アサルトリリィーTrinityー   作:門番

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残念だったな。
ゆゆりりは既に結婚する運命が確定している。
※書いている人の頭の中のお話です。


第八話 美女達と無法者

 4月上旬、ついこの間まで鬱陶しいほどの量の花びらを舞わせ、学び舎に訪れる新入生達を歓迎していた桜も数日の内に華々しく散り、百合ヶ丘女学院のリリィ達の頭上で芽吹いた新緑が、訓練と勉学に励む彼女達と共に揺れていた。

 

 日中の射撃訓練場にはマギの弾丸が放たれる銃撃音が鳴り響き、訓練の時間ともなるとそれは途切れることのない火薬の炸裂がコーラスとなる。

 名門の百合ヶ丘女学院ともなれば、動かない標的など百発百中の腕前であることは当然であり、逆に射撃でスコアの伸びない者は高等部からリリィとなった者や、余程射撃の腕前の無い者なのだろう。

 

「……っかしーなぁ。ついこの間まではちゃんと当たってたんだがなぁ」

「あなた、さっきから一発も標的に当たってないじゃない。『止まっている的なら当てられる』って言ってたじゃないの」

 

 射撃場の片隅で欄干に肘を付き首を捻るチビは後者のようであった。

 その隣で標的を蜂の巣のように射抜いていた亜羅椰とは対照的であり、衣緒里の標的は弾丸が掠りもせずにいて、新品同然のままであった。

 

「そんなどう見てもピーキーなCHARMだからいけないんじゃないの?グングニルでやればいいじゃない。初日も使ってたでしょ?」

 

 衣緒里の握るCHARMは亜羅椰との決闘騒ぎの際に使用していた物ではなく、あまり見覚えのな無い機体、おそらくは専用(ユニーク)機であろう。いくら実力の確かなリリィとはいえ、無名の新人に専用機を渡すなんて、どのような理屈なのなんだろうか。おそらくは百合ヶ丘で主力採用しているブリューナクをベースにしたカスタム機だろう。各ユニットの形状にその名残が見える。無骨な金属の輝きを放つ肉厚のブレードと切り詰められた銃身から、確かに近接戦闘に主眼を置いた設計であることは間違いない。

 問題は何故この経歴やら戦績やらも碌に記録の無い、かと言って世界最強のレギオンとも呼ばれるアールヴヘイムの一員に奇策を使ったと言えども勝利する程の実力を持つ、色々とちぐはぐな彼女にそんな代物が渡ることになったのか。亜羅椰はとんと検討がつかなかった。

 

「あんな細っちい棒切れみたいなの使えるか!こないだも折れちまいそうでヒヤヒヤしてたんだ。いいんだよ。あたしは生粋のAZ(アタッキングゾーン)だからな!射撃なんて出来なくたって、突っ込んでぶった切っちまえばいいのさ!」

「そのAZでも多少の射撃の腕前も必要なの。味方に誤射したらどうするつもりよ」

「あたしが一番前にいるんだから誤射もクソも無いだろ。何言ってるんだ?」

 

 説教をしていたつもりが、頭一つ分の下から小さな無法者(デスベラード)は逆に憐憫の眼差しを浴びせてきた。

 衣緒里の言葉を要約するならば、おそらくは『グングニルであれば、止まっている的を当てられる』というのが正解だったのだろう。

 確かに決闘の際には執拗に距離を詰めるような戦い方をしていた。しかしそれは、単純に自分の得意な近接戦闘に持ち込むためであったのは間違いないだろうが、それよりも10mも開いていない距離の中でもまともに弾を当てられる自信がなかったのではないだろうか。後方に飛び退った際に距離が開いたのであれば、高速変形が特徴であるグングニルを射撃形態へ変形させ、攻撃の手を緩めないのがAZのセオリーになるであろうが、それすらも行えないのはAZを担うのであれば致命的ではないだろうか。

 

「ほら雨嘉(ゆーじあ)、このノーコンハイエナちゃんに一言言って上げなさい!」

「わ、私!?」

 

 亜羅椰が、後方のベンチに座り自身のCHARMの簡易的な分解整備をしていた黒髪のリリィに、唐突に話を振った。

 完全に蚊帳の外にいた彼女は驚き、目をパチクリとさせた。

 

 (わん) 雨嘉(ゆーじあ)

 アイスランド人で中華系移民を先祖に持ちスウェーデンのガーデンから転校してきた国際色溢れる留学生だ。

 寡黙で鋭い目つきが特徴の狙撃手(スナイパー)系のリリィだ。

 

 言い合う二人の姿を見て逡巡すると、やがて口を開いた。

 

「えっと、衣緒里のCHARMは銃身が短いし、精密な射撃に向いてないと思うんだけど、この程度の距離ならしっかり狙って落ち着いて引き金を引けば大丈夫だよ。……私なんかでも出来るんだから」

 

 どこか困ったような笑顔を浮かべて助言をした雨嘉へ、衣緒里は不機嫌そうな視線を向けた。

 

「……『この程度』で当たらないから困ってるんだけど?」

「だ、だよね。役立たずなアドバイスで、ご、ごめんね……」

 

 そう一言言い残すと、未だ分解中のCHARMを抱え、左肩にかかった下げ髪を猫の尻尾の様に揺らして、逃げるように席を離れていった。

 思わず、顔を見合わせる残された二人。

 

「なんだアイツ。変な奴だなぁオイ」

「ちょっとは口の利き方を考えて物事を言いなさい。あなたは只でさえおっかない顔つきなんだから。あんな言い方じゃ気の弱くて自信の無い子は直ぐに逃げちゃうわよ。まずは相手の言葉しっかり聞いて、相槌を打ちながら共感してあげるの。それで心を開いてくれたらガブッ!と喰っちゃえばいいのよ」

「いつからテメェのナンパ講座になったんだ?えぇ?」

「冗談よ冗談。百合ヶ丘流のジョークよ」

 

 話が色ごとの方向に逸れ始めたことを察して衣緒里が、ちくりと一刺しを入れた。

 いくら華美なガーデンの事情に明るくない衣緒里でも、この色に惚けた女の言っていることが自身の学校の流儀だとは認めたくないようだ。

 

「さて冗談はこれ位にして、多少は射撃の腕を上げておいて損はない筈よ。あなた、例の決闘(・・)は明日でしょう。もう時間が無いわよ」

 

 亜羅椰の眼から悪戯気な光が抜け、享楽的な彼女には珍しく真剣な表情が浮かべた。

 

「何度も言ってるだろ。あたしは生粋のAZだって。突っ込んでCHARMをぶん回す。やるべきなのはそれだけだ」

「だからそれだけで勝てる相手じゃないの!あなたの実力は認めてるつもり。だけど今度の相手は一筋縄ではいかないわ。『プランセス』の『番匠谷(ばんしょうや) 依奈(えな)』様はレアスキル【円環の御手】によって二本のCHARMを同時に使いこなすのよ。分かる?その身一つで射撃も近接戦も同時こなすの。場合によっては近づかせてもくれないわよ」

「関係ねぇな。何度も言わせんなよ。やるべきことをやる。やれる事をやる。それだけなんだよ」

 

 亜羅椰の言葉に取り付く島もなく話を打ち切り、黒く輝く新たな彼女の愛機(ムラマサ)を手に取り再び射撃目標へと向き合い始めた。

 延々と的を外し続けては首を傾げる小さな背中を、亜羅椰はため息を吐きながら見つめていた。

 

 

▲▽▲

 

 

 レースペーパーの上に広げられたチェック柄の焼き菓子を茶請けに、上質な陶磁器製のティーセットで紅茶を喫するのは百合ヶ丘女学院のリリィ達の一般的な嗜みだ。

 友人・戦友同士での他愛もない会話や戦術や作戦について討論を交わすリリィ達も、守護天使(シュッツエンゲル)の誓約を交わした義姉妹達も、それは百合ヶ丘女学院では普遍的な営みである。百合ヶ丘の土を友好的に踏む機会があれば、そのどこかで戦士ならざる少女たちの素顔を目にすることがあるだろう。

 授業や訓練の合間を縫って静かな二人だけの時間で、数日(・・)前に姉妹の契りを交わしたばかりの初々しい義姉妹達がささやかなお茶会を開いていた。

 

「梨璃、あなたそろそろ講義でしょう。予習はしてあるの?」

「えへへへ。私、今はお姉さまのお顔を見ていられるのが幸せで幸せで……えへへへ」

 

 机の上に載せた両腕に顎を乗せ、緊張感のかけらも無いだらしない笑顔を浮かべる桃色の髪のリリィ、一柳梨璃。

 向かいには、ぴんと背筋を伸ばし優雅な佇まいを崩さない黒髪のリリィ、白井夢結。

 その関係の始まりこそ夢結は校風を冒涜するような意志を持って始めた関係であったが、先日の再生個体(レストアード)との戦いでお互いの本音をぶつけ合う経験を経て、義姉妹の絆を深めた二人。

 

 苦労多い境遇の夢結にとって目下最大の悩みは、今は亡き()のように(シルト)を正しく導き、一人前のリリィとして育て上げることであった。何分、生え抜きの多い現代のガーデン事情により箱入り娘のきらいのある夢結は、リリィとなるべく育って来た同性との付き合いに神厳関係が偏っており、一般校から編入してきた生徒の知り合いは多くはなく、人間関係に偏りがある。そのため、いきなり生え抜きとして育って来たリリィのように接し、指導するのにはあまり適さないようだ。あのグランギニョルの令嬢に「指導と呼ぶには行き過ぎている」と言われるまで、相手がこれまで碌に戦場に出たことも無い素人であったことを、無視しても苛烈に過ぎていたらしい。確かに心無い態度を取り続け、導くべき妹に当たり散らしていたが、それと同じく他のの指導方法なぞ、夢結は知らなかった。

 その上で、自身へと好意を寄せる一つ年下のかわいいかわいい妹をどう導けばよいのか手探り続きなのだ。

 

 まったくシュッツエンゲルの契りを結んだ途端にこんなにも弛むとは、歴戦のリリィとしても迂闊だったと言わざるを得ないだろう。

 

 

 

「……件の特務の資料だけれど千秋さんの方に送って置いたわ。無法者(デスベラード)不外(はずさず)の聖女の実力、期待していますよ」

「応ともさ。期待していてくれ。と言いたいところだけどよ。なんで潜入任務なんだ?ウチのガーデンは偵察だのの情報作戦の専門レギオンがあっただろ」

「LGシグルドリーヴァは威力偵察が専門のレギオンよ。あなた達二人が任された特務は、厳密には偵察ではなくて潜入と破壊工作。まぁ黒だと分かったら好きなだけ暴れていらっしゃい」

「なるほどねぇ。あたし達の扱いが分かってるじゃねぇの」

 

 夢結と梨璃の二人が囲むティーテーブルのあるラウンジへ隣接した通路から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 明るい茶髪のリリィ、色素の薄いシルバーブロンドのリリィ、どちらも最上級生の二人と、そして入学式の日にアールヴヘイムの遠藤亜羅椰と戦い、見事に勝利を勝ち取ったあの小柄で狂暴なリリィ、確か真榊衣緒里と言っただろうか。

 

「むぅ、ロザ達ってば二人だけで盛り上がっちゃって。私だっているのに~」

「ふふふ、那岐。そんなつもりは無いわ。可愛い後輩ですもの。ちょっと気に掛けているだけよ。あら、ごきげんよう」

「……あら!ごきげんよう。ユリさん」

「ようユリさん!」

 

 ニヤニヤとした笑みを浮かべた衣緒里の、校風を完全に無視した挨拶に夢結が顔をしかめた。

 上級生らしき二人組に馴れ馴れしく手を振って別れると、何の躊躇も無く当然のように夢結と梨璃の腰掛けるテーブルの椅子を引き、当然のように二人の間にどっかりと座り込んだ。

 

「……ユリさん?誰かと間違えたのかしら」

「おい、あたしを無視するなよ」

 

 右足を左膝に乗せ、足をぶらぶらと揺らしている衣緒里が、不機嫌そうに声を上げる。

 夢結は務めて衣緒里の事に目を向けず、先程の上級生のかけてきた言葉に対して浮かんだ疑問を口にした。

 

「あ、それカップルネームです!」

「カップルネーム?」

 

「こいつの事だな」

 

 衣緒里がスカートのポケットから折りたたまれた紙を取り出し、夢結へ手渡す。

 衣緒里を忌々しい物を見るかのように一睨みしてから紙を受け取ると、目の前で広げて見せた。

 

 特大のフォントで号外と書かれた見出しの下に、ご機嫌斜めな自身と手を頭の後ろにやってはにかんだ(シルト)の顔がでかでかとリリィ新聞とやらの一面を飾っていた。

 更にその写真の下には、夢結×梨璃などと二人をまるでカップル成立のスキャンダルかの如くはやし立てられる文句が書きたてられ、ちゃかりと楓・J・ヌーベルのしたためたらしき、二人の仲を嫉妬するような一文まで掲載されている。

 

「な、なんなのこれは……一体誰の仕業!?」

「あ、これ週刊リリィ新聞の号外ですよ!ほら、私達の名前を並べてみると、『ゆ』『り』って読めるんですよ~。まったく、ここまですることないじゃない二水ちゃんてば~」

 

 梨璃が照れ笑いを隠さずに弛んだ笑みを浮かべている。

 広げられた新聞を皺が出来るほど握りしめ、怒りと羞恥に震えている夢結とはずいぶんと対照的だ。

 

「なかなかいい出来じゃねぇの。確かそっちの椿組の二川だったか?」

「ふぇっ!?あ、あっはい。クラスメイトの二水ちゃんが書いたリリィ新聞です……」

 

 怒気を孕んだような目に射抜かれた梨璃がすくみ上がる。

 

「なんだよ。そんな怯えなくてもいいじゃねぇか」

「え、えっとそんな怖がってるわけじゃないんですけど……」

「いや、そんなにビクビクされるとお前のお姉様が怖いんだよ!」

 

 今度は逆に(シルト)へ詰め寄る衣緒里へ、心なしか目を赤く光らせる夢結を、背中越しに親指で指して吠えた。大声を出すのは余計に逆効果で、心優しい新米リリィは余計に縮こまる。

 

「衣緒里さん、だったかしら私の梨璃にちょっかいを出すのはやめて下さる?それとも梨璃が何かあなたを怒らせるようなことでもしたのかしら?」

「いや何もしてないって!」

「ならなんなの、その顔は。随分と怒っている様子だけれど」

「元からこういう顔なんだよ!なんだよアンタ、随分と失礼だな!」

 

 夢結が普段は怜悧に輝いているであろう美しい瞳を、パチクリと見開いた。

 暫し、気まずい沈黙が流れる。

 

 やがて、夢結が絞り出すように口を開く。

 

「そ、そう……ごめんなさい」

「謝るなよ!余計に傷つくわ!……はぁ、まったく(まい)様はこんなやつのどこが良かったんだか……まぁそんなことはいいや。あたしはアンタ達に礼を言いに来たんだよ」

 

 大げさにため息を吐いた後に、小声でぶつぶつなにやら呟くと無い胸の前で腕を組み、なにやら二人に身に覚えのないことを言い放った。

 

「私達にお礼ですか?」

 

 梨璃が首をかしげる。

 姉に目をやるも首を横に振っており、特に身に覚えがあるわけでは無いようだ。

 

「ウチの相棒……霞 千秋を特型のヒュージから守ってくれたのはお前らじゃないのか?」

「「え」」

 

 テーブルを挟んだ義姉妹が、揃って口をぽかんと開ける。

 思ってもみなかった名前が出てきたようだ。

 そんな二人の態度を気にも留めず、勢いよく腰を折った。

 

「改めて礼を言わせてくれ。相棒を助けてくれて、ありがとう。あたし、あいつがいなくなったらなんて考えたくも無いんだ。本当にありがとう」

 

 小さな体躯によく手入れされた長い茶髪がしな垂れ掛かる。

 先日の亜羅椰との戦いの時の飢えた野獣のような態度はなりを潜め、小鹿のように震えている。

 

 そんな衣緒里を前にして、いくらか彼女に慣れてきたのか、おずおずと口を開いた。

 

「え、えっと、ど、どういたしまして……?で、でも、私なんて殆ど足手まといで、お姉様と楓さんの影に隠れていただけなんですから!」

「梨璃。こういう時は例は素直に受け取って置くものよ。彼女のためにもね。衣緒里さん顔を上げなさって」

 

 不甲斐無い態度の梨璃を一言たしなめると、先ほどの剣呑な態度を収め優し気な声色で衣緒里を気遣った。

 品の無い者が嫌い、と豪語してならない夢結だが、彼女なりの殊勝な感謝の伝え方になにかしら心を打たれたのかもしれない。

 

「その、衣緒里さんは、千秋さん……じゃなかった千秋様のお知り合いなんですか?」

「知り合いっつーか、腐れ縁というか、専属アーセナルというか。まぁ所謂、相棒ってやつだ。リリィ新聞で読んだぞ。アイツのCHARMを使ったんだろ?あたしはあのCHARMのテストリリィだ」

「あの『ムラマサ』ってCHARMですか?お使いになられたのはお姉様ですよ!」

「そう、アンタだったよな。新聞の通りだな。どうだった?アイツのCHARMは」

「えぇ、凄絶無比なCHARMだったわ。ヒュージの装甲を紙の様に断ち切るあの鋭さ、確かに百由がスカウトしたっというのも納得だわ」

 

 そうだろうそうだろうと腰に手をやり胸を自慢げに張ると、小柄な体躯と相まって年下の中学生、いや小学生が級友の自慢でもしているかのようだ。その目付きを無視できればだが。

 しかし、よくよく目をやれば目尻にキラリと光る物を夢結は見逃さなかった。

 

 

 

「それで?それだけのためにわざわざ三年生の方々と別れたわけではないでしょう?」

 

 和やかな空気を断ち切るように、夢結が静かに口を開いた。

 何のことやら察しのつかぬ梨璃はきょろきょろとしている。

 対する衣緒里はニヒルに口元を歪めそれに応えた。

 

「へぇ、話が早くて何よりだ。こいつの運用に対する私見が欲しい」

 

 背負っていた赤茶の革袋の荷を解き、取り出されたのは、表面を黒色のコーティング処理がなされた巨大な刃を折りたたんだ大型のCHARMの大器形態、先日に夢結が一時の友とした例のCHARM『ムラマサ』であった。

 

「……そう、千秋さんはあなたにそれを託すことにしたのね」

「順序が逆だな。そもそもこいつは、あたしが千秋の奴に頼んで作ってもらった物だ。一度こいつとデートしただけで彼女ヅラってか?」

「デート?なんのことかしら?」

「あーこっちの話だ。忘れてくれ」

 

 皮肉やジョークに通な人柄で無いことを衣緒里は察した。

 

「話を戻すが、アンタの私見を知りたい。ついでにこいつの取り回しのコツを知りたいんだ。特に射撃形態(シューティングモード)についての奴をな」

 

 夢結が顎に手をやり考え込むような仕草を取り、やがて口を静かに開いた。

 

「ベース機の戦術的打撃力をさらに強化した機体というところかしら。攻撃型CHARMのお手本のような機体ね。ブレードの大型化とそれに伴う砲身の小型化は、『グラム』などに近いかもしれないわね。……射撃形態については申し訳ないけど、私は使っていないから分からないわ」

「ありゃ、使わなかったのか。そうかい。となると宛が外れたか」

「と、いうと?」

「明日、ちょっと上級生と一対一の模擬戦闘をするんだが、結構やり手の奴らしくてな。どうにか勝ちたいんだが、射撃形態も使いこなせないと苦戦しそうだって言われてな。何かいいアドバイスが貰えるかもって思ってたんだが……」

 

 衣緒里が話し終えると丁度予鈴が鳴り、講義の時間が迫っていることを告げた。

 

「やっべ、もう時間か。白井先輩、時間取らせて悪かったな。え~と次の講義は……近接戦闘論か」

「あっでしたら、私と同じですね。前回の講義で、次回の近接戦闘論は李組との合同授業って教導官の方がおっしゃってたと思います」

「あー、そんなことも言ってたような気もするなぁ」

「では衣緒里さん、一緒に行きませんか?」

「いいぜ。行こうか」

 

 たかが授業に行くだけなのに、手を振り合って暫しの別れを惜しむ義姉妹に衣緒里は辟易しつつ、梨璃を連れ立って席をはずそうとした矢先、その小さな背中に夢結が声を投げかけた。

 

「衣緒里さん」

 

 思わず声に振り向く衣緒里。

 

「なんだ?お前の妹ならあたし様がちゃんとエスコートしてやるっての」

 

「『ムラマサ』の銃身は、ベースになっている『ブシューナク』の物と比べてさらに短銃身(ショートバレル)よ。あなたが射撃が苦手なのだとしたら、余計に精密な射撃は難しいわ。そもそも『ブリューナク』とその姉妹機のような関係に当たる『ダインスレイフ』も強力なバスターキャノンが搭載されているけれど、精密な射撃ではなく強襲用の突撃砲に近いの。弾丸で標的を射抜く、というよりも弾丸を当てに行くという使い方の方があなたには向いているかもしれないわ」

 

「……そうか!ありがとな!」

 

 衣緒里が行こうぜ、と梨璃の肩に手を回そうとするが身長が足りない事に気付き、諦めて梨璃の腰に手を回した。

 去って行く後輩たちを、夢結は柔らかく優しい視線で見送った。

 

(梨璃に出会うまでの私だったらあんな生意気な子はまともに取り合わなかったでしょうけど、これも梨璃に絆された影響なのかしら)

 

 自らに課せられた呪縛を解きほぐし、自身が導くと誓った優しく可愛らしい妹分からの影響を受け、変わりゆく自身の心持ちに、思わず顔が緩んだ。

 

(まったく、これでは梨璃にしゃんとしなさいなんて言えないわね)

 

 去り行く彼女達に続いて、「私の梨璃さんから離れなさい!」などとほざきながら物陰から飛び出していった令嬢と、三つ編みを尾の様に跳ねさせて追いかけるパパラッチの姿にため息をつくと、すっかり冷めてしまった紅茶を一息に煽った。

 

 

▲▽▲

 

 世界最強と名高いLGアールヴヘイムのレギオン控室にて革張りのソファに腰掛け、二人きりで机と茶を囲み向き合っているのは、遠藤亜羅椰と番匠谷依奈だ。

 せっかくの紅茶と並べられた茶菓子に手を付ける様子もなく、どこかぴりりした緊張感が漂う。

 

「で?模擬戦は明日なわけだけど……亜羅椰?実際に戦ったあなたから、彼女について教えてもらえるかしら」

「典型的なAZ特化のリリィ、射撃の腕前が壊滅的なことを除けば理想的なインファイターですわ。先日CHARMを交わした際には気づきませんでしたが、天葉(そらは)様曰く、『ヘリオスフィア』のサブスキルである『聖域転換』を持っており、それを利用した防御結界を減衰させえうアーマーブレイクを軸に、確実にダメージを蓄積さながら戦うのが基本的な戦闘スタイルのようですわ」

「なるほど、他には?」

「私の動きを先読みしたとしか思えないような挙動を取っていたので、おそらくはレアかサブのどちらかかはわかりませんが、感知系のスキルを持っているかと思われます」

「それ以外は?」

「他、と言いますと?」

 

 どこか苛立たしげに依奈が足を組んだ。

 

「彼女の生い立ちや素性について何か聞かなかった?同じクラスなのでしょう」

「残念ながら、まぁ私が聞いていないというのもありますが、あいつは個人情報(パーソナルデータ)に当たる物は何も口にしませんでしたわ。強いて言うなら即席麺とコーラが好きなことぐらいですわね」

「そんな情報いらないわよ……あの子の戦譜(スタッツ)とか見たりしたの?」

「私もあの小さな無法者(デスベラード)ちゃんのルーツが知りたくて、個人的に戦譜(スタッツ)や記録を見に行ったのですが……てんで駄目、収穫ゼロでしたわ。戦譜(スタッツ)記録(ログ)そのものは残されていたのですが、その殆どに閲覧制限がかかっていましたわ。そして百合ヶ丘に来る前の情報も一切不明。少なくとも他ガーデンに問い合わせたわけでは無いので保証は出来ませんが、『真榊衣緒里』というリリィが存在した記録は百合ヶ丘にやってくるまでは存在しませんね」

 

 そう述べ終わると、亜羅椰が茶器に手を伸ばし茶を注ぎ始めた。

 些か話し込み過ぎたのか、紅茶の色が濃い気がする。

 

「それってもしかして、辰姫(たつき)と同じで……」

「まぁそういうことなのでしょうねぇ。特別寮に住んでるみたいですし」

「身元とかは大丈夫なのかしら?」

「一応、(まい)様が身元の保証人になっているみたいですわ」

「そういえば天葉(ソラ)とそんなことを話していたわね……」

 

 顎に手をやり考え込む尻目に、亜羅椰が茶菓子を一切れ齧り、紅茶を一息に飲み干した。浮かぶ渋面から察するに、茶を煎じすぎたのかもしれない。

 

「まだ何か御座いますか?特に御用が無いようでしたらお(いとま)させていただきたいのですが」

 

「……なんで他のガーデンに問い合わせたわけでもないのに、あの子のリリィとしての記録が無いなんて言いきれるの?」

 

「そんなの決まっていますわぁ」

 

 CHARMケースを手に席を立った亜羅椰が、どこか得意げに答えた。

 

「あんな強くて可愛いコがいると知ったら、他校だろうと喰いに行ったに決まってますわぁ♡」

 

 ごきげんよう、という別れの言葉を残し控室を亜羅椰は後にした。

 一人残された依奈が後輩の注いだティーカップを覗き込む。

 小さな水面には見慣れた(かんばせ)に不安を張り付けた自身がゆらゆらと漂っていた。




王 雨嘉
小心者スナイパー
海外の名門からやってきた留学生(国際問題になりかけた)
ルームメイトをブチギレさせるプロ
衣緒里はアンナマリアに雨嘉の爪の垢を煎じて飲ませようかと本気で考えている。

亜羅椰
最近のお気に入りは衣緒里で、結構お世話とかしてる。
なんなら喰っちまいたいとも考えている。

衣緒里
模擬戦相手は依奈様
射撃スキルはCHARMを変えたことでリセットされた。
グングニルのユーザー達からは暫く白い眼で見られることになった。
果たして夢結様のアドバイスは実を結ぶのか。

ゆゆりり
既に契った。
二人が心を通わせるお話についてはアニメを見ようね!

番匠谷 依奈
二天一流系女子
奇をてらったとはいえども、亜羅椰を下すほどの実力者とCHARMを交わすことは不安らしい。
無法者からの挑戦を任せたルームメイトの天葉様には、なにかしらの考えがあるのだろうか。
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