「ごきげんよう。千秋様、先程ぶりですわね」
真島さんの研究室で、矢継ぎ早に繰り出されるミリアムちゃんの質問に答え、あるいは鋭い質問を躱していたところ、お偉いさんからの呼び出しを持ってきたという
「あー、えっと、フェラーリさん。さっきぶりだね。あなたも呼び出されたの?」
「はい。千秋様と騎士様もご一緒されると聞き及んでおります」
出た、騎士様。
朝も言っていたが、騎士なんてあだ名、いや二つ名だろうか。そんな呼び名を付けられるリリィの知り合いは、生憎私の知りうる範囲にいな筈だ。
困惑する私の表情を見て察したのか、祀さんが助け舟を出してくれた。
「彼女の呼ぶ騎士とは、彼女の出身ガーデン【聖百合十字騎士団】で騎士、こちらで呼ぶところのAZのポジションを担うリリィの事です」
「えぇ、私達は
金髪碧眼で容姿端麗、革張りのソファに腰かけ、体のラインが出にくい制服を着用していてなお豊満な胸が白いブラウスに影を落とし、スカートの裾からはみ出る脚は細くすらりと伸びており頭身の高さが伺える。目元に少しばかりそばかすの跡が見られるが、彼女の美しい顔立ちを損ねることも無く、怜悧な
【聖百合十字騎士団】なんてガーデンは日本国内では聞いたことが無い。
日本人離れしたスタイルと見てくれの通り留学生だろうか。
「私達騎士団のリリィは、地中海近辺を中心として、ユーラシア大陸のほぼ全土においての聖地守護と巡礼者達の護衛を目的として結成されたガーデンですわ。あちらではそこそこに名前と顔の売れたリリィの一人だったのですわよ?」
「へ~、となると外国からわざわざこんな遠い日本まで来たんだ。すごいねぇ」
「……そんな大それた者ではございませんわ。ただの落伍者ですもの」
フェラーリさんの顔に影が刺す。どうしよう。何か変な地雷でも踏んじゃったのかな。
コンコン
理事長室の扉をノッカーで叩く音がした。
「失礼致します。ジーグルーネ、内田眞悠理です。真榊衣緒里さんをお連れいたしました」
「よぉ相棒、久しぶりじゃねぇか」
新しく入ってきた上級生が連れてきた百合ヶ丘の制服に身を包むリリィは、私が忘れるわけもない、私がずっと会いたかった、私がずっと再開を願い続けた、私の大切な
「わぁ~!!いおり~ん久しぶり~!元気だった?私がいなくても寂しくなかった?」
「ええぇい、引っ付くな。暑苦しい!」
ちっちゃな体にちょっぴり怖い目付き。白髪の混じる茶髪は
「しばらく見ないうちに随分と可愛くなったねぇ!髪は誰にセットしてもらったの?夢結ちゃんみたい!あ、夢結ちゃんって言うのは、白井夢結ちゃんって言って、昨日知り合ったばかりのリリィの人なの!いおりんみたいに可愛くてとっても強いんだよ!」
「そうだろそうだろ?梅様がその白井先輩に似せてセットしてくれたのさ。なんでも百合ヶ丘でも最強クラスのリリィと同じだぞ。似合うだろ?」
犬のようにじゃれついてくる相棒を振り解こうと苦戦しているなか、シスターに目線で助けてくれと呼びかけると、平時から薄い目を細めてニコニコとこちらを見つめ返してくるばかりだ。
木製の仕立ての良い大きな事務机に腰かけた初老の男が、ごほんとわざとらしい咳を打った。
「お二人とも、再会を喜ぶのはわかりますが時と場所を弁えなさい!」
男の横に並び立つ上級生が二人。その内の一人が叱り声を上げた。
あれは確か、昨日のヒュージ脱走の知らせを届けたリリィの筈だ。
連れ立って来たジーグルーネが、上級生達の元へと歩みを進めた。
なるほど。こいつらが百合ヶ丘の自治を取り仕切る生徒会の三役って奴か。
「揃ったかね。新入生諸君」
仕立ての良い袴姿の男、百合ヶ丘のドンである理事長の代理を務める
私たちのような若輩は教科書でしか知り得ないような半世紀前、対ヒュージ戦争の幕開けとなった南極戦役の生き残りの一人だ。
元軍人の肩書の通り、袴姿であっても高齢である事を感じさせない引き締まった体と鋭い眼光。しかし、どこか柳のような飄々とした態度を感じさせるのは、長年に渡って組織の頭に立ち続けた事によって得られた老獪さ故だろうか。
促されるまま革張りのソファへと背中を預け足を組む。隣に座り頭を執拗に撫でてくる相棒が鬱陶しい。
「フェラーリさんの言ってた騎士様って人が来てないよ?」
「とても残念なことに、お前が現在進行形で頭を撫でているテストリリィちゃんが、このイカレシスターの言う騎士様なんだよ」
「えぇ~?いおりんって騎士様なんて柄じゃないでしょ。いい所で盗賊さんだよ~」
「誰が盗賊だって?」
振り向いて瓶底の眼鏡を人睨みすると、ぶるりと膝が震えて黙り込む。
「ひぇ~、相変わらずおっかな~い」
聞こえてるぞ。
「今日は非番としたばかりなのに、急に呼び出してしまって悪かったね」
「気にしてなどおりませんわ」
「私も暇になっちゃった所だったんで」
「御託はいい。わざわざあたし達を呼び出した理由はなんだ?」
「真榊さん。目上の方と会話するときは敬語を使いなさい」
ジーグルーネがあたしを睨みつけ、ぴしゃりと言い放った。
三役の非難がましい視線を感じる。
理事長代理が手を上げて、憤る上級生達を制した。
「いいんだ。内田君。確かに彼女は百合ヶ丘のリリィとしては少々ばかり乱暴すぎる子だが、優秀なリリィだとも聞いている」
理事長の太鼓判を背負い三役へと舌をべぇ、と出す。
三人の眉間にピシリと青筋が浮かぶ。
「しかし真榊君、そのような態度も褒められたものでは無いぞ」
へいへい。
「では三人共、まずは入学及び編入おめでとう」
横に座る二人が軽く会釈を返した。
「君達に集まって貰った理由は他でもない。単刀直入に言おう。君達には"特務"を担当とするリリィとその補助を担うアーセナルになって欲しい」
「は~い質問です」
千秋が手を上げた。
「どうぞ、霞君」
「特務リリィ・・・ってなんですか?」
理事長代理が三役へ視線を向けると、昨日の上級生が一歩前へと進み出た。
「では、僭越ながら私がご説明いたします。百合ヶ丘はレギオン制度の特色が濃く、各レギオンによる自主性が強いため、学院側が遂行を優先したい任務が滞ることがあります。そのため、秘匿性の高い任務や強攻偵察、ガーデンの防衛等の優先度の高い特別任務、それらを特務と呼びます。それらの特務を遂行するために特化したリリィ達を特務リリィと呼ぶのです」
「つまりエリート中のエリートってこと!?」
「そういう捉え方も出来なくはありませんね」
やったよ、いおりん!などとのたまいながら背をバンバンと叩く千秋を尻目にシスターが口を開く。
「それは私達に汚れ役をやれ。とおっしゃりたいのですか?」
「同感だ。あたしとシスターはともかく、相棒は堅気だ。そんなやべぇ話にそう簡単に乗れるか」
代理が机の上で手を組んだ。その表情は掌で隠れて読み取れない。
「え、どういうこと?」
「あたし達が百合ヶ丘に来る羽目になった
「え、え~っと、『G.E.H.E.N.Aに絶対渡しちゃいけない技術を隠すため』だったよね」
「あぁその通りだ。百合ヶ丘は反G.E.H.E.N.A体制側における重鎮組織の一つだ。その上で秘匿性の高い任務って言ったら、大方察せるだろう」
「……G.E.H.E.N.Aに関係する組織への諜報や破壊工作、そして強化手術を施されたリリィ達の救出ですわね」
シスターが口を挟んだ。
「つまるところ、あたし達にきな臭い仕事を押し付けようってこった。大方、野良犬共と外様に汚ぇ仕事を押し付けられればラッキーだ、なんて所か?」
三役の顔に刻まれる皺が一層に深くなる。
代理が顔を上げ、重々しく口を開いた。
「一つ断って置くが、君の言うほど露悪的な理由で君達を百合ヶ丘の暗部へと誘いたいと思っているわけではない。特務を担える優秀な人材は、どこのガーデンでも人手不足だ。そして、わし達ガーデンの運営側もG.E.H.E.N.Aの過激派、急進派達の様にリリィを消耗品の様に、都合良く切り捨てられる駒の様に扱う気は毛頭ない」
「何が言いたいんだ?」
理事長代理が顎鬚を一撫でし、自身の卓上に置かれていた
「霞千秋、16歳。一般高校から工廠科二年次への転入生。血液型はO型、身長は165㎝体重は60kg。趣味はガラクタ集め。将来の夢は世界で一番強いCHARMを作ること。また、陥落地域に指定されている地域に存在する自身の生家へと許可無く立ち入り、不法投棄されていたCHARMの部品を用いて未認可のCHARMを作成していた前科あり」
宙に映し出された資料には、相棒の個人情報やその他諸々の情報が記載されていた。
「あわわわわ。私の個人情報がぁ~!み、見ないでぇ~!」
「個人情報云々よりも、前科のほうが気になるのですが」
「過ぎた事だ。あんまり気にしてやるな」
続いて、代理が端末を操作すると資料が切り替わる。ボサボサの野良犬のような髪型の女が映し出された。百合ヶ丘に来たばかりのあたしの写真だ。
「真榊衣緒里、15歳。血液型はAB型、身長146㎝、体重42kg。一般中学在学時に素行不良により補導された後、G.E.H.E.N.Aにより拉致され強化手術を施された物の、施術の失敗により
「まぁ死に損なってた間のことは推測だがな」
「G.E.H.E.N.A……!神の使徒たるリリィの魂を穢す冒涜者どもめ……!」
横に座るシスターがブツブツと呟く言葉が一々おどろおどろしい。
「アンナマリア・レギーナ・フェラーリ、15歳。血液型はA型、身長178㎝、体重64kg。先ほども出た話であるが、マルタ騎士団国のガーデン【教立聖百合十字騎士団】の出身の生え抜きのリリィ。最初期のデュエル世代を輩出していた厳格な宗教色の強いガーデンの出身であることから、やや布教活動に熱心過ぎるきらいがある」
「あら、そんなに褒められても私が照れてしまうだけですわ」
「褒めている要素あったか?」
話に割り込まれても、代理は気を悪くする様子もなく話を続けた。
「……昨年11月に人身売買組織に携わった形跡があり、行方不明となっていた子供達を多数載せた貨物車両を護衛しながら任務地域のシチリア島を離れイタリア本土へ向かっていた所をヒュージが急襲。残されていた彼女とペアを組んでいたリリィは一人奮闘し防衛したが、あえなく命を落とす。批判を恐れたマルタ騎士団国の意向により事件は隠蔽され、配備の遅れているノインヴェルト戦術の教練という名目で、極東の百合ヶ丘ににやってきた。間違いないかね?」
「間違いでしかありませんわ!」
シスターが柄にもなく、ドスの聞いた低い声で怒鳴り声を上げる。
見たことが無い怒り様だ。背後にある相棒の口から、ヒィ、と短い悲鳴が聞こえた。
「私は、私は!神に誓って無垢な子女の尊厳を不当に貶めるようなことは致しません!私達は卑怯者を吹聴されることもありますが、全ては市井の民と信徒の皆様を守るためであり、悪徳を許さぬ清廉な神の使徒なのです。私は、私達は嵌められたのです!あの日、指令書の内容に疑いを持っていたら、騎士様の元を離れなければ、悔やんでも悔やみきれないのです。私は神に誓って潔白です!」
眼を血走らせ、必死な形相で訴えかける姿に普段の煙に巻くような胡散臭さは感じられない。
こいつがこんなにも憤ったシスターを見ることになるとは思っていなかった。
「……百合ヶ丘もそう見ている。騎士団は典型的な反G.E.H.E.N.A体制を敷いており、G.E.H.E.N.Aとの政治的抗争も絶えないガーデンだ。おそらく、騎士団の政治的発言力を削ぐためだろう。件の人身売買とやらも、G.E.H.E.N.Aが『検体』を確保するためにしでかした事であろうし、任務地へ現れたヒュージもサーチャーの反応が記録されていなかったため、人為的に発生させれたヒュージの可能性がある」
「サーチャーに反応しないヒュージ?計器の故障じゃないのか?」
「昨年、東京の親G.E.H.E.N.A派のガーデンのリリィ二人組をヒュージが急襲し、上級生が下級生を庇い命を落とすという痛ましい事件が発生した。そして、そのヒュージは奇妙なことにサーチャーの反応が記録されなかったらしい」
「それはつまり……」
「G.E.H.E.N.Aの仕業ってことか」
「特務リリィの話を受けて貰えるならば、百合ヶ丘を維持する上での任務へ優先的に参加してもらう事になるが、G.E.H.E.N.Aのヒュージ研究関連の施設へ調査や工作を行う任務にも就いてもらいたいと考えている。もし、ヒュージを人為的に操作できるような技術が確立されており、それが悪意ある者達によって用いられるならば、それは大衆にとっても害にしかなり得ない。そして、君自身と君の古巣へと擦り付けられた汚名を晴らす助けになるかもしれん。もちろん君が望めば、だがね」
シスターが眼を瞑り、逡巡すると数秒で口を開いた。
「……お受けいたします。謂れの無い罪とは言えども濡れ衣を着せられた身、疑いを晴らすためならば、いかなる手段も選んではいられませんわ……!」
シスターは乗り気の様だ。
こいつの過去の話は断片的にだが聞いている。あたしもG.E.H.E.N.Aに辛酸を味わされた身だ。こいつの気持ちは分らんでもない。だからと言って只でさえ訳アリなあたし達のキャリアに、これ以上暗い影を落とすような真似をさせようなどと嘯く大人を、あたしはそう簡単に信用できない。
だが、
「……おいジジィ」
「真榊さん!」
「いいんだ内田君。彼女は見ての通りだ。別に悪意があっての物言いではない。……なんだね?真榊君」
あたしの口調を悉くたしなめようとするジーグルーネを、代理が制した。
「……殺したい奴がいる。そいつを探させてくれるなら、特務でも何でもやってやる。あたしに
代理が無言で席を立ち窓際へと歩を進め、あたし達に背を向けた。
沈黙が部屋を包む。三役達は剣呑とした表情で代理の背中を望んでいる。
「……もし、その君の言う『殺したいた奴』とやらが、君達リリィと人類を害する者であるならば、その時は血が流れることも致し方ないだろう」
口角が弓の様に歪む。
「話が分かるジジィじゃねぇか!良いぜ、テメェらの口車に乗ってやるよ」
「そうか、君も共に戦ってくれるのならば心強い。霞君、君はどうするのかね」
代理が窓に背を向け、千秋へと視線を移した。
六人の目線に晒された千秋は少々迷う様なそぶりを見せるたが、やがて何かを決意したように口を開いた。
「……私は非リリィのアーセナルです。戦場に立つことは出来ませんが、技術面でのサポートなら出来ます。私もやります。やらせて下さい」
「……相棒、これは殆どあたし達にとって個人的な復讐だ。お前まで巻き込まれる必要は無いんだぞ」
「いおりんがやるって決めたなら、私はどこまでだって付いて行くよ。あなたの専属のアーセナルだもん。それに『約束』だって果たして貰ってないしね」
『約束』、ねぇ
一年前、こいつに拾われた際に交わした口約束のことだ。別にそんなに大したことじゃない。だが、まぁそれでも、
「後悔することになるぜ」
「やらずに後悔するよりも、私はやってから後悔することにするよ。知ってるでしょ?私ってそんな女なんだよ」
眩しい物を見るかのように集まった視線に居心地の悪さを感じる。
なるほど、結局ジジィの思惑通りに事が決まったという事か。
「では、以上で今日の話は終わりとする。今後の任務等々については特務レギオンのLGロスヴァイセからおって連絡させる。特に質疑等が無ければ解散としよう」
「はい!質問です」
相棒が解散の空気を読まずに手を元気良く上げた。
「どうぞ、霞君」
「えぇ~と、その~、……理事長代理は結婚とかされてたりするのでしょうか」
これまでの議題とはまるで関係の無い質問に思わず面喰いながらも、代理は律儀に答えた。
妙な雰囲気が流れる。
横に座る相棒のあたし達と比べてだらしのない体がクネクネと踊る。
「ってことは私にもチャンスが……ぐぇっ!」
「はい失礼しましたー。おい、シスター帰るぞ」
潰れたカエルのような悲鳴を上げる相棒の着る工廠科のフードを掴み、扉へと向かって引きずり始める。負けじと暴れるこのアーセナルだが、非リリィとリリィの筋力には超えようのない差があり、ずるずると引きずられていく。
「騎士様、千秋様はまだ御用があるようですが……」
「野暮用だ。お偉いさん方の耳に入れるまでもねぇ。さっさとずらかるぞ」
「……失礼致します」
呆気にとられた代理と三役達の視線を受けつつ理事長室を後にし、シスターの一礼で扉を閉めた。
数秒とはいえ、呼吸がまともに出来なかった相棒の呼吸音がやかましい。
「良かったのですか?非リリィの方が特殊な任務に関わるともなれば、質問したいことは山ほどあると思うのですが……」
はぁ。最近はため息を吐いてばかりな気がする。
まさかこいつの悪癖を忘れるとは我ながら不覚だった。
「……こいつ老け専なんだよ」
・千秋
独学でマギ工学を収めたアーセナル。
百合ヶ丘に来る以前に作ったチャームの材料は拾ったものnコイチ。
土左衛門になりかけていた衣緒里を広って面倒を見ていた
覚悟を決めちゃう系女子
老け専
・衣緒里
改造手術の失敗例で、施設を脱走して海へと転落してから、千秋にに拾われるまでの記憶はあやふや
その際に所持していたCHARMの記録によれば一度、心停止と脳死の記録が残っている。
・アンナマリア
傍若無人な宗教狂いであっても、なんだかんだで善良?な修道女
G.E.H.E.N.A許すまじ
・理事長
これから瓶底眼鏡の陰キャにアタックされることが確定した。
教職者と生徒とか以前に、流石に数十歳差の恋愛はまずいですよ!?