から開放された夢結が、千秋から託されたムラマサを大上段に構え、守護天使が如く舞い降りる!
「はぁぁぁっ!」
渾身の斬撃はヒュージの巨体を両断し、勢い余って断崖の壁面へと吹き飛ばした。
「「やったぁ!」」
楓と梨璃が宙を舞う夢結の勇姿に歓声を上げた。
しかし、喜びも束の間、辺りに地響きのような振動が起こった。空から小粒の石がぱらぱらと降り落ちる。相当な重量のあるヒュージが背の高い岩盤を激しく打ったせいか、梨璃の目には煙幕で制限された視界の中で前方にそびえる岩肌にぴしり、ぴしりとヒビが入っていくのがかすかに見えた。
「崩れるよ! 逃げてっ!」
背後から千秋の叫びが聞こえる。
楓の近くに巨大な岩石が降り落ちた。頭上を見げれば削剥された岩石とヒュージの青褪めた体液が雨のように降り注ぐ。崩落する大岩の恐怖で楓は足が竦み動けずにいるようだ。
「楓さん! 危ない!」
胸元をどん、と強く押される。降り注ぐ岩石で視界が埋め尽くされる中、最後に楓の眼に映ったのは、梨璃が自身を両手で思い切り突き飛ばそうとする光景だった。
百合ケ丘女学院の保健室と呼べる規模の設備ではないメディカルルームは校舎の一つに併設されている。
工廠科はリリィの主兵装たるCHARMの整備や製造を学ぶだけでなく、未だに未知の部分が多いマギ工学やリリィやヒュージの生態についての研究も行っている。普通科と呼ばれるリリィの育成に特化した学舎ではなく、理工科と解析課からアクセスしやすい立地となっているのは実学のためでもあるのだろう。
21世紀初頭にヒュージが確認された頃に比べ医療機器や技術は大いに発展した結果、基本的な教育を受けた人材と最新の医療機器さえあれば、ティーンの学生でも簡単な外科手術が出来てしまう時代となってしまった。
ヒュージと人類の戦争によって発展した技術の中には、医療に関する技術が少なくない。
人口減が喫緊の課題となっている現代においては、人手不足なリリィの生存率を引き上げることは当然だが、一般市民の生存率を高めることも重要な課題であった。
侍がいかに武勲を立てようとも穀物は育たず、騎士がいかに武勇に優れようとも家畜は肥えないのだ。
一柳梨璃が目を覚まして最初に目にしたのは、彼女の知らない天井であった。
布団を捲り上半身を起こすと美しい夕焼けがあたりを照らしている。体に目をやると医療用の貫頭衣のようだ。どうやら意識のない間に着替えさせられていたようだ。
最後の記憶は崩れ行く土砂に巻き込まれんとする楓を咄嗟に突き飛ばした所で止まっている。
人を呼びに行こうとベッドを降りようとすると、体重をかけた右腕に鋭い痛みが走る。二の腕に包帯がきつく巻かれていた。
「ごめんなさい。傷、残ってしまうみたいね」
先に目覚めていた白井夢結が、いつの間にかベッドの脇に置かれた椅子に腰掛けていた。
彼女の視線は梨璃の右腕に向いていた。懺悔か後悔か、何れにせよその表情は暗い。
「でも……これで今日のことは忘れずに済みます」
夢結の顔が痛ましく歪む。
後輩の健気な態度に自虐心を抱いてしまったのだろう。
完璧主義的なきらいのある彼女にとっては、あれほどの大衆達を前にして"守れる"と答えた手前、この体たらくが許せないのだろう。
「私、甲州撤退戦線で夢結様に命を助けていただいたんです。百合ケ丘のリリィだってことだけはなんとか分かったんですが……」
梨璃の唐突な告白に驚く。
「まさか、あなたそれだけでこの百合ケ丘に?」
はい、と静かに答えた後輩を前にして彼女の心境は複雑であった。その表情は何処か痛ましい。
「百合ケ丘に来て夢結様にお礼を言えて、これで夢が叶いました。……そういえば夢結様、CHARMを変えられたんですか?今日使われていたCHARMは、甲州で使われていたものとは違う物みたいですが……あっ千秋さんのムラマサってCHARMのことではないですよ!」
口を噤む夢結に居心地の悪さを感じた梨璃が話題を変えようと切り出したが、夢結の顔は耐えるかのように悲痛に歪む。
「そ、それは……それは……!!」
チン!
気の抜けた電子音が鳴ると、美しい夕焼けに照らされていたように見えていた部屋が、白無地の無機質な部屋へと様変わりした。どうやら白地の壁面に風景映像を投影していたようだ。
「やーやー!二人共ごめんね!初めまして!私、真島真由!苦労して捕まえてもらった検体のヒュージをうっかり逃しちゃってさ。まさか500mmの鉄筋コンクリートをぶち抜いて逃げ出すとは思わなかったよ!」
入室してきたリリィが、空気を読まずに早口でまくしたてる。
謝罪と自己紹介と言い訳を一呼吸で行うのは、はたして如何なものだろうか。
「あなた、本当に……いえ、言っても無駄ね。でも少しは危機管理に気を付けなさいよ」
夢結の声は梨璃達と話していた時と違い、旧知の仲なのか親しげで遠慮がない。
「真島百由様……?ひょっとして千秋さんの言ってた……」
続く言葉を差し止めるように手をかざすと、その場でくるりと周り大仰に見えを切った、
「そう!この私こそ、百合ケ丘だけでなく世界に名を轟かせる稀代の天才アーセナル!週間真島こと真島真由!千秋さんをスカウトしたのだってこの私なのよ?」
「あなたがスカウト?そんな柄だったかしら。いつの間にそんな権限まで持ち合わせるようになったの?」
「そこはまぁ……我等が旧アールヴヘイムのコネをコネコネしてね。たかだか一人編入させるぐらいならこの私にかかればお茶の子さいさいよ!まぁ入学初日からスカウトした子が殺されかけるなんて、流石の私の頭脳でさえ予測できなかったけどね……だから勿論夢結とその子には感謝してるのよ?」
「その子なんて名前じゃないわ。一柳梨璃さんよ」
咎める声色には少々怒気が混じっている。
肩を並べて戦えたのはたった一度、それも数瞬の出来事であったが、自分を慕って百合ケ丘にまで辿り着いた後輩を彼女なりに認めているのだろう。
「はぁ、だからわざわざこうして研究室から出てきたんでしょうが……あぁこの言い方が不味かったのよね。反省してまーす。てへっ」
およそ反省しているように見える態度ではないが、夢結としてはひとまず友人の謝罪を受け入れることにしたようだ。
「まったく……まぁいいわ。千秋さんだったかしら、あの子に伝言をお願いしたいの。『素晴らしいCHARMだったわ。今度は私のCHARMの整備も頼みたい』って」
「本人に直接言いなさい。私だって結構忙しいのよ。あの子なら喜々として弄り回してくれるわ。それに、今日は結構立て込んでるのよ?ここに来てるのだってバレたら……」
その時、廊下からおよそ医療施設には似つかわしくないドタドタと響く足音が聞こえてきた。
足音が部屋の前で止まると、扉越しに怒声が聞こえてくる。
「真島ァァ!!ここかぁ!?いるのはわかってんだ!開けろォ!!」
「うげぇ!もう追いつかれた!?」
今度は扉をガンガンと叩く音……と言うよりも殴りつけるような音が響く。怒声の主は百由を追ってきたようだ。
「あなた一体何をしでかしたのよ。あぁ……愚問だったわね」
友人が追われている理由は既に身を持って体験済みだった。
「それじゃ、お二人共お大事にね〜」
そう一言残すとひらりと窓から身を投げて姿を消した。
件の友人は既にカーテンを捲って窓を開いた欄干の縁に腰かけて逃走の準備を整えていたようだ。
「ここって一階でしたっけ……?」
「大丈夫でしょう。あの子だってリリィなのだから」
ついに扉が内側へとこじ開けられた。
どうやらスライドドアはリリィの脚力に蹴破られたらしい。
「観念しろやヘボメガネェ!」
乱入者はくすんだ長い茶髪を夢結のように伸ばした小柄なリリィ、真榊衣緒里だ。
今朝方に夢結達の眼前で大立ち回りを演じた際とは違い、闘気ではなく怒気で呼気を荒くしている。
「おい、今ここにロン毛でメガネかけてる工廠科のやつが来なかったか?って、あんたら今朝の……」
「百由のことを探しているなら、そこの窓から出ていったわ。追うのならさっさと行きなさい」
夢結がしっしっ、と追い払うように手を振った。
「そうか!助かった!」
一言礼を言うと、窓枠に飛び込むように外へと飛び出ていった。
間もなく遠くから百由の悲鳴と衣緒里の怒声らしき大声が聞こえてくる。
「やってくれたなヘボメガネ!せっかくあのヒュージを捕まえるの手伝ってやったのによォ!」
「うわぁぁぁん!ヒュージが逃げ出したのは不可抗力なんだってば!いくら百合ケ丘でも、あれ以上に厳重な設備はすぐには用意できなかったのよぅ!」
「え、えっとあのぉ百由様は大丈夫なのでしょうか……あのちっちゃな子、ちょっと乱暴そうというか……」
「放っておきなさい。百由にもいいお灸になるでしょう」
「騎士様〜〜お待ちくださいまし〜〜!」
「夢結様!?……と梨璃、だったかしら?あの
幾分か風通しの良くなった病室に新たな訪問客達が訪れた。
今度の見舞客も今朝方の乱闘騒ぎの関係者達、シスター・アンナマリアと遠藤亜羅椰の二人組だ。
CHARMと敵意を向け合っていた時よりも、心なしか二人の呼吸が合っているように見える。
夢結達がヒュージの討伐に出向いていた間に何かがあったのだろうか。
「え、えっと窓から飛び出て行きましたよ」
梨璃が窓を指さして遠慮がちに答えた。
「ここにいたのね!あなた達!」
「おとなしくなさい!」
次々と予期せぬ客が詰めかけてくる。今度の客は揃って腕に"風紀"の文字の入った腕章を付けていることから風紀委員達だろう。
「やっば!早く逃げるわよ!」
「ひぃぃぃぃ!騎士様助けてくださいまし〜〜!」
アンナマリアと亜羅椰も先程の二人のように窓から飛び出ていくと、それに続いて十数人の風紀委員達の半分ほどが窓から飛び降りて追跡を始めた。残りは通ってきた廊下へと引き返していく。おそらく挟み撃ちによる確保を狙っているのだろう。
訪問者達が嵐のように去っていくと、風通しのいい病室には、今度こそ隙間風と二人の吐息だけが響く静寂が訪れた。
検査のための医療用ガウンから百合ケ丘のゴシック調の制服へと着替えた二人を廊下で待っていたのは、目の下に隈をこさえた楓と、ベンチに横になりイビキをかいている千秋であった。
「楓さん!千秋さん!無事だったんですね!お怪我はありませんでしたか?」
「あなたのお陰で傷一つありませんでしたわ」
楓がその場でくるりと回って健在ぶりをアピールするが、今朝方と違い制服はボロボロで、白いレースはほこりや泥で汚れ、ジャケットやスカートの裾にはほつれが浮いている。
「あ、そ、そうでしたよね。突き飛ばしてしまってごめんなさい」
皮肉を言われたと思ったのか、頭を下げようとする梨璃を楓が押し留めた。
「そんなこと気にしていませんわ。しかし……ふむ」
楓が艶のある仕草で梨璃の顎に手をやり、自身の顔の方へ向かせた。目線が高い楓が梨璃を見下ろすような形となり、品定めでもしているようだ。
「信じてもらえないかもしれませんが…………私、そんなに軽い女じゃありませんのよ?」
「え、な、何の話ですか?」
楓が梨璃の腰へと手を回すとそのまま抱きついた。
「ひゃっ!?」
「すみません夢結様、私運命のお相手を見つけてしまいましたの!だから……」
「どうぞ、お構いなく」
夢結は二人に背を向けて一瞥もせずに去っていった。
「えっ、そんな、えぇ〜〜〜!?」
「梨璃さん♡梨璃さん♡」
「あ〜〜、良く寝た……えっ?」
騒ぎのせいか、ようやく目を覚ました千秋の前では梨璃と楓が熱烈に抱き合っており、楓に至っては目を閉じ顔を近づけて接吻を迫っているようであった。
梨璃の背中と腰へと腕を回し、蠱惑的に長い指を蠢かせる手付きを見やって、千秋は顔を耳まで真っ赤に染めている。
「ふ、二人ってば、もうそんな関係になってたの!?」
「違います!千秋さん!誤解です!誤解なんです!」
「誤解ではありませんわ!梨璃さんこそ、私の運命のお相手なのです!」
「ご、ごゆっくりぃ〜〜〜!!」
まだ遠くに見える夢結の長髪を追って、千秋はその場から逃げ出していった。
「違うんですってば〜〜〜!!」
工廠科横のメディカル棟に、耳元で楓に愛の言葉を囁かれ続ける梨璃の悲鳴が木霊した。
「まさか入学式当日から決闘騒ぎを起こすなんて、流石に思ってもみなかったゾ」
「いいじゃねぇか。シンプルに強くなるためには、"最強"だの"天才"だのといった肩書の奴と戦うのが一番手っ取り早いだろ?あたしは実戦派なんだ。それともなんだ?このあたし様が負けるとでも思ってたのか?」
「まさか。確かに亜羅椰のやつは新入生の中でも飛び抜けてるかもしれないガ……まだまだだナ。まだ無名のリリィが相手だからって舐めてかかり過ぎだナ。オマエを相手に油断しすぎダ。オマエ相手に申し分ない奴なんて、それこそアールヴヘイムでも初代からの連中ぐらいだロ」
「初代?あぁ旧アールヴヘイムってやつか。つまりアンタの古巣だな。……いいじゃねぇの。それじゃあ当面の目標は初代アールヴヘイムとやらだ。今に見てろよ、名簿を黒星で埋めてやるぜ」
「アハハハ!元気なヤツは大好きダ!梅への挑戦なら何時だって受けてやるゾ」
「………ところで今朝の白井夢結って上級生、あたしが聞いた限りだとその旧アールヴヘイムだったような……ちなみにアンタがセットしてくれたあたしの髪型、白井先輩にそっくりなんだけど………」
「かわいいだロ!頑張ってセットした甲斐があったナ!」
「やかましい!さてはアレだな?元カノだな!?後輩に未練タラタラな女のコスプレでもさせて、目の保養にしたいってか?いい趣味してるなぁ、えぇ?」
「そんなつもりじゃないサ……夢結は百合ケ丘で最強と呼ばれるリリィの一人なんだゾ。最強……いい響きじゃないカ?」
「────確かに」
(意外とチョロイんだナ、コイツ)
千秋
悲鳴が汚い。
臆病で小心者だけど結構短気
多少のトラブルは現場力でカバーできる系女子
初日から酷い目に合ったけど、新しい友達が出来たからまぁいいや、とか思ってる。
夢結様
触手プレイ被害者
原作と違いミドル級くんの攻撃によりCHARMが破損
楓に啖呵を切る千秋の姿に、何か感じるものがあったようだ。
千秋製のCHARM【ムラマサ】の使用感は、「凄絶無比」とのこと
楓さん
百合ヶ丘に来たばかりの高飛車お嬢様な楓さんなら、CHARM整備について一言あるのではないか。という事で損な役回りを押し付けてしまった。スマナイ……スマナイ
梨璃ちゃん
千秋に発破をかけられたので原作よりも自己肯定感upのバフがかかってる。
百由様
千秋を百合丘に引っ張ってきた人
相当な奇人変人な彼女だが、何故無名の実績も持ち合わせていないアーセナルをスカウトしたのだろうか?
衣緒里
シスターを囮にした後に千秋の不在に気付き、校内を探し回っていた模様
千秋と楓達が担ぎ込まれてきた事で事情を察し、百由を私刑のために追い掛け回していた。
件のヒュージ捕獲には一枚噛まされていたようだ。
アンナマリア・亜羅椰
自業自得とはいえ、衣緒里に嵌められてお尋ね者になっていた女達
謎の先輩
一体誰村・thi・誰様なんだ…?
ムラマサ
霞千秋が百合ヶ丘へと持ち込んだユニークCHARM
ケルティックデール社製の第2世代CHRAM、AC-21ブリューナクをベースとしているが、その変形機構を含むほぼ全てが千秋の自作パーツと汎用品へと換装されている。
全体的なシルエットや近接形態での使用感こそオリジナルとの差異は少ないようだが、技術者の目線では全くの別物であるようだ。
主な変更点としては以下の仕様となる。
ブレードパーツ→玉鋼をベースとした合金製の刀身で、より肉厚な物へと換装
霞千秋が自身で鍛造した物で凄まじい切れ味を誇るが、
既存のCHARM工学に則った物ではないため、不必要なほどに強度が高められて
おり、待機状態ではそれなりの重量を有する。
耐熱コーティングが施されている。
バレルパーツ →短砲身へと換装
ブリューナクの特徴であるバスターキャノンの破砕力は失われたが、
銃身の小型化により近接戦闘や奇襲戦での取り回しが容易になった。
グリップパーツ→1.5倍ほどの長さへと延長
両手での使用を想定しているようだが、
どちらかと言えば振り回した際に遠心力を活かして破壊力を増大するための仕様
総評はブリューナクの近接適性をさらに高めた物となっている。
オリジナルの機体は近接形態と射撃形態の二形態変形だが、本機はさらなる変形機構を有しているらしい。