アサルトリリィーTrinityー   作:門番

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オリリリィスレのみんな、色々意見交換やアドバイス等々をしてくれて本当にありがとう。
誤字報告ご意見等々お待ちしております。


第六話 The girls gather

 

「ムラマサ、あぁ私の作ったCHARMのことね。一応、外部からの持ち込み品だから、百合ヶ丘で使うCHARMとして登録するために、真島さんって人に預けてOS(オペレーティングシステム)とセキュリティチェックをしてもらってるの。そろそろ終わっているだろうから、真島さんの研究室に行こう!」

「真島……真島百由様か!?おぉいきなりのビッグネーム!初日からあの百由様のラボにお邪魔できるとはのう!」

 

 工廠科の無機質な廊下に、ミリアムの大げさな驚きが響いた。

 ミリアムの願いにより、千秋製のユニークCHARM、ムラマサを見に行くことにした編入生一人と新入生の4人達は、百合ヶ丘の抱える天才アーセナル、真島百由の研究室へと向かっていた。

 

「真島さんの研究室はこの先だよ」

「おぉ、わしが一番乗りじゃ!」

「ちょっとミリアムさん、はしたないですわよ」

 

楓の小言に、一瞥もくれずに走り出したミリアムが、真島百由の個人用研究室の扉を勢いよく開けた。

 

「お邪魔するのじゃ!百由様おるか~!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁぁーーん!!この一月の努力の結晶がぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

「な、なんじゃあ!?」

「「ひ、ひぇぇ~~」」

「あ、あちらで号泣されている方があの天才、真島百由様ですの……?」

 

 青みが掛かった黒髪を振り乱し、真島百由が咽び泣いている。

 傍らには、ヒビが入り実戦ではおよそ使えないであろう無惨な姿を晒した努力の結晶とやらが地面に転がっている。

 真島百由の研究室に入ってきたばかりの新入生たちはその様子に身を引いており、この女にどう声をかけてよいのか、言葉を探しているようだ。

 

「あー!CHARMのパーツがぁぁぁ!もったいない、もったいないよぉ!」

 

 空気を読まずに近づいた千秋は、転がっているCHARMの金属刃をおもむろに素手で掴み上げた。

 顔の前に近づけて、光へかざしながら、くるくると目の前で回し、様々な角度からその刃を観察しているようだ。

 出会って二日目の奇人の、突拍子もない行動に一年生たちは目を白黒とさせている。

 

「へぇ、なるほどねぇ」

 

 やがて何か思いついたのか、唐突に低い声で呟いた千秋が、鋭い刃の部分に人差し指を当てて、擦るようにそれを動かすと、静かに指先の傷から血の雫が溢れた。

 

「あ、血が!」

 

 梨璃が千秋を心配して駆け寄った。

 

「私、絆創膏持ってますよ!」

「あはは、こんなの唾つけておけば治るよ」

 

 人差し指をぺろりと舐めてから、差し出された絆創膏を仕舞うように促した。

 千秋が百由の肩に、慰めるかのように優しく手を乗せた。

 

「真島さん、その、これなんだけど・・・」

「千秋さん・・・慰めてくれるの・・・?」

「こんな鉄の配分や打ち方だとそりゃ失敗しちゃうよ~。チタンと玉鋼の配合量が多すぎるよ。それに、ブレードのサイズに対して刃を鋭くしすぎ。芯と刃の厚さが違いすぎて歪みが生じやすくなってるんだもん。いくら剛性を上げたかったからってこんな構造だったら、成型する前に壊れるに決まってるじゃん」

 

 しかし、口から出てきたのは天才と呼ばれたリリィを容赦なく叩きのめす、慰めとは正反対の追い打ちだった。

 

「ううぅぅ~~~ あなたに何が分かるっていうのよぉ」

「鉄の配合と設計の問題点と製造過程の問題かなぁ」

 

 

 

「こちらのブレードパーツ、あなたと真島百由様の共同制作でしたの?それなら鋳造前にお知らせして置けばよかったのでは?」

 

 楓が覗き込むように件の刃を覗き込みながら声をかけた。

 

「え、私は関わってないよ?」

「はぁ……では、なぜ金属の配合量や設計をお分かりなんですの?」

「分かるも何も見ればわかるじゃない。ほら見てみなよ、こことかさ」

 

 楓の目の前にかざしたブレードの刃と芯の境目を撫でながら、しっかりしたのを打ちたかったみたいなのに厚みの出し方が甘いよねぇなどとのたまっている。

 おそるおそる千秋の示した箇所をなぞるが、CHARMメイカーの令嬢である楓が見ても、極めて緻密な加工が施された刃としか思えなかった。

 この女はあの数瞬で、ブレードの金属配合と設計の問題点を見抜き、見てもいない製造工程までもを的中させたというのか。

 

「ほーう?ならば千秋様じゃったなら、このブレードはどうやって造るのじゃ?」

「私が造る?」

「そうじゃ、そこまでいう位であれば、百由様でさえ造れなかった部品だって造れるのじゃろうな?なぁに同じ工廠科の生徒として気になるだけじゃ」

 

 ミリアムが意地悪そうに口元を歪めて問いかけた。楓もそれを興味深そうに注視している。

 一瞬口元に手を当てて考える仕草をすると、千秋はすぐに口を開いた。

 

「……まずは神棚のお水を変えて拝んでから……」

「ちょっと待て、神棚?いったいなんの話をしておるんじゃ!?」

「だって刀の神様にお願いしないと良い刀なんて打てないよ!おじいちゃんも言ってたもん!刀じゃなくてCHARMだけど」

「えぇぇ……?」

「まず最初にするべきことが神頼みですの……?いくらなんでも非科学的すぎませんこと?」

 

 ミリアムと楓の二人は思わず顔を見合わせて絶句した。

 技術者が神頼みとはプライドなぞ持ち合わせていないとでもいうのだろうか?

 二人の内心など露ほども知らず、千秋は得意げに続けた。

 

「うーんまぁ後は真島さんのことだから、火入れの過程までは問題なさそうだけど、硬化処理がちょっと急すぎたかな。全体を均等に急速冷却することが肝なのは確かだけど、刀身のサイズや設計を考慮しきれていなかったみたい。もう少し優しく水に落としてあげるべきだったかもね」

 

 言うは易し、というがあの真島百由の作品になるはずだった品の欠陥を一目で見抜き、その対応策まで即答出来る、その観察眼と知識は、多少なりともCHARM工学に明るい二人に、うすら寒い感覚を覚えさせた。

 

 二人が戦慄している間に、千秋は梨璃と二水に失敗作を見せびらかし、ここのルーンの刻み方も甘いよね~、などと解説しているが、当の二人には何が違っているのか検討すら付いていないようで、苦笑を浮かべて首を傾げている。

 

 

 

「はぁ落ち着いたわ。情けない所を見せたわね。二年檜組、真島百由よ。よろしくね。」

 

 気を取り直した百由が砕けたブレードの残骸を片付けて、作業机を挟んで新入生たちに向き直った。

 先程の情けない声を上げていた姿からは打って変わり、自身に満ちた微笑を浮かべている。

 きっとこちらが本来の姿なのだろう。

 もっとも、しばらくの間は彼女の情けない醜態が、一年生たちの脳裏にこびりついていることはまちがいないだろうが。

 

「で、私に何か用?CHARMのことならなんでも聞いてね!」

「はいはいはーいワシから!ワシからじゃ!」

 

ミリアムが小さな体躯でぴょんぴょんと飛び跳ねながら、手を振り上げた。

 

「どうぞ、ミリアムさん」

「千秋様のCHARMを見てみたいのじゃ!あの夢結様をして『凄絶無比』とまで評するCHARM、気になって仕方無いのじゃ!」

「千秋さんさえ良かったらいいわよ。解析なら今朝に終えているわ、提出されてた術式のデータと照合したけれど問題は無かったわ。これであなたのムラマサも百合ヶ丘のCHARMの仲間入りよ」

 

「わーいやったー!はいミリアムちゃん、それじゃあ好きなだけ見ていっていいよ~!」

 

 物騒な武器のやりとりをするとは思えないほど、気の抜けた猫なで声と共に千秋の制作したユニークCHARMが机に置かれ、大きな音を立てた。

 電灯の光を受けて、鈍い光沢を放つ刀身を輝かく。

 刀身に力強く刻まれた、村正の文字が仰々しい。

 

「これが私に見せたかったCHARMですか……先日、その性能の一旦は拝見しましたが、なるほど、確かな傑物のようですわね」

「ふむ、このメインフレーム、見覚えがあるぞ。ブリューナクと同型の物じゃな。しかし、なんじゃ?この変形機構の歯車に巻かれてるワイヤーは?」

「流っ石工廠科生!そうだよ~ メインフレームはブリューナクとかに使われてるタイプの奴を、殆ど吊るしの状態で流用してるんだけど、変形機構はケルディックディールの汎用品をベースに、私なりにいっぱい手を加えているの!このワイヤーはね……」

 

 

 

 CHARAMについて語りだす千秋を百由は微笑ましそうに見つめている。

 梨璃と二水はCHARMについて語り合う三人には混ざらず、百由と向かい合っていた。

 

「あら、あなた達は人気者の千秋さんの方には混ざらないの?」 

「あ、いえ、その……CHARMのことならなんでも良いんですか……?」

「えぇ、もちろん!CHARMのことでわからない事なんて、この私にかかればあんまり無ーい!」

 

 梨璃が控えめに目を伏せると、何かを決心したかのように口を開いた。

 

「夢結様が以前使っていたCHARMのことについてなのですが……」

「……私たちはは少し場所を変えましょうか。千秋さん、私たちは少し席を外すから、終わったら鍵の戸締りだけお願いね」

 

 CHARMを囲み何やら話し込んでいる三人に声を掛けると、席を外そうとする梨璃たちに気付いた楓が声を上げる。

 

「でしたら梨璃さん、私もお供致しますわ」

「えっ、CHARMを見てくれるんじゃなかったの!?」

「そんなの後でもいいじゃないですの!梨璃さんの用事のほうが大事ですわ!」

「そんな~!」

 

 梨璃を追って飛び出していく楓に、千秋が名残惜しそうに手を伸ばす。

 慌ただしく飛び出していく令嬢を、見送ると工廠科の二人と一振りのCHARMが残された。

 項垂れた千秋に気を取り直したミリアムが声を掛ける。

 

「まぁまぁ千秋様、よいではないか。で、続きなんじゃが、この銃身部の結合部なんじゃが、なぜ分離の組み立て式になっておるんじゃ?」

「……それは銃身の分離じゃなくてCHARMその物の分離機構だよ」

「CHARMが分離……?おぉ!第三世代機を個人で作ったのか!?やりおるのぅ!」

 

 

 

▼△▼

 

 

 

 世界最強のレギオンの控室、という位だから、よほど豪奢な物だろうか、と期待してみれば、思っていたよりもこざっぱりとした来賓室といった具合であった。

 しかし、それらを飾る上品な小物の質の良さときたら、あたしのような小市民の鑑定眼では碌な価値を見出せないであろうような、高級な品々であることだけは流石に分かる。

 こちらに興味を注ぐ彼女達の視線は、奇異と懐疑、そして物珍しさだろうか。

 

 太陽のように輝く金髪を贅沢に三つ編みに結った女が、人好きのする笑顔を浮かべてあたしと遠藤を出迎えた。

 周囲の取り巻きの振る舞いを見るに、この女が一目以上を置かれている実力者であることは分かる。

 こいつがアールヴヘイムの筆頭、天野天葉だろうか。

 糞ったれなことに同じリリィとして、人としての格が、品格が違うことが一目で分かっちまう。

 CHARMでド突き合おうと意気揚々と乗り込んできたその矢先に出鼻を挫かれてしまった気分だ。

 

「負けたぜ。完敗だ」

 

「何に負けたのよ……天葉(そらは)様、こいつは真榊衣緒里。私達(アールヴヘイム)に用があるんですって」

 

 付添人の遠藤の言葉すら遠く感じる。

 

「ごきげんよう、真榊衣緒里さん」

「ご、ごきげんよう天野天葉(あまのそらは)様」

 

 畜生、らしくもなく緊張してうまく言葉が吐けない。

 今のあたしは若干の人見知りのきらいのある、あのアーセナルの様に挙動不審なんだろうか。

 

「ふふふ、何に緊張してるの?昨日は亜羅椰の相手をしてもらって悪かったね。あの場を収めてくれて」

 

 心当たりしかない遠藤が明後日を仰ぐ。

 

「亜~羅~椰~!?昨日は夢結様に喧嘩を売ったと思ったら、新入生にまで!その癖、油断して負けたなんて……あなた一体何考えてるの!?」

 

 緑色の髪を長く伸ばし、リボンを横に飾ったカチューシャのリリィが遠藤を横から怒鳴りつけた。

 

「い、壱っちゃん、それはねぇ、このチビ助があんなに強いとは全然思わなくて……」

 

「問答無用!こっちに来なさい、お説教よ!」

 

 数人がかりで引きずられていく遠藤を尻目に促されるまま皮張りのソファに腰を下ろした。

 ソーサーとティーカップが置かれると香りの良い紅茶が注がれる。

 なんの茶葉を使っているのだろうか。そんな言葉さえ吐く余裕が無い。

 今までの人生、紅茶を楽しむ。なんて文化に碌に触れてこなかったせいで、作法も何もわからない事が無性に恥ずかしくなってきた。

 勧められるがままに口を付けて口を付ける。

 

「熱っ!」

「ご、ごめんなさい」

 

 茶を淹れた後に、天葉様のお隣に腰かけた、温かみのある白髪のリリィが頭を下げてきた。

 

「わ、悪い猫舌なんだ」

「ふふふ、(まい)の秘蔵っ子は慌てんぼうさんなんだね」

(まい)様の知り合いなのか?ってそりゃそうか元々同じレギオン……だったんだよな」

「うん、そうだよ。昨日の夜に梅から連絡があってね。近い内に君がアールヴヘイムに遊びに来るかもしれないから相手をしてあげてくれって。今年に入ってから梅の付き合いが悪いなって思ってたら、こんな可愛い子の指導をしてたなんて。まったく、相変わらず隅に置けないねぇ。ほら、こっちのクッキーも食べて。樟美の手作りなの、あぁこの娘のことね。私のシルトなんだけど料理とかお菓子作りが得意なの、ほら」

 

 天葉様が促すと、その隣り座っていた銀髪のリリィ、樟美がクッキーが山のように積まれたバスケットを恥ずかしそうにこちらに薦めてきた。

 生姜の香ばしい匂いがする。ドイツ風のジンジャービスケットだろうか。

 サクサクとした軽い食感に優しい生姜の香りが(かぐわ)しい

 

「どう、美味しい?」

「美味しいです。えと、いい香りがします」

「それはよかった」

 

 

 一息着いたところで、天葉様が膝を組み直した。

 

「それで?模擬戦をしたいってことなら梅からも聞いていたけど、私たちと模擬戦がしたいんだって?」

「あ、あぁそうだ。あんたらと一戦交えたい」

「……なんでそんなに私達と戦いたいの?それにリリィ同士の戦いは危ないんだよ。いくら模擬戦だったとしても、怪我をしちゃうかもしれないんだよ」

 

 こちらを心配そうに気遣うその眼は、強者としての余裕の現れなのだろうか。

 それとも、純粋に出会ったばかりのあたしの身を気遣う気の良さなのだろうか。

 しかし、あたしの体は尋常のそれではない。

 

「あたしは強化(ブーステッド)リリィだ。遠慮はいらない」

「…………そういう問題じゃないんだよ。いくら超速再生(リジェネレーター)があるからって、いくら傷が治るからって、傷ついたら痛いんだよ。あなたも周りのみんなもにとっても、それはとっても苦しいことなんだよ」

 

 あぁ多分、こいつらはまっとうな人間なんだろうな。

マトモな家に生まれて、マトモな教育を受けて、マトモ戦い方をして、周囲に愛されてきた。まっとうな人間なんだ。

だからそんな道徳の教科書から丸写ししてきたような、思いやりのこもった台詞を吐けるんだろうな。

 

 だから、あたしがその"マトモ"な台詞に感銘を受けると思ってるんだろうな。

 いつもの調子が戻ってきた気がする。

 

「……強くなるには、力と痛みって奴を体に覚えさせるのが一番だ。傷ついたら痛いだって?当たり前だ!この傷も痛みもあたしの、あたしだけの物だ。傷も痛みも全部が全部、何もかも喰らい尽くして強くなるんだって、あたしは決めてるんだよ」

 

 天葉様は目を瞑り顔を静かに横に振った。

 

「どうしてそこまで強くなろうとするの?」

 

「理由?理由か?それは…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

▼△▼

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれで良かったの?」

「あれで良かったんだよ」

 

 百合ヶ丘のお嬢様たちがいつもご機嫌なお茶会を開いているティーテーブル、まさかこのあたしが腰掛けることになるとは思わなかったし、そのお茶会の最初の相手がこの阿婆擦れになるとは思わなかった。

 アールヴヘイムのメンバーと話を着けてきたあたしは、お説教から逃げてきた遠藤と共に昼過ぎのテラスで昼食を取り、食後の茶をシバいていた。もっともあたしはコーラだが。

 

「まったく入学して早々に上級生に喧嘩を売る新人なんて……いくら何でも身の丈に合ってないと思わないの?」

「何が身の丈だこの野郎。お前こそ、昨日の朝一に自分が何をしでかしてたかも覚えていないのか」

 

 あたしを見つめるその眼は、昨日に戦りあった時と違いどこか生暖かいものを感じさせる。

 こいつなりに心配してくれているつもりなのだろうか。

 

「心配のつもりなら余計なお世話だ。アールヴヘイムと事を構えるのを望んだのは、このあたしだ。やることはシンプルだ。戦って勝つ。それだけの話だろ」

「あのねぇ、私もそのアールヴヘイムの一員だということを忘れてないかしら?」

「何か言ったか?目潰し如きにかかってもんどり打った天才殿」

 

 あたしには関係の無いことだが、唇を尖らせて人を睨むのは淑女としてどうなのやら。

 

「それとも何だ。先輩方の弱点でも教えてくれるってか?」

「そんなことするわけ無いでしょうが。本当に私の善意から心配してるだけよ。初代から続投しているアールヴヘイムのメンバーの実力は、はっきり言って私以上よ。あなたとは長い付き合いになりそうだから心配しているだけ。クラスメイトが無謀な戦いを挑むのを黙って見ていられるほど私は薄情じゃないのよ」

 

 湯気が立たなくなった紅茶のカップに口をつけると、遠藤は優雅にそれを傾けた。

 

「どうしたの?鳩が豆鉄砲を食らったような顔して」

「待て。お前、今なんて言った?」

「薄情じゃないのよって言ったつもりだったけど」

「その前だよ!」

「クラスメイトが無謀な戦いを……」

 

 思わず椅子を膝で倒しながら立ち上がった。

 

「嘘だろ?お前のツラを三年間も拝まなきゃいけないのかよ!」

「いいじゃない。同じAZ同士、一緒に仲良くしましょうよ。リリィとしてだけでは無くてね」

「やめろ!含みを持たせるのはやめろ!お前みたいなのはタイプじゃ無いんだよ!」

「あら、ではどんな人がタイプなのよ」

 

 遠藤も私と同じように立ち上がるとテーブル越しに顔を近づけてきた。

 舐めるような視線と紅茶の香りを纏った吐息が感じられる。

 

「……それは、その……、って、どうしてそんな事をテメェに教えなきゃいけねぇんだ!」

「あら残念、もう一押しであなたの好みがわかると思ったのに」

 

 こいつと来たら本当に油断も隙も無い。

 深いため息をついて、倒れていた椅子を起こし座り込み、ティーテーブルに突っ伏す。

 

「今からでも遅くねぇから学校やめようかな……」

「何言ってるの、仮にもあなたは誉れ高き百合ヶ丘女学院のリリィなのよ。百合ヶ丘への進学や転入を希望しても、それが叶わないリリィは毎年数えきれないほどいるのよ。少しは自分の恵まれた境遇を考えて物を言いなさいな」

「別に好き好んで百合ヶ丘に来たわけじゃねぇんだがな……」

「あら、推薦組だったの・・・そうね。公開セレクションで筆記の点数取れなさそうだものね」

 

 伏せる頭上に、遠藤の憐みの目が向けられている気がする。

 頭を起こすと、案の定だ。人の事情も知らずに馬鹿にしやがって。

 

「あたしはオマケだよ。あたし様の実力が評価されてスカウト、ってわけじゃない。まぁ百合ヶ丘としては、あたしの実力も多少は評価していたみたいだがな」

「はぁ!?あなたほどのリリィが、この遠藤亜羅椰を打ち倒すほどのリリィがオマケですって!?」

「そう言ってるじゃねぇか。……やめろ。顔が近いって」

 

 先程のように目と鼻の先にある遠藤の頬を掌で押す。

 いちいち顔を突き合わせないと、まともな会話できないのかこいつは。

 

「……誰なの?あなたでは無い。百合ヶ丘の本命っていうのは」

「悪い、しゃべりすぎた。これ以上は話せねぇや」

 

「……結構やばい話だったりするの?あなた、強化リリィよね。その関係かしら」

「説教で聞こえて無かったと思ったぜ。まぁそんな所だ。あんまり深入りしねぇ方がいいかもな」

 

 

 

 

 

 話を畳もうとしたその時、唐突に背後から声がかかった。

 

「失礼、真榊衣緒里さんですね?」

 

 あたしの頭越しに声の主を認めた遠藤が目を見開く。

 椅子の背もたれにもたれかかり、首を後ろへ倒して逆さに見初める声の主は、明るい茶髪を長い三つ編み結った、どこか鋭い眼差しのリリィだった。

 

「誰?」

規律審院院長(ジーグルーネ)、内田眞悠理(まゆり)様よ」

 

 ジーグルーネ……風紀委員の、いや百合ヶ丘の学内秩序そのもの番人ってやつだったか?

 

 

「おい遠藤、入学して昨日の今日だぞ。もう誰かとヤッたのか」

「残念なことに一人も喰えていませんわ。どこかの誰かさんのせいで昨日は大変だったんだから」

 

 軽口を叩き合うあたしたちを一瞥すると、呆れ顔になった風紀の番人が腰に手をやり口を開いた。

 

「二人とも私を前になかなかいい度胸ね。まぁあなた達への指導はおいおい考えていくとして……衣緒里さん、理事長代理がお呼びよ」

「理事長代理・・・?」

「えぇ、あなただけでは無いわ。同室のアンナマリアさんもよ。そして、アーセナルの霞千秋さんもね」

「シスターと相棒まで?」

「えぇ、詳しい話は理事長室でとのことよ。私も同席するように頼まれてるの。一緒に行きましょうか」

 

 私と相棒殿はわかるが、シスターまで呼び出しを食らう道理はなんだ?

 ……昨日のあいつのやりたい放題振りを鑑みるに、心当たりは多いな。

 

「まぁそういう訳だ。じゃあな遠藤。教室で首を洗って待ってろよ~」

「……えぇそうね。あなたと共に切磋琢磨できる時間を楽しみにしてるわ」

 

「まったく、今年の新入生たちは百合ヶ丘のリリィとして教育のしがいがありそうな子達ね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一人取り残された亜羅椰が、殆ど空になったティーカップに映る自身と見つめ合いながら一人呟く。

 

「いくら不意を打たれたとは言えども、この私を打ち倒すほどのリリィがオマケで本命は別にいる……?先ほどの天葉様達との話が事実なら、おチビちゃんを推薦したのは、梅様……吉村・thi・梅様だったかしら。少し調べてみましょうか」

 

 そして、行儀悪く衣緒里が飲み残していったコーラのグラスを手に取り、縁を紅い舌でペロリと舐めた。

 

「ふふ、あまぁい♡」

 




・千秋
いつになったらグランギニョルの令嬢に自身のCHARMを売り込めるのか。
持ち込んだCHARM、ムラマサは分離機構を持つ機体である模様。

・ミリアム
かわいい

・楓さん
CHARMメイカーのご令嬢といえど、CHARMのお話なんかよりも、自身の恋のほうが大事だよね。

・衣緒里
アールヴヘイムに喧嘩を売る。
果たして勝算はあるのだろうか。

・天野天葉
世界最強さん
本人は将来はお花屋さんになりたいという素敵な目標をお持ちの女の子
強化リリィ特有の自身の体を大事にしない姿勢は、彼女の倫理感にはそぐわないようだ。

・江川樟美
えっち

・亜羅椰
なんやかんやで衣緒里のことを気に入っているし、気に掛けている。
なんなら、ついでに喰っちまいたいとも思っている。
「わかるよ、秘密とは甘いものだ」
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